今回特集するのは“愛を囁くための言語”がある地、フランスを代表する美男たちが輝く映画群です。
日本とは違う価値観が面白いラブストーリー、硬派で洒脱なフレンチ・ノワール。
現在も活躍する俳優陣はもちろん、時を超えて銀幕で輝くスターまでたっぷりとご紹介します!
CONTENTS
映画『サムライ』の主演アラン・ドロン
映画『サムライ』の作品情報
【公開】
1967年 フランス映画 (日本公開:1968年)
【原題】
Le Samouraï
【監督】
ジャン=ピエール・メルビル
【キャスト】
アラン・ドロン、ナタリー・ドロン、カティ・ロジェ、フランソワ・ペリエ、ジャック・ルロワ、ミシェル・ボワロン、カトリーヌ・ジュールダン
【作品概要】
ゴアン・マクレオの小説を『恐るべき子供たち』(1950)『リスボン特急』(1972)のジャン=ピエール・メルビルが脚色、監督した本作の主演を飾るのはフランス映画界を代表するスターのアラン・ドロン。
かつての彼のパートナーであるナタリー・ドロンのデビュー作でもあります。
共演は『お嬢さん、お手やわらかに!』(1959)『アイドルを探せ』(1963)を手がけるミシェル・ボワロンや、『ダンケルク』(1964)のフランソワ・ペリエ。
撮影はメルヴィル監督の長編デビュー作『海の沈黙』(1947)で同じくデビューを飾り、ヌーヴェルバーグの代表作『大人は判ってくれない』(1959)、アラン・ドロンの代表作『太陽がいっぱい』(1960)を手がけるアンリ・ドカエが務めました。
映画『サムライ』のあらすじ
ジェフ・コステロは寒々とした部屋で小鳥と暮らす、一匹狼の暗殺者。
いつも多額の報酬を受け取り、コールガールのジャーヌにアリバイを頼んで仕事を実行していました。
その日のターゲットはクラブの経営者。狂いなく狙いを定めてジェフは経営者を殺しますが、歌手のヴァレリーに顔を見られてしまいました。
しかし警察が動き出し、目撃者の大半はジェフが犯人だと証言しますがヴァレリーだけが彼をかばいます。
アリバイも完全だったため逮捕されなかったものの、警察にマークされるようになったジェフ。
そんな中彼に舞い込んだ新たな殺人依頼のターゲットはヴァレリーでした。ジェフは依頼主の黒幕を突き止めるのですが…。
アラン・ドロンの凍てつく眼差しが光る
その甘いマスクで世界中を魅了し、ラブストーリーやサスペンスにギャング映画と多くのジャンルで圧倒的な存在感を放ち、2017年に惜しまれつつ引退した大スターアラン・ドロン。
本作でのドロンは孤独でまるで人形のように無表情な暗殺者です。
映像もカラー作品に関わらず、ジェフの心情を映したように張り詰めて冷たい青と灰色が混じり合ったような色。窓の外は雨が降りしきり、彼の部屋はまるでいつも牢獄のよう。
カメラワークもストップモーションや移動撮影などを組み合わせ、ジェフの混沌とした心情を表現したとメルヴィル監督は語っています。
トレンチコートに身を包みソフト・ハットを被り、儀式性を感じさせる仕草で殺しに向かう。ダンディズム香り立つフレンチ・ノワールにアラン・ドロンが放ついぶし銀の魅力が光る作品です。
映画『オルフェ』の主演ジャン・マレー
映画『オルフェ』の作品情報
【公開】
1950年 フランス映画
【原題】
Orphée
【監督】
ジャン・コクトー
【キャスト】
ジャン・マレー、フランソワ・ペリエ、マリア・カザレス、マリー・デア、アンリ・クレミュー、ジャック・バレーヌ、ピエール・ベルタン、ジュリエット・グレコ、ロジェ・ブラン、エドワード・デルミ
【作品概要】
詩人、小説家、劇作家、映画監督、脚本家とその活躍の幅から“芸術のデパート”と呼ばれたジャン・コクトーが、ギリシャ神話のオルフェウス伝説を基脚本を執筆した作品です。
主人公オルフェを演じるのはコクトーの長年の愛人であり、『美女と野獣』(1946)にも出演するジャン・マレー。
死の世界の王女を演じるのは『パルムの僧院』(1947)に出演、作家のアルベール・カミュと長年の親睦があったことで知られる女優のマリア・カザレス。
『ダンケルク』(1964)や『サムライ』(1967)など40年代から70年代にかけて活躍した盟友フランソワ・ペリエも出演しています。
映画『オルフェ』のあらすじ
詩人のオルフェは“詩人カフェ”に集う人々の中でも注目の的。
ある日このカフェに“王女”と呼ばれる美しい女性が訪れ、交通事故で死亡した詩人セジェストの死体を、オルフェに手伝わせ自分の車に運びました。
オルフェも車に乗り込み王女の館に。そこでセジェストは蘇り、王女の導きによって鏡へ。あとを追ったオルフェは気絶してしまい、目をさますと館ごと消えていました。
王女の虜となってしまったオルフェは、妻ユリディスの待つ家に帰っても心ここにあらず、しかし毎夜彼の枕元に立つ王女の存在には気がつきません。
そんな中夫の心が離れてしまったと嘆くユリディスは、オートバイにはねられ死んでしまいます。
死の国へ向かうユリディスを不思議な手袋の力を借り鏡を通り抜けて追うオルフェ。
二度と妻の顔を見ないという王女の突きつける条件をのんで、妻を現世に連れ戻そうとするのですが…。
“感性の美”マレーとコクトー最後の作品
ギリシャ神話オルフェウスの物語は、オルフェと妻ユリディスの愛を描いているのですが、コクトーは舞台を現代に変更、オルフェと冥界の王女との恋物語に脚色。
死の世界と現世の境を彷徨する詩人の姿、耽美かつ幻惑的な映像とコクトーの世界に浸ることのできる作品です。
妻ではなく死の王女に惹かれてしまった主人公、オルフェを演じるのは長年の恋人でありミューズ、“コクトーの天使”とも呼ばれたジャン・マレー。
彫刻のような顔立ち、男性らしい逞しさと曲線美を備えたマレー、幽玄の世界広がる『オルフェ』での姿は美そのもの。鏡に口づけするシーンの艶っぽさにはため息がこぼれます。
『美女と野獣』では野獣の住む城とベルの住む世界を結ぶものとして描かれる鏡ですが、本作では冥界と現世を結ぶ扉として登場します。
マレーは自伝の中で、コクトーが亡くなった時の悲壮をこのように語っています。
「彼(コクトー)の演出でユリディスを探しに鏡の中に入ったことを思い出さすにはいられない。死神が私の手を取り、この鏡の背後に旅立ったジャンの魂を追い、通過してあの世に渡ることができたらどんなに良いことか」。
コクトーとマレー、2人が共に映画を作ったのはこの『オルフェ』が最後。彼らの魂と愛を育んだ日々は、鏡の向こうの永遠の世界に今あるのではないかと思わずにはいられません。
『モンパルナスの灯』の主演ジャラール・フィリップ
映画『モンパルナスの灯』の作品情報
【公開】
1958年 フランス映画
【原題】
Les amants de Montparnasse (Montparnasse 19)
【監督】
ジャック・ベッケル
【キャスト】
ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ、リノ・バンチュラ、リラ・ケドロバ、アントワーヌ・チュダル、リリー・パルマー、ジェラール・セティ、レア・パドバニ
【作品概要】
イタリアの画家・彫刻家のアメデオ・モディリアーニの伝記映画を手がけるのは、フレンチ・ノワールを代表する作品『現金に手を出すな』(1954)、脱獄映画の名作『穴』(1960)のジャック・ベッケル監督。
モディリアーニを演じるのは“ジェジェ様”の愛称で親しまれた『夜ごとの美女』(1952)『危険な関係』(1959)のジェラール・フィリップ。
モディリアーニのモデルであり内縁の妻ジャンヌを演じるのは『甘い生活』(1960)『ローラ』(1961)、そして『男と女』(1966)でゴールデングローブ賞 主演女優賞、英国アカデミー賞最優秀外国女優賞を受賞しているアヌーク・エーメ。
『その男ゾルバ』(1964)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したリラ・ケドロヴァ、『死刑台のエレベーター』(1958)『冒険者たち』(1967)に出演するリノ・ヴァンチュラなど、欧州を代表する俳優たちが共演しています。
映画『モンパルナスの灯』のあらすじ
1910年代のモンパルナス。貧窮の画家モディリアーニは、孤独と病に苛まれながら酒で紛らわせる日々。
恋人ベアトリスの部屋で荒々しい心を慰めてもらい、酒場で酒をあおる彼を力づけてくれるのは、スボロウスキーの存在でした。
スボロウスキーはモディリアーニの純粋な才能を認めていました。
ある日モディリアーニは、画塾の生徒で清純な女性ジャンヌと出会い、瞬く間に恋に落ちます。
しかし彼女の父はそれを許してくれず、傷心のモディリアーニは再び酒に溺れ、健康悪化に陥ってしまいます。
スボロウスキーの計らいでモディリアーニは、南仏に移動しました。
そこに現れたのは愛するジャンヌ。しかしモディリアーニの平和な日々は長く続くことなく…。
ジェジェ様が見せる夭折した芸術家の素顔
イタリアで生まれパリに移動したモディリアーニは、困窮な生活を送り病に蝕まれ、作品も評価されないままその一生を36歳の若さで終えました。
そんな彼のモデルであり恋人がジャンヌ・エビュテルヌ。
2人は結婚を誓約しましたがモディリアーニの死後間もなく、第二子を身ごもっていたジャンヌも窓から身を投げ自死してしまいます。
ジャンヌの家族の反対により2人の墓は別々でしたが、現在はともに眠っているそうです。
本作はモディリアーニとジャンヌの出会いから彼の死までを、モディリアーニの荒廃した生活と孤独をなぞりながら描くメロドラマです。
主演を務めるのはジェラール・フィリップ。“50年代の美”、また“フランスのジェームズ・ディーン”と言われたジェラール・フィリップの物悲しく繊細、時に猛々しく変貌する表情に驚かれます。
このジェラール・フィリップが亡くなったのは、奇しくもモディリアーニと同じ36歳。
映画と絵画、魂を芸術に捧げた美しき男性たちの人生が交錯する本作は色褪せない名作です。
映画『灼熱の肌』の主演ルイ・ガレル
映画『灼熱の肌』の作品情報
【公開】
2011年 フランス映画 (日本公開:2012年)
【原題】
Un ete brulant
【監督】
フィリップ・ガレル
【キャスト】
モニカ・ベルッチ、ルイ・ガレル、セリーヌ・サレット、ジェローム・ロバール、モーリス・ガレル
【作品概要】
“ゴダールの再来”と言われ、『秘密の子供』(1982)『恋人たちの失われた革命』(2005)など、ミニマリズムな手法で若者たちの恋や青春を切り取り続けるフィリップ・ガレル監督が手がけた本作は、ジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』(1963)への返歌と言える作品です。
主演を務めるのはガレル監督作品に多く出演、監督の息子のルイ・ガレル。
『マレーナ』(2000)『アレックス』(2002)、そして『007 スペクター』(2015)にてボンドガールを務めた“イタリアの宝石”モニカ・ベルッチがルイ・ガレル扮する主人公の妻役を演じます。
またフィリップ・ガレル監督の父であり俳優のモーリス・ガレルも出演しています。
映画『灼熱の肌』のあらすじ
フレデリックが俳優になることを目指すポールと彼の恋人エリザベートは、画家である親友のフレデリックに誘われローマにやってきます。
フレデリックは美しい女優の妻アンジェルと暮らしていました。
裕福とは言えないポールとエリザベートに反して、豪華な自宅に住むフレデリックとアンジェル。
ある日出かけたパーティーで他の男性と踊るアンジェルを見て、フレデリックは娼婦のようだと罵りました。
もともとはフレデリックの浮気で始まり、今ではアンジェルも他の男性を持つようになります。
彼らは深く愛し合っているにも関わらず、亀裂はどんどんと広がっていき…。
ガレル親子が紡ぐ濃密な愛の物語
『ドリーマーズ』(2003)や『美しいひと』(2008)など数々の映画の耽美で蠱惑的な世界観に溶け込み、人々を翻弄し時には意気地が無いけれど魅力的、そんな役を演じてきたルイ・ガレルが本作で扮するのは画家の青年。
フィリップ・ガレルは自身の監督作の原作『愛の残像』(2008)を画家でイタリアに住む友人フレデリック・パルドを介して知り、『灼熱の肌』の主人公はパルドをモデルとしたそうです。
描かれるのは心から愛し合っているにも関わらず、相容れることができなくなってしまった恋人たちの姿と、貧乏ながらも幸せに暮らすカップルと裕福であるのに、生活にぱっくりと亀裂が入ってしまったカップルの対比。
愛は消え、抜け殻となってしまったはずの恋人たちの感情ももうすでに残り香のようなもの。
嫉妬、憎悪、愛情、悲しみ、その情動が静粛な画面に流れながら物語は生と死の境目に浮遊し、ガレル監督作品ならではの凶暴で哀しい愛の形が目の前に燻ります。
次第にボロボロになってゆくフレデリックの妻エリザベートを演じるモニカ・ベルッチが、艶やかにダンスをするところは本作でも最も印象的で美しいシークエンス。
ルイ・ガレルとモニカ・ベルッチ、美しい2人がフィリップ・ガレル監督が紡ぐ物語の中で躍動する姿、それはたとえ控えめな表現だとしても全てが濃密で痛ましいほどに官能的なものです。
ぜひガレル監督の世界を堪能してみてください。
映画『SAINT LAURENT/サンローラン』の主演ギャスパー・ウリエル
映画『SAINT LAURENT/サンローラン』の作品情報
【公開】
2014年 フランス映画 (日本公開:2015年)
【原題】
Saint Laurent
【監督】
ベルトラン・ボネロ
【キャスト】
ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル、レア・セドゥ、アミラ・カサール、エイメリン・バラデ、ミーシャ・レスコ、ヘルムート・バーガー、バレリア・ブルーニ・テデスキ、バレリー・ドンゼッリ、ジャスミン・トリンカ、ドミニク・サンダ
【作品概要】
監督は『ポルノグラフ』(2001)でカンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞、『メゾン ある娼館の記憶」(2011)『ノクトラマ/夜行少年たち』(2016)とパリを舞台に映画を撮り続けるベルトラン・ポネロ。
イヴ・サンローランを演じるのはグサヴィエ・ドラン監督作品『たかが世界の終わり』(2016)でセザール賞主演男優賞を受賞、『ハンニバル・ライジング』(2007)で若き日のレクター博士を演じたギャスパー・ウリエル。
サンローランの恋人役には『灼熱の肌』のルイ・ガレルが、モデルのルル・ドゥ・ラ・ファレーズ役にはパルム・ドールを受賞した『アデル、ブルーは熱い色』(2013)主演のレア・セドゥが扮します。
また1989年時のサンローラン役でルキノ・ヴィスコンティ作品に欠かせない名優ヘルムート・バーガーが出演、『暗殺の森』(1970)『1900年』(1976)とベルナルド・ベルトルッチ作品で特に有名なドミニク・サンダがサンローランの母親役を演じるなど、欧州の名だたる俳優たちが一堂に会するのも魅力です。
本作はセザール賞で最優秀衣裳デザイン賞に輝きました。
映画『SAINT LAURENT/サンローラン』のあらすじ
1967年のパリ、サンローランは多忙なスケジュールに追われていました。
徹底的な美を追求する彼は完璧ゆえに苦悩する毎日。
息抜きは公私のパートナーであるピエールの目をかいくぐり、モデルのベティたちとパーティーに出かけることでした。
ある日、サンローランはカール・ラガーフェルドの愛人である男ジャックに出会い、その美しさに惹かれてゆきます。
しかしそんな刹那的な快楽は彼を癒すことなく、次第にデザイン画も書けなくなってしまい…。
ギャスパー・ウリエルの繊細な演技に注目
女性のパンツスタイルが主流ではなかった時代に男物仕立ての洋服を作り、有色人種のモデルの起用を働かきかけるなどファッションを通して当時の文化を築いたサンローランはデザイナーであり、芸術家でした。
本作はそんな彼の影の部分に大きく焦点を当て、芸術家の葛藤を描き出しています。
薬物中毒、美意識が高く脆弱なサンローランの姿を演じきったギャスパー・ウリエルが見せるひとつひとつの繊細な表情が、多く登場する美しい洋服と共に見る者の心に焼きつきます。
先ほどご紹介したルイ・ガレルが演じるのは、サンローランが行き詰まった時に出会う男、ジャック。退廃的、虚無を映した瞳さえ官能的な存在感を放ちます。
華やかな世界の虚しい一面と芸術家の内に広がる膨大な葛藤と創作意欲、美意識を描く本作はぜひファッションが映した時代、モード界の帝王が今世に残した大きな功績、
変わってゆくファッションの中にある普遍的な美を感じながらぜひご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
1900年代半ばから2000年代、フランスのみにとどまらず世界を魅了している美しき男性たちの姿は今もスクリーンで輝きを失うことなく、強く存在し続けています。
性や時代の枠を超えた彼らの美は、演劇や芸術に傾ける情熱や愛から生まれるものなのかもしれません。
ぜひご紹介した作品たちの世界に浸ってみてくださいね。