「中村公彦監督作品集 vol.1」は2023年3月14日より発売中!
『スモーキング・エイリアンズ』『恋のプロトタイプ』『おっさんずぶるーす』など、独特の世界観の映画を制作し続ける中村公彦監督の短編・中編作品を集めた初の作品集「中村公彦監督作品集 vol.1」。
同作品集に収録された一編『スルー・ロマンス』は、お互いの所属事務所の意向から“合成映像”でしか共演してこなかった、とある俳優の男女の恋を描いた作品です。
このたびの作品集発売を記念し、映画『スルー・ロマンス』にて主演を務めた女優・緒方ありささんにインタビュー。
『スルー・ロマンス』の撮影当時の思い出や作品への想いをはじめ、「自分自身の人生を救ってくれる」という役者の仕事の意味など、貴重なお話を伺うことができました。
CONTENTS
自分自身の人生が救われる仕事
──そもそも、緒方さんが役者としての活動を始められたきっかけは何だったのでしょうか。
緒方ありさ(以下、緒方):元々芸能活動に憧れがあり、高校の頃から色々なオーディションを受けるようになったんですが、その中で高校2年の時に偶然、劇団夜想会が製作を進めていた『初恋・夏の記憶』(2009)という映画の出演オーディションに合格したんです。
その後、自然な流れで「舞台作品にも出演してみないか」と勧められ、お芝居のお仕事が続いていくうちに「お芝居は面白い」、そして「役者をやりたい」と思うようになり、今まで続けてきたと感じています。
──緒方さんにとってのお芝居の、ひいては役者というお仕事の魅力とは一体何でしょうか。
緒方:人によって度合いは違っても、人生の中では凄く悲しいことやつらいこと、苦しいことが必ずあるわけじゃないですか。ただ、役者を続けていたら、そういったネガティブな出来事を「これは、お芝居に活かせるな」とポジティブに変換できるようになる瞬間があるんです。
些細なことで傷ついたり、心が揺れ動いてしまう瞬間は人生にはいっぱいあるけれど、それに対して「こんな状況の時には、人はこんな感覚を抱くのか」と考えることができる。すると、自分の心が軽くなるといいますか、「お芝居に活かせるのなら、今のこのつらさや、苦しさも、悪くない」と人生が救われるように感じられるんです。
そう感じられるようになったのはここ最近ですが、だからこそ私は役者という仕事を今まで続けてきたのかもしれません。
役者を続ける“自信”となった映画
──今回「中村公彦監督作品集 vol.1」に収録された主演作『スルー・ロマンス』は2013年に製作された映画ですが、緒方さんにとって本作はどのような意味を持つ作品なのでしょうか。
緒方:『スルー・ロマンス』を撮っていた20代前半の頃から、私は真剣に「お芝居を、役者を続けていきたい」と思うようになったんです。
高校生の頃はお芝居に対して“習い事”のような感覚も抱いていた中で、当時は「就職するのか」「それとも、役者を“仕事”として続けるのか」と自分の進路に迷った時期を経て、「役者を“仕事”として続けたい」と思い始めた時期でした。
そんな時に主演映画として関わることのできた『スルー・ロマンス』は、役者を続けたいと思い始めた自分にとって、一つの自信になった作品だと感じています。
緒方:また『スルー・ロマンス』の撮影現場では、先輩である共演者の方々がお芝居について「この場面は、こうした方がもっと良くなるのではないか」と中村監督へどんどん提案をされていたんです。
そして中村監督も「それ、いいね」と先輩たちの提案を受け取った上で、さらに演出を練ってくださる様子を見て「皆が役や作品に対して真面目だからこそ提案ができるし、それを受け取れるんだ」と感じました。
そういう意味では、『スルー・ロマンス』の撮影現場は本当に多くのことを学べましたし、「あの頃から、少しは成長できたかな」というタイミングで中村監督と『THEATERS』でまたお仕事をご一緒できたのは本当にうれしかったです。
役を演じる自信がもたらす“自由”
──『スルー・ロマンス』の撮影から10年近い月日が経過した中で、2023年現在の緒方さんが目標とされている演技の在り方についてお教えいただけませんでしょうか。
緒方:『スルー・ロマンス』に出演する以前は、優等生的に脚本を読み込み「作品においてどんな“部品”を、求められているのか」を熟考した上で、完璧な“部品”になれるように役を作り込んでお芝居をしていたんですが、それは結局「その“部品”になれる人間なら、別に“緒方ありさ”じゃなくてもいい」というわけで、役者緒方ありさとしての面白さや魅力はなくなってしまうんです。
役をただ演じるだけでなく、“緒方ありさ”という人間も表現しなきゃいけない。役者を仕事として続けていく上で「役と向き合うスタンスを変える」という課題が明確になっていった中で、先ほども触れた『スルー・ロマンス』の撮影現場での先輩たちと中村監督のやりとりを目にしたんです。
役との向き合い方は、今でも模索中です。ただ『スルー・ロマンス』で先輩たちがそうだったように、脚本を読み込んで「自分が演じる役は、どんな人間なのか」という想像を自分の中で積み上げ、演じる上での“自信”を持つことができたら、自分はその役を自由に演じられる。
そうすることで、お芝居を見る監督もお客さんも違和感を抱くことなく、その役は“一人の人間”として作品に存在していられるんだと思います。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
緒方ありさプロフィール
神奈川県・横浜市出身。ワイケーエージェント所属。
舞台・テレビドラマを中心に、映画・CMなどでも活躍。主な出演作には、テレビドラマでは『世にも奇妙な物語 秋の特別編』(2020)、『最高のオバハン 中島ハルコ』(2022)、『TOKYO RAILWAY-東京こじらせ女-』(2022)などが、舞台作品ではブシロード『アサルトリリィLeague of Gardens』(2020)、劇団CATMINT『青い世界線』(主演/2021)などがある。
また、ミニシアターを題材としたオムニバス映画『THEATERS』にて中村公彦監督が手がけた一編「シネマコンプレックス」に出演。同作にて、中村監督とは『スルーロマンス』以来9年ぶりに仕事を共にした。
「中村公彦監督作品集 vol.1」の販売情報
【DVD発売開始日】
2023年3月14日(日本映画)
【DVD販売元】
Cinemago
【DVD収録作品】
『ゆっくりしてけよフェアリーテール』(2010)
『もうひとりのルームメイト』(2012)
『スルー・ロマンス』(2013)
『はじめての悪魔祓い』(2014)
『愛ラブ人格クリニック』(2020)
収録作品『スルー・ロマンス』の作品情報
【製作】
2013年
【原作・脚本・監督・製作】
中村公彦
【キャスト】
緒方ありさ、原田祐輔、世志男、千葉誠樹、もりちえ、小新井涼、トリガイユウジ、柳東史、米本千晴、澤田萌音、柴崎楽、松浦祐也、ほたる、竹本泰志
【あらすじ】
人気女優・山吹杏奈(緒方ありさ)は20歳を迎える記念に、自身初の座長公演を行うことになった。
杏奈は亜門ヒロ(原田祐輔)を相手役に指名する。杏奈と2歳上のヒロは子役時代から何度も共演し、世間では「ゴールデンコンビ」と呼ばれるほど息が合った仲。
しかし二人は、実際には今まで一度も会ったことがない。お互いの事務所の社長同士が犬猿の仲で、二人を会わせないようにしていたのだ。過去のドラマもCMも歌番組も、すべて3D映像を合成しての共演だった。
杏奈はヒロに想いを寄せており、舞台をきっかけに自分の気持ちを伝えようとしていた……。
新作映画『THEATERS』クラウドファンディングが開始!
「映画の全国各地の劇場での公開拡大」を目標に、「Motion Gallery」でのクラウドファンディングを2023年4月23日〜2023年7月28日に実施中の映画『THEATERS』。
「必ず全国どこかの映画館(ミニシアター)でロケを行うこと」をテーマに、4名の映画監督がそれぞれに思い入れあるミニシアターを舞台に短編を描いたオムニバス映画です。
同作の一編にして中村公彦監督が手がけた『シネマコンプレックス』は、万年助監督だった中でようやく初監督作を完成させるも、関係者の突然のスキャンダルにより映画がお蔵入りになった男の“映画への愛と憎悪”の顛末を描いた作品。
また「シネマコンプレックス」には、中村監督が製作した映画『スルー・ロマンス』(2013)にて主演を務めた緒方ありささんが出演。『スルー・ロマンス』以来9年ぶりのタッグを組みました。
なお「シネマコンプレックス」のロケ地となったのは、緒方さんの実家近くにある神奈川県・横浜市のミニシアター「シネマ・ジャック&ベティ」。
中村監督にも緒方さんにも縁がある同映画館で、果たしてどのような映画が生み出されたのか。その答えは、「シネマコンプレックス」ひいてはオムニバス映画『THEATERS』を観ることで明らかになります。