映画『マイライフ、ママライフ』はテアトル新宿/2021年9月14・16日とシネ・リーブル梅田/9月29日、『12ヵ月のカイ』はテアトル新宿/2021年9月15日に上映!
クリエイティブチーム「ノアド」で活躍する映像ディレクター・亀山睦実が手がけた映画『マイライフ、ママライフ』と『12ヶ月のカイ』が、「田辺・弁慶映画祭セレクション2021」にて上映されます。
綿密な取材により、亀山監督自身と同じ世代の女性の悩みを描いた『マイライフ、ママライフ』。ヒューマノイドが存在する少し先の未来を舞台に描かれる恋愛SFサスペンス『12ヶ月のカイ』。いずれも女性を取り巻くさまざまな問題をテーマにした作品です。
今回の「田辺・弁慶映画祭セレクション2021」での上映にあたって、⻲⼭睦実監督にインタビュー取材を敢行。自身と同世代の女性を描くことや創作への想いを存分に語ってくださいました。
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同世代の女性の悩みを撮った『マイライフ、ママライフ』
──平成元年生まれの女性を描いた『マイライフ、ママライフ』。亀山監督ご自身も平成元年生まれですが、同じ世代の女性を主人公に映画を撮ろうと思われたきっかけは何でしょうか?
⻲⼭睦実監督(以下、⻲⼭):『マイライフ、ママライフ』は、私が普段仕事でご一緒しているプロデューサーが「若手監督のオリジナル脚本で映画を製作したい」とおっしゃってくださり、いくつか企画案を出した中で実現した作品の一つです。
この映画の企画は2~3年前に考えていたのですが、そのころ高校の友人や大学の友人といった同級生たちが、Twitterで日々のストレスや悩みを吐き出している状況に気付きました。また彼女たちが抱えていた悩みは、社会問題としてニュースなどでも頻繁にとり上げられていました。そういう問題が身近で起こっているんだと実感し、衝撃を受けたからこそ作品にしようと思い立ったのです。
──三島沙織(演:鉢嶺杏奈)と大内綾(演:尾花貴絵)という二人の女性を主人公に据えた上で、「結婚」と「子ども」という二つのテーマを中心に物語が描かれていますね。
⻲⼭:私の周囲では子どもの世話をはじめとする家庭での仕事も、生活費を稼ぐための仕事も一人でやらなければならない、いわゆる「ワンオペ状態」に追い詰められている友人がとても多かったため、まずはその部分を撮りたいと思いました。その一方で、子どもを持ちたいけれどなかなか持つことができない人もいたので、両方の面を撮りたいと思ったのです。
──作中では「いまどき寿退社なんて珍しいよね」というセリフからも、昭和の時代と比べての女性の働き方への意識の変化が描かれている一方で、女性が仕事を続ける上で担わなければいけないものはまだまだ大きいとも気付かされました。
亀山:私は独身なので、主人公二人のどちらでもない立場の人間なんです。ただシナリオハンティングのためにいろいろな方のお話を伺っていく中で、意外に昭和を生きてきた親の世代から変わっていないことのほうが多いと実感させられました。
夫婦間のコミュニケーションのとり方や社会制度、企業の考え方は確かに変わりつつあるのですが、それらはあくまでも、東京など限られた狭い地域でしか起こっていないことなのだろうと捉えています。日本全国で考えると、鉢嶺杏奈さんが演じる沙織のように、すべてを一人で抱えて働き、悩み続けている女性がとても多いのではと思います。
キャストと意見を交換し作り上げた『12ヶ月のカイ』
──一方の『12ヶ月のカイ』は、『マイライフ、ママライフ』とはかなり違ったテイストの作品ですね。
亀山:『12ヶ月のカイ』は当初、短編としての制作を考えていました。その時に描こうとしていたものは「ヒューマノイド」ではなく、あくまでガジェットに近いもので、あえて他の映画作品で例えるなら、人間とAIがコミュニケーションをする『her/世界でひとつの彼女』(2013)のような話を描こうと考えていたんです。
ですがAIではなく、もっと人間的な存在に近づけた上で、かつ長い時間人間と一緒に生活させたらどんなことが起こるんだろうと思うようになり、脚本を書き進めていきました。
この映画は季節ごとに撮影をしていったのですが、脚本自体は「キョウカとカイが出会って最初の4ヶ月間」しか書いていませんでした。そこから先は撮影していく中で、カイ役の工藤孝生くんとキョウカ役の中垣内彩加さんと3人で「次、二人はどうなると思う?」と話をして、その都度脚本を書きながら撮影していく……ということを繰り返しました。
また、私たちの話し合いに参加してくださった方もいて、その方の発想もあって「キョウカがどのような選択をするのか」「彼女の選択にカイがどういう反応をして、どのようなことが起こるのか」を考え、あのような結末に至りました。
──『マイライフ、ママライフ』と『12ヶ月のカイ』は設定も世界観も大きく異なる作品ですが、登場する女性たちの考え方には共通点があると感じられました。
亀山:キョウカとカイに起こった出来事を目の当たりにした時、たぶんこういう対立が起こるだろうなと想像しました。
また作中で描いているキョウカの友人4人の意見も、全員バラバラですよね。キョウカが置かれている状況を目の当たりにした時、女性はどのように考えるのかと思った時に、キョウカに味方をする人もいれば、反対する人もいる。それぞれの考えを持った女性たちの代表者を登場させたかったんです。
「映画の裏側」を観て知った作り手たちの世界
──亀山監督が映画の仕事に携わりたいと思ったきっかけは何でしょうか?
亀山:小学生から中学生の時、映画のメイキングを観るのがすごく好きでした。そのころから映画作りに興味を持ち始めたような気がします。「ハリー・ポッター」シリーズや「踊る大捜査線」シリーズといった大作映画のメイキングをよく観ていたのですが、スタッフさんたちがとても楽しそうに生き生きと仕事をしているので「こういう現場で仕事をしたい」と思うようになったんです。
残念ながら、今はメイキングを観る機会や方法が少なくなりつつありますが、当時はメイキングの特典ディスクがある作品をあえて探しては観ていましたね。
──今後、どのような作品を撮っていきたいとお考えでしょうか?
亀山:興味があるのは、選挙の話です。「政治家の日常」って、全く想像がつかないじゃないですか。世の政治家たちは、投票前の2~3週間は表に出てきていろいろ言っていますが、そのために彼らは裏で何をしているのか、その意図や効果は一体何なのか、そして何に頭を悩ませているのか……それらを描いたドタバタ劇な映画にできたら面白いなと思っています。
伊丹十三監督の『お葬式』(1984)という映画がありますが、その作品は父親が亡くなったことで直面する「お葬式ってどうやればいいの?」という課題と立ち向かうことになる家族のドタバタ劇です。そうしたテイストで政治や選挙について撮れたら、若い人にも「面白い」と思ってもらえるかもしれません。
2つの作品をあらゆる世代に届けたい
──『マイライフ、ママライフ』にてご自身と同じ平成元年生まれの女性を描かれた今、亀山監督にとって「平成」とはどんな時代ですか?
亀山:平成はバブル崩壊など、社会的にもいろいろな出来事があり、どんどん価値観や考え方が変わってきた30年間だったと思います。
女性が働きやすいように、会社や国の制度ができてきたことは確かです。ただ、私たちが作ったシステムに私たち自身が追いついていないところがあると思います。昭和は「女性が働くことができる社会を作らなければ……」ということを発見した時期で、平成はそういう時代に頑張って追いつこうと思ったけれど、まだ追い付かなかった時期……という印象ですね。
そして平成は、人とのコミュニケーションのとり方が変化してしまったことによって、本質的な話がしづらくなってしまったような気がします。なんとなく人間関係が上手くいくように差し障りのない話をするだけで、プライベートで何を悩んでいるのか、人生をどうしたいのか……という大切な話をする機会がないと感じています。
──改めて、2作品のアピールをお願いいたします。
亀山:『マイライフ、ママライフ』で描かれている話と関係のない人間は、いないと思うんです。マイノリティーの話と見せかけた超ド級のマジョリティーの話なので、男性女性問わず、どの世代の方が観ても何かに引っかかるし、持って帰るものがあると思います。
作品を観て「自分たちの会社を変えよう」とまでは思わなくていいけれど、パートナーに対して優しくしてみようとか、もし行政の人たちに届けば、私たちの街ではこうしようとか、作品をきっかけに新しい考えが出てきたら嬉しいです。もちろん多くの女性に観ていただきたいとは思いますが、男性の方々が観てくださった時の反応が意外に面白いと感じているので、今後どんな反応をしていただけるかをすごく楽しみにしています。
『12ヶ月のカイ』は、全部撮り終わった時「どう編集したらいいか」が一度分からなくなったことがあるんです。そういう意味では、いろいろ考えながら脳みそを働かせて観ていただくような映画で、ずっと胸がザワザワする話です。ですが脳みそは、疲れれば疲れるほど快楽物質のアドレナリンが出ると言われていますから(笑)。また音楽を担当された今村左悶さん、長澤敏生さん、音響効果を担当された松野泉さんが音にとても丁寧にこだわっているので、ぜひ劇場で観ていただきたいですね。
また「LINE NEWS」内にある「VISION」という縦型動画プラットホームでは、『ソムニウム』というスピンオフドラマを配信しています。『12ヶ月のカイ』で出てくるヒューマノイドメーカー「ソムニウム」の過去にまつわる話なので、そちらを観ていただけるとより『12ヶ月のカイ』が「そうだったのか!」と楽しめると思います。
インタビュー/咲田真菜
⻲⼭睦実プロフィール
1989年⽣まれ、東京都葛飾区出⾝。映画監督、映像ディレクター。
⽇本⼤学芸術学部映画学科監督コース卒業後、2016年にクリエイティブチーム・ノアドに⼊社。映画、SNSドラマ、広告、テレビ、2.5次元舞台のマッピング映像演出など、幅広いメディアでの企画・演出・脚本等を担当する。
主な映画・ドラマ監督作品は『ゆきおんなの夏』、『追いかけてキス』、『マイライフ、ママライフ』、『12ヶ月のカイ』、『ソムニウム』など。
映画『マイライフ、ママライフ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
⻲⼭睦実
【キャスト】
鉢嶺杏奈、尾花貴絵、⽔野勝、池⽥良、柳英⾥紗、中⽥クルミ
【作品概要】
結婚から3年、イベント会社で仕事に熱中する⽇々を送っている⼤内綾。4歳と1歳半の二人の⼦どもを育てながら保険会社で働く三島沙織。平成元年生まれの二人が『家族留学』での出会いを通じて、自分の人生を見つめ直していきます。
メインスタッフ・キャストを平成元年生まれの女性クリエイターで固め、等身大の女性を描いた本作は、いまの女性の「幸せ」について多様な価値観を表現し、「不安」を抱えている人たちに「共感と可能性」をもたらしてくれる映画となっています。
映画『マイライフ、ママライフ』のあらすじ
結婚から3年、イベント会社で仕事に熱中する⽇々を送っていた⼤内綾(尾花貴絵)は、30歳の誕⽣⽇に夫・健太郎(⽔野勝)から「そろそろ⼦どもが欲しい」と告⽩されます。妊娠・出産に勇気がもてないまま3年間⽣きてきた綾は、健太郎からの強引な「⼦ども欲しいアピール」に辟易します。
バリキャリな独⾝の同僚・実加⼦(中⽥クルミ)に、ちょっと⽣意気な後輩・結⾐(柳英⾥紗)。⼦どもを育てながら働く⺟親社員の⼭崎が時短勤務を申請したことで、仕事のしわ寄せが綾たちにふりかかり、職場での優しくない現実を⽬の当たりにし、⼦どもを持つ時期を先延ばしにしてしまう綾。
⼀⽅、4歳と1歳半の二人の⼦どもを育てながら保険会社で働く三島沙織(鉢嶺杏奈)は、「本当にやりたい仕事」を諦めて、⼦どもたちのために⽇々を捧げていました。夫・博貴(池⽥良)からは家事育児の協⼒が得られず、不満が積もり募る沙織。しかし、夫が真⾯⽬に働いてくれていることもあり、なかなか本⾳を⾔い出せずにいました。
ある秋、綾は仕事で『家族留学』という家族体験プログラムのイベント運営を任されることになり、『家族留学』の体験で、沙織の家族と対⾯することに。綾は、⼦どもを持つ働く⺟の気持ちが理解できず、沙織のことを傷つけてしまい──。
それぞれ悩みを抱える同い年の二人が出会い、人生のわだかまりを少しずつ解きほぐしていく物語。
映画『12ヶ月のカイ』の作品情報
【公開】
1日限定劇場上映
【監督・脚本・撮影・編集】
⻲⼭睦実
【キャスト】
中垣内彩加、工藤孝生、岡田彩、今井蘭、夏目志乃、小河原義経、木口健太、大石菊華、山本真由美
【作品概要】
「ヒューマノイド」が製品化され社会に流通している近未来を舞台に、青年の姿をしたヒューマノイドとそれを手に入れた女性の間に起こる関係性の変化と思いがけない結末を描いた恋愛SFサスペンス。
劇場公開に先駆け、「LINE NEWS」内の動画コンテンツ「VISION」では、「本作の前日譚」として制作されたオリジナルショートドラマ『ソムニウム』(全8話)が2021年6月3日(木)より順次配信を迎えました。
シリーズ詳細ページ:https://news.line.me/issue/oa-vi-somnium/h3mgc5g8qyo0
映画『12ヶ月のカイ』のあらすじ
今から少し先のおはなし。
東京でWEBデザイナーとして働くキョウカ(中垣内彩加)は、日常生活を共に送れるヒューマノイド「パーソナル・ケア・ヒューマノイド(通称:PCH)」のカイ(工藤孝生)を手に入れます。
キョウカとの会話を重ね、持ち主について徐々に学習していくカイ。キョウカはやがて、カイに「物として以上の感情」を持ち始めます。
ある月、キョウカとカイは、人間とヒューマノイドの間に命を生みだしてしまいます。彼らは人間とヒューマノイドなのか、それとも、女と男になってしまったのか。
友人たち、母親、別のPCHオーナーのシンとの対話の中で、キョウカはひとりの人間の女性として、現実と本能の間で揺れ動きながらも、未来を決めていきます。