2018年も残すところわずかとなりましたが、本年も著名な俳優や監督といった映画関係者が亡くなりました。
ここでは、そんな鬼籍入りしたフィルムメーカーたちの中から、5名をピックアップ。
故人を偲ぶ意味も込め、一度はチェックしてみてほしい作品を振り返ります。
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ミロス・フォアマン(監督、1932年2月18日〜4月13日:享年86歳)
『カッコーの巣の上で』と『アマデウス』で、2度のアカデミー賞監督賞(作品賞も含む)を受賞したミロス・フォアマン監督。
ファアマン監督作の主な特徴として、「普遍的な世界に突如として紛れ込んだ異端者」を描くことが挙げられます。
患者の人間性をも統制する精神病院に、病を偽り入所した前科者の男が反抗していく『カッコーの巣の上で』。
常識に囚われない作曲センスを持って現れたモーツァルトと、そんな彼に嫉妬する旧態依然なサリエリという2人の音楽家の対立を描く『アマデウス』。
他にも、出版の自由を訴え、保守派たちとの法廷闘争に挑むポルノ雑誌創刊者を描いた『ラリーフリント』など、既存の体制に反発する人物の生き様に焦点を当てた傑作を多数発表しました。
お薦めしたいミロス・フォアマン作品『マン・オン・ザ・ムーン』
『マン・オン・ザ・ムーン』の作品情報
【公開】
1999年(アメリカ映画)
【原題】
Man on the moon
【監督】
ミロス・フォアマン
【キャスト】
ジム・キャリー、ダニー・デビート、コートニー・ラブ、ポール・ジアマッティ、ビンセント・スキャベリ、ジェリー・ローラー
【作品概要】
アメリカの伝説的コメディアン、アンディ・カフマンの35歳の生涯を追った伝記映画。
アンディを演じたジム・キャリーのなり切りぶりや、実際に残るアンディの映像を再現した構成が話題となりました。
映画『マン・オン・ザ・ムーン』のあらすじ
コメディアンを目指すアンディはある日、有名プロモーターのジョージ・シャピロの目に留まり、全米で人気のコメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演します。
番組出演を機にスター街道を走るかに見えたアンディは、次第に常軌を逸したパフォーマンスを連発し、周囲を困らせていきます。
仕事が減っていくなかでも、アンディは恋人リンとの平穏な暮らしを始めますが…。
映画『マン・オン・ザ・ムーン』の解説
既成のお笑いパターンを避け、共演者や友人、はては家族や恋人をも翻弄するギャグやパフォーマンスを繰り広げたアンディ・カフマン。
彼はなぜコメディアンを目指し、なぜ突拍子もない行動を取り続けたのか?
日本では無名に近いこのコメディアンの、知られざる実像に迫ります。
なお、アンディ役のジム・キャリーも、撮影時はアンディ本人が乗り移ったかのような、突拍子もない行動を取りまくりました。
撮影時の舞台裏に迫ったドキュメンタリー『ジム&アンディ』では、そんなジムに振り回されるフォアマン監督らスタッフの狼狽ぶりが見て取れます。
ぜひとも、『マン・オン・ザ・ムーン』本編と併せてご覧になってみて下さい。
参考映像:Netflixオリジナルドキュメンタリー『ジム&アンディ』
橋本忍(脚本家&監督、1918年4月18日〜7月19日:享年100歳)
邦画の名作として知られる橋本忍脚本の代表作『砂の器』(1970)
『羅生門』や『七人の侍』などの黒澤明監督作品の共同脚本を担当し、日本を代表する脚本家の一人として知られた橋本忍。
1970年代に発表した『砂の器』、『八甲田山』が連続で大ヒットを記録し、その名をさらに高めました。
太平洋戦争を題材にした1959年の『私は貝になりたい』では、監督としてもデビュー。
2度目の映画化に際し自身の脚本をリライトした、2008年の『私は貝になりたい』が遺作となりました。
お薦めしたい橋本忍作品『幻の湖』
『幻の湖』の作品情報
【公開】
1982年(日本映画)
【原題】
幻の湖
【監督】
橋本忍
【キャスト】
南條玲子、隆大介、星野知子、光田昌弘、長谷川初範、かたせ梨乃
【作品概要】
東宝創立50周年記念映画として、橋本忍が脚本のみならず製作、原作、監督を担当。
脚本執筆に2年の歳月を費やした、現代、過去、未来という時間軸を又にかけて描くサスペンス映画です。
なお、主役を演じた南條玲子は、1000人以上の一般オーディションから選ばれた新人でした。
映画『幻の湖』のあらすじ
ソープランドで「お市」の源氏名で働く道子は、愛犬シロと琵琶湖周辺をマラソンするのが日課でした。
走行時に聞こえる笛の音が気になり始めたある日、シロが浜辺で殺されてしまいます。
様々な証言から、犯人が東京在住の作曲家の男・日夏と知った道子は復讐を決意し、単身東京へと乗り込みますが…。
映画『幻の湖』の解説
東宝創立50周年記念という、1982年の超目玉として企画された本作。
ですが完成したのは、「マラソン(『炎のランナー』)、戦国時代(『戦国自衛隊』)、宇宙(おそらく『スター・ウォーズ』)」という、脚本執筆時に話題だった映画の要素を、闇鍋的に詰め込んだ内容となりました。
そのせいか、「あまりに難解すぎる」として客足が伸びず、公開からわずか1週間で打ち切りという結果になります。
現在ではカルト映画として好事家たちに支持されており、今の目で改めて観てみると、なかなか味わい深かったりします。
「マラソン、戦国時代、宇宙」があらすじにどう絡んでくるのか?
気になった人はぜひともチェックを。
ベルナルド・ベルトルッチ(監督、1941年3月16日〜11月26日:享年77歳)
イタリアのピエル・パオロ・パゾリーニ監督の元で映画作りを学んだベルナルド・ベルトリッチは、1962年の『殺し』で監督デビューします。
共産主義者だったベルトリッチは、師パゾリーニのような資本主義に対する政治的風刺や、反体制思想を込めた作品を発表。
そんな彼の思想が込められた『暗殺の森』『1900年』は高く評価されました。
もう一つの特徴として、性描写を人間の実存を表す手法として多用したことも挙げられます。
過激な性描写でセンセーションを巻き起こした1972年の『ラストタンゴ・イン・パリ』や、同性愛が裏テーマの『暗殺の森』や『シェルタリング・スカイ』などは、その代表例といえます。
2012年の『孤独な天使たち』が遺作となりました。
お薦めしたいベルナルド・ベルトルッチ作品『ラストエンペラー』
『ラストエンペラー』の作品情報
【公開】
1987年(イタリア、イギリス、中国合作映画)
【原題】
The last emperor
【監督】
ベルナルド・ベルトルッチ
【キャスト】
ジョン・ローン、ピーター・オトゥール、ジョアン・チェン、坂本龍一、ヴィヴィアン・ウー、イン・ルオ・チェン
【作品概要】
清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀の波乱に満ちた人生を、ベルトルッチ監督が壮大なスケールで描きます。
1987年の第60回アカデミー賞において、作品・監督賞を含む9部門を獲得。
俳優だけでなく音楽プロデューサーとしても参加した坂本龍一が、日本人として初のアカデミー賞作曲賞を受賞したことでも知られます。
映画『ラストエンペラー』のあらすじ
1950年の中国で、戦犯として護送されていた一人の男が自殺を図ります。
命を取り留めたその男=愛新覚羅溥儀は、3歳で清朝皇帝に即位した日から現在までの道のりを語り始めます。
映画『ラストエンペラー』の解説
中国の歴史を、イギリス資本で、イタリア人監督が描くという国際色豊かな作風で綴る本作。
共産主義国の皇帝として生まれ、庭師として生涯を終えた男の一代記として、まさに共産主義者ベルトリッチらしい題材の作品です。
同性愛者だったとされる溥儀の内面に迫る点でも、ベルトリッチらしいといえます。
そのほか、外国映画で初の撮影許可が下りた紫禁城での3歳の溥儀に500人の家臣がかしずく即位式や、観客に余韻を持たせたラストなどの印象的なシーンも注目です。
マーゴット・キダー(女優、1948年10月17日〜5月13日:享年69歳)
1978年にDCコミックヒーローを映画化した『スーパーマン』で、クラーク・ケント=スーパーマンの恋人ロイス・レイン役で一気に知名度を上げた女優、マーゴット・キダー。
4作まで製作された『スーパーマン』シリーズ以外に、『悪魔のシスター』(後述)や『暗闇にベルが鳴る』、『悪魔の棲む家』といった、サスペンス・スリラー映画での恐怖演技も評判を呼びました。
人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のホストも務めましたが、1980年代後半からは出演作に恵まれず、私生活でも重度の神経症を抱えるなどの不幸に見舞われます。
2018年5月に自宅で遺体で発見され、検視の結果、アルコール及び薬物の過剰摂取による自殺と判明しました。
お薦めしたいマーゴット・キダー作品『悪魔のシスター』
『悪魔のシスター』の作品情報
【公開】
1973年(アメリカ映画)
【原題】
Sisters
【監督】
ブライアン・デ・パルマ
【キャスト】
マーゴット・キダー、ジェニファー・ソルト、チャールズ・ダーニング、バーナード・ヒューズ
【作品概要】
『殺しのドレス』、『ミッドナイト・クロス』などのブライアン・デ・パルマ監督が、敬愛するアルフレッド・ヒッチコック監督にオマージュを捧げたスリラー。
音楽でも、『サイコ』の作曲家バーナード・ハーマンを起用。
心をかき乱すかのような緊迫感あふれる旋律が、ドラマを盛り上げています。
映画『悪魔のシスター』のあらすじ
美人モデルのダニエルとテレビ番組で知り合った男フィリップが、彼女の部屋で惨殺されます。
その殺人現場を、真向いのマンションから目撃した女性記者のグレースは、警察とともにダニエルの部屋に向かいますが、室内には死体はおろか事件の痕跡すらも残っていません。
グレースは単身で事件の捜査に乗り出し、やがて事件の裏に秘められた恐るべき秘密にたどり着きます。
映画『悪魔のシスター』の解説
マーゴット・キダーといえば、どうしても『スーパーマン』のロイス・レイン役の印象が強いですが、ここではあえて彼女の初期主演作をピックアップ。
『裏窓』、『サイコ』といったヒッチコック作品のオマージュが随所に散りばめられた、デ・パルマのヒッチコック愛が手に取るように分かる作品です。
また、分割画面を使ったシンクロ描写や長回しショット、不気味さを際立たせるモノクロシーンなど、後年に“デ・パルマ・タッチ”と評された映像表現が、すでに確立されています。
とにかく、事件のカギを握るダニエルに扮した、マーゴットの美しくも狂気に満ちた演技が衝撃的。
明朗活発なロイス役とは、また違った演技を見せてくれます。
レイモンド・チョウ(プロデューサー、1927年10月8日〜11月2日:享年91歳)
『燃えよドラゴン』『ドラゴン怒りの鉄拳』などのブルース・リー作品や、『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』といったジャッキー・チェン作品を製作した、香港の映画会社ゴールデン・ハーベスト社。
香港映画ファンでなくても、四つの長方形で「G」マークを表す同社のトレードマークに見覚えのある方も多いのではないでしょうか。
そのゴールデン・ハーベスト社の総帥レイモンド・チョウは、ほかにも『Mr.BOO!』シリーズのホイ兄弟や、『燃えよデブゴン』のサモ・ハン・キンポーら多彩なスターを輩出しました。
「香港映画の父」と呼ばれたチョウ氏無くして、リーやジャッキーの台頭はあり得なかったと断言します。
お薦めしたいレイモンド・チョウ作品『Mr.BOO!ミスター・ブー』
『Mr.BOO!ミスター・ブー』の作品情報
【公開】
1976年(香港映画)
【原題】
半斤八两、The Private Eyes
【監督】
マイケル・ホイ
【キャスト】
マイケル・ホイ、サミュエル・ホイ、リッキー・ホイ、シー・キエン
【作品概要】
ブルース・リー亡き後の1970年代の香港映画を支えた、マイケル、リッキー、サミュエルのホイ兄弟が出演したコメディ。
レイモンド・チョウ率いるゴールデン・ハーベスト社で製作された本作は、日本では、『Mr.BOO!』という邦題でシリーズ付けて初公開されました。
映画『Mr.BOO!ミスター・ブー』のあらすじ
香港で探偵事務所を開く、“ミスター・ブー”ことウォンの元にある日、探偵志望の青年キットが自分を売り込みに来ます。
超ドケチのウォンでしたが、キッドの優れたカンフーテクニックを見込み、超安月給で雇うことに。
それから、ドジな探偵見習いのチョンボを含めた3名で、毎回トラブルに見舞われるドタバタ探偵業が始まります。
映画『Mr.BOO!ミスター・ブー』の解説
レイモンド・チョウを偲ぶ作品としてなぜ本作を挙げたかというと、一つに、1970年代のパワフルかつ雑多な香港映画テイストが味わえるからです。
今でこそ国際的に評価される作品も多い香港映画ですが、70年代は洗練されきっていない、良くも悪くもノリと勢いで製作された内容の物が主流でした。
バイタリティあふれる香港のエンタメ界に精通するホイ兄弟の『Mr.BOO!』シリーズは、ある意味リーやジャッキーよりも香港純度100%な映画 なのです。
もう一つには、日本語吹き替えの妙が楽しめるという点があります。
『Mr.BOO!』シリーズがテレビ放映された際は、マイケル・ホイの声を担当した広川太一郎を中心に、元のセリフにないアドリブを含めた吹き替えが行われていました。
本作での広川の卓越したアドリブ吹き替えと、サミュエルとリッキーの声をそれぞれ担当したビートたけし&きよしのツービートの朴トツ吹き替えが、雑多な香港映画と妙にマッチングしています。
『Mr.BOO!』シリーズを観る際は、できれば日本語吹き替えにすることをおススメします。
まとめ
ここで取り上げた5名以外にも、2018年は俳優のバート・レイノルズやR・リー・アーメイ。
また、女優のソンドラ・ロック、監督のニコラス・ローグ。
そして、マーベルコミック創設者スタン・リーといった映画人も亡くなりました。
日本でも、樹木希林や津川雅彦、大杉漣といった俳優陣。
ほかには、アニメーション監督の高畑勲や、プロデューサーの黒澤満といった方々が鬼籍入りしています。
観客を楽しませてくれた故人たちに、あらためて追悼の意を捧げます。