1983年のロサンゼルスを舞台に、実在した投資クラブと、若者たちの成功と破滅を描いた、犯罪サスペンス『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』。
若手実力派俳優の共演でも話題になっている、本作をご紹介します。
映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【監督・脚本】
ジェームズ・コックス
【共同脚本】
キャプテン・モズナー
【原題】
Billionaire Boys Club
【キャスト】
アンセル・エルゴート、ケビン・スペイシー、タロン・エガートン、エマ・ロバーツ、ジェレミー・アーバイン、トーマス・コックレル、ライアン・ロットマン、ボキーム・ウッドバイン、スキ・ウォーターハウス、ロザンナ・アークエット、ケイリー・エルウェス、ジャド・ネルソン
【作品概要】
1980年代初頭に、「西のウォールストリート」と呼ばれた街で、実際に起きた事件を題材に、ジェームズ・コックス監督が映画化。
主演に『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートと、『キングスマン』シリーズのタロン・エガートンという、若手実力派俳優が初共演を果たしている。
映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』あらすじとネタバレ
1983年のロサンゼルス。
ディーンは、自ら自動車販売の事業を立ち上げ、商談を成立させていました。
その商談の場で、偶然にもハリウッド・スクールの同級生だったジョーと再会します。
ジョーは貧しいながらも、教育熱心な両親に育てられ、奨学金でハリウッド・スクールへ入学した秀才でしたが、クラスメートに馴染めなかった事から、イジメの対象にされていました。
自信を失ったジョーは、現在は金融関係の仕事に就いていましたが、安い給料で働いています。
ディーンは、ジョーの天才的な頭脳に学生時代から一目置いており「ジョーの頭脳と、自分のコネクションで成功者になろう」と持ちかけます。
その夜、ディーンに誘われたジョーは、気乗りしないままセレブ達が集まるパーティーへ参加します。
そこでジョーは、ディーンに紹介され、資産家の息子である、チャーリーとビルトモア兄弟に金の投資を持ちかけますが、チャーリーやビルトモア兄弟は乗ってこないばかりか、ジョーが、学生時代にいじめられっ子だった事を思い出します。
逃げるように会場を後にしたジョーは、失意のまま自宅に戻ります。
自宅にあったニュース雑誌を手にするジョー、そこには「パラドックスの哲学」という、ビジネスに必要な考え方が書かれていました。
次の日、ジョーは「パラドックスの哲学」にヒントを得た、金儲けの方法を考え出します。
ジョーに呼び出されたディーンは「ビルトモア兄弟から融資された」という、1万ドルを持っていました。
ジョーとディーンは早速、1万ドルを元手に金の取引を開始します。
そして、取引結果が出るまで、ディーンの顧客である資産家のロン・レヴィンの邸宅へ向かい、ジョーはロンを紹介されます。
ロンは、ジョーの取引の知識を試すような悪戯を仕掛ける、癖のある性格でした。
ロンの邸宅を後にしたジョーとディーンは、チャーリーとビルトモア兄弟に、金取引の結果を報告する為、会合を開きます。
しかし、会合が開かれる直前、利益が出ていた金は暴落し、資産は半分の5千ドルになっていました。
ジョーは機転を利かして、残金の5千ドルを「利益分の5千ドル」と嘘を吐き、ビルトモア兄弟に利益として5千ドルを渡します。
ジョーは、チャーリーとビルトモア兄弟に、1週間で50%の利益を生んだと思い込ませ、信用を勝ち取ります。
そして、ジョーとディーン、資産家の息子たちは自らの会社「BBC」を立ち上げます。
「BBC」は当初、BMWの「M5」や「M3」を安く輸入し高く販売する事で利益を出していましたが、資産家の息子たちのコネクションで「投資の50%を利益にする会社」として広まり、「BBC」は資産家達からの融資を受けるようになります。
そして、特に意味の無かった会社名「BBC」に、ロンから「ビリオネア・ボーイズ・クラブ」という名称を付けられます。
また、ロンから多額の融資があった事を、金融会社の担当者から報告を受けた「BBC」は、派手に資金を使うようになります。
ですが、出資される額が多くなるほど、利益の50%を還元させる事は難しくなっていきます。
ロンから受けた融資は、書類上のお金にすぎず、ロンが小切手を切らないと実際には使えません。
次第に「BBC」の借金は膨れ上がっていくようになります。
この状況にジョーとディーンは、焦りを感じるようになります。
映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』感想と評価
1980年代に、ロサンゼルスに実在した投資グループの栄光と転落を描いた本作。
前半は何も無かったジョーとディーンが、アイデアと行動力で登り詰める成功物語として展開し、ロンを殺害して以降、歯止めが利かない人生の転落を描いたサスペンスに変わるという、二重構造の作品です。
人生の絶頂から、ドン底まで転がり落ちる様子はジェットコースターのようであり、観賞中は終始ハラハラしていました。
これが実話だという事を考えると、本当に恐ろしいです。
ジョーを『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴートが演じており、ディーンを『キングスマン』シリーズが大ヒットしたタロン・エガートンが演じるという、ハリウッドの若手俳優2人が初共演したという点も注目です。
アンセル・エルゴートは、序盤では好青年、中盤では成功者、後半では転落していくジョーを、表情や仕草などを変化させる事で巧みに演じています。
特に、ジョーが豪邸を購入する際には、自信たっぷりな表情を浮かべ、肩で風を切るように歩いており、序盤の好青年だったジョーはもういない、という印象を観客に与えています。
そしてロンに騙された事が判明した瞬間に、自信たっぷりだった笑顔は消え、一瞬で余裕の無い、今にも泣き出しそうな表情を浮かべる小者の印象へと変わります。
この場面から「BBC」の崩壊と、ジョーの転落が始まる為、ここでの一瞬の表情の変化は、二重構造となっている展開の切り替えを印象づける、素晴らしい演技です。
対するタロン・エガートンは、ジョーのサポートに徹したディーン同様、アンセル・エルゴートの演技を陰ながら支えているという印象です。
いきなりの成功を手にして、明らかに振る舞いが変わったジョーとは対照的に、ディーンは常に冷静で、一歩引いた立ち位置にいます。
しかし、ラストでは「腹黒ディーン」と呼ばれる本領を発揮し、結果的に作品の美味しい所はタロン・エガートンが全部持っていっています。
ラストのディーンの表情は、これまでとは違い、目を剥きだして、早口で嘘の証言を平気でするという、嫌悪感しか感じない表情となっており、ここも印象的な場面となっています。
若手俳優2人を、ロンを演じたケビン・スペイシーが曲者ぶりを発揮して翻弄しています。
ただ、全米公開時はケビン・スペイシーのスキャンダルが影響し、本作は興業的に大失敗となりました。
しかし、これは作品の評価が悪かった訳ではなくケビン・スペイシーが悪いのです。
作品の完成度は非常に高く、若手俳優2人も本当に良い演技をしているので、このまま埋もれてしまうのは勿体ない、お勧めの1本です。
まとめ
優秀な頭脳を持ち、好青年だったはずのジョーが、なぜ人生を転落したのでしょうか?
「自分を信じてくれた人の資産を増やしたい」と考えたジョーが思いついた方法は「利回り50%」を宣伝文句に資産を集める方法でした。
これは「ポンジ・スキーム」という、最も有名な詐欺の手口です。
もし、ジョーが本物の詐欺師なら、ある程度の資金が集まった所で逃げていたでしょう。
しかし、ジョーは逃げなかった、最初から詐欺を働くつもりは無く、偶然思いついた方法が皮肉にも詐欺の手法だったのです。
「ポンジ・スキーム」で資金を集める方法が長く続く訳もなく、ジョーはその事も分かっていましたが、冷静な判断をするには、ジョーは若すぎたのです。
1年で、2億5000万ドルの取引をするまでに「BBC」を成長させた代償は、あまりにも大きく、若者の特権であるはずの「新たにやり直す」という選択肢すら、ジョーは失ってしまいました。
「この街が悪いんだ、成功すると思わせて破滅に導く」という、ジョーのセリフが印象的です。
人生において、何かしらの転機を迎えて、動かなければならない事もあるでしょう。
そんな時に「本当に求める事は何なのか?自分に合った戦い方とは?」と、いろいろな事を考えさせてくれる作品です。