映画『パリ、嘘つきな恋』2019年5月24日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
ひょんなきっかけで出会った2人。仕事はできるが遊び人の男が惹かれたのは、ハンディキャップを持ちながらも輝きに満ちあふれた美しい女性でした。
フランス発のコミカルかつ、オシャレなラブストーリー『パリ、嘘つきな恋』。
本作は素敵な恋物語を描きつつも、障がい者と健常者との関係に敢えて深く切り込んだ作品でもあります。
監督・脚本・主演を務めたのは、フランスの人気コメディアンであり、本作が初の長編監督作となるフランク・デュボスク。車椅子に乗りながらも光り輝く女性を演じたアレクサンドラ・ラミーとともに、素敵な恋物語を紡ぎます。
CONTENTS
映画『パリ、嘘つきな恋』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス映画)
【原題】
Tout le Monde Debout
【脚本・監督】
フランク・デュボスク
【キャスト】
フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー、エルザ・ジルベルスタイン、ジェラール・ダルモン、ローラン・バトー、フランソワ=グザビエ・ドゥメゾン、クロード・ブラッスール
【作品概要】
フランスの人気コメディアンであるフランク・デュボスクが監督として長編デビューを果たした作品。
仕事はできるが遊び人の男と、車椅子で生活している女性の恋模様を描いています。
ヒロインを演じたアレクサンドラ・ラミーは、フランスの優れた芸術作品に贈られるクリスタル・グローブ賞主演女優賞(コメディ部門)を受賞しました。
映画『パリ、嘘つきな恋』のあらすじ
ジョスラン(フランク・デュボスク)は、パリの大手シューズ代理店で働くビジネスマン。それなりの年を重ねつつもイケメンでお金持ちの彼は、女性との恋愛に求めるのは一時的な楽しさだけ、という男でした。
今日もすれ違った女性の後ろ姿を見ては品定めに勤しみつつ、親友マックス(ジェラール・ダルモン)とレストランで下ネタ話に花を咲かせていると、ジョスランに一つの電話が。それは、彼の実母の死を知らせるものでした。
久々の母との対面に意気消沈する一方で、双子の弟から実家を売り出す話を聞き、弟からは「売り出す前に、一目見ておけ」と言われます。
その後、ジョスランは実家を訪れます。母の部屋の車椅子に座り、母の思い出の品を懐かしむジョスラン。
やがて、歌が吹き込まれていた一本のテープを発見するジョスラン。懐かしいその歌に一人興じていると、家に一人の女性が現れます。
それは隣の家に越してきた、美しい女性ジュリー(キャロライン・アングラード)。
グラマーなジュリーに魅せられたジョスランは、彼女の気を引くために「自分は車椅子生活だ」と、とっさに嘘をついてしまいます。
ジュリーがすっかり信じてしまったことで、嘘から逃れられなくなったジョスラン。何度かの対面ののち、ジュリーは田舎の実家に彼を招き、姉のフロランス(アレクサンドラ・ラミー)を紹介します。
フロランスは、かつて事故に遭って以来車椅子生活を送るようになったものの、快活でユーモアあふれる魅力的な女性。
当初は車椅子の女性を紹介されてしまったと慌てるジョスランでしたが、その後もたまたま近くに来たとジョスランの会社に訪れたフロランスに徐々に惹かれていきます。
マックスに対しては“興味は無い”と言い切る一方、ジョスランはフロランスが出場する車椅子テニスの試合を観戦したり、彼女が演奏するコンサートを観に行くためだけに、わざわざプラハを訪れたりしました。
行く先々で輝いた姿を見せるフロランスに、ジョスランはすっかりのめり込みます。
一方でフロランスは、プラハではホテルの部屋にジョスランを招くも、彼が部屋に入る直前で遠慮するという紳士ぶりを見せ、ジョスランから“女として見られた”という喜びに胸がいっぱいになります。
ある日、ついにジョスランは自分の家にフロランスを招き、お互いに恋に落ちます。
そんな時、一つの事件が。ジョスランの弟とジュリーが急接近した結果、弟は彼女に「ジョスランは足に障がいがあることを偽っている」という事実を話してしまったのです。
激怒したジュリーはジョスランに詰め寄り、「48時間以内にフロランスに本当のことを言わないと、ただじゃ済まさない」と警告。
窮地に立たされたジョスランは、マックスや秘書のマリー(エルザ・ジルベルスタイン)を巻き込み一つの奇策を企てます。
果たして、嘘つきな軽薄男と輝ける車椅子美女、二人の恋の行方やいかに?
映画『パリ、嘘つきな恋』の感想と評価
タブーに敢えて切り込む重要性
本作において最も重要なのは、劇中を通して描かれるそのテーマにあります。
本作でメインに描かれるのは、脚に障がいを持った女性に恋した、1人の“嘘つき”な男性の物語。
例えば、日本国内では障がい者を映画に持ち出すことに対して、非常に過敏になる傾向があります。
「コンプライアンス的に、モラル的に、こういった形で障がい者を引き合いに出すのは正しいだろうか?」と、多くの制作者はテーマとして扱いたいと考える反面、その扱い方について常に頭を悩ませているに違いありません。
本作のストーリーでいえば、ジョスランというキャラクターが最もそのネックとなり得る存在でしょう。
彼は自身を「車椅子がないとどこにも行けない障がい者」であると偽り、女性との関係を続けようとします。そのキャラクターの軽薄な一面もあってか、ストーリーの断片・冒頭部分だけを見ると「とんでもないストーリーだ」と憤慨する人もいるかもしれません。
そういう意味では、こういったテーマは非常にデリケートで、映画で取り上げるのは難しいものと言えるでしょう。
しかし、本作は敢えて難しいテーマに挑戦しています。
本作の物語で大きなカギを握っているのは、車椅子の魅力的な女性・フロランスの存在です。
とかく障がい者というと、社会的には“配慮されるべきだ”といたわることが何よりも重要なのだと言われてきました。しかし近年、障がい者と呼ばれる人々の主張が強く大きくなっていることも事実です。
特に2020年のオリンピック東京大会が近づくなか、同時に開催されるパラリンピック、そしてそこで活躍する選手たちの動向が多く注目されています。
障がいを持ちつつも、健常者と比較しても遜色のない評価を受ける人が、続々と現れ始めている時代こそが現代なのです。
また近年では、障がい者自身が“1人の人間として認めてもらいたい”と、時に過剰とも思える施しを敢えて避けようとする傾向も見られます。
そういう意味では、「一人の男」「一人の女」としてお互いの存在を認めようとするジョスランとフロランスのそれぞれの心情、そして本作のストーリーにおけるテーマの取り上げ方は、このような世相や世論を反映しているようにも感じられます。
ジョスランの演者であると同時に監督でもあるフランク・デュボスクも、本作で訴えたいテーマとして「愛をもって相手を見れば、際に対する偏見は消えることを伝えたい」と自身の思いを挙げられています。
また、彼は障がいについてユーモアを交えて描くことに「誰かをからかうつもりは一切ない」と、展開の一つ一つに心血を注いでいたことを明かしています。
それゆえに、映画を鑑賞すれば、冒頭では“どぎついテーマだな”と感じられた印象がエンディングでは納得の印象に変わっていくことでしょう。
緻密さとセンスが垣間見える演出と映像美
また映像の展開などを注意してみると、非常に細かな設定まで配慮の行き届いた演出がされていることが分かります。
例えば、対比です。冒頭の空港での場面にてジョスランがフランスへと入国する際、彼と待ち合わせをしていた女性は「相手はアフリカからの到着者である」と事前に聞いていたため、ジョスランの容姿を見て“(白人でしたか、)てっきり黒人の方だと思いました”とコメントするという描写があります。
これは本作における「障がい者」という非常にデリケートなテーマをこれから描くために、敢えて「前振り」を行っているとも受け取れます。
さらにフロランスとの出会いの前に起きた、ジョスランの母親の死。非常に大切な女性である母親との別れの一方で、新たな女性との出会いがあるというのは、何かストーリーの印象を一層深くしているような印象もあります。
また、ジョスランとフロランスの会話の中で、フロランスが「私のお尻は可愛いのに、誰にも見えない」などと自虐的なジョークを飛ばす場面があります。この場面に限らず、そんなジョークが2人の会話には度々出てきます。
先述しましたが、こういったジョークは本作におけるテーマと照らし合わせて考えると、非常に取り扱いにくいものになりがちであります。しかしながら、共に車椅子で過ごしている2人がこういった話をすると、まったく引っかかることなく、自然な、そして笑える展開だと捉えられます。こういったセリフやジョークの一つ一つにも、改めて監督であるフランク・デュボスクのセンスと配慮が感じられます。
ちなみに、劇中の見どころとして一番のおススメは、ストーリーの中盤で描かれるジョスランとフロレンスのキスシーン。“そうきたか!”と思えるような映像美が、観客を驚かせることは間違いなしです。
新たな『最強のふたり』
一方、本作の制作・配給を担当したフランスの大手映画制作会社ゴーモンは、感動の実話をもとに描かれた大ヒット映画『最強のふたり』を以前輩出していますが、それに似た物語および人物関係を本作でも感じ取れます。
『最強のふたり』では、自分の障がいに引け目を感じ内面に閉じこもってしまった車椅子の男性と、まったく相手に遠慮がない一人の男性との関係が描かれました。
一方本作では、五体満足ながらも自身のダメぶりに意気消沈する一人の男性、そして障がい者として特別扱いされることに違和感を覚え、活発に生き輝きを見せる一人の女性と、『最強のふたり』に対して、メインとなる2人のキャラクターの特徴や性格などをちょうど交換したような形で配置されているのが、非常に興味深いところです。
そして、「お互いを想い、終わりに近づくにつれて徐々に1+1=2以上のものとなっていく」という展開は、『最強のふたり』へのリスペクトすら感じられ、人間同士の関係を改めて問う作品として良きモデルに準じているような印象もあります。
まとめ
嘘をついた罪の意識にさいなまれ、クライマックスに向かうにつれ険しい状況になるストーリー。
それでもこの作品を見れば、今までつながることのなかった人との関係を考えるようになるとともに、晴れやかな気持ちとなるに違いありません。
フランク・デュボスクは、フランスでは国民的な人気を誇るコメディアンとのこと。日本ではさしずめ明石家さんま、北野武といった感じでしょうか。
そのユーモアあふれるセンスとともに、その内に秘めた深い洞察力が、作品の訴求力をしっかりしたものにしているように感じられます。
また、映画『グレート デイズ! -夢に挑んだ父と子-』などに出演したアレクサンドラ・ラミーですが、本作での演技のために車椅子テニスやバイオリンに初挑戦したといいます。
その前向きでアクティブな思いがそのまま映像にも表されているようでもあり、キャラクター、ストーリーの説得力をさらに強いものにしているようでもあります。
気軽にオシャレなラブストーリーを楽しみたい、という方にももちろん、期待以上の満足感が得られる作品といえるでしょう。
映画『パリ、嘘つきな恋』は2019年5月24日(金)より、新宿ピカデリーほか全国で公開されます!