インドの差別社会に一石を投じる作品。
自分らしく生きるとは?
インドのムンバイを舞台に、メイドのラトナと主人のアシュヴィンの、身分違いの恋を描いたラブストーリー『あなたの名前を呼べたなら』。
監督は、これまで助監督や脚本家としてヨーロッパでも活躍する、ムンバイ出身のロヘナ・ゲラ監督です。
現代でもカースト制度が根深いインドの差別社会に、変革を起こしたいという熱い想いが込められています。
今作が長編デビュー作となり、2018年カンヌ国際映画祭批判家週間「GAN基金賞」を受賞しました。
誰もが夢を抱き、羽ばたくことが出来る。自分らしく生きる勇気を与えてくれる作品『あなたの名前を呼べたなら』を紹介します。
映画『あなたの名前を呼べたなら』の作品情報
【日本公開】
2019年(インド・フランス合作映画)
【監督】
ロヘナ・ゲラ
【キャスト】
ティロタマ・ショーム、ビベーク・ゴーンバル、ギータンジャリ・クルカルニ、ラウル・ボラ、ディビヤー・セート・シャー、チャンドラチュール・ラーイ、ディルナーズ・イーラーニー、バーギャシュリー・パンディト、アヌプリヤー・ゴーエンカー、アーカーシュ・シンハー、ラシ・マル
【作品概要】
インド社会に根深く残る差別問題を、ムンバイ出身の女性監督ロヘナ・ゲラが、メイドと主人のラブストーリーを通して、訴えかけます。
主人公ラトナを演じるのは、女優業の他にニューヨーク大学の演劇教育の修士号を取得し、貧困や暴力、セクシュアリティーなどの問題に取り組んできた経験を持つ、ティロタマ・ショーム。
身分違いの恋に悩みながらも、自分の夢を諦めず強く生きる女性を演じています。
また、ラトナの主人アシュヴィンを演じたのは、インド系シンガポール人のビベーク・ゴーンバル。
映画『あなたの名前を呼べたなら』のあらすじとネタバレ
インドのムンバイにある高級マンション。主人のアシュヴィンは、建設会社の御曹司で、明日には結婚式を控えていました。
ここで住込みで働くメイドのラトナは、その間、実家の農村へと里帰りをしていました。
ところが、急な呼び出しでマンションに帰ることになるラトナ。主人のアシュヴィンとサビナの結婚がキャンセルになったのです。原因は、サビナの浮気でした。
傷心のアシュヴィンは、食欲もなく疲れ果てているようでした。ラトナは、孤独なアシュヴィンにそっと寄り添うように、暖かい料理を作り、身の回りの世話をしていきます。
落ち込むアシュヴィンに、ラトナは自分の生い立ちを話します。少しでも元気付けたい一心でしたが、あくまでもメイドの立場はわきまえています。
ラトナは、結婚して4カ月で夫を病気で亡くし、未亡人となりました。子どももいないラトナは、メイドのお金で妹を学校へ通わせています。夢は、ファッションデザイナーになり、妹と一緒に洋服店を開くことです。
強く生きるラトナの姿に、アシュヴィンも次第に元気を取り戻していきます。
ある日、ラトナはファッションデザイナーへの一歩として、仕立ての勉強を受けたいとアシュヴィンに相談します。
主人が仕事で留守の間、数時間の勉強を、アシュヴィンは快く応援してくれました。
メイド仲間のラクシュミの協力で、生地や装飾品の買い出しに出かけるラトナは、希望に満ち溢れていました。心の充実はラトナを笑顔にし、アシュヴィンも嬉しそうです。
アシュヴィンにもまた夢がありました。兄が亡くなり家を継ぐことになったアシュヴィンは、アメリカから戻っていました。ライターとして活躍しながら小説を書いていたアシュヴィン。その夢は、諦めたままです。
「ラトナにはブレイヴがあるね」。アシュヴィンの言葉に意味が分からず曖昧に頷くラトナ。2人の関係は徐々に近づいていきます。
マンションにアシュヴィンの友達たちが遊びにやってきます。グラスを片付けようとしたラトナは、立ち上がった女性とぶつかり、ドレスに飲み物をこぼしてしまいます。
「どうしてくれるの?給料からドレス代を引くわよ」と怒る女性に、アシュヴィンはラトナをかばいます。
「メイドをかばうなんて変な奴」と、皆帰ってしまいました。インドに根付く階級制は、絶対なのでした。
洋服に見とれてブティックに入ったラトナは、店員に締め出されます。メイド仲間のラクシュミは、子どものしつけの件で雇い主に怒鳴られます。雇う者と雇われる者、決して交わることはないのです。
映画『あなたの名前を呼べたなら』の感想と評価
経済発展著しいインドであっても、カースト制度は、いまだに人々の暮らしに根深く残っています。
映画『あなたの名前を呼べたなら』は、そんなインドの差別社会に一石を投じる作品となっています。
主人公のラトナは、貧しい農村出身で未亡人、嫁ぎ先から食い扶持を減らすために使用人として出され、給料から仕送りを続けています。
現実のインド社会ならば、夢も自由もなく受け入れ過ごしていくばかりなのでしょう。
しかし、ラトナは自分をしっかり持った魅力的な女性です。夢を抱き、叶える手段を知っています。優しい人柄で、周りの仲間からも応援されます。
ラストシーンで、主人のアシュヴィンの名前を「旦那様」とは呼ばず、「アシュヴィン」と名前で呼んだラトナの笑顔には、これからのインドの未来への希望が現れていました。
また、主人のアシュヴィンも、アメリカで学び暮らした経験から、ひとりの人間としてラトナに接します。グローバル化で、少しづつ男性の意識も変わって来ているのかもしれません。
インドでは、映画祭での上映は行われたようですが、劇場での公開にはなっていないようです。多くの方がこの映画を観て、現状を考えるきっかけになることを願います。
「翼を広げて、踏み出そう、生きてみよう」と歌われる、インド映画ではお馴染み「踊るマハラジャ」要素もあり、メッセージのこもった曲が印象的です。
また、アートな一面でも楽しめる映画です。ムンバイの美しい街並みや、カラフルなサリーの衣装、フランス調の家具など、とてもオシャレで素敵な映像も見どころです。
まとめ
インドの厳しい身分制度の中、惹かれ合う主人と使用人のせつないラブストーリー『あなたの名前を呼べたなら』を紹介しました。
「ご主人様ではなく、自分の名前を呼んで欲しい」。「あなたの名前を呼べたなら」。対等の立場で一緒に歩んで行きたい。
主人の名前を呼ぶことも許されない、インドの根深く残るカースト制度の中で、2人の恋は最大のタブーでした。
好きな人を名前で呼ぶという当たり前の事が、当たり前じゃない社会があるという現実を知るべきです。