映画『燕 Yan』は新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて公開中。以降、全国順次公開!
2020年3月に開催された第15回大阪アジアン映画祭「特別招待作品」部門にて上映され、ついに2020年6月5日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開を迎える映画『燕 Yan(つばめ イエン)』。
このたび大阪アジアン映画祭での上映に際し、主人公・早川燕役の水間ロンさん、その兄・林龍心役の山中崇さん、そして今村圭佑監督にインタビューを敢行。台湾での撮影、今村監督の画作りに対するこだわり、演じられた水間さんと山中さんからみた「兄弟」の姿など、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
台湾を舞台に「あて書き」する
水間ロンさん(早川燕役)
──本作の物語はどのような経緯によって作り上げられたのでしょうか?
今村圭佑監督(以下、今村):本撮影に入る半年前には、台湾での撮影をはじめ「自身のアイデンティティーの行方」「母とのつながり」といった大きなテーマはすでに形作られていました。それからシナリオハンティングのためにロンくんとともに台湾へ行き、場面ごとの舞台となる場所、撮影したい場所を事前に決めました。その上で場所への「あて書き」という形でシナリオを作り上げていきました。
水間ロン(以下、水間):本撮影の一年以上前から企画は進められていたんですが、僕も初期段階から企画に参加していました。シナリオハンティングにも同行し、脚本作りにも今村監督やプロデューサー陣とともに参加させていただいたため、本当にゼロから参加した作品でした。
僕自身も中国で生まれ日本で育ったため、幼い時に感じたことや経験したことを今村監督や脚本の鷲頭紀子さんに話し、それらを本作の物語や描写に取り入れていただきました。
今村:本作の人物たちにとって「自分たちはどこから来て、今現在はどこにいるのか」はそれぞれにとって非常に重要な問題です。だからこそ話し方や振る舞い方も大きく変わってくると感じていたため、映画の中ではあえて明確には描かなかなった人物たちのバックボーンについては皆で慎重に話し合いました。それは邦画とはいえ、日本の方だけが観る映画にはしたくないと思ったからでもあります。
作品テーマとリンクした撮影現場
──山中さんが本作の脚本を最初に読まれたのはいつ頃なのでしょうか?
山中崇(以下、山中):本撮影の半年程前には、脚本をいただいたんですが、やはり言葉が一番の壁になると思ったので、その後中国語のレッスンを基本から受けることにしました。また、発音のニュアンスやイントネーションについてはロンくんやトニー役のテイ龍進さんに尋ねましたし、本撮影では台湾人のスタッフさんもいらっしゃったので、皆さんにはとても頼らせていただきました。
──ちなみに台湾での撮影に関しては、どの場面からクランクインされたのでしょうか?
水間:台湾へ渡った燕が兄である龍心の家を訪れたものの、インターホンを押すべきかどうかを悩む場面ですね。
今村:台湾での撮影をその場面から始めたいと提案したのは僕です。当初はできうる限り時系列で撮影をしたいと考えていたので。
また台湾での撮影期間は1週間でしたが、その時間はとても濃密なものでした。僕はCMやMV制作のために、台湾の他にも海外の色々な国で撮影を行う機会が多いんですが、言葉はもちろん撮影の進め方、撮影そのものに対する考え方の違いによって現場でトラブルが起こってしまうことも時にはあります。くわえて「海外での映画制作」は初の経験だったため当初は不安もあったんですが、台湾のスタッフたちとも本当に仲良くなったし、作品や描こうとしているテーマについても非常に深く理解した上で撮影に参加してくれました。それは「日本と台湾のスタッフが一緒に映画を撮る」ということ自体が本作のテーマに近かったからかもしれませんし、そうした良い環境で撮影を進められた成果は映画の中でも表れているはずです。
カメラマン/映画監督として
今村圭佑監督
──本作はカメラマンとして活躍されている今村監督の初監督作品となりますが、今村監督は画作りをどのように進められるのでしょうか?
今村:映画を観る際、人間の脳は映像をいくつもの「瞬間」として切り取って記憶するじゃないですか。それらが積み重なることで「映画」としての物語が形作られるわけですが、例えば本作のテーマを映像として表現するために観客は何を画として覚えているのか、その上で次にどのような画を提示すべきなのか計算して撮り続けていく。そういった画作りは今まで仕事を続けてきたからこそできることでもあります。
──それは、やはり撮影現場で対象を撮る際にこそ思い浮かぶものなのでしょうか?
今村:そうですね。「撮影現場で感覚的に選択を続けていく」と言えば単純かもしれませんが、その選択を間違えることなく、どう画を切り取り続けていくのかがカメラマンの仕事だとも感じています。そもそも「良い画」と呼ばれるものはそこまで多く落ちていません。それをどれだけ見つけられるのか、切り取ることができるのかが重要だと思っています。
演じた二人からみた「兄弟」
山中崇さん(林龍心役)
──水間さんと山中さんは、それぞれが演じられた燕と龍心という兄弟の関係性をどのように捉えられていたのでしょうか?
山中:大阪アジアン映画祭で改めて本作を観て思ったんですが、僕が演じた龍心は当初、わざわざ台湾へ来た弟からずっと逃げているんですよね。自分から寄り添いたいけれど、寄り添おうとしない。むしろ寄り添おうとしてるのは弟なんだと。そういった兄としてずるさが少なからずあるんだと思いました。
また劇中におけるトニーの台詞で「憎しみの感情も愛情から生まれる」という言葉があります。龍心は弟に対しても自分自身に対しても許すことのできない、嫌いでどうしようもない何かを感じているんですが、それは結局そこに愛があるからであり、少なくとも無関心ではない。実は弟のことがとても好きで、子どもの頃に仲良くしたかったんだろうなと感じるんです。そして大人になった現在、龍心はそれをうまく表現することができない。彼はそういった状態で弟と再会してしまったんだろうとは強く意識しました。
水間:弟の燕にとっても、一青窈さんが演じられた兄弟の母親にとっても、何より燕を演じた水間ロンという人間にとっても、そういう部分はあると感じています。
たとえば昔の僕が嫌っていたものは、燕にとっての台湾という存在でもありました。また僕には燕のように兄がいて、同じように長い間嫌っていました。それは僕が多分子どもだったからなんだと今は感じています。兄に対しても、自分自身の生まれに対してもどこかで愛おしさを感じるようになり、そう思えるようになったのが「大人になった」ということなのではと僕自身は思っています。
「兄弟」が現れた瞬間
──最後に、今村監督の目からみた水間さん・山中さんの「兄弟」としての姿についてお聞かせ願えませんか。
山中:それは聞いておきたいですね。
水間:ははは(笑)。
今村:実は本作の撮影を進めていく中で、「この二人、顔がちょっと似ているな」と感じる時があったんです。実際は別に似ていないんですが、カメラを通して二人の姿を見つめていると「ああ、やっぱりこの二人、兄弟に見えるな」と感じる瞬間があるんです。映画というつながりがあったからかもしれませんが、それは撮影現場で初めて気付かされました。
山中:実際、本作ではありがたいことに準備の時間を多くいただけたので、制作にあたって色々な事柄をお互いに共有できる時間も多く作ることができたんです。だからこそ撮影現場でもあまりお芝居を相談する必要もなかったので、そういった環境の影響が大きかったのかもしれません。
インタビュー・撮影/出町光識
構成/河合のび
映画『燕 Yan』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督・撮影】
今村圭佑
【脚本】
鷲頭紀子
【キャスト】
水間ロン、山中崇、テイ龍進、長野里美、田中要次、宇都宮太良、南出凌嘉、林恩均 / 平田満、一青窈
【作品概要】
第43回日本アカデミー賞を受賞した映画『新聞記者』など数多くの話題作で撮影監督を務め、若きトップカメラマンとして活躍している今村圭佑監督の長編デビュー作。第19回高雄映画祭「TRANS-BORDER TAIWAN」部門に正式出品されたのち、第15回大阪アジアン映画祭にて日本初上映されました。
主人公・燕役は『パラレルワールド・ラブストーリー』などで知られる水間ロン。兄・龍心役は『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』などでバイプレイヤーとして活躍する演技派俳優の山中崇。兄弟の母・林淑恵役を歌手の一青窈が演じています。
映画『燕 Yan』のあらすじ
28歳の早川燕は、埼玉在住の父から台湾・高雄で暮らしている燕の兄・林龍心に、ある書類を届けるよう頼まれます。
かつて燕を中国語で「イエンイエン(燕燕)」と呼んでいた台湾出身の母・林淑恵は、燕が5歳の時に兄だけを連れていなくなってしまいました。
それから20年以上の月日が流れた現在。燕は様々な思いを抱えながらも台湾へと旅立ちます……。