映画『アバウト・レイ 16歳の決断』は、2018年2月3日(土)より、全国順次公開中です。
エル・ファニングが16歳のトランスジェンダーの少年役に挑み、ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドンと共演を果たした、LGBT映画としても知られる『アバウト・レイ16歳の決断』をご紹介します。
1.映画『アバウト・レイ 16歳の決断』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【原題】
3 Generations
【監督】
ゲイビー・デラル
【キャスト】
エル・ファニング、ナオミ・ワッツ、スーザン・サランドン、テイト・ドノヴァン、リンダ・エモンド、サム・トラメル
【作品概要】
トランスジェンダーの主人公をエル・ファニング、その母にナオミ・ワッツ、祖母にスーザン・サランドンが扮し、家族間の絆や葛藤を描いたヒューマンドラマ。
『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)のマーク・タートルトーブ、ピーター・サラフがプロデューサーに名を連ねている。
2.映画『アバウト・レイ 16歳の決断』のあらすじ
「誕生日の願い事はいつも一緒だ。男になれますように。」
身体の性別と心の性別が一致しないトランスジェンダーである16歳のレイは、身体も心も男性として生きていきたいという決意をします。
その日、レイは、母と祖母のドリー、祖母のパートナー・フランセスと一緒に医師の説明を受けていました。
「ようやくここまで来ましたね」と医師は言うと、ホルモン治療について具体的な話しを始めました。
治療には同意書が必要と、医師は母親に書類を手渡します。
「なぜレズビアンじゃだめなの?」と祖母のドリーはマギーに尋ねます。
「なぜ、手術を急ぐの?」ドリー自身は、レズビアンで同性婚をしています。
女性の地位向上の運動もしてきました。なのに孫娘が男になるだなんて…。
彼女はレズビアンとドランスジェンダーの違いが今ひとつ理解できないのです。
「転校するまで6ヶ月はホルモン治療する必要があるの」と答えるマギー。
レイとはもう長い間話し合ってきたことなので、母の発する言葉は、マギーをいちいちいらだたせます。
マギーは、イラストの仕事をしながら、レイを育ててきました。母親と同居しているのですが、ドリーからは「そろそろいい頃よ。
自立なさい」と言われており、いらいらはつのるばかり。
一歩、一歩“本当の自分”に近づくため、レイは毎日トレーニングに励んでいます。2週間で2キロ以上体重が増えました。
高架下でスケボーをしながら友人たちとくつろいでいたレイは、気になる女の子に目をやります
。彼女が僕の恋人になればいいのに…。
ある日、レイが歩いていると、若い男が近づいてきました。
「男か女かはっきりしろ!」と男は怒鳴り、もみ合いになったあげく、レイは目元を殴られます。
目の周りを腫らして帰ってきたレイを見て、家族は大騒ぎ。
牛肉をあてるのがいいのですが、生憎、牛肉はなく、マギーは冷蔵庫から七面鳥の肉を取り出して、レイの目にあてました。
その光景を見て、ドリーとフランセスは思わず吹き出してしまいます。
翌日、学校に行くと、レイの意中の少女が声をかけてきました、「喧嘩したんだって? 女を殴るなんてサイテー」。
彼女の言葉が心に突き刺さりました。
同意書は父親のサインも必要なため、マギーは、もう長い間会っていない別れた夫クレイグのところに車を走らせます。
マギーを迎えたのは、赤ちゃんを抱いたクレイグの新しい妻シンダでした。
クレイグは再婚して3人の子どものパパになっていました。
いきなりの話にクレイグは戸惑い、「あまりにも事が大きすぎる!」とサインをしようとしません。
「これまで会おうともしなかったくせに!」とマギーは喧嘩腰になり、二人は言い争ってしまうはめに。
そんな折、ドリーから「レイは公立学校に転校する。
その分浮いたお金を回せるから、アパートに移りなさい」と言われ、「こんな一大事な時に追い出そうというのね」とマギーは声を荒げます。
しかしその話しをレイにすると「僕は他で暮らしたい」と寧ろ喜びの声をあげました。
「ドレス姿を知っている人から離れたいんだ」そう言うと、レイは飛び跳ね、全身で喜びを表すのでした。
マギーは再びクレイグの家を訪ねますが、そこに彼の弟がいるのを見て、大慌てでシートを倒すと、彼に見られないように車を動かし、立ち去ろうとします。
しかし、弟は不思議な車の存在に(なにしろ運転手が乗っていない…ように見える)気付いて走ってきました。
彼の車にぶつかりながら逃げるマギー。
同意書には父親のサインも必要なのだけれど、クレイグがサインしようとしないとレイに伝えると、レイは苛立ち始めました。
そんなにあせらなくてもいいじゃないと説得しようとしますが、「このままの体で転校なんていやだ!」と彼は叫びました。
レイは髪をベリーショートにすると、母の作業場に置かれた同意書を持ち、父の居場所を調べて会いに行きました。
会うなり、レイは感情をぶつけてしまいます。しかし、シンダや、例の”腹違い“の妹や弟は彼をあたたかく迎えてくれました。
レイが学校に来ていないという連絡を受け、マギーは大慌て。クレイグから連絡が入り、彼のところにいるとわかり一安心するものの、ほっておくわけにはいきません。
車に乗り込むと、ドリーとフランセスも駆けつけて乗り込んできました。「結構よ」と断ったのですが…。
途中、ドリーがトイレに行きたいというのでガソリンスタンドに停まり、ドリーとフランセスが車を降りると、マギーは彼女たちを置き去りにして車を走らせました。
3.映画『アバウト・レイ 16歳の決断』の感想と評価
冒頭、レイはスケボーで街中を走ります。レイの目となったカメラがとらえるニューヨークの景色が実に美しく、またレイの足元に陣取るカメラが、進み行く道路の路面を映し出していくシーンは、詩的な味わいがあります。
身体も心も男性として生きていくと決意した16歳のレイを演じるのはエル・ファニング。
入念なリサーチをして役に臨んだとのこと。希望と不安に揺れ動く16歳のトランスジェンダーの心情を体当たり、かつ丁寧な演技で表現しています。
エル・ファニング以外のキャストを想像することは難しいと思うほど、レイというキャラクターを魅力的に輝かせています。
『3 Generation』という原題のとおり、本作は祖母、母、子どもという3つの世代を描く家族映画です。
母親のマギーは、常にいらいら、いらいらしています。
自身の母との間になにやら確執のようなものがあるようでもあり、その割には同居していて、母から自立を促されていたりします。
親と子は確たる自分を持っていて、自分の生き方を貫いているのに、自分は未だに親便りだし、レイのことも十分理解して、あの子が幸せになる道を支持するけれど、どこかまだ自分の理想を捨てきれないでいる…。
常にいらいらしたり、激しい口論をしてしまったり。下手すると鬱陶しいキャラクターになりかねませんが、ナオミ・ワッツがこの大人になりきれないキャラクターを生き生きと魅惑的に演じています。
彼女の気持ちに寄り添って映画を観る人も多いのではないでしょうか。
そして、時折、くすりと笑わせてくれるユーモラスなシーンがいいのです。
とりわけ、祖母の結婚相手、フランセスのとぼけたようなムードメーカー的な存在は観るものを和ませてくれます。
扮するのはリンダ・エモンド。サンドラ・ブロックとのコンビが秀逸です。
家族って何かとやっかいだけれど、家族だからこそ支え合える、そんな「家族賛歌」を押し付けがましくならずに描くセンスに、ゲイビー・デラル監督の力量を感じました。
そして、その家族がラスト、もっと大きな輪になっているのが、とても良いのです。
4.まとめ
マギーが、母親から独立を促されるシーンを見ていて、レナ・ダナムの『タイニー・ファニチャー』(2010)を思い出しました。
『タイニー・ファニチャー』の主人公は、大学を出たものの就職も決まっておらず、恋人とも別れてしまい、傷心のもと親元に転がり込みますが、すっかり子離れしている親から終始独立するようプレッシャーをかけられています。
子どもからすれば、少しくらい甘えさせてくれてもいいじゃないという気持ちでしょうが、親からすれば、娘の事情も理解できるので、本当なら甘やかしておきたいという気持ちもありつつ、でも、やはり、ちゃんと自立させるのが、親の務めだということなのだと思います。
優しさの中に厳しさあり、厳しさの中に優しさあり。アメリカの都会に生きる家族の家庭事情、子育て事情を垣間見た思いです。
余談ですが、冒頭のスケボーで街を進んでいくシーンでは、ビリー・ワイルダー監督の1950年公開作『サンセット大通り』や1951年の『地獄の英雄』の冒頭部分をちらっとだけですが連想してしまいました。
どちらの作品も、車が進む道路の路面を比較的長めに映し出していました。
スピード感のある映像は気持ちを高めてくれますし、映画の冒頭として実に魅惑的といえるでしょう。