なぜ、めぐり逢うのか。いつ、めぐり逢うのか。
逢うべき糸に出逢えることを、人は仕合わせと呼びます。
中島みゆきのヒット曲「糸」が、菅田将暉と小松菜奈のW主演で実写映画化となりました。
糸を人に見立て、出逢いの奇跡と絆の深さを歌った名曲「糸」。これまでにも120組を超えるミュージシャンがカバーをしているという、日本の代表曲でもあります。
映画『糸』は、平成元年生まれの男女が13歳で出逢って恋に落ち、それから18年間、元号が令和へと変わるまで、互いに歩んで来た道、そして人生の様々な出逢いを経て再会するまでを描き出した、壮大なラブストーリーとなっています。
時には切れたり、誰かと繋がったり、2人の糸は再び縫い合わさることがあるのでしょうか。映画『糸』を紹介します。
映画『糸』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本)
【監督】
瀬々敬久
【キャスト】
菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、山口紗弥加、成田凌、斎藤工、榮倉奈々、石崎ひゅーい、片寄涼太
【作品概要】
1998年(平成10年)リリース、中島みゆきの名曲「糸」をモチーフに、2人の男女の18年間を描き出したラブストーリー映画『糸』。
主役の男女を演じるのは、人気も実力も兼ね備えたトップ俳優、菅田将暉と小松菜奈。W主演を務めます。
脇を固めるのは、成田凌、斎藤工、榮倉奈々、二階堂ふみなど主役級の俳優たち。また、倍賞美津子、松重豊、田中美佐子などベテラン俳優も揃い、豪華キャスト集結となっています。
監督は、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『64-ロクヨン-』『楽園』と話題作を手掛け、『護られなかった者たちへ』の上映も待たれる、瀬々敬久監督。
脚本は、『永遠の0』『空飛ぶタイヤ』と人気小説の映画化に携わり、日本アカデミー賞脚本賞を受賞している林民夫。また、数々のヒット曲を生み出してきた音楽プロデューサー・亀田誠治が劇中歌を担当しています。
映画『糸』のあらすじとネタバレ
「新しい元号は、平成であります」。日本の元号が昭和から平成に変わる年、高橋漣は北海道に生まれました。
それから13年後。平成13年の夏、漣は同い年の園田葵と出会います。「大丈夫?」。漣が葵にかけた初めての言葉です。
花火大会が行われたその日、自転車でころんだ漣に、葵は絆創膏を差し出します。漣は自分のケガのことより、葵の腕に巻かれた包帯を見て「大丈夫?」と聞きました。
漣は葵に一目ぼれでした。葵もまた漣の優しさに心を開いていきます。「葵ちゃんが好きだ」。漣の真っ直ぐな告白に「嬉しい」と答える葵。
しかし、若い2人の恋にはあまりにも大きな問題が振りかかります。葵の家庭問題です。突然、姿を消した園田家。漣は、葵を探して札幌を訪ねます。
葵の父は亡くなり、男にだらしない母は、転がり込んできた若い男と暮らすようになります。その男は、葵に暴力を振るいました。それを止めもせず許す母。
それを聞いた漣は、葵の手をとり走り出します。「彼女は僕が守る」。漣と葵は、使われていないキャンプ場のロッジに身を寄せます。
幼い2人の逃避行は、ほんの一瞬で終わりました。翌朝、警察と親が捜索にきます。話も聞き入れられず、無理やり引き裂かれる2人。
彼女を守れなかった。その思いは、何年たっても漣の中に留まり続けるのでした。
平成20年、漣は地元のチーズ工房で働いていました。そんな漣の元に、中学からの友達・竹原から、結婚の報告が入ります。花嫁は、中学の頃、葵の友達だった弓です。懐かしい記憶が蘇ります。
翌年、竹原と弓の結婚式のため、東京へとやってきた漣。ウェディングパーティーには、葵も来ると聞いて慌てます。
パーティーに姿を見せた葵は、美しい女性へと成長していました。動揺を隠し、話しかける漣。21歳での再会です。
葵は、東京で大学に通っていました。ずっと地元で暮らしてきた漣は、どこか距離を感じます。
「あのミサンガ、実はずっと大切にしてたよ」。漣は、帰る葵を追いかけ2度目の告白をします。中学の時、葵が作ってくれたお弁当をしばっていた紐を、漣はミサンガにして大切にしていました。
その告白に、中学の頃のように嬉しそうに微笑む葵。しかし葵は、「漣君に会えて良かった」そう言い残し、迎えに来ていた高級車に乗り込みます。連れ去ったのは、金持ちの大人の男でした。
葵が水島大介に出会ったのは、キャバクラで働いていた頃でした。母の勝手で東京に上京した葵は、学費を稼ぐため夜の街で働き出します。
ファンドマネージャーで金回りの良い水島は、どこか自分と同じ境遇の葵を気にかけ、面倒をみるようになります。
「一緒に住もう」。水島の言葉に葵は、頷きます。そこには、確かに愛がありました。
ある日、水島が葵に金を残し失踪します。会社が多額の損失を出したのです。納得がいかない葵は、水島を追いかけ沖縄へと向かいます。
「今度は私があなたを支えるわ」。葵の言葉に「お前の居場所はここじゃない」と返す水島でしたが、ひと時の安堵が2人を包みます。
一方、東京で葵に振られた漣は、仕事にも集中できず、落ち込んでいました。漣を気にかけ声をかけたのは、チーズ工房の先輩・桐野香でした。
酒に付き合えと誘う香は、中学から付き合ってきた恋人と別れたばかりでした。めそめそする香に、どこか自分を重ねた漣は「昔のことだろ、しっかりしろ!」と自分の感情をむき出しに一緒に泣いてしまいます。
漣と香は、その後付き合うことに。
平成22年、漣と葵はそれぞれのパートナーと新しい道を歩もうとしていました。
葵はずっと会っていない母親のことで北海道の役場に呼び出されます。そこで、偶然にも漣と再会します。葵の事情を聞いた漣は、迷わず葵の母親の捜索に協力します。
葵の母の兄である伯父を訪ね、函館にやってきた2人は、母・真由美が死んだことを知ります。
悔しさと悲しさ、様々な感情が渦巻き逃げ出す葵。「謝って欲しいと思っていたけど、本当は一度でもいいから抱きしめて欲しかった」。
そっと寄り添い、葵を優しく抱きしめる漣。「ごめんね、あの時守れなかった」。「漣君といる時、一番楽しかった。産まれてきて良かったと思えた、ありがとう」。想いが溢れる2人。
でも、互いにとってその手は離さなければならないものでした。「俺はずっとあの町で普通に生きて行く」「じゃあ、私は世界中を飛び回ろうかな」。
もう振り向かない。前だけをみて進もう。遠く離れた空の下で、互いの幸せを祈ろう。
映画『糸』の感想と評価
中島みゆきの「糸」をモチーフに映画化された本作は、2人の男女の18年間のラブストーリーを通して、人の出逢いの奇跡と絆の深さを歌った曲の世界観をみごとに描き出しています。
また映画『糸』は、平成元年(1989年)から平成30年(2018年)、平成が終わり新元号「令和」になるまでの30年の歴史をたどる物語でもあります。
主人公の漣と葵は平成元年生まれの設定です。この役名は、平成の時代に多く付けられた名前のひとつだということです。
著しいIT進化、加速するグローバル化、相次ぐ自然災害、テロ。平成の30年間は、昭和に比べると約半分の期間にも関わらず、想像を超える出来事が重なった時代とも言えます。
当時流行した服装や物、人気の職業、そして新元号を迎える日本の様子など映像を通して懐かしく蘇ってくるようでした。
映画『糸』では、平成13年(2001年)、漣と葵が13歳の時、2人は出逢い恋に落ちます。世界ではアメリカ同時多発テロ事件が発生した年です。
漣と葵は、幼いながらも互いを大事に思い、真っ直ぐ愛を育みます。しかし、若い2人には好きだけでは乗り越えられない障害がありました。
離れ離れになった漣と葵。繋がれた初恋の細い糸は、あっけなく切られてしまいます。
それから18年間。遠く離れた空の下で、互いの存在を意識しながらも、それぞれの幸せを探しもがき続けます。
時には思いを断ち切り、他の誰かと繋がりその人を暖め傷をかばい合い、また迷い彷徨いながらも自分を奮い立たせ、再び糸を紡いでいく。
そうやって人は本当に大切なものに巡り合うのかもしれません。最後は強い絆の糸で結ばれた漣と葵。
漣と葵を演じた菅田将暉と小松菜奈の自然体の演技が、よりリアリティーを感じさせ、気付くと涙が流れていることがしばしありました。
また映画『糸』では、主人公の2人の人生を通して、2人と関わる登場人物たちの人生もまた丁寧に描かれています。演じた俳優さんたちの上手さに惹き込まれます。
漣の中学からの友人・竹原(成田凌)は、中学時代の恋を実らせ結婚しますが、即離婚してしまいます。その後、出逢った利子(二階堂ふみ)は岩手県出身の奥ゆかしいタイプの女性でした。
2011年の東日本大震災の際、実家に戻っていた利子は命は助かったものの、悲惨な現状を目の当りにし、その後もPTSDに苦しみます。
また、漣と結婚した香(榮倉奈々)は、腫瘍を患いながらも子供を産むことを選択します。最後まで優しく強く、漣の背中を押してくれます。香を亡くした漣の苦しみ、娘を失くした両親の悲しみに胸が痛みます。
そして、愛情をお金で表現することしか出来ない不器用な水島(斎藤工)。葵の人生に道を示し、チャンスを与えてくれる存在です。
それぞれの登場人物が繋がる糸の先にも注目です。運命の糸は時にほつれたり、切れることもあるかもしれません。それでも、生きていればまた何かに繋がる。そう教えてくれます。
まとめ
「縦の糸はあなた、横の糸は私。逢うべき糸に出逢えることを、人は仕合わせと呼びます」。中島みゆきの名曲「糸」をモチーフに、平成生まれの2人の男女のラブストーリーを描き出した映画『糸』を紹介しました。
物語の舞台は、北海道、東京、沖縄、シンガポールとグローバル化が進んだ平成の時代にふさわしい舞台となっています。壮大なスケールでおくる各地のロケーションも素敵です。
人生における糸は、短くなったり、長くなったり、細くなったり、太くなったり、脆くなったり、強くなったりと、相手や形を変えながらも、紡ぎ続けるものなのかもしれません。
まだ逢うべき人に出逢っていない人はもちろん、すでに大切な人と繋がっている人にも見て欲しい映画です。逢うべき糸に出逢える奇跡を感じて下さい。