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Entry 2020/03/25
Update

【豊島圭介監督インタビュー】映画『三島由紀夫vs東大全共闘』討論会を通じて映し出したかった“血肉の通った議論”

  • Writer :
  • 河合のび

映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』は2020年3月20日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中

東大全共闘をはじめとする1000人をも超える学生たちを相手に繰り広げられた伝説の討論会の様子を軸に、三島由紀夫の生き様を映した豊島圭介監督のドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』。


photo by 田中舘裕介

このたび本作の劇場での公開を記念して、豊島圭介監督にインタビューを行いました。

映画館という劇場にて討論会の光景を映し出す意味、豊島監督の目からみた三島由紀夫の人物像、討論会から感じとった現代における議論についてなど、貴重なお話を伺いました。

900番教室と化す映画館


(C)SHINCHOSHA

──本作を通じて目の当たりにした討論会の記録映像は、観ていて非常に「熱」を感じられるものでした。

豊島圭介監督(以下、豊島):本作の制作に向けてインタビュー取材を開始する前、本作のプロデューサーが今回出演してくださった芥正彦さんのもとへ交渉に伺ったんです。その際、芥さんは「あの討論会は教室で開かれた」「だからこそ、あの討論会の記録映像を映画館という劇場で上映したら、劇場は教室と化し、映画は授業そのものになる」と仰ったそうです。私は芥さんの言葉に「なるほど」と納得しました。もちろん「映画」を制作する以上、討論会の記録映像をそのまま流すつもりはありませんでしたが、「授業」という言葉はとても頭に残りました。

テレビやスマホといった小さなモニターではなく、映画館の巨大なスクリーンで討論会の記録映像を観る。そうすることで、観る者は当時の討論会に参加した千人以上の学生たちと同じ感覚に陥り、映画館は900番教室へと変わっていく。「学生の一人として、1969年に行われた討論会に参加する」という体験を観客のみなさんに味わってもらえたらと感じたんです。

教室を「劇的空間」として演出する


(C)2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

──討論会の様子は、映画館という劇場と900番教室が時を超えて繋がったことも相まって、非常に「劇的」であったといえます。

豊島:そもそも三島にしても芥さんにしても、当時討論会に参加した者の多くは900番教室を「劇的空間」に変えようという魂胆があったんです。

芥さんがまだ赤ん坊だった自身の娘を教室に連れてきたのも、ある種のショーとしてのハプニングを舞台上で演出し、三島や参加者たちにどのような作用がもたらされるのかを図っていたという側面がありました。また三島の方も、新潮社のカメラマンだった清水寛さんを教室に呼び、非常にメディアを意識した振る舞いをしていました。

900番教室は確かに討論会の場でもあったものの、ある種の「劇的空間」と化すことを予期した人々が、「自分たちの討論が他者に対してどれだけの影響を与えられるのか?」を追求するために演出と演技を競い合う空間でもあったんです。

「多面体」の人間・三島由紀夫


(C)2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

──本作では白熱する討論会の様子が描かれていく一方で、三島由紀夫という人間が抱えていた孤独についても触れられていました。

豊島:「芸術家」と呼ばれる人々が孤独であることはもはや自明の理だとは思いますが、僕からみた三島由紀夫という人間は「どの面に対しても100パーセント真剣であり続ける人」なんです。

東大全共闘の学生たち、「楯の会」のメンバーたち、はたまた「平凡パンチ」といった大衆雑誌の編集者といったどのような人間に対しても、常に「真剣」で接していた。あまりにも全てに対して真剣だからこそ、周囲の人々はどれが「本当」なのかと思わず疑ってしまう。その真剣さから、僕は三島を「多面体」の人間としてよくイメージするんです。

もし三島由紀夫という人間が孤独であったとするならば、「彼は多面体の人間だったが、その『面』が多過ぎたゆえに孤独だったのではないか?」とは感じますね。本作でも描かれている討論会での様子や彼を知る人々のエピソード、彼が遺した著作物を通じて、把握し切れないほどの「面」を持つ三島のメンタリティに多くの方が驚くはずです。ですが一方で、その多面体の内側にはぽっかりと空洞が空いているのかしれないとも思うんです。

ただ本作において、三島の自決とその死から逆算して1969年の討論会を再考することだけは、制作の初期段階からやめていました。それはなぜかというと、1971年生まれの僕より上の世代である人々、たとえ当時まだ小学生だった人々にとっても、「三島由紀夫の死」は衝撃的な事件だった。そして2020年の今でも、それは本当に大きなクエスチョンとして存在し続けている。そのため「三島について語る」という行為は「三島の死について語る」という行為と同義だと考えている方が非常に多いんです。

僕が三島の死について語ろうとしても、それは幾千、幾万とある解釈に一つの解釈が足されるだけに過ぎないし、真実には到底近づけない。だからこそ彼の死について深く語ることをやめ、それよりも「この1969年の討論会において三島がいかに生き生きしていたのか?」「彼がどう生きていたのか」に注目したかったんです。

敬意と熱情をもって言葉を用いる


photo by 田中舘裕介

──討論会の記録映像の中で垣間見た三島と芥さんの「ある行動」からは、意見の対立という壁を超えた人間同士としてのつながりが見出せました。

豊島:本作の冒頭、作家の平野啓一郎さんが「三島は言葉の有効性を確かめにここへ来たんだ」とおっしゃっているんですが、そこに尽きるのだろうとは感じています。

討論会での三島は自身の言葉を尽くした上で、相手の言葉に対しとても真剣に耳を傾けています。一方で芥さんや東大全共闘の学生たちも、当時の彼らが持っていたもの以上のボキャブラリーを用いているのではと思えるほどに、三島と言葉を交わそうとしている。ただ頭ごなしに否定し揚げ足をとろうとするのではなく、お互い必死に相手とのコミュニケーションをとろうと試みていた。それがつながりを生んだんじゃないかとは思いますね。

だからこそ、やはりこの討論会から学ぶべきなのは、敬意と熱情をもって言葉を用いることは非常に大事なことであり、それが他者との関係性を生むということです。

実は本作を制作するにあたって、僕はツイッターなどのSNS上、ネット上における議論を反面教師としていました。匿名で見境なく、一方的に罵詈雑言を浴びせる場に対して、僕は醜さや虚しさを感じていた。それとは対照的に、この討論会がいかに血肉の通ったものだったのかを伝えたいという思いが本作の出発点だったんです。

ですがそのツイッター上でも、時には非常に建設的な、血肉の通った議論が生まれることもある。それを左右する理由として、やはり相手を理解しようとする、コミュニケーションをとろうとする言葉のやりとりがあるか否かが深く関わっている。「言葉」と「敬意」そして「熱情」があるからこそ、人々は「関係性」という新たなものを生み出せるんだと感じています。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

豊島圭介監督プロフィール

1971年生まれ、静岡県浜松市出身。

東京大学在学中のぴあフィルムフェスティバル94での入選を機に映画監督を目指す。卒業後ロサンゼルスに留学し、AFIの監督コースを卒業。帰国後、篠原哲雄監督などの脚本家を経て2003年に『怪談新耳袋』(BS-TBS)で監督デビュー。以降映画からテレビドラマ、ホラーから恋愛作品まであらゆるジャンルを縦横無尽に手がけている。

主な監督作は、映画では2010年の『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『ソフトボーイ』、2014年の『花宵道中』、2016年の『ヒーローマニア 生活』『森山中教習所』など。テレビドラマでは2013年の『ホリック~xxxHOLiC~』、2016年の『黒い十人の女』『徳山大五郎を誰が殺したか?』、2018年の『I”s(アイズ)』、2019年の『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』『特捜9』などがある。

映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
豊島圭介

【出演】
三島由紀夫、芥正彦、木村修、橋爪大三郎、篠原裕、宮澤章友、原昭弘、清水寛、小川邦雄、瀬戸内寂聴、椎根和、平野啓一郎、内田樹、小熊英二

【ナレーター】
東出昌大

【作品概要】
1969年5月、東京大学駒場キャンパスで行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会の様子を軸に、三島の生き様を映したドキュメンタリー。「伝説」とも称される討論会を記録したフィルム原盤をリストアした映像を中心に、当時の関係者や現代の識者たちの証言とともに構成。討論会の全貌、そして三島の人物像を検証しています。

ナレーターを三島の小説『豊饒の海』の舞台版にも出演した東出昌大が、監督を『森山中教習所』『ヒーローマニア 生活』で知られる豊島圭介が務めています。

映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』のあらすじ


(C)2020 映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」製作委員会

1968年に大学の不正運営などに異を唱えた学生が団結し、全国的な盛り上がりを見せた学生運動。中でももっとも武闘派とうたわれた東大全共闘をはじめとする1000人を超える学生が集まる討論会が、1969年に行われました。

天才作家・三島由紀夫は警視庁の警護の申し出を断り、単身で討論会に臨み、2時間半にわたり学生たちと議論を戦わせます。

伝説とも言われる「三島由紀夫VS東大全共闘」のフィルム原盤をリストアした映像を中心に当時の関係者や現代の識者たちの証言とともに構成し、討論会の全貌、そして三島の人物像を検証していきます……。



編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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