映画『コリーニ事件』は2020年6月12日(金)新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー予定
ドイツでベストセラーとなった法廷サスペンス小説を映画化したドラマ『コリーニ事件』。ある殺人事件の担当になった新米の弁護士が、自身の思わぬ境遇に戸惑いながらも事件の真相に迫る姿を描きます。
50カ国の映画祭に招待された『SUMMERSTORM』のマルコ・クロイツパイントナーが監督を担当。ドイツのエリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハら実力派俳優に加え、マカロニ・ウェスタンを代表する名優フランコ・ネロが共演と、豪華なキャスト陣も魅力の1作です。
映画『コリーニ事件』の作品情報
【日本公開】
2020年(ドイツ映画)
【英題】
THE COLLINI CASE(ドイツ語原題:Der Fall Collini)
【原作】
フェルディナント・フォン・シーラッハ
【監督】
マルコ・クロイツパイントナー
【キャスト】
エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロ
【作品概要】
ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハのベストセラー小説をもとに映画化した法廷サスペンス。ある殺人事件をめぐり、被害者と深い関わりがある弁護士が加害者の弁護を担当するという異例の事態で、知られざるドイツの歴史のタブーに触れていく様を描きます。『TRADE』(2007)『クラバート 闇の魔法学校』(2008)などのマルコ・クロイツパイントナー監督が作品を手掛けます。
また新米弁護士カスパー・ライネン役を人気急上昇中のエリアス・ムバレク、殺人を犯した罪で法廷に立つイタリア人ファブリツァーニ・コリーニ役に、マカロニ・ウェスタン作品では常連のベテラン俳優、フランコ・ネロ、被害者の弁護を行う曲者弁護士リヒャルト・マッティンガー役を、ドイツの俳優ハイナー・ラウターバッハが演じます。
さらにカスパーの元恋人ヨハナ・マイヤー役を『イマジン』(1989)『愛を読むひと』(2009)などのアレクサンドラ・マリア・ララが演じます。
映画『コリーニ事件』のあらすじ
ある日のホテル。一人の老人が血のりの付いた衣服姿でフロント前の待合い席に降りてきました。コンシェルジュが老人に大丈夫かと声を掛けると、老人は人を殺したと告白します。
男性はドイツで30年以上も模範的な市民として暮らしてきたイタリア人ファブリツァーニ・コリーニ。彼は経済界の大物実業家を殺害、彼の国選弁護人として選ばれたのは、新米弁護士のカスパー・ライネンでした。
初の弁護案件に意欲を燃やしていたカスパーでしたが、事件の概要を知る中で、実は被害者がカスパーの少年時代からの恩人だったことを知り愕然とします。
元恋人で被害者の娘ヨハナ・マイヤーからもその役割を辞めるように通告されながらも、役割を全うしようとするカスパー。そんな彼にコリーニは、殺害の動機を語ろうとしません。
しかしカスパーは、事件の全容からコリーニの過去を調べていく中で、事件の鍵であるドイツ司法のあるスキャンダルにたどり着くのです。
映画『コリーニ事件』の感想と評価
満を持しての映画化
2017年に映画『4分間のピアニスト』を手掛けたクリス・クラウス監督が『ブルーム・オブ・イエスタディ』も発表しました。
第29回東京国際映画祭で東京グランプリを受賞したこの作品は、祖父がナチスの戦犯であるというホロコースト研究者と、祖母がナチスの犠牲者となったユダヤ人の女性が、お互いのルーツを知らないまま恋に発展していくというラブコメディー。
ユーモラスでかつ非常に重いテーマを描き高い評価を受けています。
クラウス監督は当時のインタビューで「こういった‟ホロコーストなどを一部で描いているけど、あの悲劇をそのまま描いていない作品”を、ドイツ国外ではよく目にするようになった」とその所感を語っており、近年のドイツ国内で、作品作りにおいてこうしたナチス・ドイツやホロコーストといった歴史的問題に意識が集まりつつあることを伺わせています。
原作小説の執筆者であるフェルディナント・フォン・シーラッハの祖父は、ナチ党全国青少年最高指導者であるパルドゥール・フォン・シーラッハ。
そんな彼が映画『コリーニ事件』でナチス・ドイツの残した負の遺産にまつわるストーリーを描いたことは、視点の違いはあれどこういった傾向に強いつながりも感じられ、本作に至ってはまさに満を持しての映画化といえる作品であります。
戦争終結後に存在した裁判や司法などには実在するものもあり、これらを交えて展開するストーリーからは、戦争の闇を思わせる新たな事実を実感することでしょう。
実力派俳優3人の好演
本作は法廷ミステリー的な出だしより、物語中盤からナチス・ドイツのホロコーストでの悲劇にまつわるエピソードなど、当時から現在まで消えない闇の歴史について言及しています。
この転換は作品を果たしてこれにまつわる人々それぞれの罪を問えるのかというかなり重いテーマへと変え、物語のトーンを一気に重厚なものとしています。
そしてこの作品のテーマを明確にしている要因が、主演を務めたエリアス・ムバレクとハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロという2人のベテランの存在にほかなりません。
この物語をしっかりと成立させるのは、法の正義を追究する揺るぎのない主人公であり、その人物としてエリアス・ムバレクの起用は成功だったといえるでしょう。
チュニジア人の父とオーストリア人の母を持つ彼の容姿はそのルーツも相まって、こういった厳粛な雰囲気を持つ法廷モノの物語でイメージされるシャープな面持ちとは、どちらかというと少しイメージが違う印象もあります。
しかし物語の設定として主人公カスパーは新米弁護士。加えて彼の容姿は別の視点でからはドイツの法廷という限られた空間の中でナチス、ホロコーストというポイントに対して非常に中立性を感じさせます。
そしてムバレクはそんなカスパーを、弁護士という職業に対する膨大なリサーチを行った上で演じ、揺るぎない正義感が経験の少なさすらも一蹴してしまう、そんな安定感のある人物として描きました。
対して悪意すら感じさせる弁護士マッティンガー役を務めたハイナー・ラウターバッハの大胆な表情の見せ方、胸に一物を秘めながら沈黙を守るコリーニを演じた名優フランコ・ネロと、魅力あふれるベテラン俳優のバックアップは、ムバレクの存在感をさらに引き立たせています。
この3人それぞれの表情は個々に独立して演じられているようで、その裏には強い駆け引きのようなものも感じられます。その意味ではこの重厚なドラマを演じるに値する実力派3人の秀逸な演技が、この作品の見どころともいえるでしょう。
まとめ
過去の戦争について日本国内でも徐々にその世代の人が亡くなる中で、「忘れまじ」とさまざまなエピソードや思想を描いた作品が発表されています。
しかし日本でこの『コリーニ事件』や『ブルーム・オブ・イエスタディ』(2017)のような物語が描かれないのは、お国柄のような違い以上の大きな社会問題に匹敵する事情を抱えているようでもあります。
その意味ではまったく遠く離れた国の物語ではなく、自国のことを考える機会を与えてくれる作品ともいえるでしょう。
また本作の撮影監督を手掛けたのは、ヨーロッパ屈指の撮影監督といわれるヤクブ・ベイナロヴィッチュ。作品に登場する法廷のシーンでは、撮り直しの回数を減らすための策として最大3台のカメラを使用して撮影しています。
物語自体にも描かれていた重々しい空気感、緊張感を余すところなく表現しており、閉塞された法廷という空間の画を見ごたえのあるものとしています。
映画『コリーニ事件』は2020年6月12日(金)、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開予定