映画『Sappy』は下北沢トリウッドで2025年5月9日(金)より劇場公開開始後、5月23日(金)より同館で上映再開!
映画配給レーベル・Cinemagoが贈る特集企画「終点なき映画たち Route:1」の1作として、下北沢トリウッドで2025年5月9日(金)より劇場公開を迎えた俳優・猪征大主演作『Sappy』。
上田修生監督の初の劇場公開作である本作は、世間の人々を見下し、小説家になることを夢見る男の現実と妄想が入り乱れていくノンストップ・エンターテインメントスリラーです。
(C)NIHILISM WORKS/Cinemago
このたびの劇場公開を記念し、映画『Sappy』の《主人公》が自身の小説執筆の“キーパーソン”だと思い始める風俗嬢・キラ役を演じられた俳優・シンガーの川上明莉さんにインタビュー。
本作で共演された猪征大さん・結城あすまさんや上田修生監督のお話はもちろん、キラから感じとった“彼女らしさ”と「ナチュラルでいる」という最大の魅力などを伺いました。
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本当はピュアで、人生を大切にする“彼女らしさ”
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──映画『Sappy』の主人公が出会う風俗嬢・キラを演じられるにあたって、どのような役作りをされたのでしょうか。
川上明莉(以下、川上):実は、割とナチュラルに演じさせてもらったところがあって、「主人公がキラに対してこんな言葉を言ってきたら、自分はどうするのか?」と一つ一つの場面で考えていくうちに「キラと自分は、主人公に対しての反応の仕方が同じなのかもしれない」と思うようになったんです。
ですから、あえてキラという役の人物像を作るというよりは「こう言われたら、こんな気持ちになるし、こんな反応をするだろうな」とナチュラルな感覚で演じていました。
──川上さんにとって、そんなキラの魅力を一番感じられた場面は何でしょうか。
川上:印象的なのはやっぱり、主人公の嘘だらけの襲撃計画に乗ってしまう一連の場面ですね。一番彼女が人間として映っているといいますか、彼女自身の本当に飾らない姿が見える気がするんです。
少し考えてみれば物凄く怪しい誘いですし、いかにも嘘っぽい現実味のない話なのに、主人公に同情して少し悲しげな顔して「じゃあやってみるか」と思っちゃうところが、本当はピュアで、人生というものを大切にしている彼女らしさを感じられたんです。
“真逆な役”との向き合い方──猪征大&結城あすま
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──本作の《主人公》役の猪征大さん、キラと同じく本作のキーパーソンである売れっ子小説家・小林役の結城あすまさんとのご共演はいかがでしたか。
川上:結城さんとはお芝居で直接関わる場面自体はなかったんですが、撮影現場でお会いした際には「カメラが回ってない時も“小林”だ!」と驚いちゃいました(笑)。
結城さんご本人はとても紳士的な方で、欲望の表現に忠実でトリックスターな小林とはイメージが違うんですが、カメラが回っていない間も小林という役を途切れさせていないんです。そして小林という役に入っているのに、役に振り回されることなく、“結城あすま”としても現場で過ごしている姿が、とても不思議な感覚でしたね。
逆に猪さんは、俳優としては“切り替え”タイプなのかもしれません。撮影の合間には上田監督とのコミュニケーションをとても大事にされていて、ご自身が表現したいものと上田監督が表現したいものの擦り合わせをしていました。
明るくてさっぱりとした性格の猪さんにとって、全く対極の性格な主人公を演じること自体がハードルの高いチャレンジだと思うんですが、それでもカメラが回ると、そこにいるはずの猪さんは『Sappy』という映画の主人公になっていたんですよね。
“おしゃれ”と同時に“緻密”な映画
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──本作が初の劇場公開作となった上田修生監督は、川上さんから見てどのような魅力を持つ監督だと感じられましたか。
川上:とても“おしゃれ”な方だと思っています。そう一言で表してしまうと、映画の内容もアッサリしているのではと受け止められるかもしれませんが、よく見てみると凄く複雑で、綿密に作り込まれた作品だと感じてもらえるはずです。
上田監督には映画制作に対するビジョンも、それに基づいた登場人物たちの造形も明確に考えていて、私の演技のニュアンスに関しても的確にヒントを伝えてくださったので、キラを演じる上で本当に助けてもらいました。
ナチュラルにいることが、一番目立つこと
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──追加撮影・再編集が行われ、映画祭上映版とは異なる“新たな結末”を描く「劇場版」として公開を迎えた映画『Sappy』ですが、完成した劇場版をご覧になった際にはどのような感想を抱かれましたか。
川上:私が出演していない場面も含めて一つの物語としてつなげられた時、自分自身で想像していた以上にキラが主人公に多くの影響を与えていて、「私、めちゃくちゃ“キーパーソン”じゃん」と改めて実感しましたね(笑)。
出会った後、主人公は色々な偏見や悪口を言いながらもキラのことをずっと考えていて、別の物事を考えていても意識の片隅にはずっとキラがいるのが、映画を観ていて伝わってくるんです。
キラは人生を一生懸命生きているだけで、私もそんなキラを特別視はしないでナチュラルに演じただけですが、完成した映画からは「たとえ画面上に映っていなくても、キラは『Sappy』という物語にずっと存在し続けている」と感じました。
もし誰かに対して「この人を変えてあげたい」「この人を良くしてあげたい」とあざとく働きかけても、その誰かにとっての“キーパーソン”になることはできないんでしょうね。そして、本作の主人公とキラの関係のように「知らない間に、誰かの“キーパーソン”になっている」のが、ありきたりではありますけど“本当”なんだろうなと思います。
「ナチュラルにいることが、一番目立つことだ」と、キラに教えてもらえました。「あの子は恵まれているから目立っていて、私は恵まれていないから目立っていない」とかを考えてもしょうがなくて、自分の思うフィールドでひたすらに戦い続けていたら、いつの間にか多くの方に影響を与えているのかもしれない。『Sappy』の主人公や私がキラに惹かれたのは、そういう魅力なんだと思います。
インタビュー/河合のび
撮影/藤咲千明
川上明莉プロフィール
1996年生まれ、奈良県出身。CATミュージックカレッジ専門学校を卒業後、シンガーとして活動を開始。また俳優としても活動の分野を広げ、人気漫画原作の2.5次元舞台「僕のヒーローアカデミア」シリーズでは耳郎響香役を務め注目された。
近年の主な出演作は舞台『僕のヒーローアカデミア The”Ultra”ヒーローStage 本物の英雄』(2020)『魔法先生ネギま!?お子ちゃま先生は修行中!』(2018)ドラマ『妖怪人間ベラ~Episode0』(2020)『束縛彼女』(2020:主演)など。
映画『Sappy』の作品情報
【公開】
2025年(日本映画)
【製作・脚本・監督・編集】
上田修生
【キャスト】
猪征大、結城あすま、川上明莉、犬童みる、土屋土、藤田晃輔、橘舞衣、吉田憲明
映画『Sappy』のあらすじ
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風俗嬢を乗せた送迎車が、夜の東京を走っている。運転手である《主人公》(猪征大)は、車窓を流れる自分以外の人間を「連中」と呼んで見下している。自分は彼らとは違う。なぜなら、小説を書いているから……。
交際相手からは才能を否定され、フラれてしまう。出版社からもまるで相手にされない。唯一「連中」とは違うと思っている風俗嬢(川上明莉)との交流が、《主人公》を尚も小説執筆に向かわせる。
ある日、執筆場所の一つにしているカフェで、旧友・小林(結城あすま)と再会する。小林は、新作が芥川賞候補にもなる売れっ子小説家である。
最初は再会を喜べなかった《主人公》だが、小林に助言を求め、導かれるようになる。常に刺激を求める型破りな性格の小林から、さらにる“計画”を提案される。風俗嬢とともに計画を実行しようとする《主人公》の現実と妄想が入り乱れる……。
編集長:河合のびプロフィール
1995年静岡県生まれの詩人。2019年に日本映画大学を卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部で活動開始。のちに2代目編集長に昇進。
多数の公式映画評を寄稿する一方で、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』『Kfc』のキャッチコピー作成なども行う。さらに『獄舎Z』『トレジャー・アイランド』の字幕監修も手がけるなど、活動の場を広げ続けている(@youzo_kawai)。
(C)田中舘裕介/Cinemarche