映画『人数の町』は2020年9月4日(金)より全国ロードショー公開!
映画『人数の町』は、ある一人の男が、簡単な労働を引き換えに衣食住が保証され、「出るのも入るのも自由だが、その町から離れることはできない」という不思議な町をおとずれ、奇妙な生活を送っていくうちに、町の謎に迫っていく様を描いた新感覚ディストピア・ミステリーです。
この作品で物語のカギを握る女性・末永緑役を務めたのが、モデル・女優として活躍する立花恵理さん。今回は立花さんに作品の印象とともに、初挑戦となった撮影現場の様子などについて語っていただきました。
CONTENTS
第一印象は「邦画っぽくない雰囲気」
──本作で映画デビューを果たした立花さんですが、最初に脚本を読まれた際にはどのような印象を抱かれましたか。
立花恵理(以下、立花):脚本を初めて拝見した際には、作品に漂う「邦画っぽくない雰囲気」に面白さを感じました。具体的に言えば、脚本内で描かれているクセの強く個性的な登場人物たちや作品のイメージ、「ディストピアミステリー」とキャッチコピーとしても銘打たれている世界観が、他の日本映画作品からは似た雰囲気を感じたことがないと思えたんです。
また本作への出演が決まった後、荒木伸二監督から「こういう風に撮りたい」という映像イメージとしていくつかの資料を送っていただいたんですが、その中には海外のマイナーなドラマや映画作品も含まれていました。ですから荒木監督も、ご自身にとって初の長編映画である本作を通じて、「邦画」という枠組みだけでは捉え切れない雰囲気を描こうと考えていたんだと思います。私もそういった雰囲気の作品は好きだと感じていたので、それはむしろ嬉しく思っていました。
「エキゾチック」けれど邦画の魅力も持った映画
──本作の雰囲気について、より詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。
立花:非現実的なようで現実的と言いますか、非現実と現実の狭間にその世界が存在しているかのような絶妙なファンタジー性があるんです。それに映像から感じとれる温度感がとても独特だと感じられました。そういった海外の映画作品から感じることがある雰囲気を描いている一方で、多くの日本映画に共通する魅力である湿度感を保っている。その絶妙なバランス感が面白いと思っていたんです。
──日本映画と海外映画それぞれの魅力が混ざり合い、ある種の無国籍性が本作の雰囲気として生じていたということでしょうか。
立花:確かにそうかもしれません。だからこそ、本作は世界でも通用しうる映画ではないかと思うんです。湿度感という日本映画の魅力を保ちつつ、エキゾチックな映像感覚と混ざったことで、本作の独自の世界観が生まれているんだと感じています。
荒木伸二監督の人柄があってこその映画制作
──立花さんの眼から見て、撮影現場での荒木監督はどのような方だと感じられましたか。
立花:荒木監督はとても穏やかな方で、いわゆる威圧感というものが全くないんです。とても話がしやすいし、何でも柔らかく受けとってもらえる空気感をまとった方でした。
実際の撮影現場でも、監督一人が指揮を執るというよりは、スタッフやキャストそれぞれと話をしながら撮影を重ねていくように進められていました。その一方で、自分自身の世界観や映画に対する認識をしっかりと持たれていて、それをスタッフやキャストの皆とどのように表現していくかを常に考えているようでした。
私自身も本作が初めての映画出演だったので、荒木監督との会話の中で監督ご自身が描きたいものをお聞きし、同時に自分自身の意見も伝えていくという風に、本当に話し合いながら緑という役柄や演技プランを形作っていきました。
実は「身近」かもしれない物語
──ご自身が演じられた緑という役について、荒木監督とはどのような話し合いをされたのでしょうか。
立花:緑の人物像に関しては撮影前のリハーサルの段階から話し合いをしていましたが、ある時荒木監督から「緑がかつて町の外でどのような生活を送っていたのか」「どのような経緯から町で暮らすようになったのか」といった大まかな設定メモをいただいたことを覚えています。私はそういった設定メモや脚本から緑の心情を感じとって彼女の細かな設定を自身で考えていったんですが、荒木監督はその設定を尊重してくださり、その上でさらに話し合いを続けていきました。
──立花さんは緑という役と人物像をどのように捉えられていたのでしょうか。
立花:私自身は、緑という役を本作の登場人物の中でも特に複雑なキャラクターだと捉えています。実はヒステリックに演じてしまえば簡単に演じられてしまう役でもあるんですが、それは同時に彼女の人物像を単純化してしまうことでもあったので、そうしてしまうことだけは避けました。
また緑への第一印象は「壊れてしまった人」でした。町の住人のほとんどは町という空間に依存しているんですが、緑の場合は現実で生きるための拠り所となるものが一つしかなく、それが崩壊してしまえばどこにも逃げ場がない人間でした。くわえて自己が決して強くない、精神的にも未熟な人間だったことから、依存という場所へと逃げてしまいました。
依存って、どのような形であれ、人それぞれにとっての自己がないからこそ生まれるものだと思うんです。ただ、それは緑や町の住人というフィクションの世界だけでなく、現実の世界でも無数に生まれているものだと感じています。そう考えると、本作の物語はとても身近な話なのかもしれませんし、緑が具体的にどのような形で依存という場所に逃げてしまったのかを知る中で、それを現実の世界と照らし合わせることもできるのかもしれません。
インタビュー/河合のび
撮影/田中館裕介
構成/桂伸也
立花恵理プロフィール
1993年生まれ、岐阜県出身。2013年に開催された「ViVi30周年記念専属モデルオーディション」に出場しグランプリを獲得、同年に「ViVi」専属モデルとして活動を始めました。
近年は役者としても活動を開始し、『TWO WEEKS』『リカ』『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』などのドラマ作品に出演。本作にて映画デビューを果たしました。
映画『人数の町』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本・監督】
荒木伸二
【音楽】
渡邊琢磨
【キャスト】
中村倫也、石橋静河、立花恵理、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗、山中聡
【作品概要】
衣食住が保証され、セックスで快楽を貪る毎日を送ることができる。そして「出入りは自由だが、けっして離れることができない」という謎の町を舞台に、借金で首が回らなくなった果てに町に足を踏み入れた主人公が、出会う人々との交流を経て「町」の謎に迫っていく新感覚ディストピア・ミステリーです。
キャストには主人公・蒼山を中村倫也、ヒロイン木村紅子役を令和版『東京ラブストーリー』で赤名リカ役を演じ話題となった石橋静河が担当。また本作で映画初出演となった『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』の立花恵理、『映像研には手を出すな!』に出演の山中聡など、フレッシュな面々が顔をそろえています。また脚本・監督を、松本人志出演の「タウンワーク」CMやMV制作などを多数手がけ、本作で初の長編映画に挑戦した荒木伸二が務めています。
映画『人数の町』のあらすじ
借金取りに追われ暴行を受け、人生に絶望していた蒼山は、ある日黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられました。その男は蒼山に「居場所」を用意してやると告げ、彼をある奇妙な「町」に連れていきます。
そこでは、初対面の住人同士が独特の挨拶を交わすルールがあったり、住人が交流するためのプールで、気に入った女性や男性を誘って自由にセックスできたりと、一見すると楽に暮らせるパラダイスのような町。
しかし衣食住を保証してもらうためには、簡易な労働をしなければなりません。その仕事内容は、他人に変わって選挙の投票をしたり、街頭に寝そべってデモをしたりと奇妙なことばかりですが、住民たちは深く考えることなく仕事を受け入れていました。
「出入りは自由だが、けっして離れることができない」という町の謎を、蒼山は少しずつ解き明かしていきます……。