『RUN!-3films-』は2020年1月17日より京都みなみ会館、1月18日より大阪・シアターセブン、神戸・元町映画館他にて全国順次公開!
映画『RUN!-3films-』は疾走感溢れる3つの短編映画「追憶ダンス」「VANISH」「ACTOR」からなるオムニバス映画です。
3つの短編は、それぞれコメディ、SF、虚実入り混じったヒューマンドラマというまったく違うテイストを持っています。ですが、3本の作品にはどこか共通した芯の通ったものが感じられます。
キャストでは篠田諒、木ノ本嶺浩、松林慎司、黒岩司、須賀貴匡(敬称略)といった個性的な面々が熱い演技を見せる中、3本の作品全てに出演しているのが津田寛治さんです。
京都・大阪・神戸で公開されるにあたり来阪された津田寛治さんに、映画『RUN!-3films』の魅力について、また俳優としての在り方や、演技への想いなど、様々なお話を伺いました。
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俳優の熱い想いに応え制作へ
──3本の作品が製作されたそれぞれの経緯を教えていただけますか?
津田寛治(以下、津田):始まりは「ACTOR」で主演を務めた黒岩司くんが、僕たちが所属する事務所「ラ・セッテ」のメンバーと食事をしていた時に、仕事で貯めたお金で自分が主演の映画を撮って欲しいと言ったことです。映画を撮れるほどの額ではなかったのですが、社長が足りない分は出すと言ってくれて、その場にいた土屋哲彦監督が手をあげて「ACTOR」を撮ることになりました。
その後に「ACTOR」を撮り終えたら、松林慎司くんも主演映画を撮って欲しいと言い出し、そこで「ACTOR」で助監督をやっていた畑井雄介くんが撮れば良いと社長が言って出来上がったものが「VANISH」です。
そうこうしているうちに、うちの事務所にも若手の活きのいい俳優が入ってきて、篠田諒くんがとてもいいので、入ったばっかりだけど彼を主演にしてもう一本撮ろうとなって出来たのが「追憶ダンス」です。
現実と虚構の境が幾層にも重なる「ACTOR」
──オムニバスの1作品ずつお話を伺わせていただきます。2014年に作られた「ACTOR」は、映画『ジョーカー』に近いものを感じました。それは時代の流れをいち早く捉えて映像化していたからこそ、そのように感じられるのかもしれません。現実と妄想が交錯する展開も見事でした。
津田:時代の先取りという意味では僕も最初に観た時に圧倒されました。「ACTOR」は、現実と非現実を織り交ぜた作品ですが、主人公が役者だから彼自身も現実と非現実を渡り歩いている上に、演じている俳優・黒岩司が自分でお金を出して初主演映画を撮っているというドキュメント性も使っているので、フィクションとノンフィクションの境が幾層にも重なっています。
演出なのかドキュメントなのかというのは、昔から映画が抱えてきたひとつの大きなテーマでもあると思います。いろんな映画がドキュメント性を凄く大事にしてきましたし、それがあるからこそドラマというものがひきたってくる。その複雑さがシンプルな形で提示されていて、やっぱり土屋監督は凄いなと思いました。
──どこまでが演技でどこまでがアドリブなのかと思わされるシーンも多数ありました。
津田:黒岩くんが走るシーンでは、監督から大事なシーンだと言われて物凄く気合が入っていて、走る前から彼は「ハァハァ」言っていました。うわーっと走って行ったら頭から突っ込んでいって顔面を強打してしまったんです。「大丈夫かお前」と監督が声をかけるショットは、映っている手は土屋監督のものですが、声は監督を演じていた俳優の龍坐さんのもので、あの場面はドキュメントフィルムなんです。
黒岩くんは転倒後、救急病院に運ばれて、記憶も飛んでいるところがあって何日間か撮影を止まらせたんですが、映画自体もそれが本当なのか、彼の頭の妄想なのかというふうに突き進んでいく、それを確信犯でやっている。監督は「ヨーイ、スタート!」というのでなく常にカメラは回していてくれと言っていて、それがあったから黒岩くんが転倒した時もちゃんとカメラが捉えていたんです。監督の意図が浮き彫りにされたシーンでした。
津田寛治と津田沼寛治郎
──その中で津田さんは熱い役柄を演じておられました。
津田:役名が津田沼寛治郎というんです。明らかに津田寛治をもじっていてタレントのお遊びのように感じ、それが嫌で監督に役名を変えて欲しいとお願いしました。すると監督が「違うんですよ、津田さん」と返してきて「これは実際にあったこととドラマを混ぜているんです。黒岩は津田さんにちょっと憧れている。だから、自分が主演する映画に津田さんが出てくれることで黒岩の気持ちが変わるんです。その気持ちをうまく利用したい。本当はドキュメントタッチに津田寛治で行きたいんだけど、ちょっと変えて津田沼寛治郎でやっていて、それがこの映画のひとつのテーマになっているんです」と言われて、すごく腑に落ちて、それで行こうとなりました。
異端の者同士の友情「VANISH」
──「VANISH」についてお伺いします。本作はもともと長編の企画だったようで、作品を観た時に長編で是非観てみたいと思わされました。
津田:それは嬉しいです。この作品は畑井監督がずっと温めていた企画で、日本ではとんでもない数の失踪者がいて、なぜいなくなったかという原因も全然わかっていない、どこにいっちゃってるんだろうと思った時にひょっとしたら本作に登場するミュータントのような奴らが中に混じっているのではないかという思いつきがあったらしいんです。
そういうミュータント的な人間が社会から隠れながら生きていて、同じように社会からドロップアウトして死体を処理するヤクザの下請けのような人間と出逢ってしまう。最初はお互いビビり合うんですが、お互いの利害が需要と供給で一致していく、その展開が素晴らしいと思いました。
さらに素晴らしいのは2人の間に心の絆が生まれていくことです。ただ仕事の上でうまくいっているパートナーというだけでなく、深い絆で結ばれる親友になっていくのが素敵だなと思いました。ひょっとしたら向こうも社会から隠れて人を消してきた人なんだ、その人にだったら自分を分かってもらえるかもしれないとお互いに想っている。説明はしてないですけれど、そういうところで“バディ”以上の深い繋がりが生まれる。
最後に僕が口にする台詞は本当に分かっている人間でなければ口にできない言葉です。それが彼に響いたんだろうと想像できるストーリーの持って行き方は巧みです。
本当の友情を観客に想像させる
──社会の片隅でもがきながら懸命に生きている人々というのは、3作品に共通していた点です。「追憶ダンス」もまた、登場人物2人の間に友情のようなものが芽生えてきます。そうした点でも「VANISH」と共通する部分を感じさせます。
津田:偶然ですがその通りです。「追憶ダンス」の場合、主人公の2人が物語の終盤に自転車2人乗りで立ち漕ぎで猛烈に走っているシーンがありますが、あの瞬間、あそこにあった友情だけは嘘じゃないと土屋監督が言っていました。土屋監督はあのシーンが「追憶ダンス」の中で一番好きだそうで、あそこだけは嘘がない、だからこそ、他の嘘を微笑んで見られると話されていました。
確かにそれは「VANISH」にも言えることだなと感じます。利害関係だったり間違った友情に見える中に、本当の友情が芽生えているということを言葉で説明するのではなく、観客に想像してもらうのが「VANISH」と「追憶ダンス」に共通するところで、撮っているものの芯の部分が一緒なのかなと思います。
──「追憶ダンス」では、そんな2人の前に津田さん扮する警察官が登場します。これで解決すると思いきや、余計ややこしくなっていきます。
津田:あの警官は2人よりもっと底辺にいた人物なんだと思います。警察という組織を利用していて複雑にねじまがっちゃってる人ですかね(笑)。あれがまっとうな警官だったらあの2人は犯罪者になってしまうんですが、2人より実は腐ったやつだったからこそ、2人の心理が観客に伝わりやすくなったのではないでしょうか。
練りに練られた「追憶ダンス」
──「追憶ダンス」は大阪・中之島映画祭で拝見しましたが、本当に面白かったです。短編として完璧な作品だと感じました。
津田:土屋監督が「ACTOR」を最初に撮った時に、尺が40分ということで短編映画祭には尺が長くて、かけられないことが多かった上に長編に出すには時間が足りない。40分という尺で作ってしまったがために日の目を見なかったところがあるので、「追憶ダンス」は短編映画として相当意識して作っているんです。いろんな短編映画を鑑賞して、やっぱり「オチ」「急展開」がミソだと思ったらしく、そういうものを取り入れていこうと考えたと仰っていました。
──その中に役者さんたちの生の感情がほとばしる瞬間がありました。
津田:そこも監督は相当意識したみたいでテイクもかなり重ねているんです。台本に書かれていない現場で出た生の声も大事にしています。ラスト、タイトルが出たあとの役者の台詞もアドリブです。彼らは、役をとことん追求しています。だから出てくるんです。そのくらい勉強していたのでしょうね。
キャリアが若い人との現場は自身の洗濯の場
──若い俳優の方々との現場はいかがですか?
津田:楽しいですね。年齢というよりは、映画や撮影を知らない人とやるのが楽しいんです。映画の現場は慣れれば慣れるほど小器用になっていき、失くしていくものが多いです。フレッシュな状態を撮るというのが映画のセオリーで、段取りをしっかりやった動きではなくて瞬間的に出た動きこそが昔から大事にされていて、だからこそ始めて芝居をやる俳優にベテランが勝てないことが往々にしてあるんです。
一回一回、白紙に戻していかなければいけない仕事でもあるので、映画が初めての人やキャリアが若い人とご一緒する時は、自分がまた新たに洗濯されるいい機会なので本当に楽しいですね。
──津田さんはメジャーの作品にも、インディーズ作品にも分け隔てなく出ていらっしゃいますが、面白いと思ったらなんでもやってみようというポリシーのようなものをお持ちなのでしょうか。
津田:必然ですね。予算があっても必ずしも面白いものが出来るわけではないというのをずっと見てきているので。いくら金がかかっていてもつまらないものはつまらないし、予算がなくても面白いものは面白い。予算とクオリティが比例しないのがこの世界なんです。この予算以下のものには出ないなんてやってしまうと何のために俳優をやっているのかっていうくらいつまらない人生になってしまう気がします。
ストーリーの中で仕事をすること
──俳優を続けていかれる原動力のようなものはありますか。
津田:俳優をずっと続けているというのは、僕らの仕事が物語の中なんだというのが大きいと考えています。それは照明さんとか録音さんとか衣装、メイクさん、みんなそうだと思いますが、撮影現場にいながらもストーリーの底にいなければいけない。ストーリーの中で仕事をすると、そのエリアが凄く広大で、どこまでも広がっていきます。
芸能界というのは広いようでいて村社会で、ここに挨拶しなかったら生き辛いよとか、この人に挨拶するんだったらこの人にも挨拶しなくちゃいけないだとか、ここと仲良くするとこっち派だと思われるというような、政治の世界もそうかもしれませんが、とても狭い世界だと思うんです。でも物語の世界に入ればそれがなくなって想像だけで出来ているものすごく広い世界にいられる。いろんな人になれるし、多岐に渡った世界に行ける。そこが大きな魅力です。
──最後に公開を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
津田:この映画は、僕たちの事務所の社長が、所属俳優のまだパッと花咲いていない俳優の名を咲かすきっかけになればと作った映画でもあるので何をさておいても俳優がキラキラ輝いている映画です。
その中で展開されているお芝居というのは、他の映画の中で展開されているお芝居よりもさらに命がけでやっています。ここで売れなかったら後はないというくらいの想いで演っています。周りも支えていますし、命をかけて走っている映画でもあるので、辛いことがあって意気消沈している方がこの映画を観て元気になっていただければそれほど嬉しいことはないです。今、元気になりたいと思っている人にこそ観ていただきたいです。
撮影協力/黒地綾子(ヘアメイク)
インタビュー・撮影/西川ちょり
津田寛治(つだかんじ)プロフィール
1965年8月27日生まれ、福井県出身。
1993年『ソナチネ』(北野武)で映画デビューを果たす。『ディスタンス』(2001/是枝裕和)、『模倣犯』(2002/森田芳光)、『小さき勇者たち ガメラ』(2006/田崎竜太)、『Watch with Me 卒業写真』(2007/瀬木直貴)、『人が人を愛する事のどうしようもなさ』(2007/石井隆)、『トウキョウソナタ』(2008/黒沢清)、『不倫純愛』(2011/矢崎仁司)、『シン・ゴジラ』(2016/庵野秀明総監督)、『ニワトリ★スター』(2018/たなか雄一狼)『空飛ぶタイヤ』(2018/本木克英)、『名前』(2018/戸田彬弘)、 『天然☆生活』(2019/永山正史)など出演作多数。
また、BS-TBS『水戸黄門』、EX『特捜9』などのドラマ出演や、自身の脚本・監督作『カタラズのまちで』(2013)、『あのまちの夫婦』(2017)が公開されるなど、多方面で活躍している。
映画『RUN!-3films』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
「追憶ダンス」、「ACTOR」:土屋哲彦
「VANISH」:畑井雄介
【キャスト】
「追憶ダンス」: 篠田諒、木ノ本嶺浩、津田寛治、青木玄徳、山﨑ケイ(相席スタート)、日下雅貴、古谷佳也、黒岩司
「VANISH」:松林慎司、津田寛治、蟹江アサド、シャア・ハック、山口康智、志村美空
「ACTOR」:黒岩司、須賀貴匡、菅野莉央、川村亮介、松林慎司、佐野大樹、笠原紳司、龍坐
【作品概要】
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭など数々の映画祭で上映され、グランプリなどに輝いた短編作品3本が一本のオムニバス映画に。
「闇金ドッグス」シリーズの土屋哲彦が「追憶ダンス」と「ACTOR」の監督を務め、映画やドラマなどの映像作品に助監督などで参加してきた畑井雄介が「VANISH」の監督を務めている。3作品ともに津田寛治が出演している。
映画『RUN!-3films』のあらすじ
「追憶ダンス」
コンビニでバイトをしている鈴木は、不愉快な客にからまれて不機嫌になっていました。
そこに強盗が現れます。強盗は鈴木の顔を見て驚き、中2まで一緒だった同級生の佐藤だと名乗りますが、鈴木はまったく思い出すことができません。
「いじめた方は忘れても、いじめられた方は覚えてるんだよ!」 と叫んだ佐藤は、鈴木にナイフをつきつけ、いかにひどいいじめを受けたかをとうとうと述べ始めます。
そこにパトロールの警官が現れ、鈴木は助かったと安堵するのですが・・・。
「VANISH」
日本の年間失踪者数は10万人とも言われて久しいが、その原因はわかっていない――。
「ただ静かに息子と一緒に暮らしたかっただけなんです」と切々と訴える男。その親子が抱える秘密とは一体なんなのでしょうか!?
死体処理が生業のヤクザは、単調な仕事に嫌気がさしていました。ある日、彼は驚くべきものを目撃してしまいます・・・。
「ACTOR」
売れない役者の山田はバイト先のオーナーに映画の仕事がはいったので休みたいと告げます。
オーナーが問いただすと、それはただのスタントインの仕事でした。 オーナーは「それは役者の仕事とはいわないの」と笑い飛ばし、ねちっこく山田をからかい、傷つけます。
翌日、寒空の中、薄着姿でスタンドインをこなす山田。スターが登場してお役済みになった彼に敬意を示す人は誰もいません。
邪険にされて落ち込む山田でしたが、ふと見ると、映画の撮影隊が取り囲み山田にカメラを向けているではありませんか!戸惑う山田を皆が心配そうに、でも温かい眼差しでみつめています。
重要な役柄に抜擢されたことを知り、山田の役者魂にスイッチが入ります。撮影は順調に進んで行きますが・・・。
映画『RUN!-3films』京都・大阪・神戸上映&舞台挨拶情報
京都みなみ会館 1月17日(金)~1月23日(木)
【舞台挨拶】1月17(金)、18(土)、19日(日)
▶︎京都みなみ会館公式HP
シアターセブン 1月18日(土)~1月24日(金)
【舞台挨拶】1月18日(土)、19日(日)
▶︎淀川文化創造館 シアターセブン公式HP
元町映画館 1月18日(土)~1月24日(金)
【舞台挨拶】1月18日(土)、19日(日)
▶︎元町映画館公式HP
土屋哲彦監督、畑井雄介監督、津田寛治さんほかキャスト舞台挨拶予定(詳細は各劇場HPでご確認ください)