映画『エンジェル、見えない恋人』は、10月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
『神様メール』や『トト・ザ・ヒーロー』で知られるジャコ・ヴァン・ドルマル。
本作では彼が製作にあたり、ハリー・クレフェン監督の才能を解き放った珠玉のラブロマンスです。
目に見えない存在として生まれた“エンジェル”と盲目の少女“マドレーヌ”。切なくも愛おしい、ふたりの世界を映画ファンのあなたに綴ってくれています。
CONTENTS
映画『エンジェル、見えない恋人』の作品情報
【公開】
2018年(ベルギー映画)
【原題】
Mon Ange
【製作】
ジャコ・ヴァン・ドルマル、オリヴィエ・ローサン、ダニエル・マルケ
【脚本・監督】
ハリー・クレフェン
【キャスト】
フルール・ジフリエ、エリナ・レーヴェンソン、マヤ・ドリー、ハンナ・ブードロー、フランソワ・ヴァンサンテッリ
【作品概要】
目に見えない存在として生まれた青年エンジェルと盲目の少女マドレーヌの究極の愛を描いたラブロマンス映画。
製作を務めたのは『神様メール』や『トト・ザ・ヒーロー』といったユニークな作品で知られるジャコ・ヴァン・ドルマル。また演出を担当したのは俳優としてドルマル作品などに出演し、多くのテレビ作品を手がけるハリー・クレフェン監督。
映画『エンジェル、見えない恋人』のあらすじ
美しいルイーズの恋人は手品師。ふたりは舞台に立って、いつものようにマジックを観客に披露していた。
しかし、扉を使用したマジックを見せていた時、忽然と壇上からパートナーの恋人が謎の失踪をとげ、ルイーズは驚きと不安の底に突き落とされます。
その後、ルイーズは悲しみに打ちひしがれ、精神病院に収容されてしまいます。
施設に入居したルイーズは誰にも知られることなく、ある日、息子エンジェルを産みおとします。
エンジェルは驚くべき特性の持ち主で、誰の目にも彼の姿は見えませんでした。
母親になったルイーズは、エンジェルに自分の存在を決して明かしてはいけないと言い聞かせ、世間との接触を一切絶って息子を育てます。
そんなある日。エンジェルは、ふと施設の窓から近所の屋敷を覗き見ます。
初めて見た外の世界に生きる人の姿。彼はそこにいた1人の少女のことが気になります。
エンジェルは母親の目を盗み、勝手に施設を抜け出して近所の屋敷に向かいます。
木漏れ日のなか、庭にあったブランコを漕いでいたのは、盲目の少女マドレーヌでした。
「こんにちは、はじめまして」
「………ぼくのこと見えるの?」
「見えないけど、声と匂いがするから」
エンジェルの秘密を知ることがない盲目のマドレーヌと出会い、ふたりはたちまち恋に落ちます。
彼女は目が見えないので、正体を隠したまま愛し合うことができる。
かくれんぼをしたり、草の上で寝そべったり…。
そんなふたりは互いに愛し合いながら成長をしていきます。
しかし、ある日、視力を取り戻せるかもしれないとマドレーヌが告げたことで、ふたりだけの世界は一変する…。
映画『エンジェル、見えない恋人』の感想と評価
鬼才ジャコ・ヴァン・ドルマルが惚れ込んだ才能
参考作品:『神様メール』(2015)
本作品『エンジェル、見えない恋人』の製作を務めたのは、長編映画デビュー作品『トト・ザ・ヒーロー』(1991)や、2015年の近作『神様メール』といった、独自な世界観を持ったユニークな作風で知られるジャコ・ヴァン・ドルマル。
監督や製作者として活躍するジャコ・ヴァン・ドルマルは、1957年ベルギーに生まれます。
1991年に初の長編映画『トト・ザ・ヒーロー』で、第44回カンヌ国際映画祭にてカメラ・ドールを受賞、ヨーロッパ映画賞で主演男優賞・新人監督賞・脚本賞・撮影賞など数多くの賞に輝いたことで、一躍映画界にその名を広めました。
監督2作目の『八日目』(1996)ではエリートのサラリーマンであるリーとダウン症の青年ジョルジュとの交流を描き、実際にダウン症患者であるパスカル・デュケンヌとサラリーマン役のダニエル・オートゥイユに、第49回カンヌ国際映画祭男優賞を獲得させます。
その後2009年にジャレッド・レト、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガーなどの豪華キャストの『ミスター・ノーバディ』を監督。
2015年の『神様メール』には、『ココ・アヴァン・シャネル』のブノワ・ポールヴールド、『サンドラの週末』のピリ・グロイン。そして共演にカトリーヌ・ドヌーヴ、ヨランド・モローなどが出演し、ヨーロッパ各国でヒットを飛ばした作品を監督しています。
常にツウの映画ファンを個性的な表現方法で喜ばせるジャコ・ヴァン・ドルマルが、プロデューサーにまわり、自身の作品にも出演しているハリー・クレフェンに監督を託しました。
監督を務めたハリー・クレフェンに対して、ジャコ・ヴァン・ドルマルはこのように彼の天賦の才を賞しています。
「親しい友人でもあるハリー・クレフェンを、映画製作者として私は非常に高く評価をしています。彼のスタイル、彼が編み出す形式や文体のオリジナリティー、彼のカメラの表情が好きです。こんな独特の素晴らしいアプローチにはめったにお目にかかれません」
確かにジャコ・ヴァン・ドルマルが言うように、本作は映像文体は豊かなオリジナリティーに溢れた作風となっています。
どのような点がオリジナリティーな見どころなのか、紹介をしていきましょう。
透明な主人公エンジェルの視点で語る
邦題タイトル『エンジェル、見えない恋人』にあるように、この作品ではエンジェルのことを観客は目にすることはありません。
では、なぜ観客は彼がスクリーンに存在していると思い込むのでしょう。
例えば、映画のなかに“透明人間”や“幽霊”が出てくる作品を思い起こせば、何も映り込んでいないフレームの中で物が動いたり、気配の描写を思い出すことはできるでしょう。
しかし、本作が最もユニークなのはそれだけではありません。
多くの場面で透明で姿が見えないエンジェルの視点にキャメラが置かれ、彼の内側からストーリーが語られていくのです。
観客は彼と一体となって、登場人物の感情や希望や恐怖、喜びを感じていきます。
このことで、息をするのを忘れてしまうほどのエンジェルと緊張感を共有していくのです。
そう、盲目のマドレーヌと観客は疑似恋愛の本編79分間の恋に落ちます。
撮影に使用されたキャメラは長焦点レンズを使用し、被写界深度が浅くしたことで、マドレーヌを間近で見つめるかのごとく、瞳や唇、髪や肌をマジマジと見たような効果を表現しています。
しかも、マドレーヌは幼少期から大人へと成長していくことで、観客は3人の女性を恋に焦がれながらエンジェルの視点から窃視していきます。
少女時代をハンナ・ブードローが務め、10代の頃を2003年ベルギーに生まれたマヤ・ドリーが演じ、大人になったマドレーヌを1986年パリ生まれのフルール・ジフリエと。
彼女たち誰もが長編映画デビューや女優デビューということもあって、見知らぬ人物から見つめ返されように、マドレーヌの視線を感じさせることに成功しています。
エンジェルはマドレーヌとの恋を成就できるのかという問題は、内側からの視点を手にいれた観客にとっては、一般的な恋愛映画とは全く違った感情移入をしてしまうのです。
映画とは、ひと言で語ってしまえば、“窃視という誰かの人生を覗き見る行為”。その感情の代償を観客が引き受けることです。
本作品『エンジェル、見えない恋人』は、プロデューサーのジャコ・ヴァン・ドルマルが述べたように、これまでにはない、全くオリジナリティーな映画です。
映画館という暗がりのなか、マドレーヌとの恋に出かけてみませんか。
まとめ
シンプルな恋愛映画でありながら、かくも大胆な作品を完成させたハリー・クレフェン監督。
エンジェルの視点から描かれる特徴ばかりを述べてきましたが、では、この作品を観た女性の観客はどのような感想を持つのでしょう。
映画の多くの場面は終始、母親となっていくルイーズ役を演じたエリナ・レーヴェンソンや、3人のマドレーヌ役の女優から見つめられるわけですが、それだけに女心の喜びや豊かさ、また恐怖といった問題をしっかりと描いています。
性差の区別なく、この作品は多くの映画ファンを恋の虜にするはずです。
どこにもない唯一無二までに、美しい映像に満ち溢れた恋愛映画。
本作は劇場という暗がりの体験として観ないと、あなたの今年の映画鑑賞リストが少々残念なことになる、ベルギー生まれの秀作です。
映画『エンジェル、見えない恋人』は、10月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
ぜひ、恋する体験を劇場で…。