2世俳優のマイルズ・ロビンスがシッチェス・カタロニア国際映画祭にて男優賞作『ダニエル』
自分だけに見える“空想上の親友”に翻弄される姿を描く本格スリラー映画『ダニエル』。
ハリウッド注目の二世俳優マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガーが共演し、内気で繊細な青年ルークと美しくカリスマ性のあるダニエルを演じます。
ルークを演じたマイルズ・ロビンスは第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭で男優賞を受賞し、初主演作として大きな注目を浴びています。
製作を務めるのは「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで知られるイライジャ・ウッド。
映画『ダニエル』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Daniel Isn’t Real
【監督】
アダム・エジプト・モーティマー
【脚本】
ブライアン・デレウー、アダム・エジプト・モーティマー
【キャスト】
マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガー、サッシャ・レイン、ハンナ・マークス、メアリー・スチュアート・マスターソン、チュク・イウジ、ピーター・マクロビー、マイケル・クオモ、アンドリュー・ブリッジス、ケイティ・チャン
【作品概要】
監督を務めるのは『デッド・ガール』(2015)のアダム・エジプト・モーティマー。自身も3〜4歳の頃にイマジナリーフレンドがいた経験があり、そのような背景も映画の世界観に影響しているといいます。
製作を務めるのは『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)主演で知られるイライジャ・ウッド。2010年に映画制作会社Spectre Visionを設立し、プロデューサーとして『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2017)、『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』(2019)などを手がけています。
内気で繊細な青年ルークを演じるのはティム・ロビンス、スーザン・サランドンを両親に持つマイルズ・ロビンス。ダニエル役には「ターミネーター」シリーズなどのアーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガー。
映画『ダニエル』のあらすじとネタバレ
幼い少年ルークは精神が不安定な母親クレア(メアリー・スチュアート・マスターソン)と父親の喧嘩から逃れるために1人家を抜け出しました。
1人出歩いていたルークはカフェで起きた凄惨な殺人現場に遭遇し、被害者を見てしまいます。その時ルークに話しかけた青年がダニエルでした。公園でダニエルと遊んでいたルークは探しにきたクレアに家に戻るように言われます。
「ダニエルも一緒にいい?」とルークが言うとクレアはダニエルがいるところより少しズレたところに向き話しかけます。ダニエルはルークにしか見えていなかったのです。
離婚し父親が出ていった後もダニエルはルークと共に居続け、2人は毎日仲良く遊び、笑い合い、兄弟のように過ごしていました。ある日、ルークはダニエルの言う言葉を信じ、クレアが処方している睡眠薬を大量にミキサーの中にいれスムージーにしてしまいます。
何も知らずにスムージーを飲んだクレアは死にかける大惨事になる、何をしたのかと詰め寄るクレアにダニエルに言われたと泣きながら訴えるルーク。クレアはドールハウスを指差し、ダニエルに入るように言いなさいとルークを叱りつけます。言うことを聞かないダニエルを無理矢理ドールハウスに入れ鍵をかけたルーク。
最初は出してくれとドアを叩く音が聞こえていましたが、次第にダニエルの存在を忘れ成長したルーク(マイルズ・ロビンス)は大学の寮で暮らしていました。ルームメイトとも打ち解けることが出来ず、本来興味のある写真を学ばず実用的な学科を専攻し、鬱屈した日々を送っています。
久しぶりに実家に帰ったルークはクレアの病状が悪化していることに気づき気を重くします。自分もクレアのようになるのではないかという不安からルークはカウンセラーのブラウンの元を訪れます。その帰り、道端で突如スケボーに乗った女性(サッシャ・レイン)とぶつかりますが、「大丈夫」だと答えて家に帰ります。
夜になりふとルークは幼いころ大事にしていたぬいぐるみを抱きしめ、何かを思い出したように引き出しから鍵を見つけ、布で隠されていたドールハウスの鍵を開けます。そのまま眠りに着いたルークは大きな物音で目覚めます。
慌てて声のする方に向かうとクレアが取り乱し、血を流し鏡を叩きつけています。「この顔がいけないの」ハサミを取り出し自傷しようとするクレアをルークは必死で押さえつけます。
どこかで声がして振り向くと浴槽の中にいたのは自分と同じくらいに成長したダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)でした。クレアの手をルークの喉元に持っていくようダニエルは指示します。ルークを傷つけてしまうと気付いたクレアは我に帰ります。ダニエルの機転でクレアを落ち着かせることが出来たのでした。
久しぶりの再会となったダニエルとルーク。嬉しそうなルークに「君には僕の助けが必要だ」とダニエルは言います。
クレアは病院に搬送され、翌朝ルークはクレアが荒らした部屋の片付けをしていました。そこに昨日ぶつかった女性がやって来ました。昨日ぶつかった際にルークが落としていった財布を届けにきたのです。キャシーと名乗ったその女性が気に入ったダニエルは仲良くなるようルークにアドバイスをします。
ダニエルの助けを得て自信を持ち、社交的になったルークはキャシーとの距離を縮めていき、画家であるキャシーの家で作品を見せてもらいます。大学でも、試験の際体中にタトゥーのように数式を書いてルークを助けてくれるダニエル。
ナイトクラブで知り合った心理学専攻の学生ソフィーと関係を持ったり、寮のルームメイトに悪戯をしかけたり、ルークは次第に大胆になっていきます。一方でダニエルの言いなりのままではなくなっていきます。
映画『ダニエル』の感想と評価
内気で繊細なルークと、カリスマ性と圧倒的存在感のあるダニエル。対照的な2人の化学反応をマイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガーが熱演しています。
本作は前半でルークを懐柔し、支配し、追い詰めていくという心理スリラーから次第にダニエルの正体がわかり始め、体を乗っ取るという物理的な行動に出ていき。ホラーやSFのような要素も多分に含まれていく展開になっています。観客もルーク同様に心理描写、その没入感に引き込まれていきます。
ルークという青年は“孤独”や“不安”が強い人物であるといえます。冒頭幼いルークは両親の喧嘩している家から抜け出し、ダニエルと出会うきっかけになった事件現場に行っています。ルークにとって家は苦痛な場所であったと考えられます。ダニエルをドールハウスに閉じ込めるまではダニエルだけが友達であったルーク。
時間が経過し、大学生になったルークの周りにも友達は存在せず、常に孤独でした。周りの人々のように友達と遊んだり、ナイトクラブではしゃいだり出来ず、自分のやりたい写真を堂々とすることも出来ない 。そんなルークにとってダニエルはまさに“自分にないものを持っている存在”であったのです。
反対にいえば、それがダニエルの狙いでもありました。ダニエルのアドバイスで、自信を得て、大胆になっていくルーク。自身の押し込めていた欲望を解放することで、なりたい自分、本来の自分を取り戻したかのような気分になっています。同時にダニエルの存在が疎ましくなり、エスカレートしていくダニエルの言動にやっと危険を感じ始めます。
ルークの“孤独”につけこんだダニエルによって翻弄されていくのか、それともルークの心の闇がダニエルを生み出し、破滅させたのか。見方は分かれると思います。
しかし、自分にないものを持っている存在に羨望を抱いたことや、押し込めていた欲望を解放したいと考える気持ちは誰にでもあるものかもしれません。一見超次元的な映画に思える本作ですが、その根底にあるのは誰もが抱える漠然とした不安や孤独、自分自身に対する鬱屈や焦燥感なのです。
心の闇を浮き彫りにし、翻弄されていくルークを見事に演じたマイルズ・ロビンス。更に圧倒的な存在感を放ち、見るものを惹きつけ、狂気を見せつけたパトリック・シュワルツェネッガー。ハリウッドを代表する二世俳優2人の印象的な演技は恐ろしくもどこか耽美的な余韻を残してくれます。
まとめ
空想上の親友に翻弄されていく青年を描いた映画『ダニエル』。
ダニエルはルークの心の闇が作り出した、ルークの別の人格であったのか。それとも超次元的な別の何かで、ルークに寄生したのか…
さまざまな解釈ができるスリラー映画になっていますが、本作の根底にあるのはルークが抱える“孤独”や“不安”でした。ルークの心の闇につけこんだダニエルによって、“自分にないものを持っている”ダニエルに翻弄されていくのです。
心の闇を浮き彫りにし、ダニエルの支配から解放されたいと足掻くマイルズ・ロビンスの演技、圧倒的な存在感を放ち、見るものを惹きつけるパトリック・シュワルツェネッガーの演技に魅了されます。
更にルークの体を乗っ取るダニエルの様子を不穏な音楽と気味の悪い描写で見るものにインパクトを与える演出もあいまって不穏ながらも美しく観客を惹きつける映画になっています。