映画『星屑の町』は2020年3月6日(金)より全国公開中。
1994年に上演された舞台『星屑の町・山田修とハローナイツ物語』を皮切りに、その後25年に亘って全7作が上演されてきた「星屑の町」シリーズを原作とする映画『星屑の町』。
映画では舞台のメインキャストをそのままに、ヒロインにはのんを迎え、売れないムード歌謡コーラスグループ「ハローナイツ」の悲喜交交を、杉山泰一監督が優しくコミカルに描き出します。
今回は、ハローナイツのメンバー市村敏樹を演じるラサール石井さんのインタビューをお届けします。舞台から映画となった本作の魅力、作品に対しての想いを語ってくださいました。
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原作舞台キャストが勢揃いの“昭和”な映画
──本作はとてもぬくもりを感じる映画でした。
ラサール石井(以下、ラサール):映画としては今どきには珍しい作風ですよね。出来上がったものは、僕らが子どもの頃に観ていた昭和の映画に似ていて、若い人はこんな作品は観たことないでしょうし、年配の方はどこか懐かしさと感じてくれると思います。本作ではワンシーンゲストが登場するんですけど、昭和の映画にはしょっちゅうありました。渥美清さんがポンと現れたり、志村けんさんも出演していて、お客さんはゲストが登場しただけで笑う。今回もそんなゲストが出てきますから、そういったところにも懐かしい感じがするんだなと思います。のんちゃんも出ていますし、若い人にも観に来て貰いたいですね。
──本作は舞台作品が原作となっていますが、、映画化に至った経緯は?
ラサール:『星屑の町』は舞台でシリーズ化して25年間やってきた作品です。その間にも映画化の話は何度かあったのですが、なかなか話がまとまらなかった。今回についても、舞台では作・演出を務め、映画では脚本を担当した水谷龍二さんに「石井、映画になるぜ」「のんちゃんが出るぜ」と言われたのですが、「また潰れるんだろう」って誰も信じてなかったんです。そうしたら、あれよあれよという間に始まって、あっという間に撮影して、映画が完成するのにも普通だと1年以上待つのに、撮影から10ヶ月ほどでで劇場公開を迎えた。「実現する時は、案外こういう感じなんだな」と思いました。
今回は本作の監督を務めた杉山泰一監督から映画化の話を頂いたんですが、杉山監督は有り難いことに、初演から観てくださっている「星屑の町」のファンで、「映画もオリジナルのキャストでやる」と言ってくれたんです。キャストの僕らもイイ歳なので、全員が代わっても文句は言えないところなのに。おそらく映画になっていちばん嬉しかったのは小宮(孝泰)じゃないかな。小宮とはいちばん長い付き合いで、酸いも甘いも噛み分けているので、何を考えているかもよくわかりますから。ずっとやってきたご褒美みたいなものですね。それにしても、みんなまだよく生きましたね(笑)。
舞台と変わらぬ作品づくり
──舞台と映画で違う点はありますか?
ラサール:映画の脚本は僕たちが38歳くらいの時に演った初演の台本なんです。菅原大吉くんは小宮(が演じる山田修)の弟・英二を演っていますが、舞台では英二がヒロインの愛ちゃんに惚れているという設定でした。でも今やイイ歳になったので、英二はお父さんであり、その息子が惚れているという設定に変わりました。あとは内容も台詞も舞台と殆ど変わっていません。僕らがただ歳をとっただけで、言っていることもやっていることもほぼ舞台と同じです。何度も演ってきた芝居だから、全員の息は既に出来上がっている。だから撮影現場では「小宮は映像ウケの演技をしてるな」とか、「俺は演劇のままでいこうか」とか、そんなことを考えながら演っていました。演出での指定も特になく、本当に早く撮影が進んでいきましたね。
あと僕の場合は、38歳の頃は本当に女好きだったから、女の子を口説いている役でもいけましたが、この歳で女の子にチョッカイかけるのはリアリティがないから、ただ単になんでもかんでも調子良く誘っちゃうみたいな役柄に変えてはいきました。
──ハローナイツのメンバーの丁々発止のやり取りがとても面白かったです。絶妙な間(ま)の取り方などは、まさに舞台で培われてきたものですね。
ラサール:舞台では、1回本読みをしたら直ぐに立ち稽古で、どこに誰が座って、どう動くかは、演出の水谷さんは何も指示しないから自分たちで考えて演るんです。だから稽古では「あ、アイツあそこ行ったな、じゃあ俺はここ」といった具合に場所の取り合いになる。その間にも芝居でステージ衣装に着替えなきゃいけないから、段取りも全部自分たちでやらなきゃいけない訳です。この段階でどこまで着替えているか、わざと下半身だけ下着のままで歩くとか、そんなことを計算して、ほぼ1〜2日で主な動きを作り上げて、あとは長い時間をかけて稽古をしていきます。
映画でも杉山監督から立ち位置の指示はあっても、その後の移動は自由に演らせて貰えました。例えば、コーヒーを注ぎに行く導線がある。するとコーヒーメーカーに行く時に誰かとちょっと目が合うとか、そういう動きをリハーサルで演った上で、監督が撮影の仕方を現場でつくっていく。
そういう“場所取り”が1番上手いのが吾郎役の有薗芳記くんですね。後ろの方にいるんだけど、整髪料ムースをぐるぐるしていたり、持っている物を振り回していたりとか目が行くように上手いんですよ。映画でもやっぱり有薗くんは上手かったですね。
台本も当て書きに近い箇所があって、菅原くんは仙台生まれだから英二も東北出身の設定に。他のメンバーの出身地も、演っている人間の本当の出身地なんです。また劇中のエピソードも実際のエピソードを盛り込んでいたりしていますね。例えば僕(が演じる市村敏樹)が「大阪生まれで、チャラチャラしていて飲み屋で女の子を口説いたりしている」というのも昔の僕のことだし、サブやん(太平サブロー)とも親友で漫才のようなこともやっていた。そういったドキュメントが含まれているという側面もあるんです。楽屋での場面も、みんなで普段もワイワイやっているから、楽屋で待機している時とほぼ一緒なんですよね。どこからどこまでが芝居なのかわからない(笑)。
“女優のん”の圧倒的な存在感
──本作のヒロインを演じられた女優のんさんの存在感も素晴らしかったです。
ラサール:いやもう凄いですよ。憑依型の役者さんで、役に入り込んじゃっているんですよ。最初の田舎娘の時は凄く猫背で、それが売れてくるとピーンと背筋が伸びていく。特に「シャボン玉」を歌うシーンの時の化粧と格好はオードリー・ヘップバーンみたいでしたね。この娘は「可愛い」じゃなくて「綺麗」なんだなと思いました。眼がキラキラしていて本当にスターだなと。だからこそ、それに纏わりついている金魚のフンみたいなおじいさんたちが逆に愛らしく見えるのかな(笑)。
この台本の良いところは、うらぶれて売れてもいなくて歌にしがみついている人たちを、「本当にあんたらの人生つまらないな」と一喝する少女が出てくるところです。強いて言えば、今どきの若い子がハローナイツを好きっていう設定がちょっとね(笑)。もちろん、サブやんがお父さんかもしれないと思っているという重要な理由はあるんですが。それに1度騙されて故郷に帰ってきて、また芸能界に入りたいと夢を持ち続けている地方の女の子たちは結構いますよね。ただ、その夢の矛先がアイドルじゃなくて、ムード歌謡コーラスグループってところが、逆に昭和的で面白いのかな(笑)。
画期的だった「おじさんの観るおじさんの芝居」
──舞台のお話をもう少しお伺いします。初演は1994年の下北沢ザ・スズナリでしたね。
ラサール:当時は小劇場ブームではありましたが、僕らより若い人たちが身振り手振りを激しく、音楽を大音量でかけてやるような芝居ばかりで、おじさんが観にくるおじさんの芝居がなかった。僕は当時38歳で他のメンバーも同世代で、それなりに若くはあったんですが、もう既に「おじさんの芝居」でした。それがかなり画期的で観たことのないものだった。しかも歌で終わるというイヤに懐かしい作風が受け入れられた。それからそういう芝居が増えていったので、若い劇作家にも影響を与えたんだと思います。
また「星屑の町」のイイところは、誰でもウェルカムに呼べるところ、だからこそあくまで僕らが主役ではないところです。風間杜夫さん、平田満さんとかいろんな人を連れてきて、最終的には新宿コマ劇場で前川清さんと演りました。
──ラサールさんにとって舞台の魅力とは何ですか?
ラサール:多くて1000人、少なくて100人ほどの人間の前で、これだけの時間をかけたモノを演る贅沢さですね。そして演れば消えてしまう。何よりもお客さんの前で演ってるということが大事で、実はそれを続けていないとテレビも出来ないんです。「俺はライブで観客の前でやっているんだ」という自信によって、なんとかテレビに行っても演れる。
──最後に、これから新たに挑戦したい事などはありますか?
ラサール:今は落語を演っています。あとスタンダップコメディ。「日本スタンダップコメディ協会」というのを清水宏が作って僕も入っていて、年間2〜3本、小さい所だと月に1本くらい演っていますが、これをもう少し充実させたいですね。
それと『仁義なき戦い』をミュージカルにしたいと思っています。構想はあって、東映さんには持ち掛けていて許可は頂いていますが、プロデュースしてくれる人や貸してくれる劇場があるかというところです。実現できたら嬉しいですね。
インタビュー・撮影/大窪晶
ラサール石井プロフィール
1955年10月19日生まれ、大阪府出身。
渡辺正行、小宮孝泰と「コント赤信号」を結成し1980年テレビデビュー、多くのバラエティ番組に出演し人気を博します。俳優としても多くの作品に出演し、舞台の演出家としても活躍。
近年の主な映画出演作に『こちら葛飾区亀有公園前派出所THE MOVIE」(2011)、『小さいおうち』(2013)、『スプリング、ハズ、カム』(2017)、『星くず兄弟の新たな伝説』(2017)、『生きる街』(2018)など。
映画『星屑の町』の作品概要
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
水谷龍二
【監督】
杉山泰一
【キャスト】
大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、のん、菅原大吉、戸田恵子、小日向星一、相築あきこ、柄本明
【作品概要】
25年愛され続けた大人気舞台「星屑の町」シリーズが、ヒロインにのんを迎えて映画化となりました。監督は、森田芳光監督の助監督として力を付け、『の・ようなもの のようなもの』で初監督を務めた、杉山泰一監督。地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」が、織りなす人情ドラマ。映画の舞台は、東北の田舎町。
映画『星屑の町』のあらすじ
「山田修とハローナイツ」。大手レコード会社の社員だった山田修(小宮孝泰)をリーダーに、歌好きの飲み仲間、市村敏樹(ラサール石井)と込山晃(渡辺哲)、青木五郎(有薗芳記)をコーラスに、大阪ミナミでくすぶっていた歌手の天野真吾(大平サブロー)をボーカルに迎えてスタート。途中から参加した西一夫(でんでん)は、ハローナイツの借金を肩代わりするのを条件に、博多の焼き鳥屋と4人の子どもを女房にまかせてメンバーに。
それぞれの事情を抱えながらグループを続けてきたものの、これといったヒット曲もなく、ベテラン女性歌手・キティ岩城(戸田恵子)と地方を回りながら、何とか細々と活動を続けている。
そんなある日、東北の田舎町でメンバーが出会ったのは、東京から出戻り、再び歌手になる日を夢見る田舎娘・愛(のん)。 突然、ハローナイツに入りたいと直訴して、大騒動に発展、すったもんだの末に、愛はハローナイツに加入することとなり、状況が一変!たちまち人気者となりスポットライトを浴びることに。 思いがけず夢を叶えたかに見えたメンバーだったが…。