映画『世宗大王 星を追う者たち』は2020年9月4日(金)よりシネマート新宿ほか全国にて順次公開!
時代を変えようとした王と、その王に人生を捧げた天才科学者との間に生まれた身分を超えた友情を描いた映画『世宗大王 星を追う者たち』。主演を務めるハン・ソッキュとチェ・ミンシクが映画『シュリ』以来20年ぶりに共演したことでも話題となっています。
今回は、本作を手がけたホ・ジノ監督にインタビューを行いました。朝鮮王朝史上最高の名君と言われた第4代王・世宗とその家臣チャン・ヨンシルを中心とした壮大な史劇エンターテイメントである本作への想いを語っていただきました。
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歴史的な事実だけでなく、創造力を巡らせる
──『世宗大王 星を追う者たち』は史実に基づくフィクションですが、作品を作る上で特に大切にされたことは何ですか?
ホ・ジノ監督(以下、ホ):本作で描いているのは、第4代王・世宗と家臣のチャン・ヨンシルという二人の人物ですが、史実を調べてみると、世宗に比べてチャン・ヨンシルの記録はあまり多く残されていません。ただ世宗の実録を見てみると、彼はチャン・ヨンシルのことを内官のように身近に置き、いろいろ話をしていたという記録が残されています。ですので、二人はとても近い間柄だったのではないかと思いました。
二人はともに「朝鮮の時間」を作っていった間柄でもあったわけですが、映画でも描いている通り、王の輿が壊れてしまう事件をきっかけに、世宗はチャン・ヨンシルを追い出そうとします。この事件は、実際にはあまり大きな出来事ではなかったのかもしれませんが、「この事件から、なぜチャン・ヨンシルを追い出すという結果に至ってしまったのか」と思いを巡らせた時、その裏側には何か違う物語があったのではないかと考えるようになりました。それがこの映画の出発点となり、歴史的な事実だけではなく、自身の創造力を巡らせながら物語を作っていきました。
二人の夢が込められた天体観測器「簡儀」
──作中に登場する実物大の天体観測器「簡儀(カニ)」からもその詳細さが垣間見えますが、映画制作にあたっての資料分析や時代考証はどのように進められたのでしょうか?
ホ:この作品では当時の科学に関する話題がとても多く登場しますので、その時代の専門家、諮問委員の方々からいろいろなお話を聞き、あわせて資料調査を進めていきました。私自身には科学的な専門知識はないので、難解に感じられる話題もありました。また本作の助監督の中には星座や水時計に関する知識がある方がいたので、そういったスタッフの力も借りることもありました。
簡儀については、当初はCGで再現しようという意見もありました。しかし簡儀は、世宗とチャン・ヨンシルの二人が「朝鮮独自の時間を作る」という夢を具現化させたものでもあったので、きちんと実物に近いものを作りたいと考えたのです。
ただ、再現する簡儀の大きさをどうするのかということにも随分悩みました。実際には、実物の大きさとまではいかなかったのですが、それに近いもので再現すべく作っていきました。そのため、簡儀を置くことができる場所を探すのにも苦労をしたのですが、実際に資料を参照すると、景福宮の中の北側に位置されていたことが分かったため、約2ヶ月をかけてセットを作り上げました。
主演キャスト陣と意見交換を重ねて撮影
──世宗とチャン・ヨンシルの二人が並んで横たわり、星空を眺めながら夢を語り合う場面はとても印象的でしたが、「横たわる」という演技はハン・ソッキュさんのアイデアで生まれた演出だとお聞きしました。主演のお二人とは、常に話し合われて制作を進められたのでしょうか?
ホ:シナリオ執筆の段階から、ハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんのお二人とは頻繁に集まってシナリオの読み合わせを一緒にしましたし、お互いにアイデアを出し合ったり、セリフなどについての意見交換を重ねていきました。
当初からハン・ソッキュさんは、世宗はチャン・ヨンシルを「友」として受け止めているから、二人が初めて距離を縮めるあの場面では「一緒に横に並んで座りたい」とおっしゃっていました。ただその後いきなり、「ここで一緒に並んで仰向けに横になりたい」と提案されたんです。あの場面はとあるお寺で撮影をしていたのですが、そこには二人が仰向けになれる場所がありませんでした。しかしハン・ソッキュさんのアイデアを受けたため、横になることができる場所をなんとか探し、撮影を行いました。
──心温まる場面がある一方で、輿の事故が起きる場面は非常に緊迫感と迫力のあるものに仕上がっていました。大がかりな撮影だったと思いますが、どのような苦労をされたのでしょうか?
ホ:あの場面で登場する輿は、実際にはとても大きいものでした。それに雨が降っている設定でもあったため、とても危険な状況下での撮影でした。リハーサルを重ねた上で撮影をしたものの、実はテストの過程で輿が転覆し、一度壊れてしまったんです。その後は急いでもう一度輿を作った上で撮影に臨みましたが、やはり思っていた以上に輿が大きく、そのまま倒れてしまうのではないかとハラハラしながら撮影を進めていきました。
ですが、その苦労があったからこそ、よりリアルにあの場面が描けたのではないかと思いますし、けが人も出なかったので本当に良かったと思っています。
身分や時代、あらゆる壁を超える友情
──本作を通じて、世宗役のハン・ソッキュとチャン・ヨンシル役のチェ・ミンシクの20年ぶりの共演が実現しましたね。
ホ:ハン・ソッキュさんとは、だいぶ前に映画でご一緒し、チェ・ミンシクさんとは今回初めてお仕事をご一緒させていただきました。二人の優れた俳優を一つの映画の中で観られるということ自体にとてもときめきましたし。それにお二人は長年交流されてきて、兄と弟のような深い間柄でもあったことも知っていたので、とてもうれしく思いました。
──お二人の共演にときめかれた一方で、監督は本作を手がけるにあたって「果たして自分にできるのだろうか」と思われたとお聞きしました。その理由と思索の果ての答えをそれぞれ教えてください。
ホ:ずいぶん昔のことなのであまりよく覚えていないのですが(笑)、当初は歴史的な事実に比重を置き、史実を基づいた上でミステリーのような物語展開にしようと考えていました。
しかし途中から、歴史的な事実以上に世宗とチャン・ヨンシルの関係性に興味を抱き始め、やがて二人の友情の物語を今回の映画で描くべきだと感じるようになりました。また二人の友情を作品の軸に置くことで、これまでの私が映画で描いてきた情緒や感情につなげることができるのではと考え、現在の形へと物語を描くことにしたんです。
──世宗とチャン・ヨンシルの身分の差を超えた「友情」をハン・ソッキュさんとチェ・ミンシクさんという二人の役者を通じて描くにあたって、監督が特にこだわられた点は何でしょうか?
ホ:先ほども少し触れた通り、この作品をハン・ソッキュさん、チェ・ミンシクさんとご一緒できると決まった後、長い時間をかけてシナリオについて三人で話し合いました。その時にハン・ソッキュさんが「世宗は王様だけれど、とても孤独な人だっただろう」「だからこそ、自分のことを理解できる人、そして夢を共に実現できる人が現れた時、きっとそこには友情が芽生えただろう」という話をされました。いうなればまさに天才同士の出会いであり、私もその話を聞いた時に、世宗とチャン・ヨンシルは王と家臣の関係を超えた関係、「友情」で結ばれた関係だったのではないかと感じられたのです。
二人の間にあったであろう友情の関係を、ハン・ソッキュさん演じる世宗は映画の中で「友」という一つの言葉で表現をしています。その言葉はまさに二人の関係を表していて、王と家臣というものを超えた、本当に友になる得る関係だったのではないか。それを私自身も、主演のお二人の姿を通じてこの映画の中で表現したいと思っていました。
インタビュー/咲田真菜
ホ・ジノ監督プロフィール
1963年生まれ、韓国映画アカデミー(KAFA)卒業。1998年、初監督作『八月のクリスマス』で、青龍映画賞最優秀作品賞ほか各賞を受賞。以後の監督作品は2001年の『春の日は過ぎゆく』、2005年ペ・ヨンジュン主演の『四月の雪』、2016年『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』など数々の作品を世に送り出してきました。
映画『世宗大王 星を追う者たち』作品情報
【日本公開】
2020年(韓国映画)
【原題】
천문:하늘에 묻는다(英題:Forbidden Dream)
【監督】
ホ・ジノ
【脚本】
チョン・ボムシク、イ・ジミン
【キャスト】
ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク、シン・グ、キム・ホンパ、ホ・ジュノ、キム・テウ
【作品概要】
朝鮮王朝第4代王・世宗と科学者チャン・ヨンシル。王と奴婢という普通であれば出会うはずのない二人が、「朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢と信念を共にした、君臣の固い絆を描いています。
『八月のクリスマス』(1999)『四月の雪』(2005)のホ・ジノが監督を務め、第4代王・世宗(セジョン)にはハン・ソッキュ、天才科学者・チャン・ヨンシルをチェ・ミンシクが演じ、韓国映画の名作『シュリ』(2000)以来20年ぶりの共演が実現しました。
映画『世宗大王 星を追う者たち』のあらすじ
朝鮮王朝が明国の影響下にあった時代。第4代王・世宗(ハン・ソッキュ)は、奴婢の身分だったチャン・ヨンシル(チェ・ミンシク)の優れた才能を認め、武官に任命します。
豊富な科学知識と高い技術を持つヨンシルは「水時計」や「天体観測機器」を次々に発明。それらは庶民の生活に大いに役立てられました。一方で、「明の従属国という立場から脱し、朝鮮の自立を成し遂げたい」という夢をもつ世宗は、朝鮮独自の文字である「ハングル」を創ろうとしていました。
天と地ほどの身分の差を超え、特別な絆を結んでいく2人。しかし朝鮮の独立を許さない明からの攻撃を恐れた臣下たちは、密かに2人を引き離そうとします。
そしてある日、世宗を乗せた輿(コシ)が大破する大事故が発生。輿の製作責任者であるヨンシルに疑いの目が向けられてしまいます……。