恋愛において同じ過ちを繰り返してしまう“あなた”に捧ぐ物語
今回ご紹介する映画『もっと超越した所へ。』は、劇作家の根本宗子が脚本・演出を手がけ2015年に舞台上演された同名作品を、『傷だらけの悪魔』(2017)の山岸聖太が監督を務め映画化されました。
本作は、“映像化不可能”と呼ばれた伝説の舞台演劇を大胆なアレンジで描かれています。
めんどくさいと思いながらも、本音を押し殺しクズ男を引き寄せてしまう、4人の女性の恋愛。彼女たちがそれぞれの幸せを掴んでいくまでのミラクルラブストーリーです。
4人の女性が主役ともいえますが、見どころは個性あふれる4人のダメンズです。鑑賞した時、つい許容範囲のランク付けしてしまう自分に気づくかもしれません。
CONTENTS
映画『もっと超越した所へ。』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
山岸聖太
【原作・脚本】
根本宗子
【キャスト】
前田敦子、菊池風磨、伊藤万理華、オカモトレイジ、黒川芽以、三浦貴大、趣里、千葉雄大
【作品概要】
恋愛体質のデザイナー真知子役はAKB48で絶大なる人気を獲得し、2012年に卒業後は女優として、話題作など多数出演し活躍している前田敦子が務めます。
他の迷える女性3人、彼氏色に染まるギャル美和役に伊藤万理華、シングルマザー風俗嬢の七瀬役に黒川芽以、子役上がりタレントの鈴役に趣里が務めます。
“ダメンズ”の4人、ヒモストリーマー怜人役にアイドルグループ、Sexy Zoneの菊池風磨、ノリで生きるフリーター泰造役に人気ロックバンド、OKAMOTOSのオカモトレイジ、あざと可愛いゲイの富役は鈴木雄大、落ちぶれ俳優慎太郎役に『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で、各日本映画賞の新人賞を受賞した三浦貴大が演じます。
映画『もっと超越した所へ。』のあらすじとネタバレ
2020年の1月、米を研ぐ女、おにぎりを食べる女、パックご飯を温める女、スーパーで何キロの米を買うか悩む女・・・4人の女にはある共通点があります。
衣装デザイナーの真知子はスーパーでニンジンや大根を籠に入れ、5kgの米を買うか悩み、結局はいつも通り2kgの米に落ち着きます。
店員にお米は袋を分けるか聞かれ、3円で袋を購入し家路につく途中、重さで袋が破け買ったものをぶちまけて途方にくれます。
その時、真知子が中学生だった時の同級生、怜人から連絡が入ります。彼は真知子の住む町まで来ていました。
真知子は怜人と合流しますが、突然のことで驚きます。バンドマンを夢見る怜人は、SNSで動画配信し真知子がたまたま観て、同級生だったと気づきメールしていました。
怜人は真知子が遊びに来てもいいというので来たと言い、ぶちまけた買い物品を持ってあげ、彼女の住むアパートまで、緩やかな坂道を歩きます。
数年ぶりに会った2人でしたが、怜人は真知子とのメールのやりとりで、落ち込んで元気のない彼女が心配になったと、ます。
彼女にキスして関係を持つと、「しばらく一緒にいてあげる」と強引に押しきり、彼女の部屋に居座ります。
ショップ店員の美和は、出勤するギリギリまで眠り、パックご飯と納豆で食事を済ますずぼらな子です。彼女はフリーターの泰造と毎日ふざけあいながら、楽しく暮らしていました。
泰造は新年早々に花粉の症状に見舞われています。美和は高額な美顔器の支払いをするついでに、薬局でマスクを買おうとしますが品薄です。
美和は不思議に思いますが、世間では新型コロナウィルスの感染が、広まりつつありニュースを見ない彼女は、そのことを知らずにいました。
風俗嬢の七瀬は仕事前に持参した、手作りのおにぎりを食べて客を待ちます。彼女には俳優をしているという、常連客の慎太郎がいました。
彼は若手監督の映画撮影で、あれこれ手ほどきしてきて疲れたと、七瀬に愚痴をいいますが、彼女は自分事のように慎太郎の活躍を喜びます。
慎太郎はそんな七瀬に向かって、映画の知識がない風俗嬢とバカにしつつ、優越感に浸っていました。
ブランド米を土鍋で炊くこだわり派の鈴は、都内の高級マンションで、父親の経営する会社の仕事をリモートでする、富(トミー)と暮しています。
ゲイのトミーは出会い系アプリで理想のパートナーを探し、男性と食事のデートをしますが、相手の男性から“喜びと感謝”が足りないと説教されたと、鈴に愚痴をこぼします。
日常的に愚痴の多いトミーを鈴はいつもなだめて、彼は彼女のやさしさに甘えます。しかしLINEの通知音がするとトミーは部屋に飛んで戻り、鈴はそれをヤレヤレとみつめます。
映画『もっと超越した所へ。』の感想と評価
あなたならどの“クズ男”が超越できますか?
傍から見たらどうしようもない“クズ男”なのに、そのダメな部分にどうしても惹かれてしまう。
惹かれてしまうというよりはむしろ、放っておけないという心理が働いてしまう女性が多いかもしれません。
わかっちゃいるけど好きになったら止められない・・・人の好みといえばそういうものですが、何度もそれを繰り返し後悔するのも人の“性”です。
本作の主人公の女性達はその“後悔”を“幸福”に転じるミラクルを意地と根性で達成します。
4人のクズ男が生理的に受け付けず、男の風上にも置けないと断然拒否する場合もあるでしょう。
しかし、いかがでしょう、この中の誰となら超越したところへ行けそうですか?
やっかい系ヒモ男、ストリーマー“怜人”
自分が楽になるためなら、相手のいうことには従い、尊重するようなことを言いますが、実は最強の束縛系男子です。
いかに相手に疑問を抱かせず、お互い同等という立場をとるか・・・計算高いように見えて、生まれ持った一種の才能といえます。
とにかく努力することが嫌いで、黒いものも白にしたいご都合主義。自分に都合のいい彼女を自分好みにカスタマイズしようとする・・・ヤドカリ人間の怜人です。
根拠のない自信家、フリーター“泰造”
ノリと勢いだけで生きているのに、自分に不安な要素がふりかかると、完全に自信喪失してしまう、ビビリ系男子です。
彼女を大切にしているようにみせかけ、己のことが一番大事だというのが本音。自分が楽しければ、彼女も喜ぶはずと思う根拠のない自信家です。
男という前に人としての責任感が皆無で、ノリのいい楽しい生活が揺らぐことを極端に恐れ、後先考えない無計画人間の泰造です。
落ちぶれたプライド、元子役俳優“慎太郎”
虚栄心と自尊心の塊。殻に閉じこもっていながら、自分を高く見せるため、相手の人格すらも否定する、ナルシスト系男子です。
過去の栄光にしがみつき、自分の不遇は全て周りのせいにします。弱点を隠し噂に怯える生き方が、不満と不安につながり、なぜか好きな彼女にぶつけます。
素直さに欠け、自分で生き辛さを作ってる不器用な男です。それでも誰かに認められ、褒められたいという、自意識過剰人間の慎太郎です。
あざと可愛い、坊ちゃんゲイ“富(トミー)”
女性的な“ゲイ”であることを活かし、安全性をアピール。精神的な安定を女性に求め、依存してしまう、あざと可愛い系男子です。
男性の面は女性からの好意を察知してしまいます。相手を傷つけないように言葉を選んでいるようで、とってる行動が残酷であることに気づいていない。
密かなプランを胸に秘め、それに添わないと逆ギレしてしまう、何不自由なく育った、典型的な自己中心的なお坊ちゃん人間の富(トミー)です。
超越させるのに必要なのは強い“母性”
なぜかいつも同じようなタイプの人を好きになり、いつも同じことに悩む堂々巡りな女性はいて、相談に乗ったり愚痴を聞いたりする方も多いでしょう。
しかし、行き着くところ彼女たちは、その恋愛が嫌で終わらせたいわけではなく、妥協点を探したり、相手と幸せになる超越した所を探しているのだと気づきます。
真知子、七瀬、美和、鈴がラストで見せたミラクルは、最初から脳内でシュミレーションされていて、その時の“母性”が超越しているのかということです。
ラスト30分で描かれる、彼女たちの超越したパワーは、このクズ男をどう受け入れるのか、心の葛藤を描いているようにみえます。
彼らを許し彼らを手のひらで操る術を知った女性は強く、まさに最強の“母性”を持った姿に変貌していました。
まとめ
『もっと超越した所へ。』は、クズ男にひっぱられ惰性に流される恋愛なのか、主導権を握り幸せに生きる道に導くのか、そんな瀬戸際に立たされた、4人の女性たちの物語でした。
異性への好みは十人十色で、幸せなのかどうかの尺度も違いますが、もしクズ男で悩んでいる女性がいたら、励まされる映画です。
また、大なり小なり男性には、ダメンズ4人の特徴を兼ね備えているものです。自分が好きになった相手を、“クズ”と呼ぶのかそうでないのか、女の腕にかかってるそんな意気込みを感じました。
なお、クズ男を演じた4人の俳優は皆、演じた男に共感できないとインタビューで答えつつ、そこが“愛すべき面”であると分析し語っています。
おそらくクズ男に沼ってしまう女性は、男性の“愛すべき面”がフェチなのだろうと想像でき、それを超越した時、幸せな所へ行くのだと実感させられる映画でした。