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Entry 2021/06/27
Update

SF映画『最後にして最初の人類』あらすじと感想評価。音楽家ヨハンソンが監督したメッセージを仲間と共に人類に託す

  • Writer :
  • 滝澤令央

映画『最後にして最初の人類』は2021年7月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテにて全国順次公開

作曲家ヨハン・ヨハンソンの初長編監督作品であり、遺作となった映画『最後にして最初の人類』。アーサー・C・クラークにも大きな影響を与えたSF小説の金字塔『最後にして最初の人類』の映画化作品です。

20億年先の未来から語りかける人類の壮大な叙事詩が、アカデミー賞女優 ティルダ・スウィントンによって語り掛けられます。

全編16mmで撮影されたモノクロ映像と静的なサウンドとが融合した非常に抽象的な本作は、原作発表から90年経った現在に何を与えたのでしょうか。

原作の内容やヨハン・ヨハンソンの芸術的ビジョンに触れながら、映画『最後にして最初の人類』をご紹介します。

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映画『最後にして最初の人類』の作品情報


(c)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

【日本公開】
2021年(アイスランド映画)

【原題】
Last and First Men

【監督・音楽】
ヨハン・ヨハンソン

【ナレーション】
ティルダ・スウィントン

【作品概要】
原作は1930年に出版されたオラフ・ステープルドンの『最後にして最初の人類』。

『最後にして最初の人類』は、ヨハンソンが監督した16mmフィルムの映像に、女優のティルダ・スウィントンの朗読が加わり、その場でオーケストラが生演奏するというシネマ・コンサート形式で上演されていました。

本作はヨハンソンが亡くなった後、16mmフィルムの撮影監督を務めたシュトゥルラ・ブラント・グロヴレンを中心とした参加スタッフが、1本の長編映画として構成し、ヨハンソンが目指したアーティスティックなビジョンを損なうことのないよう、2017年7月に行われた英国・マンチェスター・インターナショナル・フェスティバルでの初演の再現を目指して制作。

ヨハンソンの死後2年を経て、ヨハンソンの“最後にして最初の長編監督作品”は映画として蘇り、2020年2月の第70回ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映されました。

映画『最後にして最初の人類』のあらすじ


(c)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

人類の滅亡が迫った約20億年後の未来から第一期人類である我々にメッセージが届きました。

悲壮感と侘しさを感じさせるモニュメントを背に、彼らのメッセージは孤独の荒野でこだまします。

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映画『最後にして最初の人類』の感想と評価


(c)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

90年前から語りかける原作

数度の大戦争を経た人類が、世界国家を実現させ、高度な科学文明を構築したものの、核エネルギーの暴発が地球の大地を焦土と化した24世紀。

火星人の侵略、生物兵器に端を発した疫病の蔓延、度重なる災禍によって肉体的、精神的に退行した人類がやがて地球を脱出し、金星や海王星へ移住を始める…。

壮大な叙事詩を展開した原作小説は、1930年にイギリス作家、哲学者オラフ・ステープルドンによって発表されました。

原作の序文「最後の人類のひとりより」が本作冒頭のナレーションと共通しており、「最初の人類」こと、我々第一期人類へ助けを求めに、想像の外側からコンタクトしてくる未来人の語りという設定は本作も踏襲しています。

全16章にわたる原作から本作が踏襲したエピソードは、宇宙とその崩壊を描いた第15章<最後の人類>と第16章「人間の最後」です。

意思疎通を円滑にするために、未来人は第一期人類の理解を絶した文化体系のいくつかを隠し、未熟な第一期人類の言語体系、空間認識に合わせたコミュニケーションをとってくるというこの設定は、実際の人間が許容できる知覚に基づいて描かれています。

小説におけるそれは、文字を読む視覚と読者の想像力に委ねられ、映画というメディアを通して描かれる本作では、観客の視覚と聴覚、そして過去、現在、未来といった時制の認識によって、未来人の語りを理解可能になります。

あえて陳腐な言い方をすると、原作は預言書として、現在の我々(第一期人類)の興亡をヨーロッパの分裂、アメリカの崩壊という導入から描き出していました。

それはある意味、原作者ステープルドンのイギリス人らしい文明批判の見立てとも言えますが、小説内で5度にわたる人類史滅亡を描く上では不可避ともいえる絶対的な現実の矮小化を目的としたためと考えられます。

つまりそれは現実に存在するアニミズムや宗教への冒涜をも必要とします。

それらは所詮、第一期人類の一部で行われている束の間の精神融合や卑小な規模にとどまった神学論争に過ぎないからです。

小説でありながら、哲学的な思想書の趣がある原作は、ステープルドンが自称するところの「科学的なロマンス」というジャンルを取っており、自身の創作物の高尚さを強調するために現実の宗教やアニミズムを否定したかったわけではありませんでした。

極端な言い方をすれば、ステープルドンは可能な限りイノセントな形で人類の滅亡を描いて見せたかったのでしょう。

優生学や生命工学の恩恵を多分に受けた原作は悲観的であり、ステープルドンが抱える現在、未来に対する諦観を伺わせます。

しかしながら彼は悲観論者というよりも、実在論者(リアリスト)らしい見立てを行っており、90年前に想像した未来の予言のいくつかは残念ながら的中してしまっています。

ヨハンソンは、実在論的な見立てを通して一世紀前のステープルドンと対話することが出来たのです。

崩壊を受け入れる最期の人類と第一期人類の抱く未来への理想を憐れむレクイエムのような音楽は、本作の世界観そのものであり、誕生と死の束の間の人生を傍観する人間そのものでもあります。

本作でヨハンソン含む制作陣が努めたのは完全なる音楽の探求で、そこには始まりと終わりが存在します。

ヨハンソンとステープルドンはともに、人間=音楽であると結論付け、始まりと終わりの相似形を関連付けました。

本作は原作を踏襲していますが、原作の方も映画というメディアで描かれた『最初にして最後の人類』の恩恵を受けていると言えます。

原題(Last and First Men)が複数形になっている通り、二者の対話によって紡がれる物語だからです。

儀式的な映画体験


(c)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

タイトルにて、「最初」と「最後」を明記しているのには、人類がそして宇宙が有限な存在であることをも示唆していました。

本作のナレーターであるティルダ・スウィントンは、滅亡の危機に瀕している「最後の人類(=第18期人類)」として、これから滅亡する「最初の人類」である我々に意思疎通を図りにきます。

別の惑星へ移住し、その環境に順応するための新人類を育てた未来人たちは、種の存続を地球のみで行おうとしている我々第一期人類の想像を超える宇宙の旅を経て、遂に過去の存在である我々へと到達した超人類でもあり、外見上はその姿を見ても、同じ人類とは認識できないほどです。

我々に合わせた言語体系、空間認識のもと、「きいてください」と語り掛ける未来人の口調は超越者のごとく穏やかで品格を備えているようでした。

70分の本作の中で語り掛けられる未来の様子やこれからの人類の展望は、セリフのみ取り出してまとめると約20分の尺に収まってしまいます。

これは約20分の内容を長々とゆったり話しているわけではありません。

滅亡の危機に瀕している未来人の時間感覚が、相対的に今の我々と異なっているからと考えられます。

彼らの危機感が現代的な焦燥感として全く伝わってこないあたり、いかに今の我々が死に急いだ人生を送っているかを痛感させられます。

要点をまとめ、分かり易い結論だけを取り立てて理解しようとする第一期人類の傲慢さをも感じさせました。

言い換えると、時間の認識とは、危機に直面した最初の人類と最後の人類との恒常性を比較できる具体的な現象ではないでしょうか。

また、聴覚的にセンシティブな演出の多い本作は、ビジュアル面でのショックは弱く、映画館で体感するオーディオブックと形容するのが妥当でしょう。

映像を愛でる娯楽が主流となった映画産業において本作はある意味革新的でした。

抽象的なモノクロ映像に限定的なナレーション、優麗な音楽とが交差する構成は、まるで無声映画時代の活動写真弁士とライブオーケストラ上映のようであり、シュトゥルラ・ブラント・グロヴレンを中心としたヨハンソン亡き後の参加スタッフが思い描いた通りの映画体験でもあります。

本作が画面に映し出しているのは、ポスターのビジュアルも印象的な旧ユーゴスラビアに点在する戦争記念碑「スポメニック」。

原作小説との直接的な関係はありませんが、幾何学的なこのモニュメントは、抽象的で未来感を思わせる一方で、冷酷で厳しい歴史を伺わせ、滅亡した旧人類の産物のような虚しさを漂わせています。

まごうことなきアート映画である本作を、手取り足取り解説するのは野暮な気もしますが、概して言えば、本作は娯楽ではなく芸術としての役割を全うしている、完璧なアート映画です。

不適切な例えかもしれませんが、言うなれば『2001年宇宙の旅』(1968)の最初の10分とモノリスの中の様子だけを描いたような作品です。

ここではひとつの解釈を提示することしか出来ませんが、本作の「最後の人類」は対話の中で、より高位のものへと組み込まれる生命のサイクルを自分自身に受容させるプロセス自体を我々第一期人類に提示しているのではないでしょうか。

それは、神からの啓示のようであり、死を受け入れさせるための説得でもあります。

崩壊の受容は決して悲劇への諦観ではありません。しかし、正気を保ちながら本作の啓示を受け入れるのは不可能でしょう。

本作で描かれる世界に浸りつつ、現実世界に戻るためには、芸術である本作を娯楽の域へ貶める必要があります。

映画を観る、聴くというプロセスは、神託を預かるという崇高な儀式を娯楽の範疇で行うからこそ、今を生きる我々の恒常性を保たたせるのでしょう。

まとめ


(c)2020 Zik Zak Filmworks / Johann Johannsson

モノクロの映像と断片的なナレーションで構成された本作は抽象性が非常に高く、読み解く上で非常に難解な作品でしょう。

また原作に明確な答えが与えられているわけでもなく、表層的に共通するのは、悲観論的な人類滅亡へ向かう最後の人類による無機質な語りかけのみです。

非現実なハッピーエンドで観客の心を癒し、過酷な現実に戻る活力を与える娯楽作品とは異なり、堅実な芸術作品である本作は、荒廃したディストピアを写実的に、はっきりと伝えています。

しかしながら暗く悲観的な世界の中にも、ささやかな人間の温もりを感じることが出来ました。

それこそがヨハンソンの中に宿るステープルドンの精神の表れです。

恐らくこの作品を鑑賞する方のほとんどが、ヨハン・ヨハンソンの作り出した世界観を体感するために劇場へ足を運ぶことでしょう。

ヨハンソンが描こうとした完璧な世界の片りんに触れることが出来る貴重な作品です。

サウンド造形に凝った本作の世界観は観客を圧倒させ、神からの啓示かのような儀礼感を映画体験に与えてくれました。

映画『最後にして最初の人類』は2021年7月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテにて全国順次公開

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