映画『クオリア』は2023年11月18日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次公開!
養鶏場を営む家族とその周りの人々を題材に、現代社会を生きる人々の縮図をユーモアに、かつ鋭く描いたブラックコメディ映画『クオリア』。
俳優として長年活躍してきた牛丸亮監督の初長編映画となった本作は、2023年11月18日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国順次公開されます。
このたび劇場公開を記念し、数々の映画作品で存在感を発揮し続け、本作では主人公・田中優子役として主演を務めた佐々木心音さんにインタビュー。
映画制作の現場で“生きている心地”を感じられるのはなぜか、『クオリア』で演じられた主人公・優子が併せ持つ“純粋さ”と“鈍さ”をどう演じられたかなど、貴重なお話をお伺いしました。
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自身と牛丸亮監督、互いが感じとった“縁”
──はじめに、今回主演を務められた映画『クオリア』との出会いについてお聞かせください。
佐々木心音(以下、佐々木):約2年前、私は当時在籍していた事務所を退所し、個人事務所を立ち上げて俳優として独立しました。30代を迎えて「もっと自分の好きな表現活動に集中したい」「もっと映画の世界に触れていたい」という想いが強くなったからです。
そして当時、自分の今後を模索するためにも、色々な監督や制作スタッフの方たちと会っていた中で、以前から俳優としてお仕事をご一緒する機会があった牛丸監督と改めてお会いできたのが、全ての始まりです。
『クオリア』は元々「劇団うつろろ」の舞台作品で、舞台を観劇し惚れ込んだ牛丸監督は「自らの手で映画化したい」と企画の構想を進めていたんですが、どうしても主人公の田中優子という役にハマる役者が決まらず、監督の中で企画を温めていたそうです。そんなタイミングで、私は監督とお会いしたんです。
企画について私と話す中で、牛丸監督は優子という役が私と重なると感じてくださったそうです。私も、先ほど言ったような心境だったこともあり、本当に幸運なご縁でした。
映画制作という“生きている心地”がする時間
──「映画の世界に深く関わっていきたい」というご自身の想いには、どのようにして気づかれたのでしょうか。
佐々木:元々映画を観に行くことや、ミニシアターという空間で過ごす「映画の時間」が好きだったんです。いち観客として映画に触れることに喜びを感じられましたし、それは俳優としても同じことでした。
テレビドラマへの出演やタレントとしてのお仕事をいただく機会もありましたし、いずれのお仕事も刺激的で面白く、勉強になることばかりでした。ただ「もっと制作現場の深いところに関わりたい」「もっと一つの作品に時間と情熱を注いでみたい」と改めて考えた時、やはり自分の俳優としての原点は「映画」というフィールドにあるのではないかと思い至ったんです。
言葉にするのが難しいんですが、作品を良くしようと皆でアイデアを出し合い、時間をかけて制作していく過程に憧れがあり、そこに自分の居場所を作りたかっただけなのかもしれません。
「映画愛に溢れた人たちと一緒に、より深い『映画の時間』を過ごしたい」「俳優として素晴らしい映画を生み出したい」……数々の出会いと現場での経験を通して、そうした想いはより一層強くなっていきました。
そして、今こうして映画に関わる機会が増え、より深く映画制作に携わる中でも、ある種の気持ち良さといいますか、“生きている心地”を感じているんです。
“純粋”から主人公・優子は生まれている
──映画制作を通じて“生きている心地”を感じられている中で、今回『クオリア』で演じられた田中優子という役とは、どのように向き合われていったのでしょうか。
佐々木:『クオリア』に限った話ではありませんが、ある役をいただけたということは、その役と自分との間の“重なり”を監督やスタッフの方々が感じとってくれたということでもあるはずです。
そのため、まずは役と自分との共通点を探すところから始めるんですが、優子の表面上に出てくるものと私自身の気質は全然違います。ただ脚本を読み進めていった時、優子の気持ちが私の中でとても腑に落ちました。
養鶏場を営む一家の妻として働く優子は「鶏も、人間も、生きとし生けるものは全て同じ」という純粋な考え方を持っていますが、それは私の根底にもある感性でした。母と一緒に活動している音楽においても“命の平等さ”といいますか「地球さん、生かしてくれてありがとう」という想いで歌っている曲があります。昔から私が持っていたごく当たり前の感覚が、優子の中にも流れていると感じたんです。
ただ、私の中で優子という人間を掘り下げていったら、そこにはまた違う感じ方がありました。映画を観た方がそれぞれに違う「クオリア(感覚質)」を感じてもらえるのが一番いいと思うので、細かくは言わないようにしますが(笑)。
今、自分の居られている場所に感謝して過ごしている。それが、優子という人間なのだろうと思っています。
優子の“鈍さ”を細やかに表現する
──それでは、優子という人間を演じられることに違和感を抱くことなく、撮影現場に入られたということでしょうか。
佐々木:そうですね……ただ、あくまでも「優子」は「優子」ですから、牛丸監督のイメージや脚本に描かれている人物像を汲み取っていくことも必要でした。特に一番分かりやすいのは、身体です。声のトーンや仕草、表情に関しては、私としては珍しく時間をかけて綿密にキャラクタライズしています。
脚本を読んだ時点で、私の普段の思考速度や身体の動きでは、優子という役を体現しきれないと考えたんです。きっと優子は私よりも鈍さがあって、敏感さをそぎ落とした人間で、だからこそ常に誰かのため、何かのために生きる強さも持てているんだと。それは俳優として優子を演じる上での、一つの挑戦でした。
優子の“鈍さ”は、決して何も感じていないわけではなく、少なからず表面上にも“反応”が現れています。映画は映像に映るものが全てですから、優子としての感情をいかに細やかに、数ミリ単位の目くばせや指の動きで調整するかを現場では意識しました。
また自分の身体に優子という人間を馴染ませるためにも、2週間地方の撮影現場にいた時にはなるべく「優子」として存在し続けるようにしました。
撮影が終わり、久しぶりに共演した方たちと改めてお会いした時には驚かれましたね(笑)。自分では気づけていなかったのですが、優子の少しドジなところやおっとりしたところが、撮影終わりのプライベートの時間でも私自身に残っていたようで「ずっと“役”が抜けないまま過ごしていたんだ」と後になって気づきました。
また苦労とは少し違いますが、私が優子を演じる上で相手からの影響を受けるお芝居が求められていた一方で、他のキャストさんたちはお芝居でそれぞれの役の感情を爆発させていました。そんな姿を現場で見ていると「いいなぁ」と少し羨ましくなる時もありました(笑)。
現実を生きる人々が納得する“生き様”を
──『クオリア』での佐々木さんのお芝居からは「自身の“命”を、役が生きている人生に重ねている」という感覚を抱きました。佐々木さんの俳優としての在り方の根底には、一体何があるのでしょうか。
佐々木:答えになっているかは分かりませんが、「新しい何かを世の中に生み出したくてしょうがない」……結局は、この言葉に尽きると思います。理想はファンの人たちにも「次こんなことやるの!?」と驚いてもらえるような表現活動を続けることで、それは俳優業に関わらず、音楽活動においても同じです。
また俳優としては「どんな役でも挑戦してみたい」という想いもあります。演じる役に本当にこだわりがないといいますか他者からの評価以前に「自分が自分に飽きたくない」という想いが自分の根底にあるからです。
他の誰かではなく“過去の自分”に勝っていたい。30代に入り、20代の俳優としての自分を振り返った時にも「このままではだめだ」「もう一度、覚悟を締め直して、生涯俳優として生きられる人間になろう」と決めました。俳優として理想の誰かを追いかけるのではなく、常に新しい自分へと挑戦したいんです。
──『クオリア』での主演も、佐々木さんの「“新しい自分”への挑戦を続ける」という生き様の一部であり、“次の挑戦”へのスタート地点でもあるのですね。
佐々木:本当にありがたいことに主演作が続いていますが、キャスティングにおけるポジションに関しても、個人的にこだわりはありません。
あくまでも、現実でその職業・立場を生きている方たちが映画の中の私を観て“納得”をしてもらえる俳優で在り続けたいんです。そして私の中の「役を生きる」という感覚が、そうした説得力のある芝居のリアルさにつながっていくんだと信じています。
『クオリア』で演じることのできた優子についても、養鶏場で実際に働く女性たちから納得してもらえるような生き様が、スクリーンを通して感じてもらえるのを願っています。
私は、映画を観てくださった方に「『佐々木心音』だと気づかなかった」と言ってもらえるのがうれしいんです。それは演じた役のリアルな“生き様”が、映画の中に込めることができたことの証でもあるからです。
また現実の人生には様々な苦難がある中で、その全ての“生き様”を糧にできるのが俳優という仕事だと感じています。海の底を蹴って水面へ上がるように、薔薇というよりは雑草のように、これからもたくましく生きていくことで、俳優としての表現の糧にしていきます。
インタビュー・撮影/松野貴則
佐々木心音プロフィール
1990年生まれ。高校在学中から舞台俳優として活躍。勉強のためにと2年間グラビアモデルを経験し、のちに映画『フィギュアなあなた』(2013/石井隆)のヒロインに抜擢される。
主な代表作に映画『最低。』(2017/瀬々敬久)『娼年』(2018/三浦大輔)『スキマスキ』(2015/吉田浩太)『愛の病』(2018/吉田浩太)、ドラマ『闇金ウシジマくん Season3』(2016/山口雅俊・川村泰祐)など。
映画俳優を軸に、舞台俳優、親子ユニット「CO906.」などシンガーソングライターとしても活躍中。
映画『クオリア』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【原作】
越智良知
【監督】
牛丸亮
【脚本】
賀々賢三
【キャスト】
佐々木心音、石川瑠華、木口健太、久田松真耶、藤主税、遠山雄、榎本桜、小林英樹、吉川流光、保坂直希、片瀬直、伊藤由紀、辻夏樹、田村魁成、田口真太朗、窪田翔、芦原健介、木村知貴、川瀬陽太
【作品概要】
長年俳優として活動してきた牛丸亮の初の長編監督作。2021年に上演された「劇団うつろろ」の同名舞台作品に惚れ込んだ牛丸が、舞台の作・演出を手がけた越智良知に映画化を提案し、自ら監督を務めた。
登場人物たちの人間関係をコミカルに描き、日本特有の自己犠牲と利己的な人物との狭間で生まれる人間模様を描いた本作の主演を務めたのは、『娼年』(2018)『最低。』(2017)の佐々木心音。また『うみべの女の子』(2021)の石川瑠華、『おんなのこきらい』(2014)の木口健太、『片袖の魚』(2021)の久田松真耶などが出演した。
映画『クオリア』のあらすじ
養鶏場を営む田中家に嫁いだ田中優子(佐々木心音)は、夫の姉である田中里実(久田松真耶)にいびられながらも、慎ましく日々の生活を送っていた。
そんなある日、優子の夫である田中良介(木口健太)の不倫相手、渡辺咲(石川瑠華)が養鶏場の住み込み従業員の募集に応募する形で田中家を訪れる。
面接を担当した優子は、咲が夫の不倫相手だとは知らずに採用を決めてしまう。
かくして、夫の不倫相手を交えた奇妙な共同生活が始まる……。