映画『一度も撃ってません』は2020年7月3日(金)より全国公開中!
日本映画界において欠かすことのできない一人であるベテラン俳優・石橋連司の18年ぶりとなる映画主演作『一度も撃ってません』。
監督・阪本順治×脚本・丸山昇一の往年のタッグのもと、大楠道代・岸部一徳・桃井かおりをはじめ「主役級」のキャスト陣が世代を超えて集結した「ハードボイルド・コメディ」です。
このたび映画の劇場公開を記念し、本作を手がけられた阪本順治監督、プロレスラーとして長年活躍し今回は主人公たちが通うバー「Y」のマスター役を演じられた新崎人生さんにインタビュー。
阪本監督との縁を通じて新崎さんが抱き続けてきた長年の目標、プロレスラーとしての経験によって培われてきた新崎さんの役者としての魅力、阪本監督の目から見た現場での雰囲気など、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
プロレスラー/役者として演じてもらいたかった
阪本順治監督
──新崎さんは以前にも阪本監督の作品に出演されたことがありますが、本作にて阪本監督が新崎さんをキャスティングされた経緯を改めてお聞かせください。
阪本順治監督(以下、阪本):プロレスラーとしてデビューする以前、新崎くんは菅原文太さんの付き人をされていたんですが、文太さんが主演をされた映画であり僕にとっては二本目の監督作でもあった『鉄拳』(1990)を撮った際に彼にも出演していただいたんです。ちなみに主人公たちを襲う謎の集団の一人を演じてもらったんですが、次に『王手』(1991)という映画に出演していただいた際には、國村隼さん率いるヤクザの組員役ではあるものの、前作とは打って変わってコメディタッチなキャラクターを演じてもらいました。
少し失礼な言い方かもしれないけれども、当時から新崎くんは似ている人間などそうそういない、非常に面白いキャラクターを持っている方でした。だからこそ三本目の『傷だらけの天使』(1997)の際にもプロレスラー役を演じてもらった。そして今回、『傷だらけの天使』でもご一緒した丸山昇一さんに脚本執筆をお願いし物語も大方出来上がった頃、「“ポパイ”というあだ名の、屈強であまり口数の少ないバーのマスター」のキャスティングについて考えた際に、僕と丸山さんの中では「新崎君だよね」と意見が一致した。僕は新崎くんの役者時代を知っているので、プロレスラーとしての仕事をやりつつも、役者の仕事をやってもらえるんじゃないかと思ったんです。
何者でもなかった頃からの目標
新崎人生さん
──阪本監督から出演オファーをいただいた際には、どのような思いを抱かれましたか?
新崎人生(以下、新崎):自分に対して阪本監督は「役者」という言葉を使ってくれましたが、決して役者の勉強をしっかりしたわけではなく、『鉄拳』に関しても文太さんの付き人をやっていた際にたまたまキャスティングしてくださったんです。
今回、阪本監督が「出演できる?」というご連絡をくださった際には、かつて「菅原文太の付き人」というだけの本当に何者でもない人間がプロレスラーとして一応表舞台に出させていただけるようになり、こうしてやっときちんとした形で阪本監督から仕事のご依頼をいただけたんだという嬉しさがこみ上げてきました。それは何者でもなかった頃からの一つの目標でもあったので、本当に嬉しかったです。
──久しぶりの阪本監督の現場はいかがでしたか?
新崎:本当に久しぶりに、ずっと緊張が続いた現場だったんです。プロレスの現場にはもう30年近く立っているので流石に緊張しなくなったんですが、今回の現場は、入って何日間は椅子に座ることすらもはばかってしまうぐらいに緊張してしました。本当に練習生のような心持ちでした。
阪本:ふふふ(笑)。
培ってきた「経験」が生んだ演技
──プロレスラーも役者も、「観る者をいかに“ワクワク”させるか」を追求し続けているという意味では似ている面もあるのではないでしょうか?
新崎:もちろん「人前で表現する」という点は役者もプロレスラーにも共通していますが、今回の現場、ひいては映画の世界では、プロレスラーとしてのキャリアは通用しないと改めて痛感しました。そのため、できる限り脚本を読み込んで場面の内容を覚えることに努めて、阪本監督がおっしゃることに応えられるよう一生懸命に撮影と向き合うことしか、今回はまだできなかったですね。
──ですが新崎さんが演じられた「ポパイ」こと南雲雄平は、存在感のある非常に魅力的なキャラクターとして映っていました。
阪本:ほとんどの登場人物と絡む、何気なく大切な役ですからね。それに新崎君は謙遜しちゃってますけど、プロレスラーという仕事も役者と同じように、ライトを浴び、観客という存在に囲まれた中で表現をしなくてはならない。「常に観られている」という意識はプロレスの中でも必ずあるわけで、観客を無視した状態で闘うことはできない。ですから、実際のカメラの前で演技をする新崎くんの姿は、プロレスラーとして第一線で活躍してきた人間として、緊張はしていましたがとても堂に入っていました。
また映画を観直してみると、彼はかなり細かい演技をやっているんです。例えば「桃井さん演じる玉淀ひかるに憧れを抱いている」という設定を、手の仕草といった様々な動作など、僕が見えないところで密かに表現している。それができるのは彼がプロレスラーとして経験を積んできたからだと思いますし、一方で彼に「プロレスラー」ではない役を演じてもらったから、カウンターというほぼ動くことのできない限られた空間で表現してもらったから生まれたものだとも感じています。
様々なせめぎ合いがあった現場
──今回の現場について、新崎さんは「練習生」のような心持ちでいらっしゃったそうですが、阪本監督にとってはいかがでしたか?
阪本:今回は確かに面白い現場だったんですが、かといって「アドリブ大会」のような状態ではなかったんです。結局のところ、自由な現場で自由を謳歌し過ぎてしまえば、作品性そのものが壊れてしまうことは皆分かっていましたからね。むしろ本作の喜劇としての要素をふまえると、変に余計な味付けをするよりも、皆が自身の役柄を生真面目に演じた方が笑える。その点については皆さんも気をつけてくれました。
また、そう撮影を進める以上、それぞれの役柄におけるアイデアは監督も役者も必ず出てくる。そして役者から出てくるアイデア以上のものを常に考え続けていないと、監督としての信頼を失う。悪くいえばナメられてしまう。そういったせめぎ合いはずっとありました。
──「せめぎ合い」といえば、作中では時代遅れな主人公たちと若者たちのせめぎ合いによって生じる滑稽さが描かれています。そしてその裏には、「ベテラン」と「若手」という役者における世代のせめぎ合いもあったのではと感じられました。
阪本:今回の作品において、役者陣は必ず一度は蓮司さんと芝居の中でやり合っているんです。特に寛 一 郎が演じたのはあの世代の人間を全員つぶして回るほどの全否定を担う役でしたから、思いっきりやってほしかったんですよね。
今回の現場は、「あのいつもの蓮司さんではない」「“座長”としての蓮司さんと自分が芝居を交わせる」という役者陣の喜びと緊張感で成り立っているんです。また売れっ子で多忙な若手たちが撮影日を何とか作れたのも、蓮司さんたちのような大ベテランの人々と芝居交わすというチャンスが、現在のドラマや映画では本当になくなってきていることにも関わっている。普段の現場ではできない経験を学べる、「普段以上に自身を高めなくては対等に芝居ができない」という緊張感を味わえるという思いを持って現場に入ってきてくれたんです。
様々な視点から映画を楽しんでほしい
──最後に、読者の皆様に向けて映画『一度も撃ってません』についてのメッセージをいただけますでしょうか?
阪本:今回の作品はいわゆる「昭和」の人々についての話でもあるんですが、その世代を取り巻く今や若い世代の人々を通じてもこの映画は楽しんでもらえると感じています。また、しばらくはこれだけのオールスターキャストの映画は生まれないとも思っているので、その贅沢さもぜひ味わいに来てほしいですね。
新崎:これほどまでに豪華な方々が一堂に会した場に参加させていただけたこと。それだけで僕はもう十分であり、阪本監督には感謝の言葉しかありません。
阪本:そういえば、これからご覧になる方には映画で確認してもらいたいんですけど、観終えた方からは「終盤でポパイが見せた姿には泣かされた」とよくお聞きするんですよね。
新崎:ありがとうございます。
阪本:ポパイには、新崎くん自身の実直さが度々重なるんです。何か特別なセリフを言うというわけではないんですが、本当に姿だけで見せる良さがあるんです。
インタビュー/藤田みさ
撮影/田中館裕介
構成/河合のび
阪本順治(さかもと・じゅんじ)プロフィール
1958年生まれ、大阪府出身。大学在学中より、石井聰亙(現:岳龍)、井筒和幸、川島透といった「邦画ニューウェイブ」の一翼を担う監督たちの現場にスタッフとして参加する。
1989年に赤井英和主演の『どついたるねん』で監督デビューし、芸術推奨文部大臣新人賞、日本映画監督協会新人賞、ブルーリボン賞最優秀作品賞ほか数々の映画賞を受賞。また満を持して実現した藤山直美主演の『顔』(2000)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞や毎日映画コンクール日本映画大賞・監督賞などを受賞。以降もジャンルを問わず刺激的な作品をコンスタントに撮り続けている。2016年には斬新なSFコメディ『団地』で藤山直美と16年ぶりに再タッグを組み、第19回上海国際映画祭にて金爵賞最優秀女優賞をもたらした。
その他の主な監督作品は『KT』(2002)、『亡国のイージス』(2005)、『魂萌え!』(2007)、『闇の子供たち』(2008)、『座頭市THE LAST』(2010)、『大鹿村騒動記』(2011)、『北のカナリアたち』(2012)、『人類資金』(2013)、『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』(2016)、『団地』(2016)、『エルネスト』(2017)、『半世界』(2019)など。
新崎人生(しんざき・じんせい)プロフィール
1966年生まれ、徳島県出身。高校卒業後俳優を目指し、故・菅原文太の付き人を務めていたが、プロレスに傾倒。1993年には「みちのくプロレス」でデビューを果たす。お遍路さんのスタイルと、リング内外で言葉を発しないという特異なキャラクターで一躍注目を集める。また翌年には日本プロレス大賞で新人賞を獲得した。
アメリカの最大手団体「WWF(現:WWE)」にスカウトされ1995年に渡米。リングネームを「HAKUSHI」とし全米にオリエンタルブームを巻き起こす。1996年にグレート・ムタと死闘を演じたのちに遠征を終え、古巣となるみちのくプロレスに復帰。その後は全日本プロレス、新日本プロレス、FMWと団体の枠を超えて活躍。1997年には阪本監督『傷だらけの天使』で俳優としても活躍。1998年、全日本プロレスでジャイアント馬場と対戦。1999年、日本プロレス最古のベルトである「アジアタッグ」で第65代王者となる。
2003年、みちのくプロレスの代表取締役社長に就任。2009年、代表取締役社長退任後コミッショナーに就任。2010年、「徳島ラーメン人生」をオープン。2019年には「じんせい体操」の教室を開講しシニアの健康寿命を延ばす活動を開始した。
映画『一度も撃ってません』の作品情報
【公開】
2020年7月3日(金)より全国公開中(日本映画)
【監督】
阪本順治
【脚本】
丸山昇一
【キャスト】
石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央、柄本明、寛 一 郎、前田亜季、渋川清彦、小野武彦、柄本佑、濱田マリ、堀部圭亮、原田麻由
【作品概要】
日本映画界を代表するバイプレーヤーにしてベテラン俳優・石橋蓮司の18年ぶりとなる映画主演作。ハードボイルド・スタイルで夜の街をさまよう、完全に“時代遅れ”の主人公を渋く、そしておかしみたっぷりに演じる。
監督には『大鹿村騒動記』『半世界』の阪本順治、脚本には『探偵物語』の丸山昇一。共演には、妻役の大楠道代、夜な夜な市川のもとに集まる怪しげな友人役に岸部一徳と桃井かおりをはじめ、日本映画界の第一線にて活躍する幅広い年齢層のキャスト陣が集結。世代を超えての「演技合戦」が作中に展開される。
映画『一度も撃ってません』のあらすじ
市川進、御年74歳。タバコ、トレンチコートにブラックハットという出で立ちで、大都会のバー「Y」で旧友のヤメ検エリート・石田や元ミュージカル界の歌姫・ひかると共に夜な夜な酒を交わし、情報交換をする。
彼は巷では「伝説のヒットマン」と噂されていた。
しかし本当の姿は……ただの売れない小説家。妻・弥生の年金暮らし、担当編集者の児玉からも愛想を尽かされている。物語のリアリティにこだわり過ぎた市川は「理想のハードボイルド小説」を極めるために、密かに「殺し」の依頼を受けては、本物のヒットマン・今西に仕事を頼み、その暗殺の状況を取材しているのだ。
そんな市川に、ついにツケが回ってきた。妻には浮気を疑われ、敵のヒットマンには命を狙われることになってしまう。
ただのネタ集めのつもりが、人生最大のピンチ。「一度も撃ったことがない」伝説のヒットマンの長い夜が始まる……。