映画『たいせつなひと(仮)』は2023年10月7日(土)より高円寺シアターバッカスで限定公開!
レンタル彼女を題材に人々の心の交流を描く『たいせつなひと(仮)』が2023年10月7日(土)より高円寺シアターバッカスにて限定公開されます。
本作は中村公彦監督にとって映画『スモーキング・エイリアンズ』から5年ぶりの長編作品。今回の特集上映では本作の他、短編作品2本が初公開となります。また企画・プロデューサーを務めたオムニバス映画『おっさんずぶるーす』7本セット版も東京では初公開となるため、注目を集めています。
今回は特集上映が決まったことを記念して、中村公彦監督にインタビューを行いました。
最新作『たいせつなひと(仮)』を制作することに至った経緯や自身の中にある映画制作への原動力など貴重な話を聞かせて頂きました。
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制限の中でも生まれる“温もり”
──本作『たいせつなひと(仮)』では「レンタル彼女」を題材にされていますが、人をレンタルとして借りることを映画のテーマとして扱おうと選んだ経緯を教えてください。
中村公彦(以下、中村):昔はレンタルをするなら、DVDやCDなど“モノ”が当たり前でした。それが今や“人”をレンタルする時代になっている。そして、ドラマや映画でもそういった題材の作品が増えています。各メディアや映像作品で目にする機会が増えたこともあり、私自身、“人をレンタルする”ということに興味を持ちました。
そこから人のレンタルサービスをしている業者のホームページを探して読み込みながら、いろいろと調べていく中で現代社会の人間関係の新しい形が生まれつつあるのを目の当たりにして、次第に映画化する着想を固めていきました。そして、今回主演をして頂いた吉原麻貴さんと企画について話している時に「レンタル彼女」というキーワードが結びついて制作するに至ります。
私が常に映画で描きたいのは、“人”について。その時代、時代の人々の新しい関係性を映画として描きたいというのが根底にあります。
──作品の方向性やテーマはどのように掘り下げていかれたのでしょうか。
中村:現代は広く浅く人間関係が消費される時代になっています。それはSNSを見ていても分かるように現代の特徴の一つと言えるでしょう。今回のレンタル彼女というサービスも調べていくうちに、消費者のニーズに応じて本当に様々な利用の仕方があることを知りました。
私は昭和、平成、令和と生きてきた人間です。特に昭和、平成を長く生きてきた私からすれば、今まさに人と人の新しい関わり方が生まれつつあると感じています。その一つの要素として「制限」があるのではないでしょうか。
レンタルサービスではお客さんが過度に踏み込んではいけない規約や制限時間があります。そんな縛りのある人間関係の中でも、人はきっと優しさを持ってしまうのではないか。この仮説がテーマの一つになっています。
人が人を借りることは全く関係性の無かった点と点が繋がること。そういう点と点でしかなかった制限のある人間関係の中でも生まれてしまう、本質的な人々の温もりを描いてみたい。そんな衝動に駆られてこの映画を制作しました。
“音楽と演技”が脚本を超えた映画を生み出す
──制限の中にある人々の温もりと孤独を描いた作品でありながら、全体的な雰囲気はポップで登場人物たちの可愛らしさがとても印象的でした。
中村:そうですね。そこは当初から意識していました。まず、このひとつ前に撮影して、まだ公開されていない作品があるのですが、それが主にマンションの中で繰り広げられる物語でした。若干の閉塞感があったので、その反動から今回は外の街の喧騒とそこで楽しそうに語り合う人々を映し取りたいと考えていたのです。
本作に限らず、私が映画を制作する時に意識しているのは、以前の作品とは違うものを生み出すということ。似たような作品は極力作らないようにしています。
今回はクリスマスシーズンの夜の街のイルミネーションを活かして撮影をしました。そういった環境の影響も相まって、映画全体が明るい印象になったのかもしれません。
──本作『たいせつなひと(仮)』は、中村公彦監督ご自身が当初から想像していた通りの雰囲気に描けたのですね。
中村:はい。ただ、嬉しい誤算もありました。それが俳優さんたちの演技と音楽です。
『たいせつなひと(仮)』では、キャスト陣のアドリブを随所に散りばめています。レンタル彼女とお客さんの生々しい会話が、役を超えて本物になる瞬間を映像に収めるよう撮影段階では意識していました。
例えば、主演の吉原麻貴さんと親友役の久藤さゆさんは実際の幼馴染であり親友です。彼女たちが楽しそうにアドリブで会話する空気感を実際に使わせていただきました。そんな俳優さんたちの息の合い方も作品全体に明るい雰囲気をもたらしています。
音楽に関しては、私が信頼を寄せている音楽プロデューサーの堀正明さんのアイデアを盛り込んでいます。音楽がまだない段階の編集を堀さんにお見せした時、ラグタイムミュージックがハマるのではないかというご意見を頂きました。
全くの想定外でイメージが湧かない部分もありましたが、過去何本もご一緒している堀さんのご意見だったので、可能性に賭けてみました。結果的に、映画全体の優しさ、明るさが音楽の力で効果的に強調されており、これも嬉しい驚きでした。
コロナ禍を超えて生まれた“特集上映”
──今回の劇場公開では、中村監督の特集上映もひとつの目玉になっています、それについてもお聞かせください。
中村:今回の特集上映は2020年以降に制作した作品たちです。つまり、コロナ禍で撮影が止まったり、何とか合間を縫って少しずつ制作を続けてきたりした映画ばかり。
その中で『たいせつなひと(仮)』(2023)『酔者の贈り物』(2022)『カリスマハウス 完全版』(2020)とオムニバス映画『おっさんずぶるーす』(2020)を上映していただけることになりました。コロナ禍で苦労しながらも様々な形で映画制作を続けてきたからこそ、『たいせつなひと(仮)』につながっています。
中村:例えば、『たいせつなひと(仮)』に出演した吉原麻貴さんと藤井太一さんはオムニバス映画『おっさんずぶるーす』で他の監督の作品での演技が印象的で、今回ご一緒したいと思いました。
林和哉さんと川連廣明さんは私の作品『カリスマハウス』でも主要な役を演じており、脚本を作る段階から構想していました。今回の特集上映は、他の作品で見せる俳優たちの演技とキャラクター性の違いに注目してみても面白いと思います。
またこれは全くの偶然なのですが、2020年以降の作品を並べてみたら、男性と女性が主人公の作品が半々でした。女性が主人公なのが『たいせつなひと(仮)』『酔者の贈り物』、男性が主人公なのが『カリスマハウス 完全版』『シネマコンプレックス』(現在公開中のオムニバス『THEATERS』収録作品)です。
常々、男性と女性の両方を描きたいと思っているので、ぜひ一通り見比べていただけると嬉しいです。
年齢的に始まりが遅い“映画の監督稼業”
──コロナ禍の厳しい状況でも映画を制作されている中村監督。その原動力はどこから来るのでしょうか。
中村:正直、年齢的な要素は大きいです。私が映画監督として活動し始めたのは40代を迎えてから。周りと比べても、遅いスタートでした。そういう意味では映画監督として生き急いでいるところはあります。
意識的に映画を制作していかないと人生が終わってしまう。そんな想いは頭の片隅に常にあります。いきなり作れなくなるかもしれないという不安を感じることもあるので、だからこそ映画を生み出せるチャンスがある時は、しっかり掴んでいく意識を持ち続けています。
──本日、いろいろなお話を興味深く伺って、中村監督の中から今後どんな作品が生まれてくるのか、とても楽しみになりました。
中村:まだまだ世に出していない企画やアイデアが沢山あるんですよ。もちろん、次回作の構想もあります。
ここ7年くらいは比較的自分と年齢の近い40代~50代の物語を生み出してきました。大人に共感してもらえる映画作品を撮り続けたいという意欲はありつつ、一方で、10代20代の若い人たちを中心にした映画も久々に作ってみたいですね。
型にはまったような人間の描き方ではなく、私なりの視点と切り口を持った、現代における“新しい人間関係のあり方”を描いた映画を作っていきたいと考えています。
インタビュー・撮影/松野貴則
中村公彦プロフィール
青森県生まれ。1年間の会社員生活を経験した後、日本映画大学映像学科に入学。1998年よりサーモン鮭山という芸名で俳優活動をスタート。
40代を迎え初の長編作品を制作し、それ以降、精力的に映画制作を続けている。
映画『たいせつなひと(仮)』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【脚本・監督】
中村公彦
【キャスト】
吉原麻貴、森田このみ、藤井太一、川連廣明、林和哉、山本宗介、久藤さゆ、髙村康一郎、若狭ひろみ、山下ケイジ、池内祥人、鈴木まゆ、豊田崇史
【作品概要】
映画『スモーキング・エイリアンズ』から5年ぶりの長編作品。レンタル彼女の仕事をしている片岡悠里と客たちとの交流を新しい切り口で描いた作品です。
『おっさんずぶるーす』出演キャストを中心に新たな顔ぶれも加わり、中村公彦監督作品のこれまでの流れと新しさの両方を感じさせてくれる映画になっています。
映画『たいせつなひと(仮)』のあらすじ
レンタル彼女として働いている片岡悠里。それぞれ個人的な悩みを抱える客たちに喜ばれることで、仕事のやりがいを見出し始める。
しかし、悠里自身も孤独と葛藤を抱えていた。
あるトラブルに遭遇し、自身の問題も明るみになってしまい……。