Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

まとめ記事

80年代音楽映画おすすめ3選!ミュージシャンのプリンスやマドンナが主演を果たした“アーティスト”の影響を紐解く

  • Writer :
  • 桂伸也

80年代音楽シーンのアーティストによる主演が光る映画三作品をピックアップ!

ドキュメント映画『a-ha THE MOVIE』で知られるアーティストa-haは、80年代のポピュラー音楽界において大ヒット曲「TAKE ON ME」により一大センセーションを巻き起こしました。

(C) MOTLYS, FENRIS FILM, KINESCOPE FILM, NEUE IMPULS FILM 2021

この大ヒットの要因には音楽的な特徴とともに、音楽ビジネスにおけるミュージックビデオの台頭という歴史的な動きもあり、a-haを筆頭にさまざまなミュージシャン、グループが登場し時代を彩りました。

また、この時代は映画と当時のポピュラー音楽との結びつきにおいて、当時の音楽シーンを彩ったスターが映画出演を果たすというケースもたびたび見られる中で特徴的な動きも見られました。

今回はそんな80年代の映画3選より、ミュージシャンが主演を果たした作品三選より時代的な特徴を検証します。

映画『プリンス パープル・レイン』出演アーティスト:プリンス

【公開】
1984年公開(アメリカ映画)

【原題】
Purple Rain

【監督】
アルバート・マグノーリ

【キャスト】
プリンス、アポロニア・コテロ、モリス・デイ、オルガ・カルラトス、クラレンス・ウィリアムズ3世

【作品概要】
音楽ビジネスに生きる一人の若者が抱く苦悩の表情から、スターダムへと突き進むその道のりを描いた物語。

アルバート・マグノーリが本作で長編デビューを飾りました。作品では80年代を代表するアメリカのミュージシャン、プリンスが主演を果たすとともに、オリジナル音楽作曲・製作も担当。映画のサウンドトラックアルバムも大ヒットを記録しました。

映画『プリンス パープル・レイン』のあらすじ

アメリカ・ミネソタのミネアポリスで人気のライブハウス、ファースト・アベニューでは、紫色のジャケットに身を包んだミュージシャン・ギッド(プリンス)が、自分のバンドとともに大きな人気を博し、ライブハウスを沸かせていました。

しかし他方でギッドは、家の中で両親の不和に悩む一面を持っていました。

そんな中、今日もライブハウスを熱狂に包むギッドたち。一方ギッドたちの楽屋には、ロック・スターを目指す美しい女性・アポロニアが現れます。

彼女に一目で引かれたギッド。スターダムを駆け上がろうとしたその途で、彼女の登場はギッドの心に大きな変化をもたらしていきました。

ミュージシャンというアーティストの新たな可能性を示唆

「映画」の絶対的視点でこの作品を評価してしまえば、「不自然だ」という指摘で低い評価を受ける可能性もあります。実際に本作ではある程度現実性をたたえたシーンが垣間見られる中に、ふっと「現実的でない」と思わせるものが登場したりします。

例えば主人公が愛用するバイク。スラム街に住む男性としては、かなり派手なデザインとなっています。ミュージシャンが作品の大きなポイントとなった作品でもあり、ほとんどのシーンがステージ衣装的なものであるのも異質なイメージを感じさせます。

これらは普遍的なテーマを追求したドラマ作品であれば、その「現実性」と「非現実性」のバランスに大きな違和感が見えてきます。

しかし反面、劇中に登場するプリンス自身のパフォーマンスや時に登場する美しいイメージなどを考えれば、その時代の映画作品とは違った特異なものを目指した傾向がうかがえると見ることもできるでしょう。

音楽をうまく絡めている点ではある意味「ミュージカル映画」的な作品にも見えますが、例えばかつてディズニー・ランドで上映されたマイケル・ジャクソン主演の『キャプテンEO』で見られた先進的な印象もあります。

こういった点をまとめると、プリンスは音楽だけではなくビジュアル、映像的な部分でもさまざまな実験を重ね、「ミュージシャン」で終わらない「アーティスト」であったということを改めて感じさせられる作品であります。

映画『プリンス パープル・レイン』主題歌:「パープル・レイン」

映画『フィル・コリンズ in バスター』出演アーティスト:フィル・コリンズ

【公開】
1988年公開(イギリス映画)

【原題】
Buster

【監督】
デビッド・グリーン

【キャスト】
フィル・コリンズ、ジュリー・ウォルターズ、ラリー・ラム、アンソニー・クエイル

【作品概要】
60年代のイギリスに実在した列車強盗の一人、バスター・エドワーズの生い立ちをモチーフに、家族との逃避行の風景から愛と苦悩を描いたドラマ作品。

主演を担当したのは、バンド、ソロ活動のほかにプロデューサーなど多岐にわたり活動を続けてきたフィル・コリンズ。彼は主演を務めたほかに、作品への楽曲提供も行いました。

共演には『マンマ・ミーア! 』『メリー・ポピンズ リターンズ』などのジュリー・ウォルターズらが名を連ねています。

映画『フィル・コリンズ in バスター』のあらすじ

1963年。詐欺師のバスター・エドワーズは、仲間のブルース(ラリー・ラム)より多額の現金輸送列車の情報を受け取り、強盗を計画します。列車から15万ポンドを盗むことに成功した彼らは、その散り散りになり英国国内を転々としていきます。

捜査の手が伸び危機を感じたバスターは、妻子を連れてメキシコに逃亡を図ります。

しかし逃亡後に安堵もつかの間、ジューンはホームシックとなってしまいバスターを置いて子供とともに帰国してしまいます。彼は逮捕を覚悟の上、決断するのでした…。

音楽、演技どちらにも秀でた二刀流

実験的な要素すら強くうかがえる『パープルレイン』に対し、こちらの『バスター』におけるフィル・コリンズの演技は、まさに役者然としたもの。

事実、実話をもとに構成された物語であり、役柄の印象は監督が主導を握っており、コリンズの存在感はまさにその意図にはまった演技を見せているといえるでしょう。

プログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスのリーダーであり、自身のソロも活発に行い、かつ他アーティストのプロデュースなど当時はさまざまな仕事をこなしていた彼ですが、そんな中でここまでのレベルの演技を見せているのは、彼の多彩な才能を感じさせるところであります。

一方で面白いのが、フィル・コリンズはかつて子役として映画へのエキストラ出演を果たした経験はありますが、本作以外に目立った映画出演は行っていないことにあります。

当時は80年代、ミュージックビデオを主体とした音楽ムーブメントが隆盛を極めた時代でもあり、そんなMV製作における表現のスキルが彼の演技スキルにつながっているのかもしれません。

コリンズは本作で2つの楽曲を提供、いずれも大きなヒットを獲得しており、このMVも見どころの一つです。

映画の場面をコラージュしたバラードの『A Groovy Kind Of Love』に対し、ポップでカラフルなサウンドの『Two Hearts』のMVでは、70年代ポップスを彷彿としたバンドのメンバーを一人四役で歴任、さらに怪しげなフィルム技師役などと多彩な表現力を披露しています。

映画『フィル・コリンズ in バスター』主題歌:「A Groovy Kind Of Love」

映画『フィル・コリンズ in バスター』挿入歌:「Two Hearts」

映画『フーズ・ザット・ガール』出演アーティスト:マドンナ

【公開】
1987年公開(アメリカ映画)

【原題】
Who’s That Girl

【監督】
ジェームズ・フォーリー

【キャスト】
マドンナ、グリフィン・ダン、ジョン・マクマーティン、ハビランド・モリス、コーティ・マンディ、デニス・バークレイ、ジョン・ミルズ

【作品概要】
無実の罪で収監され、出所後に事件の真相を迫求すべく奮闘するヒロインの姿を描いたアクション・コメディー映画。

ヒロインをマドンナが担当、ほかに『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』『オーシャンズ8』などのグリフィン・ダン、『グレムリン2 新・種・誕・生』『ホーム・アローン3』のハビランド・モリスらが出演しています。

映画『フーズ・ザット・ガール』のあらすじ

無実の罪を着せられ4年の刑務所生活を余儀なくされていたニッキー(マドンナ)。収監後も真犯人を探し出し復讐を遂げることを考えていた彼女は模範囚となり、ある日「釈放後すぐにバスでぺンシルヴァニアの実家に帰ること」「2週間ごとに保護司と連絡をとること」という二つの条件とともに仮釈放されることになります。

そのころ、上司のサイモン(ジョン・マクマーティン)の娘ウェンディ(ハヴィランド・モリス)との結婚式を明日に控えていた弁護士ロードン(グリフィン・ダン)は、突然サイモンよりそのニッキーをペンシルヴァニア見送るよう指示されます。

全く接点のなかった二人の出会いは、彼らの周囲の人を巻き込んで意外な方向へと展開していくのでした…

個々の作品評価では推し量れない演技、表現力

マドンナはこの作品が発表されたころ、他にも『スーザンを探して』などのコメディー映画に出演を果たしましたが、いくつかはあの不名誉なラズベリー賞を受賞と、なかなか高い評価は得られませんでした。

しかし1996年の『エビータ』出演で評価は一転、女優としてもクローズアップされることになります。

本作では刑務所に入れられていた泥棒の役、『スーザンを探して』では娼婦と異質な役柄を演じ、さらに『フーズ・ザット・ガール』ではどこか田舎娘的なダサさが感じられる、品のない語り口をしているところが目立ちます。

しかし一方で本作がコメディー作品であるという前提を改めて考えれば逆に違和感もなく、マドンナが演じるとなぜかしっくりくる印象があります。

加えて数年後の『エビータ』でそれほどの高い評価が得られたとなれば、作品によってその性質を自由にコントロールできる、秀逸な女優であると見ることもできます。

本作では全体に軽いノリの中で、ふと真っ白のワンピースドレスでフォーマルな印象を見せるシーンがありますが、そのビジュアルはマリリン・モンローを彷彿するもので、強いインパクトを放っていました。

マドンナの発表した楽曲のMVもミュージカル的要素が強く、その演技的要素は高く感じることができ、その意味ではフィル・コリンズなどと並んで「この時代ならではのアーティスト」であるともいえるでしょう。

映画『フーズ・ザット・ガール』主題歌:「フーズ・ザット・ガール」

映画『スーザンを探して』主題歌:「イントゥ・ザ・グルーヴ」

まとめ

映画『バイブス秘宝の謎』主題歌:「ホール・イン・マイ・ハート」

80年代ミュージシャン主演の映画としては、このほかにもシンディー・ローパー主演の『バイブス秘宝の謎』、デビッド・ボウイ、坂本龍一出演の『戦場のメリー・クリスマス』などがあります。

『バイブス秘宝の謎』はコメディータッチのアクション冒険映画で、残念ながらローパー自身は撮影状況も思わしくなく、のちに自伝で自身のキャリアの汚点とまで記していますが、作品はジェフ・ゴールドブラム、ピーター・フォークといった名優も名を連ねた興味深い作品であります。

映画『戦場のメリー・クリスマス』予告編

戦場のメリー・クリスマス』は日本の大島渚監督による大ヒット作品。坂本、ボウイと80年代活躍のアーティストという括りとしては若干異なる面もありますが、当時ミュージシャンとしても絶大な影響力を誇っていた二人の出演作だけに話題も大きく、二人の存在感は現在でも高い評価を得ています。

なおボウイは1976年の『地球に落ちてきた男』で主演、さらに1983年の『ハンガー』、1986年『ラビリンス/魔王の迷宮』『ビギナーズ』など多くの映画作品に出演しており、ミュージシャンという枠を大きく超えたアーティスト活動を展開していました。

坂本も1987年の『ラストエンペラー』で、壮大な世界観を表現した音楽提供とともに出演を果たし、独特の存在感を示しました。

古くから現代にいたるまでミュージシャン、歌手が映画で主演を務めるケースは多くありますが、この時代におけるミュージシャンの出演は、どこかミュージシャン、俳優というジャンル分け的な境界が非常に曖昧である一方、映画作品に対して音楽活動におけるビジュアルなどのイメージに大きく影響を及ぼした印象を感じることでしょう。


関連記事

まとめ記事

野外上映2017シネマキャンプフェス開催日時と参加者募集!

映画の配給、上映企画などを手がけるコンストラクトフィルムワークスは、今年も静岡県西伊豆にてDIY野外シネマフェス「MUJINTO cinema CAMP2017」を開催することになりました。 今回はみ …

まとめ記事

ロザムンド・パイク映画おすすめ6選。ゴーンガールから2019年新作『THE INFORMER/三秒間の死角』まで

出演最新作が立て続けに公開!2019年秋のロザムンド・パイク祭り 映画『ゴーン・ガール』(2014)での演技が印象深いイギリス人女優、ロザムンド・パイク。 左『エンテベ空港の 7 日間』場面写真 中央 …

まとめ記事

【年末の挨拶】いつも読んでいただきありがとうございました。編集部

『チャプリンの黄金狂時代』から引用 酉年の2017年も最後の大晦日になっちゃいましたネ。 どうしても2017年のうちにCinemarcheの読者さんに感謝の気持ちを伝えたくて、 遅いご挨拶となります。 …

まとめ記事

2020年、あけましておめでとうございます。

謹賀新年 旧年中はCinemarcheをご愛顧を賜り、厚く御礼申し上げます。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。 皆様にとって、“良き映画との出会い”が多き年となりますように、 スタッフ一同お祈り …

まとめ記事

【2020年2月20日〜2月21日公開】Cinemarcheおすすめ映画情報

あなたと映画の結び目。 チョッとだけツウ好みな映画WEBマガジン【Cinemarche:シネマルシェ】 (C)Cinemarche 映画感想レビュー&考察サイト「Cinemarche(シネマ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学