映画『劇場版ラジエーションハウス』は2022年4月29日(金)より全国東宝系にてロードショー!
レントゲンやCTで病変を写し出す放射線技師と、その画像を読影して病気を診断する放射線科医にスポットを当てた医療ドラマ「ラジエーションハウス 放射線科の診断レポート」。その劇場版が映画『劇場版ラジエーションハウス』です。
劇場版ではいくつものエピソードが重層的に展開され、登場人物たちが病院を飛び出して奮闘する姿はもちろん、初恋を貫き放射線技師になった主人公とその想い人の初心な恋物語、ドラマでは新人放射線技師だった女性の成長なども描き出します。
このたび『劇場版ラジエーションハウス』の公開を記念し、ドラマ版の企画段階から作品に携わってきた鈴木雅之監督にインタビューを敢行。
テレビドラマから劇場作品にすることへの意気込みや、人間ドラマを盛り上げる演出手法、そしてメインキャストについての魅力も大いに語っていただきました。
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医療従事者にエールを送りたい
──鈴木雅之監督は2019年に放送されたドラマ版のシーズン1からチーフディレクターとして作品に携わってこられましたが、当初ドラマ化企画が立ち上がった際にはどのような思いを抱かれましたか。
鈴木雅之監督(以下、鈴木):最近、医療モノのドラマが多いですが、放射線技師にスポットを当てることで、他の医療ドラマとは一線を画したストーリーになると思いました。ただ手術シーンがあるわけではないので、地味と言えば地味だし少し大変だなという気はしていました。
ただ病気とは、早期に発見することによって治せるといっても過言ではありません。そういう意味では放射線技師はなかなかの重責を担っています。本シリーズを通じて医師ではない医療従事者が注目され、そうした仕事に就きたいと使命感を持つ方が出てきてくれたら嬉しいですね。
──本作はコミックが原作ですが、劇場版は原作にはないオリジナルストーリーが展開されます。
鈴木:劇場版では複数のエピソードが描かれていますが、前半に入れたエピソードの1つは医療のチームがずっと温めていきたものです。
感染症の話については今、医療ドラマを制作するにあたり、コロナについて考えないわけにはいかない。医療従事者の方々の勇気や奮闘を描くことで少しでもエールになればと思いました。
スクリーンで描く人々それぞれが“主人公”
──鈴木監督が手がけられた作品は「泣き」と「笑い」のバランスが絶妙だと感じられます。
鈴木:状況は作る。ですが、その中で無理やり笑わせようとはしない。笑いはやりすぎると品がなくなり、途端に笑えなくなってしまうので、匙手加減が大事だと思います。しかし「医療ドラマでこんなことをやったら不謹慎だ」などとは考えないで、堂々とやることも不可欠です。笑いって難しくて、意外に勇気が必要ですからね。
──本作の「主人公」は窪田正孝さんが演じる放射線技師の五十嵐唯織ではありますが、ドラマ・映画ではラジエーションハウスで働くスタッフみんなが「主人公」として、一人の人間として生きているように描かれています。
鈴木:誰が主役で誰が脇役ということをあまり考えず、基本的にはスクリーンに映っている全員を同じように見ていく。演出のポイントは、手を抜かないことです。ただ空間にいろんな人がいるのではなく、そこに意味があることを意識しないといけないと考えています。
ドラマ『HERO』でもそうでしたが、そこにいるすべての人がそこにいる意味を表現しなくてはならない。そのことによって反省をしたり、満足したりすることが作る喜びや作品の仕上がりにかかわってくるとおもいます。
劇場版はいろんな出来事が同時に進行しています。杏がいる島であることが起こっているときに、甘春総合病院でもいくつものことが起こっている。1つのことだけでなく全体を見るというのもテーマでした。タイトルバックの画の構成を五十嵐と杏が同時刻に行っていたことを映すようにしてあるのですが、一つのことだけでなく、いろんなことを多様に追っていく構成にしてあります。
撮影セットを制作することで広がる醍醐味
──後半は離島を舞台に物語が展開されていきます。ロケーション撮影を行われた真鍋島はいかがでしたか。
鈴木:真鍋島は岡山県の島で、瀬戸内海にあります。岡山県の緊急事態宣言が解除されたときに行って、撮影が終わって戻ってきたら、また緊急事態宣言が発令されたという状況でした。うまく隙間をついて撮影できたのですが、そうした中で島のみなさんが受け入れてくれたのが本当にありがたかったですね。
島民の人口が100人ほどの島に、外部から同じく100人近いスタッフが訪れ、診療所のセットを建てたりする。だからこそ、そこでコロナの感染が発生しないよう細心の注意をはらいました。
──診療所のセットはロケ地で作られたものなのですね。
鈴木:デザイナーのあべ木陽次さんが作ってくれました。映画『マスカレード・ナイト』など、仕事ではいつも組んでいる方です。部屋を細かく分けたりはせずに、ずどんと大きく制作してもらいました。外と内の境目ができるだけ少ない、オープンな室内を心がけました。
セットを作るのは映画を撮る醍醐味みたいな部分もあり、とても楽しいです。そこで「これ、どういう風に撮ったのかな?」という画をどこかに入れたくなるものなのです。撮影のためのセットを作った現場では、どう見せるかということを考えますし、それが役者の心情につながっているショットになっていれば、テーマを補強する意味も必ず出てきます。
一緒に乗り越えてくれる仲間たち
──鈴木監督は窪田正孝さん、広瀬アリスさんと「ラジエーションハウス」で初めて組まれました。お二人の俳優としての魅力は何でしょうか。
鈴木:窪田くんは元々ハードボイルドな感じを受けますが、「ラジエーションハウス」のときはソフトな雰囲気をまとっていました。ただシーズン1が終わった後にもう1本一緒に仕事をしたのですが、そのときはまったく違うタイプになっていました。今後、別の作品で組んだときには、また違う顔を見せてくれるでしょう。本当に楽しみにしています。
広瀬さんは、演技がとにかく的確です。脚本に書かれている以上の細かい意味をよりはっきり表現してくれる。芸達者で魅せられますね。和久井映見さんとの場面でも広瀬さんが演じる裕乃が「何を見ているのか」「何を考えるべきなのか」をわかっている顔をしていて、「ああ、そうだな」と思わせてくれました。今改めて作品を観ても「こんな目をしていたんだ」と驚きます。あの歳でそうしたお芝居ができるのは、なかなかすごいですよ。
──本田翼さんとはドラマ「ショムニ2013」のときに初めてお仕事をご一緒されていますね。
鈴木:人前で「何かしろ」と言われても普通は恥ずかしくてできませんが、役者さんはそれをしなくてはいけない。絶対に勇気が要りますよね。本田さんには「ショムニ2013」のときから、確実にその勇気がありました。しかも彼女はいいリアクションをする人で、「ショムニ2013」の中でもそれはピカイチでした。
そして「ラジエーションハウス」では、さらにナチュラルな演技の感覚もつかんできたのです。また医療モノですから専門用語が多く、言いにくいセリフがいくつもありましたが、それをしっかりこなしていました。ゆっくりではありますが、女優として着実に成長しています。
──本作の登場人物たちはそれぞれの「壁」を超えていきました。鈴木監督にとって「壁」はどのようなものであり、それはどう乗り越えてゆくべきものなのでしょうか。
鈴木:何かやろうとすると「壁」は必ずあるもの。それを一緒に越えてくれる仲間がいたからやってこられました。この作品のキャッチコピーにした「ひとりで闘う必要なんてない。」のままです。
最近何かやろうとするとき、配慮しなくてはいけないことが増えています。その結果、やる前に意欲が減退して、やらないという選択をする方が多い気がします。やるか、やらないかというときに「やろう」と思うことで人は前に進みます。「迷ったらやる」という選択をみんながしていくと世の中がもっとよくなる気がします。
インタビュー/ほりきみき
鈴木雅之監督プロフィール
1958年生まれ、東京都出身。1979年に日活芸術学院卒業後、共同テレビジョンを経て、1994年にフジテレビジョン入社。
『白鳥麗子でございます!』、『29歳のクリスマス』、『王様のレストラン』、『世界で一番パパが好き』、『ショムニ』『HERO』などのドラマや『GTO』、『HERO』、『プリンセス・トヨトミ』、『マスカレード・ホテル』などの映画を監督。
編成局第一制作室長を務めた後、現在は第一制作室役員待遇エグゼクティブディレクター。
映画『劇場版ラジエーションハウス』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
原作:横幕智裕・漫画:モリタイシ『ラジエーションハウス』(集英社「グランドジャンプ」連載)
【監督】
鈴木雅之
【脚本】
大北はるか
【キャスト】
窪田正孝、本田翼、広瀬アリス、浜野謙太、丸山智己、矢野聖人、鈴木伸之、佐戸井けん太、浅見姫香、山口紗弥加、遠藤憲一、山崎育三郎、若月佑美、渋谷謙人、原日出子、高橋克実、キムラ緑子、八嶋智人、高嶋政宏、浅野和之、和久井映見
※高嶋政宏さんの「高」ははしごだかが正式表記となります。
【作品概要】
原作は集英社「グランドジャンプ」にて連載中の同名コミック。2019年4月期にフジテレビ系列の月曜21時枠で放送され、2021年10月期にシーズン2が放送された。放射線技師という裏方の活躍に焦点をあてた新たな医療エンタテイメントとして人気を博す。
主人公の放射線技師・五十嵐唯織を演じたのは窪田正孝。放射線科医・甘春杏に本田翼、唯織と同じく放射線技師で、密かに唯織を想う広瀬裕乃に広瀬アリス。山口紗弥加、遠藤憲一、浜野謙太、丸山智己、矢野聖人、八嶋智人、鈴木伸之、高嶋政宏、浅野和之、和久井映見といったレギュラーメンバーも続投する。
監督は『マスカレード・ナイト』や『HERO』シリーズの鈴木雅之が務め、脚本を大北はるかが担当した。
映画『劇場版ラジエーションハウス』のあらすじ
72時間……それは、人の生死を分ける時間。
甘春総合病院の放射線技師・五十嵐唯織(窪田正孝)は落ち込んでいた。大好きな甘春杏(本田翼)が、放射線科医としての腕を磨くため、ワシントン医大へ留学することが決まったからだ。
「72時間を切ってしまいました」……お別れまでのカウントダウンを胸に刻む唯織のことを、ラジエーションハウスのメンバーは元気付けようとするが、唯織への秘めた想いを抱える広瀬裕乃(広瀬アリス)だけは、自らの進むべき道について悩んでいた。
そんな中、杏の父親・正一が危篤との連絡が入る。無医島だった離島に渡り小さな診療所で島民を診てきた正一だが、杏が父のもとに着いてほどなく「病気ではなく、人を見る医者になりなさい」との言葉を残し、息を引き取る。
生前、父が気に掛けていた患者のことが気になり、島に一日残ることにする杏。そこに大型台風、土砂崩れ、そして未知の感染症が襲いかかる。
遠く離れた地で杏が孤軍奮闘していることを知った唯織は、大切な仲間を守るため、苦しむ島民を救うため、ある決心をする。
8人の技師たちが選んだ未来とは。「別れ」の時刻が近づいている……。
堀木三紀プロフィール
日本映画ペンクラブ会員。2016年より映画テレビ技術協会発行の月刊誌「映画テレビ技術」にて監督インタビューの担当となり、以降映画の世界に足を踏み入れる。
これまでにインタビューした監督は三池崇史、是枝裕和、白石和彌、篠原哲雄、本広克行など100人を超える。海外の作品に関してもジョン・ウー、ミカ・カウリスマキ、アグニェシュカ・ホランドなど多数。