アクション、スリラー、ラブロマンスetc…ルトガー・ハウアーの主演作5本を振り返り
オランダ出身で、ハリウッドでも活動していた俳優ルトガー・ハウアーが、2019年7月19日に75歳で亡くなったことが伝えられました。
参考画像:『ホーボー・ウィズ・ショットガン』の一場面
俳優だけでなく、近年は環境保護への参加や、ゲームキャラクターを演じるなど幅広い活躍をしていたルトガーですが、2019年という年にこの世を去ったということに、何か運命的な物を感じずにはいられません。
その理由は後述するとして、ここでは、彼が主演を務めた数あるフィルモグラフィの中から、バラエティに富んだ作品を5本ピックアップします。
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ルトガー・ハウアーのプロフィール
参考画像:『ブリューゲルの動く絵』の一場面
1944年1月に、オランダ・アムステルダムに近いブリューケレンで生まれたルトガーは、15歳から船員や建設作業員として働くも、両親が俳優だったことから自身も同じ道に進みます。
本格スクリーンデビューは、1973年のポール・ヴァーホーベン監督作『ルトガー・ハウアー 危険な愛』からで、ヴァーホーベンとはこの後にも、『娼婦ケティ』(1975)、『SPETTERS/スペッターズ』(1980)など計5作品でタッグを組むことに。
シルヴェスター・スタローン主演の『ナイトホークス』(1981)での犯人役でハリウッドに本格進出し、翌82年のリドリー・スコット監督作『ブレードランナー』での、人造人間=レプリカントのロイ・バッティ役で一躍注目を集めます。
以降は、『WANTED/ウォンテッド』(1986)、『サルート・オブ・ザ・ジャガー』(1989)などに主演したほか、2000年代からは脇役として『バットマン・ビギンズ』(2005)、『ザ・ライト -エクソシストの真実-』(2011年)などに出演しました。
テレビゲームのキャラクターも演じており、サイバーパンクホラーゲーム『オブザーバー』では主人公のダニエル・ラザルスキ刑事や、『キングダム ハーツIII』海外版では声の出演を務めました。
『レディホーク』(1985)
中世ヨーロッパを舞台に、悪魔を崇拝する大司教の呪いをかけられてしまった男女のロマンスを描く、リチャード・ドナー監督のファンタジー。
夜になると狼に変わる騎士(ルトガー)と、昼に鷹に変身する令嬢(ミシェル・ファイファー)は、日の出と日没の一瞬しか人間の姿で会うことができない状況下を、マシュー・ブロデリック演じるスリの若者の力を借りて乗り越えようとします。
企画の段階ではルトガーは悪役としてキャスティングされており、『遊星からの物体X』(1982)のカート・ラッセルが騎士を演じる予定でしたが、カートが企画から降りたことで、ルトガーに同役が回ってきたという経緯があります。
鎧と剣を身に纏ったルトガーの姿が実に映えると同時に、ヒロイン役のミシェルの可憐さにも注目です。
『ヒッチャー』(1986)
雨降るテキサスのハイウェイを車で走っていた青年ジム(C・トーマス・ハウエル)は、その道中でジョン・ライダーという名のヒッチハイカー(ルトガー)を乗せますが、彼は「これまでに何人ものドライバーを殺してきた」と言い、ジムを脅し始めます…。
とにかく謎のヒッチハイカーを演じた、ルトガーの不気味演技が必見。
それは共演者も同様だったようで、ジム役のC・トーマス・ハウエルは、ルトガーの演技があまりにも真に迫っていたために、カメラが回っていなくても、彼を怖がって傍に近づこうとはしなかったそう。
2007年に、ショーン・ビーンがヒッチハイカーを演じたリメイク版も作られましたが、醸し出す不気味さの度合いにおいては、やはりルトガー版に軍配が上がります。
『ブラインド・フューリー』(1990)
ベトナム戦争で視力を失ったニック(ルトガー)は、戦地の現住民から居合抜きの刀術を会得し、戦友に会うためにアメリカに帰国します。
ところが、その友人が麻薬組織に捕えられたと知ったニックは、彼の妻と息子のために救出に向かいます。
欧米でも人気を誇る、勝新太郎主演の「座頭市」シリーズですが、その中の一本『座頭市血煙り街道』(1967)を、ルトガー主演でハリウッドリメイク。
ルトガーは実在の盲目の武道家と1か月の訓練を行い、役作りに挑みました。
本家「座頭市」シリーズ特有の荒唐無稽さも受け継ぎつつ、ニックと友人の息子との疑似親子関係が泣かせます。
『ウェドロック』(1992)
近未来世界を舞台に、強盗仲間の裏切りに遭い、爆弾付き電子首輪「ウェドロック」を付けられ刑務所に送り込まれた男フランク(ルトガー)が、復讐すべく脱走を企てます。
2名の囚人同志が電子的に繋がれていて、両者の距離が一定以上離れると爆発してしまう死の首輪がキーとなる、ディストピア版『手錠のまゝの脱獄』(1958)ともいえる内容。
元々テレビ用映画として企画されたために、全体の画作りがチープなのは否めませんが、ウェドロックのアイデアそのものは、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(1997)や『バトル・ロワイアル』(2000)に流用されたと言えます。
ルトガー扮するフランクと、パートナーとなるトレイシー(ミミ・ロジャース)の男女コンビの、ユーモアを交えた逃避行ぶりも見どころで、後年『マチェーテ』(2010)でスター俳優となるダニー・トレホが囚人役で出演しています。
『ホーボー・ウィズ・ショットガン』(2011)
巨大な犯罪組織が牛耳る街にやってきた初老のホームレス(ルトガー)が、ショットガンで強盗を射殺したのを機に、次々と悪者を血祭りに上げていくバイオレンスアクション。
ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノの『グラインドハウス』(2007)公開時に、アメリカで行われたフェイク予告編コンテストでグランプリを受賞した『Hobo with a Shotgun』を長編化。
過激な内容ゆえに当初は製作が危ぶまれるも、グランプリ受賞者にして20代監督のジェイソン・アイズナーのやる気を買ったルトガーが主演を快諾したことで、企画にゴーサインが出たという逸話も。
全編ゴア描写満載のため、観る人を選ぶ作品ではありますが、敵を始末する前に必ず決めゼリフを発するルトガー扮するホームレスじいさんが、いちいちシブくてカッコいいです。
ほかにもある、ルトガー・ハウアー主演作
アクション映画の出演が多いイメージのあるルトガーですが、無論その他のジャンルにも参加しています。
ルトガー演じるホームレスの奇跡体験を寓話的に綴るヒューマンドラマ『聖なる酔っぱらいの伝説』(1988)や、ナチスドイツが第二次大戦で勝利したという仮想世界を描いたサスペンス『ファーザーランド/生きていたヒットラー』(1994)では、重厚かつ落ち着いた演技を披露しています。
ルトガー“ロイ・バッディ”ハウアーの勇姿をIMAXスクリーンで!
そして、ルトガーの俳優人生を語る上でも外せない一本が、SF映画の金字塔『ブレードランナー』。
この作品でルトガーが演じたレプリカントのロイ・バッディは、ハリソン・フォード扮する主人公デッカードの敵でありながら、人間の実存とは何かを問う魅力的なキャラクターとして、大きな人気を博しました。
この作品はその後、完全版、ディレクターズ・カット版といった数々のバージョンが発表されましたが、その最終バージョンとなったのが、監督のリドリー・スコットがさらなる編集とデジタル修正を施した『ブレードランナー ファイナル・カット』(2007)です。
このファイナル・カット版が、物語の時代設定年である、今年2019年の9月6日(金)から、IMAXシアターにて2週間限定で上映されることが決定しました。
「お前たち人間には信じられないものを私は見てきた。オリオン座の近くで燃える宇宙戦艦。タンホイザー・ゲートの近くで暗闇に瞬くCビーム、そうした思い出も時間と共にやがて消える…雨の中の涙のように。死ぬ時が来たようだ…」
『ブレードランナー』のラストでロイが発するこの最期の言葉が、ルトガーのアドリブが加わったものであることは、現在ではよく知られています。
ロイも、演じたルトガー本人も、同じ年に亡くなってしまいましたが、“彼ら”が映画界に残した足跡は、雨の中の涙のように消えることはありません。
追悼の意味も含め、ルトガー“ロイ・バッディ”ハウアーの勇姿を、臨場感たっぷりなIMAXスクリーンで観られるチャンスを、是非とも逃すな!