映画『あつい胸さわぎ』は2023年1月27日(金)より新宿武蔵野館、イオンシネマほかにて全国ロードショー!
「若年乳がん」と「恋愛」をテーマに、揺れ動く母娘の切実な想いをユーモアを交えつつも繊細に描いた映画『あつい胸さわぎ』。
演劇ユニット「iaku」の横山拓也作・演出の舞台作品を、『恋とさよならとハワイ』で上海国際映画祭・アジア新人賞を受賞したまつむらしんご監督が映画化しました。
このたびの劇場公開を記念して、本作で主人公・千夏役を演じられた吉田美月喜さんにインタビュー。
撮影当時は“同い年”であった千夏から感じとったもの、本作へのご出演を通じて見つけられた、新たな“目指したい女優像”など、貴重なお話を伺いました。
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脚本から感じられた“あったかいもの”
──初めて映画『あつい胸さわぎ』に出会われた際の印象を、改めてお教えいただけますでしょうか。
吉田美月喜(以下、吉田):オーディションの前にこの映画の企画書、そして脚本の初稿を読ませていただいたんですが、企画書内には映画の中で千夏が直面することになる若年性乳がんについての説明も書かれていたこともあり、当初は重く、暗い内容の物語なのかなと感じていました。
ただ、企画書を読み終えた後に脚本を読み進めていったら、予想していた「重い」「暗い」といった雰囲気はあまり感じなくて、乳がんという病気のこと以上に、18歳という時期にとっての初恋の意味や、その時期特有の色々なワクワク感などが多く描かれていました。
「病気について描いた映画」というよりも、脚本からは「一人の少女のひと夏の物語」として、とてもあったかいものを感じられた。それにまずびっくりさせられたのをよく覚えています。
千夏の夏は、自分自身の夏でもあった
──企画書・脚本を読まれたのちに本作のオーディションへ臨まれた当初は、主人公・千夏という役をどう捉えられていたのでしょうか。また実際に撮影が進んでゆく中で、その役に対する認識に変化はあったのでしょうか。
吉田:もちろんオーディション前には私の中で「千夏はこんな子かな」と考えましたし、オーディション本番でも脚本の一部の場面を実際に演じましたが、まつむら監督はむしろ、私自身の人生のことをたくさん訊いてくださったんです。
今までどういう風に育ってきて、どんなことを経験して、今はどんな暮らしをしていて……と監督に自分のことを話していく中で、千夏に共感できるところ、千夏と自分自身との共通点がすごくあるなと改めて気づけたんです。そして、撮影に入った時にも「この映画の中の千夏って、私自身だな」と思い続けていました。
私も自分の母とすごく仲がいいんですが、結構ケンカもするんです。そんな母とのどこか「姉妹」にも感じられる関係性のおかげで、映画における千夏・昭子の母娘の関係性もイメージがしやすかったです。
また私自身、この映画の主演が決まるまで、正直意識して若年性乳がんについて考えたことがなかったので、千夏を演じるためにもAYA世代(*1)における乳がんを調べてみたんです。
吉田:ただ現在は情報社会なので、少しネットで調べただけでも様々な情報が一気に入り込んでくるし、しかも本当の情報なのかは注意深く調べないと分からない。そこに不安を抱く時があったんですが、それも千夏の不安の原因の一つであり「今の私と近い感情を、千夏も抱いたんだろう」と思えたことは、演じる上で大切にしていました。
何より、撮影当時の私は千夏と同い年の18歳で、映画の中で千夏が過ごした夏は、私自身の夏でもありました。
18歳になって、気持ちは少し大人になったような気がするけど、やっぱり家族など大人がいないと重要なことは決められなくて、結局は何もできない。そうしたもどかしさのようなもの、撮影当時の自分がリアルに感じていたものを、千夏に反映できていたらいいなと感じています。
*1:AYA世代……15歳以降の思春期から30歳代までの若年成人期にあたる世代。「Adolescent&Young Adult(思春期及び若年成人)」の頭文字に由来。
“関西のオカン”でいてくれた常盤貴子
──千夏の母・昭子を演じられた常盤貴子さんとの“母娘”という形でのご共演はいかがでしたでしょうか。
吉田:この映画で最初に撮影したのは、故障した洗濯機についての母娘のやりとりの場面だったんです。
それまでは常盤さんと深く関わる機会がなかったのもあってかなり緊張してしまっていたんですが、それでもすんなりと演じられたのは、常盤さんが「関西のオカン」の雰囲気を出してくれたおかげだと感じています。
実際にお話をしていても、常盤さんは本当にお母さんに感じられるようなフレンドリーさといいますか、千夏を演じる自分のそばにいてくれるパワーに満ち溢れていました。
それが映画でも演じられていた「関西のオカン」の昭子にも深くつながっていて、常盤さんが撮影全体を通じて「関西のオカン」でいてくれたのは本当に助けられました。
新たな目標は“安心してもらえる女優”
──まつむら監督曰く「女優の吉田美月喜の今しか撮れない瞬間を映した映画」という一面も持つ本作を最初にご覧になった際には、どのようなご感想を抱かれましたか。
吉田:常盤さんや前田敦子さん、奥平大兼くんや佐藤緋美さんなど、お芝居としても、映画の物語としても「千夏は、ものすごく周囲の人たちに支えられているな」とスクリーンで観た時に感じられたんです。
千夏が映画の中で多くのことに悩んで迷っていられるのも、ちゃんと周りの人たちが支えて、見離さないでいてくれるからなんだと思います。
また私は「主演キャスト」に対して「現場を引っぱり、現場の雰囲気を良くしようと努めてくれる、すごく頼れる存在」というイメージを持っていたんですけど、自分は本当に皆さんのお世話になりっぱなしでした。ただその無力さ、未熟さも、千夏にとってはプラスになれたのかなと完成した映画を観て思えたので、皆さんには感謝しかありません。
──本作では「周囲の人たちに支えられながら悩み、成長する少女」を演じられた吉田さんですが、今後ご活躍を続けられる中で、役として、女優として「誰かを支えられる人」になられるのだと感じています。
吉田:この映画での現場では撮影以外の時も含めて、常盤さんは本当のお母さんのように、前田さんは本当のお姉ちゃんのように接してくださって、その支えのおかげで千夏を最後まで演じ切ることができました。
その中で、安心してもらえる主演といいますか、「この人がいるから大丈夫だよね」と思ってもらえる女優になりたいというのが、自分の女優人生の新しい目標になったと感じています。
まだまだ未熟で、その目標にたどり着けるまでには時間がかかりそうですが、そのためにも今の仕事を続けていきたいと思います。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
ヘアメイク/横山藍(Ai Yokoyama)
スタイリスト/岡本純子(Junko Okamoto)
【衣装クレジット】
・ニット¥22,990
・スカート¥22,990/共にエレンディーク
・レースアップシューズ¥26,400/アデュー トリステス
吉田美月喜プロフィール
2003年3月10日生まれ、東京都出身。
近年の出演作品に、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』(2020)、『ドラゴン桜』(2021)、日本テレビ系『ZIP!』の番組内ドラマ『サヨウナラその前に』(2022)、映画『たぶん』(2020、監督:Yuki Saito)、『MIRRORLIAR FILMS』の一編『Petto』(2021、監督:枝優花)、主演映画『メイヘムガールズ』(2022、監督:藤田真一)、鴻上尚史作・演出舞台『エゴ・サーチ』(2022)など。
2023年には映画『パラダイス/半島』(監督:稲葉雄介)、主演映画『カムイのうた』(監督:菅原浩志)の公開が控える。また、2月25日放送開始予定の日本テレビドラマ『沼る。港区女子高生』に主要キャストで出演する。
映画『あつい胸さわぎ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
横山拓也
【監督】
まつむらしんご
【脚本】
髙橋泉
【主題歌】
Hana Hope
【キャスト】
吉田美月喜、常盤貴子、奥平大兼、前田敦子、三浦誠己、佐藤緋美、石原理衣
【作品概要】
演劇ユニット「iaku」の横山拓也作・演出の舞台作品を、『恋とさよならとハワイ』(2017)で上海国際映画祭・アジア新人賞を受賞したまつむらしんご監督が映画化。「若年乳がん」と「恋愛」をテーマに、揺れ動く母娘の切実な想いをユーモアを交えつつも繊細に描く。
主人公・千夏役を『メイヘムガールズ』(2022)の吉田美月喜が、千夏の母親・昭子を『だれかの木琴』(2016)の常盤貴子が演じるほか、『MOTHER マザー』(2020)の奥平大兼、『旅のおわり世界のはじまり』(2019)の前田敦子が出演している。
映画『あつい胸さわぎ』のあらすじ
港町の古い一軒家に暮らす武藤千夏(吉田美月喜)と母・昭子(常盤貴子)は、慎ましくも笑いの絶えない日々を過ごしていた。
小説家を目指し念願の芸大に合格した千夏は、授業で出された創作課題「初恋の思い出」の事で頭を悩ませている。千夏にとって初恋は、忘れられない一言のせいで苦い思い出になっていた。その言葉は今でも、千夏の胸に”しこり”のように残ったままだ。
だが、初恋の相手である川柳光輝(奥平大兼)と再会した千夏は、再び自分の胸が踊り出すのを感じ、その想いを小説に綴っていくことにする。
一方、母の昭子も、職場に赴任してきた木村 基春(三浦誠己)の不器用だけど屈託のない人柄に興味を惹かれはじめており、20年ぶりにやってきたトキメキを同僚の花内透子(前田敦子)にからかわれていた。
親子二人して恋がはじまる予感に浮き足立つ毎日。そんなある日、昭子は千夏の部屋で“乳がん検診の再検査”の通知を見つけてしまう。
娘の身を案じた昭子は本人以上にネガティブになっていく。だが千夏は光輝との距離が少しずつ縮まるのを感じ、それどころではない。「こんなに胸が高鳴っているのに、病気になんかなるわけない」と不安をごまかすように自分に言い聞かせる。
少しずつ親子の気持ちがすれ違い始めた矢先、医師から再検査の結果が告げられる。
“初恋の胸の高鳴り”は、いつしか“胸さわぎ”に変わっていった……。
ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。