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Entry 2023/12/23
Update

【野村宏伸インタビュー】『Threads of Blue』40年前に出会った恩師 森田芳光監督から渡された“映画のバトン”を若手ら映画人に紡ぐ

  • Writer :
  • 松野貴則

映画『Threads of Blue』は2023年9月に封切り後、2024年1月22日(月)より高円寺シアターバッカスにて劇場公開

薄暗いマンションで繰り広げられる不可解な人間模様と、得体の知れない大きな闇に立ち向かう女性の葛藤と戦いを描いたサイコスリラー映画『Threads of Blue』。

マドリード国際映画祭2019にて、山谷花純が最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した『フェイクプラスティックプラネット』(2020)で知られる宗野賢一監督による長編作品『Threads of Blue』は、2024年1月22日(月)より高円寺シアターバッカスにて劇場公開されます。


(C)松野貴則/Cinemarche

このたびの劇場公開を記念し、主人公の父親・浩介役を演じた俳優・野村宏伸さんにインタビューを敢行。

40年前に名匠・森田芳光監督と出会った頃に感じた想い、映画撮影の現場で知った俳優業の奥深さ、さらには俳優として生きていくための心構えなど、映画『Threads of Blue』での裏話から心の内となる貴重なお話をお伺いしました。

撮影現場に感じた“昔”と変わらぬもの


(C)2022 threads of blue 製作委員会

──映画『Threads of Blue』の劇場公開を迎えて、今、どのような心境なのでしょうか。

野村宏伸(以下、野村):2021年の夏に『Threads of Blue』の撮影をしたのですが、もうずいぶん昔のように感じます。あれは和歌山でのロケーション撮影でした。

主に使用するマンションの撮影場所の近くに仮宿舎となるホテルを借り、制作部さんにはレンタカーを1台用意していただきました。私の演じた浩介という役柄は心情に闇を抱えた人物です。そこで撮影のオフや空き時間には近隣の海辺をドライブして、心身をリフレッシュしながら撮影に臨んでいたのを覚えています。

その撮影を終えてから、数か月経った後に関係者試写会で初めて完成した『Threads of Blue』の全体像を拝見しました。鑑賞後は「こんな感じに仕上がったんだなぁ」と感慨深い気持ちになりました。

編集作業で各シークエンスをつないで、伴奏となる音楽が入る。そのほか様々なスタッフ陣の手が入って完成されたポストプロダクション作品を観るわけです。その時、「やっぱり映画はいいなぁ」とワクワクしますよね。ただ、その反面、いち俳優としては、まだまだ客観的には観られません。自分の演技に「あぁだったかな」「こうだったかな」と。まぁ、考え始めたらキリがないのです……(笑)。

──2024年はデビュー40周年になる野村さんにおいても、演じられた演技について、そのような心境を抱くのですか。

野村:そうですね。私の劇場デビュー作である、森田芳光監督の『メイン・テーマ』(1984)を今振り返ってみると、一人の観客として観ることができます。若いなりの、その時にしか出せない良さが出ているなぁと感じています。

もしかしたら、『Threads of Blue』もそういう作品になるんじゃないかという期待はありますね。10年後、20年後に改めて映画を見直したときに、その時にしかできない“今”の演技が生まれている予感はしています。

今回の宗野組はローバジェットということもあり、過密スケジュールの中でも、みんなで一つの目標に向かって必死に走り切った作品です。そういう“昔と変わらない熱量”のある撮影現場は、映画制作において大切だと思うし、改めて好きだなぁと感じましたね。

40年前に刻まれた“映画の本質”


(C)2022 threads of blue 製作委員会

──『Threads of Blue』では、重要な人物である浩介という役柄を演じられています。撮影当時はどのようなことを意識して臨まれましたか。

野村:今回に限らずですが、私は昔から、あまり分かりやすい表現や映画は好みではありません。かつての日本映画がそうだったように、余計な部分は省いて、想像の余白を観客に残している芸術的な作品が好きなんです。

小説家である村上春樹さんの書籍でもそうですよね。決して分かりやすい作品ではないけれど、心に残るでしょう。映画についても同じで、観客が一つ一つを噛み砕いて想像してみる。そこに芸術の面白さはあるという信念があり、本作で浩介役を演じるにあたってもそのことは意識しましたね。

つまり、『Threads of Blue』の前半と後半のシークエンスにおいて、人物像の演技を分かりやすく変えるようなことはしてはいません。観客のみなさんに物語を観ていく過程で、自然に想像してもらえるような演技に気を配りました。もちろん、映画制作の場合は物語の順番通りに撮影が進むことはないので、宗野賢一監督と相談しながら計画的に行い、一貫性の帳尻を合わせていくような細かい演技は必要でした。その点が苦労したところでもありつつ、映画で演じることの“演技の面白み”でもあると感じています。

──野村さんの佇まいや言葉から、映画や演技への愛が尽きないのが伝わってきますね。

野村:やっぱり、好きなんですよね、映画作り(笑)。私の場合はそこに魅了されて、この世界に入ってきました。デビュー作となった『メイン・テーマ』で、たいへんお世話になった森田芳光監督に刺激を受けて、この世界に入ったようなものです。

あの時の森田監督を中心とした森田組のキャスト陣、裏方であるスタッフ陣たちもみんな一丸となって、映画制作に携わっていく感覚が、ずっと忘れられないんです。あの時間があったことで、今でも俳優を続けられていますし、森田監督と過ごした体験があったからでしょうね。たぶん、テレビドラマの制作から入っていたら、もう続けていないかもしれない。

あの頃は映画業界もまだ潤っていた時代です。高価なフィルム撮影でありながら、「ダメなものはダメ」ってはっきり言ってくれたんです。そういう想いを皆で分かち合っていた時代。お金云々よりも、“良い映画を生み出したい”という情熱があった人たちに関われたので、その映画の素晴らしさが今でも心身に染みて分かっているのかもしれません。

俳優という生業の“奥深さ”


(C)松野貴則/Cinemarche

──森田芳光監督との出会いから始まり40年経ちますが、俳優として今でも変わらないところはありますか?

野村:それは、自分では分からないですね。見た目も声も変わってしまっています(笑)。たぶん、そういうことは、ずっと私のことを応援していただいているファンの皆さんにしか、分からないんじゃないかな。

ただ演技ということのみで言えば、若い頃に教えられて、ずっと大切にしているのは、“余計なことはやらない”ということ。映画で演じる時は、常にシンプルであることを意識してます。映画館の大きなスクリーンだと、ちょっとした手の動きや目線の動きで、役柄とは関係ない余計な意味を持たせてしまう。

これは“映画ならでは”なんじゃないかな。舞台鑑賞だと気にならないんだけど、“映画を観る”という行為ではそういう繊細な身体表現への気配りを大事にしています。

──舞台、映画、ドラマと様々なフィールドがあると思いますが、野村さんの中ではやはり映画が最も居心地の良い場所になるのでしょうか。

野村:いや、実はそんなことはないんです(笑)。今は舞台が楽しいんですよ。舞台で演技を始めたのは30代に入ってからです。これは遅めのスタートになると思います。映像(映画)から入ると、「舞台は怖い……」とか「台詞が入らない……」とか、そういう風に感じる俳優さんも実は多くて、私も最初は正直怖かったです。

それでも20代後半に差し掛かった時、この先50年の俳優人生を考えたら、舞台を避けては通れないだろうと考えた時期がありました。そこで思い切って、舞台という場所でも演じられる俳優たちの世界に飛び込みました。発声法としての声の出し方、生の舞台で演じる演技技術、モチベーションを維持する精神面も含めて様々な舞台俳優の基礎を学びましたね。

やはり舞台は舞台で大変なのですが、今ではその“生の緊張感”がたまらないんです。そういうことを得たことで、また映画の現場に行くと、すごく楽に演技に臨むことができるんです。結局、それぞれの現場で体験したことが、全て活きてくるのが俳優という仕事。映画で経験したことが舞台に、舞台で経験したことが映画へ。そんな俳優業の奥深さを今だに感じています。

次世代へ手渡したい“映画というバトン”


(C)松野貴則/Cinemarche

──ご自身の若い時と比べて、今の若い俳優たちのことをどのように見ているのでしょうか。

野村:私たちの若い時は、生意気な時期もありました(笑)。それはそれで必要な時間でしたね。当時は誰もが若いというだけで生意気だったし、それをしっかり叱ってくれる良い先輩たちも沢山いました。その点、今の若い方たちはみんな礼儀正しくて、すごいですよ。小さい頃からスマホなどで映像や写真を撮られ慣れているんだなと感じます。

今回『Threads of Blue』の主人公である縁を演じた佐藤玲さんは、舞台経験もしているし、肝が据わっていますよね。見た目では高校生くらいに感じてしまうのに、良い演技を魅せてくれました。それでも生き残っていくのが難しいのが、この俳優業という世界。

「皆、どんなふうに俳優として、これから生き残っていくのだろう」。そんな風に彼らの将来が心配になる反面、とても楽しみでもあるんです。

舞台稽古の現場では、若い子たちとも心の距離が近くなるので、自分の伝えられることは伝えるようにしています。私の経験や培ってきた何かを子供に授けるような感覚ですね。演出家があまり突っ込んで言わないことを教えていて、それは“技術というよりは心構え”に近いかもしれません。

──俳優として“生き残っていくための姿勢”ということでしょうか。

野村:そうですね。私は運が良いことに、時代の節目節目で代表作に恵まれてきました。そういう作品に出会わないと俳優として生き残るのは正直難しいです。20代、30代、40代に運命というか、“俳優として生き抜くご縁”ともいえるような出会いが、私にはその時々にありました。

これは「やりたい!」と手を挙げたから出来る訳ではないです。それは不意にお話が来るものです。私たちの仕事は“待ち”なんですよ結局。これがなぜ待てたのかと言えば、きっと私は楽観的だったんですかね(笑)。

「どうしよう……」と思うときもありましたけど、私は東京生まれで「俺が!俺が!」という必死なアピールのようなものはありませんでした。当時、地方から出てきた俳優たちは気張った感じがあったのですが、私には“何とかなるんじゃないか”という根拠のない心情だけがずっとあったんです。

もちろん、“人に恵まれている”というのもあります。結局、創造的なクリエーターたちの仕事はどれも同じなのだと思いますが、“仕事は人と人との繋がり”。どこかで悲観的になりすぎず、そのご縁を大切にしてきたことで、現在の俳優業に繋がっているのかもしれないと思ったりしています。

インタビュー・撮影/松野貴則

野村宏伸プロフィール

森田芳光監督作品『メイン・テーマ』(1984)にて、23000人の中からオーディションで選ばれ俳優デビュー。当時、角川映画のアイドルヒロイン絶頂期であった薬師丸ひろ子の相手役を演じる。

華々しい映画俳優としてキャリアをスタートさせると、角川春樹事務所の創立10周年記念作品となる映画『キャバレー』(1986)では、日本アカデミー賞新人賞を受賞。

1987年には『ラジオびんびん物語』でテレビドラマ初出演を果たし、脚光を浴びたことで若手俳優の中でも、ひと際目立つ存在感を放つ。1999年、33歳で映画、テレビドラマのみならず演劇への道を切り開き、初舞台の主演は高橋かおりと共演した『太陽と月に背いて』。現在は映像作品・舞台作品問わず、俳優として活躍している。

映画『Threads of Blue』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本】
宗野賢一

【キャスト】
佐藤玲、筒井真理子、野村宏伸、広山詞葉、荒田陽向、越村友一、佐渡山順久、市瀬由宇、桑原良二、村上泰児

【作品概要】
薄暗いマンションで繰り広げられる不可解な現象の数々。マンションの隣人、大切な家族、そして自分自身の存在すら確証が持てなくなる少女の葛藤と戦いを描いたサイコスリラー映画。

監督を務めるのは『フェイクプラスティックプラネット』(2020)がマドリード国際映画祭2019にて、最優秀外国語映画主演女優賞を山谷花純が受賞するという快挙を遂げた宗野賢一。

主人公・縁を若手俳優の中でも最注目される佐藤玲が演じるほか、父親・浩介を野村宏伸、母親・由美を筒井真理子が脇を固める。さらに、美しい隣人・百合子を広山詞葉が演じ、弟役にはNHK連続テレビ小説『おちょやん』にも出演した荒田陽向が演じる。業界内で高い演技力と評されるベテラン俳優、若手俳優たちが作品を彩る。

映画『Threads of Blue』のあらすじ


(C)2022threads of blue 製作委員会

とある薄暗いマンションの一室。謎の白髪の老婆は燃える車の絵を荒々しく描いています。

ちょうどその頃、山道での交通事故で両親と弟を失う悪夢から目を覚ます縁。

縁は不吉な予感に襲われ、数日後に控えた家族旅行を中止するように動き始めます。しかし、縁の想いとは裏腹に、父親の浩介は旅行に行く準備を着々と進めていってしまうのでした。

そんな中、同じマンションの隣人・百合子は縁を自宅へ誘い込み、あの悪夢は過去に起こった出来事であると告げます。

混乱する縁は、マンションに潜む大きな闇を暴いていこうとするのですが……。




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