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Entry 2021/04/30
Update

映画『ファンタスティック・プラネット』あらすじ感想と考察評価。進撃の巨人のアニメに影響を与えた共通点も解説

  • Writer :
  • タキザワレオ

映画『ファンタスティック・プラネット』 は2021年5月28日(金) より 渋谷HUMAXシネマほかにて公開予定。

70年代に生まれて以降、世界中のクリエイターに多大な影響を与え続けているフランスSFアニメーションの金字塔『ファンタスティック・プラネット』。

作品内におけるルネサンス期の西洋美術や宗教的モチーフが印象的な本作は、日本の宮崎駿の『風の谷のナウシカ』(1982)などにも影響を与えています。

今なおカルト的な人気を誇る本作がこの度、待望のDCP上映で2021年5月28日(金)より渋谷HUMAXシネマほかにて公開予定

DCP(デジタルシネマパッケージ)上映は、デジタル上映の中で最もフィルムリールの再現に近く、本作においては、スクリーンで体感するトポールとラルーの作り上げた独創的な世界観への没入度に貢献しています。

今回は、フランスアニメ映画の傑作として知られる『ファンタスティック・プラネット』の魅力をネタバレなしでご紹介します。

映画『ファンタスティック・プラネット』の作品情報


(C)1973 Les Films Armorial – Argos Films

【公開】
1973年(フランス、チェコスロヴァキア合作映画)

【英題】
Fantastic Planet

【監督】
ルネ・ラルー

【キャスト】
ジェニファー・ドレイク、シルヴィー・ルノワール、ジャン・トパール、ジャン・ヴァルモン

【作品概要】
原作は、フレンチSFのパイオニアであるステファン・ウルの『Om en série(オム族がいっぱい』。

ブラックユーモア溢れる幻想的な画風のアーティスト、ローラントポールが4年の歳月をかけて原画デッサンを描き、鬼才ルネ・ラルーが、精神病患者へのセラピーとして行っていた切り絵アニメーションという手法を取り入れ1973年に映画化した本作。

そのあまりに独創的でファンタジックな世界観で瞬く間に批評家・観客たちを魅了し、アニメーション作品として史上初めて第26回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を、トリエステSF国際映画祭では審査員賞を受賞しました。

日本でも1985年の劇場初公開以来カルト的な人気を誇り、2020年12月に東京・渋谷で行われた1週間限定上映でも満席回が続出。
作品誕生からまもなく半世紀を迎える今なお、新たなファンを獲得し続けています。

今回待望の初DCP化により、トポール × ラルーが作り上げた世界観のクオリティの高さがより一層体感可能に。アニメーション映画のマスターピースに再び命が吹き込まれました。

映画『ファンタスティック・プラネット』のあらすじ


(C) 1973 Les Films Armorial – Argos Films

映画は、我々の知る人間によく似た種族、オム族の母子が、真っ青な肌に赤い目をした巨人、ドラーグ族の悪ガキのイタズラの対象になり、母親が殺されるところから始まります。

残されて泣いていた赤ん坊は、通りかかったドラーグ族の少女・ティバに拾われます。

ティバの父親・シンは、地域を統治する県知事でした。

彼はその赤ん坊をウチで飼いたいという娘の要望を受け入れ、赤ん坊は「テール」と名づけられます。

物語の舞台となる惑星イガムでは、巨人ドラーグ族が文明社会を支配。

人間によく似たオム族は原始的な生活を強いられていました。

イガムで暮らすオム族は大きく分けて2つ。

ペットとして飼育されるか、虫ケラのように扱われ、道楽により殺されるかでした。

星の存亡を左右するドラーグ族の議会では、オム族の知性を脅威と捉え、オム族絶滅を主張する強硬派とオム族との共存を図る穏健派が対立が過激化していました。

ドラーグ族の教育は、情報を脳に直接送ることで行われていました。

ティバは学習の時、いつも手の上にテールを乗せていたので、テールはティバと共に知識を習得し始めます。

やがて成長し、知識を身につけた結果、ペットとしての生き方に疑問を抱いたテールは、ドラーグ族の教育に活用される「学習器」をかついでシン知事の邸宅からの逃亡を図ります。

ドラーグ族の都市から脱出し、森へと辿り着いたテールは、そこで野生のオム族の女性と出会います。

オム族の集落に合流したテールは、種の存続をかけて、ドラーグ族との決死の戦いに身を投じます。

映画『ファンタスティック・プラネット』の感想と評価


(C)1973 Les Films Armorial – Argos Films

動く絵画が示すもの

本作のアニメーションは、生理的な不安や恐怖を掻き立てられるようなシュールさが独創的なタッチです。

現在のCGアニメーションが得意とするモーフィングをはじめとした特殊効果が一切使われていない本作は、原始的な手法により生み出された生気がアニメーションに宿っています。

関節の動かない切り絵アニメは、撮影を合理的に進めるために1枚1枚の絵をあらかじめ透明なセルに貼り付けることが多いものの、本作では背景の上に直にキャラクターを置いて撮影されました。

これにより前後の背景に齟齬が生じずに「動く絵画」と評されるような、どのカットを切り取ってもキチンと一枚の画として成立するようなアニメーションを見せています。

「動く絵画」と評されるアニメーション作品、または近年の技術革新の到達点とも評された作品に『‟進撃の巨人”』(2018)が挙げられます。

同作の映像は、CGでレンダリングされたものを手書きで仕上げており、影となる部分にグラデーションや残像を書き足しすことで、どの場面を切り取ってみても見栄えの良い一枚画として完成している革命的な手法がとられ、コミックを「生きた絵」として表現したことでアニメーション界の革新的作品となりました。

アニメーションに限った話では、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)が1秒間に12枚の作画で滑らかなアニメーションを再現していたのに対し、本作はフィルムで撮影されていたため、制作工程自体が異なりますが、1秒当たり24コマで構成されています。

単純な比較や作品としての共通点は見受けられませんが、40年以上前の本作と『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)とで、「動く絵画」を形容するものが、シュルレアリスティックな曼陀羅からコミック再現を目指したポップアート表現へと変容していったことが伺えます。

本作は70年代当時でしか表現できなかった独特の手法により、作品世界で「生きた絵」を再現しています。

テーマに堅実な王道SF


(C)1973 Les Films Armorial – Argos Films

巨人によって弄ばれ、殺される人間の視点から始まる本作は、人間と家畜・虫の関係を裏返して見せたときの恐怖を克明に映し出しています。

支配する側される側の逆転をグロテスクに描き出した一連のシーン。動物を飼育する人の立場から観ると、その扱い方の是非や事実「支配」と背中合わせにある「支配」に対して後ろめたさを感じさせるものがあるでしょう。

また、人類が自分たちとサイズの違う種族、小人や巨人と遭遇する物語と言えば、『ガリバー旅行記』や『ジャックと豆の木』など、子供向けの物語として昔から親しまれています。

このような物語の彩度を上げることで浮かび上がる生々しさ、グロテスクな側面を強化させた物語も同様に親しまれ、そのグロテスクさや鑑賞中に煽られる恐怖心から、本作は『進撃の巨人』(2013)との共通点も数多く語られています。

しかし本作の最大の特徴は、ドラーグ族とオム族の階級闘争を現実の格差社会のメタファーとして描き、正統的なSF設定の持つSF作品界の金字塔であることです。

生まれながらに虐げられることが確定しているオム族のテールは、教育を受けることで高等人類としての地位を獲得します。

教育の機会こそが、格差社会を生み出している原因であり、ドラーグ族はその身体の優位性でもってオム族との間に生み出された差別構造に耽溺します。

知識とは特権階級に与えられた権益であるという痛烈なメッセージ性とともに、学識が無ければオム族に個人の意思や実存の概念が生まれることは無かったことを予見させる恐ろしさがあります。

こういったSFに置き換えられた支配構造は、あらゆるモチーフに置き換えることが可能で、野蛮なオム族を迫害するドラーグ族の姿は、異教徒に対する畏怖と捉えることも可能です。

本作がユダヤ教やキリスト教的体系をモチーフとしていることは非常に明白で、ドラーグ族の知識を得たテールは、預言者としての立場を築き、オム族に文明をもたらしていく後半の展開からは、出エジプトを果たしたモーセの様相を伺わせます。

そもそも本作は、テールの母親が我が子を抱えながら、必死にドラーグ族から逃げる様子から始まります。

テールは生まれて間もなく困難に見舞われ、その親元から引き離されて育つまでは、神話の一類型をなぞっており、本作の物語が王道的な貴種流離譚に端を発していることを示唆しています。

宗教や現実社会をトレースしたSF的エッセンスの数々がふんだんに盛り込まれた本作は、その制作当時の時代性とも密接に関係しています。

メビウスに代表されるフランスのコミック、バンド・デシネが活性化した60年代から70年代にかけてのフランスで、同時代のSF作品が相互に影響を及ぼし合って生まれた作品であることは疑いようがなく、1963年の小説『猿の惑星』などもこのフランスSF界黎明期を代表する作品の一つであったと言えます。

人類史を巡る物語に宗教や科学を絡ませた物語はその後も生まれ続け、現在も「エイリアン」シリーズをはじめとした様々なSF作品の花形となっています。

70年代にフランスで生まれた本作が、今に続くSF作品の直接的な祖先にあたる存在であることは、もはや言うまでもありません。

まとめ


(C)1973 Les Films Armorial – Argos Films

70年代フランスで生まれた『ファンタスティック・プラネット』の織り成すその独創的な世界観は、SFのジャンルのみならず、あらゆる分野の作品に多大な影響を与えました。

初めて観た人を圧倒させるそのビジュアルに反して、ストーリーや設定は、同時代の作品との親和性が非常に高く、王道なSFと評することができます。

独自の手法により生み出され「動く絵画」とも評される芸術的なアニメーションは、観る人の不安や恐怖を喚起させ、ある種の生理的嫌悪を孕んでいます。

ですが、本作の独自のビジュアルイメージが物語に一定の説得力を持たせ、テーマの核心に重くのしかかり、半世紀以上あらゆる分野に影響を与え続けるエネルギーを体感させられます。

映画『ファンタスティック・プラネット』は2021年5月28日(金) より、渋谷HUMAXシネマほかにて全国順次公開予定




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