映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』は、2019年6月28日(金)より全国ロードショー
山戸結希監督がジョージ朝倉の原作を映画化した『溺れるナイフ』(2016)に続いて、再び少女漫画作品を実写映画化!
累計販売数450万部を超える漫画家・相原実貴の伝説的少女漫画『ホットギミック』を山戸監督はどのように描いたのでしょうか!?
乃木坂46の堀未央奈が初主演を務めたことでも話題になった映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』をご紹介します。
映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』の作品情報
【公開】
2019年6月28日公開(日本映画)
【原作】
相原実貴『ホットギミック』(ベツコミ・フラワーコミックス)
【脚本・監督】
山戸結希
【キャスト】
堀未央奈、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗、桜田ひより、上村海成、吉川愛、志磨遼平、黒沢あすか、高橋和也、反町隆史、吉岡里帆
【作品概要】
累計発行部数450万部を突破した相原実貴原作の同名コミックを実写映画化。小松菜奈、菅田将暉を主演に迎え大ヒットした映画『溺れるナイフ』の監督、山戸結希が再び少女コミックを原作に、作家性豊かに描いた青春ストーリー。
ヒロインに抜擢されたのは、「乃木坂46」の堀未央奈。彼女と関わる3人の少年として亮輝を清水尋也、梓を板垣瑞生、凌を間宮祥太朗がそれぞれ演じている。また、撮影は『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)、『新聞記者』(2019)の今村圭佑が担当している。
映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』のあらすじとネタバレ
成田初は、優しい兄・凌、おしゃまで可愛らしい妹・茜と両親と共に、都内のマンションに暮らす平凡な高校二年生です。
ある日、茜に頼まれて妊娠検査薬を買ってきた初ですが、まだ茜は中学生なので、彼女の奔放ぶりが心配でなりません。
そんな姉に茜は「初ちゃんみたいないい子ちゃんには絶対わからないよ」と言い、初も「全然わからないよ!」と言い合います。その際、茜はカバンをぐるぐる振り回して妊娠検査薬を飛ばしてしまい、それを同じマンションに住む橘亮輝に拾われてしまいます。
幸い、茜は妊娠していないことが判明しますが、初は亮輝から親にバラされたくなければ俺の奴隷になれ、と言われ、亮輝の無茶な要求に振り回されることになります。
マンション内で亮輝と一緒にいた初の前に、幼馴染で小学校の時に転校した小田切梓が現れました。
初のことをバカだバカだ、何のために生まれてきたの?と責めたてる亮輝に「相変わらずいじめっ子やってるんだな」と梓が声をかけてきたのです。
梓は初の初恋の相手で、父親と暮らすためにまたこちらに戻ってきたのでした。高校のクラスも同じになり、初はときめきます。
梓は、今や雑誌の人気モデルとして一世を風靡していました。梓が初に話しかけるので、クラスの女子たちは嫉妬心を顕にします。
放課後、初が梓とマンションの近辺を歩いていると、亮輝が通りかかりました。
亮輝は2人を見やると初に荷物持ちを命じ、初は困ったようにそれに従いました。「ひどいよ、梓の前で。絶対変に思われたよ」と言う初に、亮輝は「お前みたいなやつを見ているとイライラしてくる。そーやって何の意思決定もせずに今までやってきたんだろ? お前の意思はどこにあるんだよ」と怒ったようにいいました。
電車を待つプラットホームで亮輝は初にキスを強要し、初が断ると「ご近所にやりまくりの女だって言いふらす」と脅しの言葉を吐きました。初はキスしようと、背の高い亮輝に向かって何度もジャンプしていると唇と唇が触れ合いました。
驚く初に亮輝は「大げさなんだよ。たかがキスなのに」と言い放ち、電車に乗り込みました。
初は亮輝と違い優しく接してくれる梓にどんどん惹かれていきました。ある日、初はマンション内で梓の父に出会います。彼は梓にパスポートを届けてやってくれないかなと初に頼み、彼女は快く引き受けました。
撮影中の梓を訪ねた初は、モデルの女の子たちに冷たい目で見られますが、梓は初を自分の彼女だと紹介します。
楽屋で梓と初はくちびるを交わします。自分に自信が持てない初が、私より可愛い子たちがいっぱい、と口走ると、梓は「彼女たちは自分の可愛さと価値をよくわかっているから変な振る舞いはしないよ。素人の女の子たちとは違って」と言い、「そんなことより、今度夜デートしようか」と囁きました。
着飾ってウキウキと出かけていった初を迎える梓。パーティー会場のVIPルームで、梓は初にアルコールをすすめました。
背伸びしてお酒を口にする初でしたが、急に眠気が襲ってきました。実は梓がグラスに薬を入れたのです。
梓が他の男たちと一緒に別の場所に初を連れて行こうとしているところをこの店でバイトしていた兄の凌が目撃し、あわてて初を家に戻らせました。
初が目を覚ますと、梓が電話を書けてきました。何も知らない初は、梓の甘い言葉にうっとりします。梓は「初の裸がみたいな」と囁き、初は言われた通りにしてみせます。
ところが朝目覚めると、兄が血相を変えて部屋に飛び込んできました。梓からお前の動画が送られてきたというのです。梓の裏切り行為と兄がそれを見たという事実が初を混乱させます。
梓は初の父親が自分の母親と不倫をし、そのことで家がめちゃくちゃになったのだと初の一家への憎悪をむき出しにします。彼は復讐しようとしていたのです。
梓のマネージャーが動画は自分が責任を持って全て始末すると伝えてきました。しかし初は動画のことよりも梓のことが気になるのでした。「わたし、梓の気持ち、何も気づいてなくてごめんね。幼馴染なのに」と詫びる初。
そばにいた亮輝は、「何を謝ってるんだ。ここは怒るところだろ?」と怒鳴ります。梓が立ち上がった瞬間、亮輝は彼女にキスします。初が非難すると「あいつと俺を一緒にするな!」と亮輝は手に持っていた梓が表紙に載った雑誌をずたずたに引き裂き始め、梓は逃げるようにその場を離れました。
そんな初を心配し、常に寄り添って見守ってくれていたのが凌でした。「もう自分の体、奪われるようなことしないでほしい」と兄が優しく言うと初は「奪われてたんだ、私」と呟きました。
マンションの外階段で初は亮輝とまたばったり出会います。「どうしたらバカじゃなくなるの?」と尋ねる初に「そんなこともわからないからバカなんだよ」と亮輝は応え、「面と向かってバカバカって、なんかうるさい!さすがに」と初は怒り出します。
「梓ごときに振り回されてるんじゃないよ」と言う亮輝に初が反論すると、亮輝は「お前、元気じゃん」と驚いたように言いました。
亮輝は明日、中央公園に来いよと言い、帰っていきました。翌日公園で落ち合ったふたりは、相変わらず言い争いますが、亮輝はテストの山を教えてくれるのでした。
そんな中、梓がいなくなってしまいました。心配したマネージャーが初に連絡してきたのです。
マネージャーと梓はただのタレントとマネージャーの関係ではなさそうでした。マネージャーは初に敵意を丸出しにし、初と兄の凌が実は血がつながっていないことを梓から聞いたと告げ、初を驚かせます。
梓に電話する初。「なんで電話してくるの?」と言う梓に「なんで出るの?」と初は答えます。
今どこにいるのかと尋ねると、初の後ろにいると梓は応えました。渋谷のビルの空き部屋で2人は再会しました。
彼の心はささくれだっていました。彼は、みんなが自分の器だけを欲しがっていることを自覚していました。近づいてくる女性は皆、下品に感じられるというのでした。
「私の初恋は消えちゃったんだね」と言いながら、初は梓に言います。「私、今、こんななのに、梓のことかっこいいと思ってるよ。最低だね。誰に言われなくても自分が一番わかってるよ」。
凌の心は初のことでいっぱいでした。彼はバイトに明け暮れていましたが、それは自立して家を出て行きたかったからです。初と同じ屋根の下にいると苦しくてたまらなかったのです。
2人が恋人同士になるということは彼の選択肢にはありませんでした。「初のこと、守りたいと思っているよ。いつまでもきれいでいてほしい」と、凌は友人に初への想いを語りました。
凌が家を出ていく日、初は彼とともにエレベーターに乗っていると、途中で止まってしまいました。体を寄せてくる初から体をずらし続けていた凌でしたが、直前に友人のすすめで初めて大麻を吸ったせいか、初にキスしてしまいます。
そんな折、梓の母親と不倫をした相手が、亮輝の父親であることが判明します。ショックを受けた亮輝は初のところにやってきて、「成田、家出しようぜ。あの家に帰りたくない」と告げます。
2人はラブホテルのベッドで激しく唇を重ねていました。亮輝は梓の母親の不倫相手が自分の父親だったことを初に話します。
「なぁ、関係ないだろ? 俺たちには、俺たちの関係には・・・」。
亮輝は泣き出しました。話をすれば言い合いになり、2人の心はすれ違います。初は亮輝を置き去りにして、ホテルを出ていってしまいました。
初がやってきたのは凌のアパートでした。「お兄ちゃん、私上手にできなくて、行くところなくなって。お兄ちゃんと一緒にいると落ち着くよ。お兄ちゃんもそうでしょ? もしわたしで足りるなら私を使って。お兄ちゃんのものにしちゃってください」。
映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』の感想と評価
山戸結希監督は、これまでのフィルモグラフィーで、自我を持て余す少女や才能のある少女たちをヒロインに迎え、「少女たちよ、世に出よ」と訴え続けてきました。
ヒロインの多くは田舎町に暮らしており、自身を持て余し、都会に出て表現したいと切に願う一方、恋愛や依存心を、夢と天秤にかけ、時に夢を諦めようとするなど、激しく揺れ動いていました。
山戸監督が企画したオムニバス映画『21世紀の女の子』(2019)で、山戸監督は、映画の最後を飾る「離れ離れの花々へ」という作品で、アジテーションとでも呼ぶべき方法を取り「女性たちよ、世に出よ!」と語りかけていました。
しかし、『ホットギミック ガールミーツボーイ』のヒロインである成田初は、とりわけ際立ったものを持ち合わせていないように見える平凡な女の子として描かれています。自分の可愛さや価値に気づいておらず、著しく自己評価の低いのが特徴といえるくらいです。
冒頭、どアップで捉えられる堀未央奈の顔つきは、覇気がなく、心ここにあらずといった表情で、スクリーンに提示されます。
堀未央奈は、映画が進むに連れ、驚くほど可愛らしく、あるいは驚くほどチャーミングな表情を見せていくのですが、ここではまず、驚くほどの凡庸さを示してみせるのです。
そう、これまでの山戸映画のヒロインが、どこか世の女の子の憧れのような(だからこそ孤立した)少女たちであったのに対して、本作ではまさに等身大の普通の女の子が主人公に選ばれているのです。
当然、世の中には、特別な才能を持ちスターになるべく生まれてきた女の子より、何の取り柄もないと自分で思っている女の子のほうが多くを占めているでしょう。
山戸監督はそんな“平凡で取り柄もない”と自分で思い込んでいる女の子のためにこの映画を撮ったのではないでしょうか。
『ホットギミック ガールミーツボーイ』には3人の漫画チックな(原作がコミックだけに)まったくタイプの違う男性が登場し、3人が全て初に好意を寄せています。
いわゆる“逆ハーレム状態”ですが、山戸監督は、このうちの2人、梓と兄の凌には、男性にみられる一種の典型的な“タイプ”を背負わせています。
甘い言葉で女の子をたぶらかし傷つける梓タイプと、少女の永遠性を願い守るべきものとして女の子に成長を求めない凌タイプといった具合に。彼らはその象徴として機能していて自らは成長しようとしません。
一人残った亮輝が一見、俺様タイプとして一番風変わりで滑稽に見えますが、彼に対して初は他のふたりには見せない自分を見せ、生き生きとさえしています。
原作がラブコメにもかかわらず、笑いどころはほとんどない本作ですが、中盤、公園での2人の会話の不思議な可笑しみは特筆に値するでしょう。
そのような流れから初が亮輝を選ぶことはある程度予期できるのですが、他の2人との対峙の中で、初が亮輝を見出し、自分自身の価値を知り、自分自身の体が自分自身のものだと悟り、ラベリングされたりしたりする世界から自由を獲得していく姿には清々しさと同時にメッセージ性の重さを感じさせるでしょう。
そして少女だけでなく、少年もまた新しい自分に気づき、自らをさらけ出すことになります。
そこに至るまでの言葉のバトルの激しさは、まさに山戸結希の真骨頂です。
目まぐるしく変わるカット割りが続くかと思えば、話者にいちいちカメラを振ってワンショットでとらえるプラットホームでの長回しが印象的な今村圭佑のカメラ。或いは、それぞれの人物の感情と寄り添うように、様々にアレンジを変えて流れる「エリーゼのために」や「カノン」などの音楽と共に、これでもかとエモーショナルでエネルギッシュに展開していく様は圧巻であり、それはまさに怒涛の映画体験と言っても過言ではありません。
まとめ
主演の堀未央奈は乃木坂46に所属するアイドルであり、それほど演技経験が多いとは思えないのですが、山戸監督に見出されただけあり、非常にナチュラルな振る舞いを見せ、非凡さを感じさせます。
また、彼女に関わる3人の男性、亮輝役の清水尋也、梓役の板垣瑞生、凌役の間宮祥太朗は、漫画チックなキャラクターに、リアルな生命を吹き込んでいます。とりわけ梓役の板垣瑞生の初を誘惑する甘いとろけるような声はこの作品の基調の一つを担っていると言えるでしょう。
彼女たちが住まう東京湾岸エリアは、開発ラッシュで、ビルの屋上にクレーンがいくつもそびえ立ち、それらは彼女と彼らの背景となって美しささえ感じさせます。
冒頭、初と妹の茜が工事現場の前を右から左へ横移動する引きのショットや、窓に特徴のある巨大集合マンションの威圧的な空間にも心躍らされます。
山戸監督は前作『溺れるナイフ』以上に作家性を発揮し、こちらの予想を超える遥かに完成度の高い作品を作り上げました。一体どこまで進化していくのか?!これからもずっとずっと山戸作品を追い続けることになりそうです。