Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ラブストーリー映画

Entry 2019/09/26
Update

映画『羊とオオカミの恋と殺人』感想とレビュー評価。福原遥と江口のりこの演技力が光る異色のラブストーリー

  • Writer :
  • 石井夏子

映画『羊とオオカミの恋と殺人』は2019年11月29日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

自殺願望を抱いた男の子と、殺人鬼の美少女のラブストーリー『羊とオオカミの恋と殺人』。

そう聞くと、ちょっとシリアスな作風を想像してしまいますが、本作は血液が大量に流れがちな、ポップで愛らしいラブストーリーです。

その愛らしさの秘密は、殺人鬼を演じた福原遥の魅力にありました。

本記事では2019年11月29日(金)より公開の映画『羊とオオカミの恋と殺人』の感想や見どころについてお伝えしていきます。

映画『羊とオオカミの恋と殺人』の作品情報

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

【日本公開】
2019年(日本映画)

【原作】
裸村『穴殺人』

【監督】
朝倉加葉子

【脚本】
髙橋泉

【キャスト】
杉野遥亮、福原遥、江野沢愛美、笠松将、清水尚弥、一ノ瀬ワタル、江口のりこ

【作品概要】
1,000万ダウンロードを突破している人気漫画アプリ『マンガボックス』で閲覧数1位を独走した裸村作の異色カップルが贈るスプラッター・ラブコメディコミック『穴殺人』が原作。

自殺志願の男の子の黒須役で『キセキ -あの日のソビト-』(2017)『L・DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』(2019)の杉野遥亮が映画初主演を果しました。

W主演として、『4月の君、スピカ。』(2019)やドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(2019)の福原遥が殺人鬼の美少女・宮市役を演じます。

監督は『クソすばらしいこの世界』(2013)や『女の子よ死体と踊れ』(2015)の朝倉加葉子です。

映画『羊とオオカミの恋と殺人』のあらすじ

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

大学受験に失敗し、予備校もやめてアパートでひきこもり生活を送る黒須(杉野遥亮)。

水道や電気、携帯までも料金未払いのため止められてしまい絶望した彼は、自ら命を絶とう決心し、壁に打ち付けてある棚にベルトをかけ、首に巻き付けます。

しかし壁は脆くも崩れ、計画は失敗。壁には小さな穴が開いてしまいました。

その穴から漏れる一筋の光に導かれ、黒須は穴に近づきます。

穴から見えたのは美しい隣人・宮市さん(福原遥)の部屋でした。

彼女の美しさに夢中になった黒須は、穴を覗くことを日課にし、生きる希望を見出していきます。

偶然アパートの前で宮市さんと会った黒須。彼の空腹な様子を見た宮市さんは、自室に招いて手料理をごちそうしてくれます。

その後も、毎日のように宮市さんの部屋でご飯をごちそうになる黒須でしたが、穴からの覗き行為は変わらず続けていました。

ある雨の日。今日も黒須は穴から宮市さんの部屋を覗いています。

レインコートを着た宮市さんが帰宅しました。後に続くのは見知らぬ男性。

宮市さんに恋人がいたのかと黒須がショックを受けているのも束の間、宮市さんは手にしたカッターナイフで男性の首を切り裂きます。

つい悲鳴を上げてしまった黒須。穴から覗かれていた事に気付いた宮市さんは、逃げる黒須を追いかけます。

ビルの屋上に追い詰められ、カッターナイフを突き付けられた黒須が放ったひと言で、ふたりの運命は激変していき…。

福原遥の静かなる狂気の美しさ

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

高くて丸みを帯びた声。抜けるように白い肌と大きな瞳と妖艶さを感じさせる唇。

本作は、女優・福原遥の魅力を余すことなく捉えています。

眉ひとつも動かさず正確な殺人マシーンとしてカッターを首筋に振りおろし、ターゲットを殺めたあとに満足げな微笑みを浮かべる宮市。

その無機質さと、その後に湧きでる笑顔のギャップはすさまじく、不思議なエロティシズムが溢れています。

この、独学で殺人方法を身に付けたという設定の宮市の動きは、アクションではなく振付として考えられたそう。

ダンサーであり振付師の青木尚哉に振付を依頼し、最小限の力で美しく見える殺し方が生まれました。

怪力のモンスターではなく、人体を知りつくしたスぺシャリストとして描かれる、新しい殺人鬼キャラクターとなっています。

呼吸を乱すことなく流れるように動く福原遥の身体能力と集中力に、黒須と同じく全ての観客が魅入ってしまうはず。

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

また、殺人後に彼女が作る料理はどれも美味しそうで、それを美味しそうに食べてくれるんです。

食事する芝居というのはとても難しいものです。箸を持つ、お椀を持つ、皿に手を添える、料理を口に運ぶ、相手役と話す。

同時に色々な動作をしながら会話を進めることは、普段無意識にしている行為のため、意識的に芝居として再現しようとすると不自然さが出てしまいがちです。

ですが、そこは長年NHKEテレの子ども向け料理番組で数多くの料理を作り、食べてきた“まいんちゃん”こと福原遥。

料理を盛りつける手つきや、料理を口に運ぶ仕草も現実味があり、所作も美しく、見ていて気持ちが良いんです。

江口のりこの飄々とした空気

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

福原遥が演じる宮市と対照的なキャラクターが、江口のりこの演じる玲奈です。

衣裳も、宮市が白を基調としたものが多いのに対して、玲奈は全身黒ずくめ。

そのスレンダーなスタイルと、切れ長の目で、黒須を圧倒します。

怖い印象になりそうな玲奈ですが、江口のりこの独特の間によって、シニカルなユーモアを持った人物として活写されました。

彼女が登場するシーンは緊張感が保たれつつ、おかしみが漂っていました。

表情は乏しいながらも、玲奈なりに黒須への眼差しが温かくなっていく微細な変化をお見逃しなく。

普遍的な恋愛映画

©2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 ©裸村/講談社

本作は普遍的な恋愛を描いています。

冒頭は、覗きをしている黒須の異常さに焦点を当てており、杉野遥亮の端正なビジュアルを持ってしても嫌悪感を抱くほどでした。

それが宮市の殺人者としての顔が現れたことで、異常に感じられなくなってしまうんです。

宮市の殺人を穴から覗くという倒錯的な行為すらも、ふたりの愛の儀式に見えてきます。

誰しも人に言えない秘密は抱えているもの。

また、どんなに愛する相手でも理解しがたい面は持っていて、どうわかり合えるか、何が許せないのかの線引きは本人次第です。

言うまでも無く本作で行われる覗きも殺人も犯罪行為ですが、違う考えを持った他者をどう受け入れるのかを考えさせてくれる作品になっています。

まとめ

参考映像:『羊とオオカミの恋と殺人』本予告

原作は8巻の単行本というボリュームがあり、内容もかなり成人向けで読者を選ぶ作品でした。

原作の核心部分は失わずに、ポップな恋愛映画に仕上げた朝倉加葉子監督の手腕は見事です。

宮市の心を表しているかの様な、ネクストブレイクアーティスト・ロイ-RöE-が手掛けた主題歌『癒えないキスをして*』も本作に彩りを添えています。

女性監督、女性キャスト、女性シンガーの力によって、本作は無二の輝きを放っていました

2019年11月29日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開される映画『羊とオオカミの恋と殺人』、ご期待下さい。


関連記事

ラブストーリー映画

映画『寝ても覚めても 』あらすじネタバレ。原作結末は意外なラスト⁈

恋愛映画『寝ても覚めても』は、9月1日(土)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開。 柴崎友香が野間文芸新人賞を受賞した同題小説を、濱口竜介監督が映画化。201 …

ラブストーリー映画

『わたし達はおとな』感想結末あらすじと解説評価。恋愛ドラマの若き男女の出会いとすれ違いをリアリティで描く

2人にとっての「おとな」とは何なのか? 映画『わたし達はおとな』は、「劇団た組」で注目を集める若き劇作家・演出家の加藤拓也の、オリジナル脚本による長編監督デビュー作となっています。 主演は、『菊とギロ …

ラブストーリー映画

『男と女(1966)』ネタバレあらすじ感想とラスト結末解説。フランス恋愛映画の名作にしてクロード・ルルーシュの大出世作

たちきれぬ過去の想いに濡れながら 愛を求める永遠のさすらい ………その姿は男と女 1966年に公開されたフランスの恋愛映画『男と女』。 「フランスの恋愛映画」と聞いて多くの映画ファンがその名を挙げるで …

ラブストーリー映画

映画『ディナー・イン・アメリカ』感想評価と考察解説。カイル・ガルナーがパンクバンドのボーカリストに扮して偏見をぶち壊す!

映画『ディナー・イン・アメリカ』は、2021年9月24日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次公開! 過保護な家庭に育った孤独な少女と、パンクバンドの覆面ボーカリストとして …

ラブストーリー映画

『もっと超越した所へ。』ネタバレ結末あらすじと感想評価。ラスト最後の30分に“どんでん返し的な恋の展開“が待ち受ける!

恋愛において同じ過ちを繰り返してしまう“あなた”に捧ぐ物語 今回ご紹介する映画『もっと超越した所へ。』は、劇作家の根本宗子が脚本・演出を手がけ2015年に舞台上演された同名作品を、『傷だらけの悪魔』( …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学