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Entry 2019/05/27
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【工藤梨穂監督インタビュー】『オーファンズ・ブルース』記憶と希望の光を巡る冒険

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『オーファンズ・ブルース』は、2019年5月31日(金)よりテアトル新宿ほか全国順次公開!

京都造形大学の卒業制作として、工藤梨穂監督が同校の仲間と作った映画『オーファンズ・ブルース』。

若手映画作家の登竜門として知られる、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)2018でグランプリ受賞の快挙を果たした作品です。


©︎Cinemarche

主人公のエマは記憶を失いゆくなかで、大切な人物を探し求めています。そして、エマと幼い頃に同じ施設で過ごした幼なじみのバンは、そんな彼女と共に旅路を行きますが…。この映画は、彼らの暑い夏と光の日々を描いたロードムービーです。

映画『オーファンズ・ブルース』の全国への公開にあたり、工藤梨穂監督にインタビューを行いました。

工藤監督の映画制作への衝動の原点や、独自の脚本の書き方から色彩にこだわった演出術。また『オーファンズ・ブルース』の記憶にまつわるエピソードをお伺いしました。

映画監督への道


©︎Cinemarche

──工藤梨穂監督が、映画を撮ろうと思ったきっかけは?

工藤梨穂監督(以下、工藤):高校2年生の時に、西加奈子の『さくら』を読み、今まで感じたことのない感動を経験しました。

この感覚を同じ時間と空間で誰かと共有したいと思い、映画ならそれが可能だと思ったのがきっかけで、映画監督になろうと思いました。

──言葉で描かれたものを映画にしたいというよりは、場を共有したい、という思いの方が強かったということですか?

工藤:もちろんその作品を形にしたいという気持ちはありましたが、気持ちを共有したいなと思ったのが始まりでした。とはいえ、それまで映画をあまり見たことがありませんでした。

そこで最初は日本映画から荻上直子監督や園子温監督、その後、海外の作品も見るようになりました。ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』にも影響を受けたし、その中でも、高校3年生の時に観たグザヴィエ・ドラン監督の『私はロランス』にとても感動したのを覚えています。

──「人と共有する」という思いの根底には何があるのでしょうか?

工藤:5歳の頃、福岡シティ劇場で劇団四季の『ライオンキング』を観て、舞台によって見せる側と見る側が一体化していく感覚に衝撃を受けました。

その影響から小学校2年生から6年生までの間、ヤマハのミュージカルコースに入って、舞台に出たりして。観客が一体化する、感動を共有し合う感じ、それが忘れられない感覚としてありました。

中学校の頃はバンドを組み、舞台の時と同じように自分が演じ手になることを体験し、大学時代はライブハウスに行って観客として、その場にいる人たちと感動や高揚を共有することに喜びを感じました。

福岡から京都へ

工藤監督の短編映画『サイケデリック・ノリコ』(2015)


©︎Riho Kudo

──映画を学びに京都造形大学に入学してみていかがでしたか?

工藤:京都に来て一番よかったのは、「人」と会えたことです。映画学科の先生や仲間たちとの出会いとその中で過ごした4年間は自分の人生でも最も大切な時間だったと思います。

京都造形大学在学中に、2年生の時で撮った短編『サイケデリック・ノリコ』(2015)、『サマー・オブ・ラブを踊って』(2016)の2本と、そして今回の卒業制作として撮った『オーファンズ・ブルース』(2018)を制作しました。

これまでPFFには短編2本を出品して選外だったのですが、まさか、今回グランプリを受賞するとは思っていませんでした。でもその一方で審査員の方達がこの作品を見過ごすことはないだろうという思いもありました。

俳優・村上由規乃の魅力


©︎Riho Kudo

──エマ役の村上由規乃さんの起用についてお聞かせください。

工藤:この企画を考えたときに、村上さん以外に主演はありえないと思いました。私がイメージする人物の「顔」だったし、彼女も私のイメージに合わせてくれているところがありました。

村上さんは同じ大学の俳優コースの同期で、私が初めて撮った『サイケデリック・ノリコ』にも出演しています。

──監督から見た村上さんの魅力はどこでしょう。

工藤:第一に、村上さんの顔が好きってことがあります。

俳優をされている方が多くいるなかで、やはり彼女は他の人とは何か違ったものを感じる。芝居に対する真剣さ、シナリオを読み込んで一つ一つのことを丁寧に考えて…。彼女が提示する芝居に、私一人の力では思いもよらなかったことを表現してくれて、素直に素晴らしい俳優だなと思っています。

登場人物を形作ること


©︎Riho Kudo

──他の俳優さんについてはいかがでしょうか。

工藤:村上さん以外の役柄については、ほとんど当て書きでした。これまで大学時代一緒に制作をしてきた仲間でもあり、卒業制作も彼らと映画を作ると決めていました。

役柄もそうですが、この映画を形作っていくなかでは、私が出演者たちと共に過ごしてきたという過程や、彼らの背景を知っているからこそできた部分もあると思います。

例えば、辻凪子という俳優は、出演作のなかでもコメディエンヌとしての役柄を演じることいです。でも私は「別の辻凪子」を見てみたかった。そこで今回の役柄を作り上げました。

その中で唯一バン役の上川拓郎さんは、大学の外から参加してもらった俳優でした。脚本を書いている時に、バンというキャラクターは風を擬人化したような人物として描いていたので、周囲の空気を変えるような元気な人がいいなと思い、上川さんにオファーをしました。


©︎Riho Kudo

工藤:衣装も、アロハシャツにして、風をパタパタを感じられるようにして、時折自分の感情がコントロールできない、というところも「突風」をイメージしたり…。

この物語を想起したのは、京都の古本屋で見つけた寺山修司さんの『ひとりぼっちのあなたに』の一節にある、「夏は、終わったのではなくて、死んでしまったのではないだろうか?」という文章からなんです。この言葉が作品を作る出発点になっています。

心象と色彩の術

──そうなんですね。シナリオを書く時に、登場人物にイメージをつけていったのですね。他の登場人物はどうですか?

工藤:元々の発想は、フランス語からきています。フランス語の名詞には性別を分ける冠詞があって、例えば夏は男性名詞、海は女性名詞。それが面白いなあと思って。

そこでエマは、海のイメージ。衣装も寒色系にして。

ヤンは「夏」です。この映画に夏の暑さがまとわりついているように、そのことがヤンの気配がずっと存在するというのにリンクしないかなと考えました。

他は、ユリ(辻凪子)は「歌」、ルカ(窪瀬環)は「針」、アキ(佐々木詩音)は「アルコール」といった具合です。

あとはそのイメージに合わせて、色や衣装を合わせていきました。バンはアロハシャツで彼とユリは「赤」。エマは「青」。それらの色を相関的に使用していきました。

バンとエマが序盤に出会うシーンは、最初は対称的な色を使って慣れない関係性を表現しました。やがて物語が展開し、終盤では、同調する色彩を用いています。

同じように、エマとユリが対立をする場面では、ユリに青い服にさせ、エマへの嫉妬心を表せないかな…と。「青」と「青」の対立。あえて色を被らせることによって、ライバル関係を際立たせられないか…など、色彩の工夫をしていきました。

記憶・祖母への想い


©︎Cinemarche

──物語は彩るモチーフに多くの「記憶」にまつわる要素が登場しますが、記憶に関して、監督のエピソードをお聞かせください。

工藤:「記憶」というモチーフは私の映画制作の上、大切なものであり、自分の基盤になっていると思います。

今回、エマの記憶に関する症状は、アルツハイマー病を参考にしています。実際に私の祖母がアルツハイマー病でした。

当時、自分が祖母の言動によって傷ついたという意識はなかったのですが、映画を制作してく過程で、ああ、私はとても傷ついていたんだ…という、これまで気づいていなかった気持ちを発見していきました。

実体験として、祖母から別の孫の名前で呼ばれるようになるということがありました。もうその後、彼女から自分の名前を呼ばれることはないという事は、やはり悲しかったのかもしれません。祖母のなかで私の存在は無くなってしまったんだと。

忘れられていく側である私は、その現実を受け入れていたつもりだったんですが、映画を作っているうちに、“バンの感情は、私の感情でもあるんだな”、と気づいていったんです。

そういえば、祖母との思い出のなかに、ある日の夜中に、親戚や祖父もみんな寝ているんだけど、私と祖母だけ起きていて。みんなが寝ている時に、薄暗がりのなかで話したりするわけでもなく、お互い見つめ合っていた…あれは何といえばいいんだろう。起きているものどうしの交信があった。

──劇中にあった、バンがエマに懐中電灯の光を当てる場面のような?

工藤:あ!そうです。無意識のうちにあのシーンと思い出がつながっていますね。(笑)

忘れ去られてしまうことの寂しさと、忘れていってしまう人が別人になってしまうことの一番耐えがたい悲しみがありました。

観客へのメッセージ


©︎Cinemarche

──工藤監督から観客の皆さんにメッセージをお願いします。

工藤:この映画のテーマの一つに光があります。光を希望の象徴として描きました。観てくださった人に少しでも希望を与えられるような作品にしたい。

それと同時に、これ以上ないくらい、夏を封じ込めている映画でもあります。夏を感じつつ、その中で生きる彼らの様子を「肌」で感じて欲しいです。

ロードムービーということもあって、観客の皆さんをどこか日常とは違う世界に連れて行けるような作品にもなっていると思います。日常とは異なる体験をしながら、その中で、ぜひ何かわずかばかりの光、希望を感じ取ってもらえたら嬉しい。

インタビュー・写真/ 出町光識
構成/ 久保田なほこ

工藤梨穂のプロフィール

1995年生まれ、福岡県出身。

高校2年生の時に西加奈子の小説「さくら」を読み、その感動を他者への共有手段として映画という表現へのあこがれをいだく。

京都造形芸術大学入学後、2015年に短編映画『サイケデリック・ノリコ』を村上由規乃を主演で制作。また2016年にも短編映画『サマー・オブ・ラブを踊って』制作。

映画学科のゼミ卒業制作『オーファンズ・ブルース』は、ぴあフィルムフェスティバル2018のグランプリ受賞。今後、活躍が注目される映像作家。

映画『オーファンズ・ブルース』の作品情報

【公開】
2019年5月31日(日本映画)

【脚本・編集・監督】
工藤梨穂

【キャスト】
村上由規乃、上川拓郎、辻凪子、佐々木詩音、窪瀬環、吉井優

【作品概要】
日本国内の、さまざまな映画祭で高い評価を受けた、工藤梨穂監督の劇場デビュー作。

主演に映画『赤い玉、』や『クマ・エロヒーム』の村上由規乃で、工藤作品では2015年の短編作品『サイケデリック・ノリコ』に次ぐ主演作品。

映画『オーファンズ・ブルース』あらすじ

海辺の街で生活する女性エマは最近物忘れが多く、些細な情報をノートに書き留め、あらゆる情報を書き込んだメモを、家中に貼っていました。

ある日、エマの孤児院時代の幼馴染で、行方不明となっているヤンから、象の絵が書かれた手紙が届きます。

エマは手紙の消印を頼りに、ヤンが住んでいると思われる場所を訪ねますが、そこには誰もいませんでした。

中華街のような場所に迷い込み、クラブを訪れたエマは、ヤンと同じ孤児院時代の幼馴染であるバンと再会。バンの恋人であるユリとも知り合います。

バンとユリは、働いていた店のお金を着服し、タヒチに逃亡しようと計画しましたが、店からの追手に捕まり断念。バンは追手に暴行を加え逃亡し、ユリとともにエマの旅に同行します。

エマたちは、ヤンの妻でペンションのオーナーであるルカを訪ねます。

ヤンはペンションにはおらず、ルカは「そのうち戻ってくる」とエマに伝えます。

ルカのペンションで、バンとユリ、そして謎の浮浪人であるアキと共に過ごしながら、ヤンを待つエマ。

しかし、エマの記憶は徐々に失われてきており、エマ自身も苛立ちを感じるようになります…。


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