映画『ソワレ』は2020年8月28日(金)よりテアトル新宿ほかにて全国ロードショー公開!
映画『ソワレ』は和歌山県を舞台に、暗い過去を持つ若い女性・山下タカラが、ある罪を犯したことで偶然出会った俳優志望の青年・翔太と逃避行へと走る物語です。追われる身となりながらも、二人が共に同じ時間を過ごすことで、次第に生きる意味を見出していきます。
山下タカラ役には、オーディションを経て新進女優の芋生悠が抜擢。今回は芋生さんに役への意気込みや思い、今後女優として演じてみたい役などについて語っていただきました。
役に「入り込む」のではなく「寄り添いたい」
──芋生さんはオーディションを経て山下タカラ役に抜擢されましたが、ご出演が決まった際の気持ちをお聞かせください。
芋生悠(以下、芋生):オーディションでは、実際に村上さんとお芝居をすることができたのですが、とにかく「楽しい」と感じました。短いお芝居でしたが、絶対に村上さんに嘘をつきたくないと思ったので、嘘のない素直に出た言葉で話をしました。オーディションを終えて帰宅してからも、受かるか受からないかと考えるよりも、楽しかったという気持ちのほうが大きかったのです。
受かったと聞いた時は「やるしかない!」と思いましたし、オーディションの時に感じた楽しいという気持ちは、この役を演じることが必然だったのではと感じさせるものでした。
──芋生さんが演じた山下タカラは暗い過去を持ち、いろいろなことを我慢してきた女性です。彼女を演じるにあたって意識されたことはありますか?
芋生:演じるにあたり、役に飲み込まれてしまう危険性があると思っていました。脚本を読みながら、役とどう向き合っていくかと考えた時「タカラのそばに寄り添っていたい」「一番近い存在でありたい」と思うようになりました。
タカラは、つらいことがたくさんあって、トラウマを抱えてすべてを諦めたような孤独な女性です。でもそんな中でも絶対に守り続けているきれいな心や小さな光を持っていると思ったので、そんなタカラと一緒に歩んでいく感覚で演じようと決めました。
役とプライベートの境界線を保つ
──タカラを演じるにあたって、外山監督からのアドバイスなどはありましたか?
芋生:外山監督からは、アドバイスや細かい指示は特にありませんでした。でも監督自身の中に、常に翔太とタカラがいるような感じだったんです。監督は、本当に全身全霊でそこにいてくださって、二人と心中するくらいの気持ちでいくとおっしゃっていました。監督の存在自体が道しるべになりましたし、「ついていけば絶対に迷わない」という信頼がありましたから、あとは勝手に走り出したという感じです。
──本作は同じく主演を務めた村上虹郎さんと芋生さんの二人芝居を中心に物語が描かれていきますが、村上さんとは現場でどのようなやりとりをされましたか?
芋生:現場で村上さんとは、お芝居をする時になってようやく目が合って会話をするという感じでした。絶対的に「翔太」でいてくれるという安心感と、村上さんご自身にものすごい責任感や優しさ、愛みたいなものがありました。また一緒にお芝居をしていると、村上さんは本当にいろいろなものを見ている人で、それはまるで宇宙から見ているんじゃないかと思ってしまうほどで「どこまで視野が広いんだろう」と感じられました。同年代の役者というより何歳も年上のような感覚といいますか、圧倒的な存在感がありました。
──作中では走る場面が多く、とても大変そうに見えました。撮影中一番苦労されたことは何でしょうか?
芋生:撮影のために1ヶ月ほど和歌山県に滞在したので、「芋生悠」と「山下タカラ」の切り替えが大変でした。「心をきちんと保たなければ、タカラを壊してしまうのではないか」と思ったからです。しかも切り替えるきっかけがなく、走り続けるしかなかったので、当初は「この先大丈夫かな」と思ったりしました。「今悲しいのはどっち?」という感覚に陥ったこともあります。
そんな調子で現場を続けられなくなったらおしまいだと思ったので、うまくバランスをとるために、ふっと力をぬく時間を作ったりしました。それに監督や村上さん、そしてプロデューサーの豊原さんと小泉さんがいたから、乗り切ることができたのだと思います。
「強い女性」をまた演じてみたい
──舞台となった和歌山県の印象はいかがでしたか?
芋生:今回の撮影で初めて和歌山を訪れたので、『ソワレ』の印象で全部が見えてしまいます。作品の中で、私たちは逃げることで追い詰められていくのですが、和歌山の自然は力強く、海や木の美しい風景が映画で描かれています。演じることに一生懸命で自然の美しさをしっかり見ていなかったのですが、断片的に森の中のふわーっとした感じや、海の風景が記憶に残っています。本当にいいところだと思いました。
──今後、どのような役に挑戦していきたいですか?
芋生:人を笑わせるコメディーや、アクションものをやってみたいです。山下タカラのイメージとは全然違うのですが(笑)、空手をやっていたので、バク転や側宙ができるんですよ。タカラも強い女性ですが、違った意味で強くてパワフルな女性を演じてみたいですし、思い切り人を笑わせてみたいです。「アクションをやりたい」「コメディーをやりたい」と言い続ければ、きっといつか叶うと信じています。
インタビュアー/咲田真菜
撮影/田中館裕介
芋生悠プロフィール
1997年生まれ、熊本県出身。2014年、「ジュノン・ガールズ・コンテスト」にてファイナリストに選出され、翌年の2015年から女優業をスタート。2016年、今野恭成監督『バレンタインナイトメア』で映画デビュー、同年の広瀬有紀監督『マタードガス・バタフライ』で映画初主演を飾る。萩原健太郎監督『東京喰種 トーキョーグール』(2017)や福田雄一監督『斉木楠雄のψ難』(2017)などでも印象的な役どころを好演。
主な出演作に稲葉雄介監督『恋するふたり』(2019)、石橋夕帆監督『左様なら』(2019)、HIKARI監督『37セカンズ』(2020)など。松居大悟監督『#ハンド全力』が公開中。また公開待機作には、橋本一監督・柳楽優弥主演の『HOKUSAI)がある。
豊原功補演出の「後家安とその妹」では舞台女優としての力量も発揮。大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』を始め、テレビドラマへの出演も多数。写真集に、初舞台「欲浅物語」の舞台裏を追いかけた『はじめての舞台』がある。
映画『ソワレ』の作品情報
【公開】
2020年8月28日(金)(日本映画)
【監督・脚本】
外山文治
【キャスト】
村上虹郎、芋生悠、岡部たかし、塚原大助、康すおん、花王おさむ、江口のりこ、田川可奈美、石橋けい、山本浩司
【作品概要】
豊原功補・小泉今日子・外山文治が立ち上げた映画製作会社「新世界合同会社」による第1弾プロデュース作品。何もかもうまくいかず、苦しい日々を送っていた若い男女が出会い、ある罪を犯したことをきっかけに始まった逃避行。男はそれを「かくれんぼ」と呼び、女は「かけおち」と称したひと夏の出来事を、和歌山の美しい自然を舞台に描きます。
若い男女を演じるのは、類稀なる吸引力で日本映画の台風の目になりつつある村上虹郎と、独特の存在感で鮮やかな印象を残す新星・芋生悠。そして監督をセンシティブな感性で唯一無二の世界観を作り出す新鋭・外山文治が務めます。
映画『ソワレ』のあらすじ
俳優を目指して上京するも結果が出ず、今ではオレオレ詐欺に加担して食い扶持を稼いでいる翔太。ある夏の日、故郷・和歌山の海辺にある高齢者介護施設で演劇を教えることになった翔太は、そこで働くタカラと出会います。
数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太は、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラを目撃します。やがて、翔太は咄嗟に止めに入りましたが、彼を庇おうとしたタカラの手は父親の血で染まりました。
逃げ場のない現実に絶望し佇むタカラを見つめる翔太は、やがてその手を取って夏のざわめきの中に駆け出していきます。こうして、二人の「かけおち」とも呼べる逃避行の旅が始まりました……。