映画『魔法少年☆ワイルドバージン』前野朋哉×宇賀那健一監督インタビュー
映画『魔法少年☆ワイルドバージン』は「30歳まで童貞を貫くと魔法使いになれる」という都市伝説が現実となり、特殊能力が使えるようになった、ひとりの冴えないサラリーマンがヒーローとなって活躍する姿を描いたラブコメディです。
今回は、主人公を演じる前野朋哉さんと宇賀那健一監督のツーショットインタビューをお届けします。
前野さんは取材のために『魔法少年☆ワイルドバージン』の劇中に登場するヒーロースーツで登場。本作に俳優として演じた想いや撮影現場でお話、また、おふたりの少年時代など、多岐にわたりお話を伺いました。
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バカバカしいことを全力でやる
──前野さん、ヒーロースーツまで着ていただいてありがとうございます。
前野朋哉(以下、前野):いえ、当たり前のことです。ヒーローなので(笑)。
──実際にヒーローを演じてみたご感想は?
前野:普通のヒーローは絶対的な強さを持ち合わせていると思いますが、今回のヒーローは、眼からビームは撃てるけど、撃つと眼が痛くなったりと、かなり厄介なところがあったので、果たしてヒーローと呼べるのかどうか疑問ではあります。
撮影中はこのスーツを着て普通に外を歩いてましたが、撮影開始の頃は、そわそわしちゃって挙動不審で余計怪しかったと思います。撮影後半にはその感覚も麻痺してきてましたが(笑)。
──前野さん演じる星村は、誠実で感情をストレートに出していく清々しさがありました。
前野:星村くんはカッコイイなと思います。とても素直で、愛する人が囚われたら助けに行く。王道ですけど、まさにヒーローですよね。それは脚本を読んだ時点で監督の想いが伝わってきたので誠実に演りたいと思いました。
──宇賀那監督が本作を撮ろうと考えたきっかけは?
宇賀那健一監督(以下、宇賀那):「湖畔の映画祭」に『黒い暴動』という作品を持って行った時に、映画祭に集まった監督やプロデューサーの方たちと次は何を撮るのかという話になって、半径2メートルくらいの割と身近な話ではなく、ぶっ飛んだ作品が撮りたいと話していたら、パッと浮かんだのがこの映画のイメージで、本当にフラッシュアイデアでしたけど、その時に皆さんが物凄く笑ってくれて、これはイケるかもと思いました。
振り切ったものを低予算だからこそ出来ることもあると考えていたので、それを一回やりきりたいという想いもありました。
前野:脚本を読んだ時には、結構壮大な描写があって、どうするんだろうと思っていましたが、脚本を忠実に映像化した印象です。
宇賀那:たぶんシーンの入れ替えや、まるまるカットしたシーンは一個もないです。
スタッフ・キャスト全員でつくった撮影現場
──本作は少年性が詰まったような作品でした。
前野:監督が少年みたいでしたから。たまに「コイツ何言ってんだ」と凄く腹が立つこともありました(笑)。
例えば、戦闘シーンの撮影で、監督が「こっちからマントヒヒビームがこうきて、それは受け止めてもらって。今度は二発目があっちからくるから、それは避けてもらって」といった結構な長い段取りを、興奮して説明するんですけど、スタッフ、キャスト誰一人わかってないんです。そもそもマントヒヒビームってなんですかみたいな(笑)。
それを一連で撮ることになって、撮る時にめちゃくちゃ嬉しそうな顔で「一連でいくから」と言った時には殺意を覚えました。
宇賀那:何回も見れるなぁと思って嬉しかったんです(笑)。現場ではいろいろと変更したりシーンを増やしたりということが多かったかも知れません。
前野:その都度みんな、アイデアが思いついたら監督にぶつけて、つくっていきました。別に誰かが主導権を握っていた訳でもなく、いいアイデアは採用してってやっていく現場でした。
──監督の中にも意見を取り入れてつくっていこうという意識はあったのですか?
宇賀那:そうですね。スタッフもキャストも気心の知れた仲間でしたので、どんどん意見を取り入れていこうとは考えていました。
前野:星村くんがヒロインを助けに行くか逡巡していると、ヒーローのフィギュアがパタンと倒れて、それが引き金となって決意するシーンがあるんですが、フィギュアが倒れるアイデアは僕が出したもので、採用された時は嬉しかったです。
宇賀那:どうフィギュアを倒すかが意外と大変だったりもしましたが、そういうアナログなことや、些細なことだけど、それをどう実現するかをみんなで考えるのは本当に楽しかったです。
斎藤工さんからもクランクインする前日に連絡があって「禁欲を続けてたらどうなるか、ずっと考えていたんですけど、睾丸がふたつ爆発した設定にしてもいいですか」とか「精子が心中して髪の毛とか爪に浮き出たいんですけど、小麦粉買っていっていいですか」と言って小麦粉をふったりとか、そういう意見もそのまま取入れています。
この映画は、バカバカしいかもしれないけど、どれだけ一生懸命にやれるかが大事だと考えていました。変に笑わそうとすると逆に冷めたりします。結構尖ったことをやっているので、しっかりと真剣につくっていけるかが肝心だと考えていました。それを前野くんが察して、星村をとても誠実に演じてくれたので、他のキャストの方々も前野くんの芝居を見て理解が進んだし、やっぱり前野くんに演じてもらって本当に良かったなと思います。
前野:ありがとうございます!
「ごっこ遊び」をした少年時代
──おふたりはどんな少年時代だったのでしょう。
前野:僕は仮面ライダーとかヒーローものが好きで、ヒーローショーに行ったりもしていました。あとは犬の散歩を毎日してたんですけど、その時にいつも妄想していました。ニヤニヤしながら犬の散歩をしてました。あの時間は今でも覚えていて、凄く時間がゆっくり流れていたような感じがして好きでした。
それと、僕は人前に出るのがそんなに好きではなかったので、学校で劇をやったりする時には凄くお腹な痛くなったりして、あんまり向いてないと思っていました。
それでも当時の仲が良かった友達とチームを組んで、学校の放送室からお昼時間に好きに番組が持てる企画があったりすると、J-POPでダンスしたり、お楽しみ会でどうしようもないコメディですが劇を作ってやってみたりはしました。きっと誰かが笑ってくれたのが嬉しかったのかもしれないですね。
宇賀那:僕も前野くんと同世代なので、仮面ライダーやウルトラマン、あとドラゴンボールが大好きで、よくごっこ遊びをしていました。
それと母親がスプラッター映画が大好きで、僕がアンパンマンとかをVHSで借りてきて観ると、その後に絶対スプラッター映画を観るんです。ですから今回の映画で血反吐を吐くのも、幼少期に観たサム・ライミ監督作品の影響です。血反吐を吐かせられる機会なんて中々ないので、今回そういう意味でも凄く楽しかったです。やりたいこと本当に詰め込んだ感じですね。
なくてはならない「映画」の存在
──お二人にとって映画とは何ですか?
前野:一生遊べるおもちゃで、死ぬまで付き合っていけるものです。この先もしかしたら牙を剥かれるかもしれませんが、これさえあれば人生って楽しいなと思えるものです。映画を観ていないと体調が悪くなりますし。
映画の現場に行って疲れ果てて、映画によって疲弊しているのに、映画を観に行って回復する、そんな魔力がかった、なくてはいけないものだと思っています。
宇賀那:前野くんの言っていること凄くわかります。僕は、あくまで鑑賞者であり続けたいと思っています。というのは、作り手でもあるけど、結局は他の映画を観て、こういうことをやりたいとか、こういう映画ばかりだから全然違ったことをやりたいというものが生まれてくる。映画をつくるより観る本数のが圧倒的に多いですし。
映画が好きだからこそ、辛いことがあっても続けていけるし、やりたいものも生み出てくれる。そういう意味で、一生お客さんではあり続けたいと思っています。
──今後、どんな映画を作っていきたいですか?
前野:自主映画で作って2017年の東京国際映画祭で上映させて頂いた短編『春夫と亮二第一話河童』という作品の「第二話」を作りたいと考えています。「第一話」は河童が出てくるんですが、また次も妖怪を出したくて、今日ちょうどここに来る時にアイディアが浮かんだので来年撮れたらなと考えています。妖怪とオジサンは絶対に出したいです(笑)。
宇賀那:映画は僕にとって夢みたいなものなので、子どもの頃に見た「ゴジラ」みたいなスケール感のある感動を撮る監督が減ってきてるような気もしています。どれくらいの頻度で作れるか分かりませんが、そういうファンタジー系の映画を撮り続けていきたいなと思っています。
映画館で「映画を観る」体験
──おふたりとも「映画」への拘りは強くあるのですね。
前野:そうですね。結局自分が中学生高校生の頃にいちばん楽しかった思い出が映画なので、そこだけは揺るぎなく「映画は絶対的に面白いもの」だっていう自信のようなものがあります。
もしかしたら今の子はそうじゃなくて、僕にとっての映画が、YouTubeやNetflixといったネット配信だったりするかもしれないですが、とにかく自分にとっては映画が特別な存在です。
その魔力に取り憑かれてしまっただけなのかも知れませんが、恐らく僕にとって映画を映画館で観た思い出は、一緒に観た仲間とか、共有した時間とかいろいろ含め物凄く特別な体験だったんです。ですから映画は映画館で観て欲しいです。映画館で観れば感じるものが違いますし、絶対に面白いよっていう確信があります。
宇賀那:映画をつくってコメントを頂くためにDVDを送って見てもらうのと、試写会場で観てもらうのとだと、どうしても温度差があります。劇場用につくっているので当たり前ですが、やっぱり試写で観ている人の方が力強いコメントを頂けます。特に今回のようなコメディだと笑いをみんなで体感するっていうこともひとつの楽しみだと思うので、是非劇場に観に来て貰いたいです。
ヘアメイク/中村まみ
インタビュー・写真/大窪晶
前野朋哉(まえのともや)プロフィール
1986年1月14日生まれ、岡山県出身。
『剥き出しにっぽん』(2005)で映画デビュー後、俳優・映画監督を並行して活動。KDDIauの一寸法師・彦星役に抜擢され話題を集める。
監督としては、岡山県PR動画ハレウッドシリーズを3年連続で担当。
主な映画出演作に『桐島、部活やめるってよ』(2012)、『大人ドロップ』(2014)、『エミアビのはじまりとはじまり』(2016)、『嘘八百』(2018)、『チェリーボーイズ』(2018)、『劇場版仮面ライダージオウOverQuartzer』(2019)、『プリズン13』(2019)、『“隠れビッチ”はじめました』(2019)など。
2020年公開待機作品にはアニメーション映画『音楽』、『嘘八百 京町ロワイヤル』、『一度死んでみた』などがある。
宇賀那健一(うがなけんいち)プロフィール
1984年4月20日生まれ。青山学院経営学部出身。
ブレス・チャベス所属の映画監督/脚本家/俳優。俳優としてTVCM『メントスレインボー』シリーズ、映画『着信アリfinal』、ドラマ『龍馬伝』などに出演。
初監督した映画『発狂』がアメリカを中心に数々の国際映画祭に入選。続けて監督した三作品がカンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに入選。ゆうばり国際映画祭2011では『宇賀那健一監督特集上映』が行われた。
ガングロギャル映画『黒い暴動♥』が2016年に公開、娯楽が失われた世界を描いた映画『サラバ静寂』が2018年に公開。NYLON創刊15周年プロジェクトの『転がるビー玉』の監督も務める。
映画『魔法少年☆ワイルドバージン』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
宇賀那健一
【キャスト】
前野朋哉、佐野ひなこ、芹澤興人、田中真琴、濱津隆之/斎藤工 ほか
映画『魔法少年☆ワイルドバージン』のあらすじ
保険会社に勤めながら営業成績も悪く、恋人が出来た経験もない星村幹夫。
幼少期に母親を亡くしてしまった経験から、根だけは優しい星村は「童貞のまま30歳を迎えた」ことで「魔法使い」として覚醒します。
上司からの激しいパワハラ、新入社員の女性との恋、冴えない先輩との友情、進展するはずも無かった様々な事柄が「魔法使い」としての能力に目覚めたことで進展していくことになりますが…。