映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
映像企画発掘コンペ「TSUTAYA CREATERS’PROGRAM FILM 2016」で準グランプリを受賞。その後、各国の映画祭に出品され、世界の映画ファンから“究極の映画愛”を描いた作品として熱い支持を集めたホラー映画『ゴーストマスター』。
悪霊によって地獄絵図と化した「壁ドン」映画の撮影現場を舞台に描かれる映画への“愛”、そしてともにある“憎しみ”をも描ききったヤングポール監督の長編デビュー作です。
アメリカ人の父と日本人の母を持ち、レインダンス国際映画祭では「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」の一人に選出されるなど注目を浴び続けるポール監督。
今回、本作の劇場公開を記念して監督へのインタビューを敢行。映画『ゴーストマスター』脚本の執筆過程や作中に込められた映画への“愛”と“憎しみ”、根底にある「“父性”との対峙」というテーマなど、様々なお話を伺うことができました。
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初期のアイディアから共同脚本へ
──本作『ゴーストマスター』の脚本アイディアについてお聞かせください。
ヤングポール監督(以下、ポール):当初の企画段階では「低予算ホラー映画の撮影クルーが、撮影中に本物の心霊現象に巻き込まれていく」というものでした。
クルーたちは、眼前にある露骨な心霊現象に全く気づかない。なぜなら彼らは「ゴーストマスターズ」、ホラー映画のプロフェッショナルだから…。そしてようやく気づいた頃には、もう取り返しのつかない事になっていて、さあ、彼らはどうするのか…という筋立てでした。
そこには日本の映画業界や社会全体への皮肉と、そこに存在する抑圧された人たちの物語を想定していました。
その後、『東京喰種 トーキョーグール』(2017)などを手がけられた脚本家・楠野一郎さんにお会いした時に、「ピンク色のキラキラした世界から血みどろの世界へと移り変わっていく」というアイディアをいただきました。「面白い、それだ!」と直感しましたし、自分のやりたいこと、社会への皮肉もより明確に描くことができると思いました。
──楠野さんのアイディアだったのですね。学生時代の実習作品『秘孔』も映画冒頭は、スズメが鳴くなどホンワカした日常からのギャップがあったので、そのイメージを踏襲したのかと思っていました。
ポール:「キラキラ」のアイディアは楠野さんのおかげです。ただ映画を作っている過程の中で、大なり小なり自分のカラーに引き寄せられていった部分はあったと思います。
──監督がひとりで脚本を執筆されていた時期はとても苦しかったということをお聞きしましたが、楠野さんが共同脚本に入られてから変わったことはありますか?
ポール:僕は、脚本を書くのが大変苦手で(笑)。映画に対する自分の興味の中心は、“ストーリー”ではなく“描写”なんです。ストーリーの面白さやそれに対する欲望ではなく、「この映画のこの瞬間が面白い」「このシーンが忘れられない」という、目の前で起きた描写。その演出に対して、映画の面白さを感じた経験が多いんです。
そのためいざ脚本を構築するとなると、七転八倒してしまう。例えば、ヌンチャクを持って動くとする。イメージしているヌンチャクの動きはあるんだけど、実際にヌンチャクを持って振ってみたら、あちこちにぶつかって無様で収拾がつかない。そんな苦しみを味わいました(笑)。
“憎しみ”の先にこそ“愛”がある
──“ストーリー”ではなく“描写”に興味があるということですが、本作の中で、最初にイメージした場面(シーン)はどこでしたか?
ポール:映画の撮影クルーが、「映画の撮影」という行為で悪霊と戦う様でした。仲の悪い映画クルー同士が、生きるか死ぬかのホラー的シチュエーションの中で徐々に一致団結していき、映画撮影という行為によって、何かに勝利する。それがストーリーの軸です。
そこから思考を深めていき、楠野さんやプロデューサーさんたちに意見をいただき、具体化していくことで、現在の形へと作っていきました。
──『ゴーストマスター』には強い映画愛を感じました。そのうえで単なる娯楽映画に終始せず、世界観や作品性も高めている魅力を感じました。
ポール:確かに本作の宣伝文句は「究極の映画愛」ですが、それは単純な映画への愛ではなく、映画への“愛憎”なんです。
自分も映画が好きで、「映画を作りたい」と思ってこの業界に入りましたが、非常に厳しい環境です。あるプロデューサーからは「監督になりたいの?今後一生貧乏だよ」と言われたこともあります。
明らかに才能のある人が、食えていない。そういう現状を目の当たりにして、続けていきたいけど、続かない。すごく辛いけれど、映画に対する愛や、映画を作りたい気持ちは止められない。一方で辛さはなくならない。かつていた現場も労働環境が非常に過酷で、映画への激しい憎悪が生み出されていく状態にありました。でも離れられなかったんです。
「映画って素晴らしいですよね」という綺麗事では終われなかった。影の部分を描かないと嘘だと思ったんです。それは一貫しているところです。
“映画”から逃れない“真実性”の魅力
──本作で描かれていた映画への“憎しみ”は、撮影現場での奮闘を通して、リアルさを非常に感じました。
ポール:いわゆる「美談」にはしてはいけないと思っていました。ある種、“憎しみ”は強いベクトルがなければ生まれない。そのベクトルの強さとなるのが“愛”だと思うんです。
板垣瑞生さんが演じた勇也もそうですが、その強い感情が、“憎悪”というモンスターを生成する。でも離れられない、その辛さ。今でもふと、街中を歩いていて思うわけです。周りを見るとみんな楽しそうに振る舞っているのに、「俺、何やってんだろう」と。映画から離れられないことに対して、誠実に描きたいということはありました。
──監督はなぜ、離れられないのでしょう?
ポール:やっぱり、映画って面白いんです。僕が映画と本格的に出会ったのは、池袋の映画館・新文芸坐でした。その時、新文芸坐で観た映画の中には、真実の世界よりも真実が存在する瞬間があった。
もちろんスクリーンの中は虚構ですが、垣間見える真実性にすごく価値があるように思えたんです。そして「自分もいつか作ってみたいな」とも思ってしまったんです。
──いま、映画監督の間でも『ゴーストマスター』が話題になっている理由は、その映画への“憎悪”にあるのではと思っています。本作の映画への“愛”は、一方で描かれる映画への“憎悪”というリアルによって“真実”へと後押しされている。
ポール:ラストシーンへの反応も、「体育館の場面で終わっていたらよかった」という意見、「いや、その後に続く描写こそが本当の『ゴーストマスター』だよね」という意見で二分化されています。
その両方ともに賛同できるのですが、個人的には後半で描かれているある種のダークサイドこそが本当に描きたかったことなんです。
だから結末に対しても、観る人によってはバットエンドに見えるかもしれない。ですが、そんなにシンプルなものではありません。ハッピーでもバッドでもない、その割り切れなさを伝えたいし描こうと思っていたんです。
“父性”との対峙と通過儀礼
──劇中にて象徴的だったことの1つとして、成海璃子さん演じる真菜の父の存在、黒沢の師匠・土田監督の存在など、いわゆる“父なる存在”も見えました。立ちはだかる“父性”を、監督ご自身はどのように感じていますか?
ポール:まず映画全般のことでいうと、僕らの世代には、蓮實重彦さんの存在は非常に大きいものでした。
「映画とはこうあるべきだ」という無意識の抑圧の中で、どこか自制せざるをえないような状況が長く続いていました。
また僕の場合は、“名前”ですね。例えば本作では、三浦貴大さんが演じた「黒沢明」はまさに「黒澤明」という大きな名前を背負って生まれ、不幸にも映画監督を志してしまった。僕の場合は「ポール」という名前とこの外見を持ちながら、日本の栃木県の山の中で生まれ育ちました。そのギャップを背負って生きていくことに対して、もちろん全否定はしませんが、全肯定もできない。どこか揺れ動き模索するあり方が、自分のテーマとしてある。
僕の父は陶芸家だったのですが、小学校の頃から「陶芸はやりたくない」と思っていたんです。粘土は重いし、水は冷たいし。何より、父親が自分で起こしたものを、簡単に継ぐことに抵抗感がありました。
じゃあそこから何があったかというと、何もない。中学・高校とただダラダラと暇を持て余して生きていました。
映画館がない町でしたが、近所にレンタルビデオ店があって、そこでは10本1000円でレンタルできたんです。そこで、タイトルが面白そうなもの、フランクリン・J・シャフナー監督の『ブラジルから来た少年』など片っ端からレンタルしていました。そこから映画に興味を持ち始めて、今の道へとつながったわけです。
父親だけでなく、師匠や過去の映画でもそうですし、ある種の“父なる存在”に対して、ふとした瞬間にめぐり合うことがある。自分はそれを“幽霊”を呼んでいるのですが、逃げてきた先に、ふと“幽霊”が現れる。その時に「ああ、自分は一生逃れないのか」と恐怖する瞬間があります。ですがそれは自分だけではなく、多くの人が持っているテーマだとも思っています。
──陶芸の町・益子という生まれ育った環境が、壁ドンの「手形」をはじめ、スプラッター描写の中に反映されているようにも感じました。
ポール:陶芸と繋がるかはわかりませんが、“手触り”ということにはこだわりました。CGを用いるにしても、作り手の“手触り”がちゃんと伝わるような作品にしたいと考えています。
CGは突き詰めるとフォトリアルというか、境目が失われて次第に透明になってゆく。だからCGにしても、作り手の“手触り”を感じられる味わいのある仕上がりを目指しました。東映の特撮畑出身である國米修市さんに「光線」を手書きで書いてもらいましたし、特殊メイクも百武朋さんにお願いし、リアルな触覚が味わえる造形に仕上げていただきました。
リアルな透明感のみではなく、そこからギリギリ見えてくる「誰かの手で作られているんだ」という“手触り”が、作品を豊かにするんじゃないか。そんな一貫した好み、こだわりがあります。
ヤングポール監督にとっての“映画の正体”
──最後に…監督にとって「映画」とは?
ポール:「映画」とは…そうですね。「好きになってしまった呪い」ですかね(笑)。
羽振り良く生きたいのなら、もっとデジタルな世界を目指していけばいいわけです。映画という、アナログで、しかも右肩下がりの業界で自分は生きている。それは強いベクトルによって生みだされた呪いですが、嫌々やっているとは言えない。自分にとって映画作りとは、この呪いと、格闘し続けることだと思うのです。
インタビュー/出町光識
構成/くぼたなほこ
写真/河合のび
ヤングポール監督のプロフィール
1985年4月10日生まれ。栃木県益子町出身。アメリカ人の父と日本人の母を持つ。黒沢清監督に師事し、東京芸術大学大学院修了制作『真夜中の羊』はフランクフルト映画祭、ハンブルグ映画祭で上映された。
近年の監督作品はテレビドラマ「FLASHBACK」「それでも僕は君が好き」、日韓共同製作映画『BRAKEMODE』など。レインダンス国際映画祭「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」に選出され、宣伝会議オンライン動画コンテスト「BOVA」では『結婚できないひと』がグランプリを受賞。
また俳優として『山田孝之のカンヌ映画祭』(2017/山下敦弘監督、松江哲明監督)にも出演。
本作『ゴーストマスター』の企画で第2回「TSUTAYA CREATORS‘ PROGRAM」準グランプリを受賞し長編デビュー。
映画『ゴーストマスター』の作品情報
【公開】
2019年12月6日(日本映画)
【監督】
ヤングポール
【脚本】
楠木一郎、ヤングポール
【キャスト】
三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、原嶋元久、寺中寿之、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸、手塚とおる、麿赤兒
【作品概要】
安易な恋愛青春映画の撮影現場が、血みどろホラーの舞台へと変貌。やがて物語は映画製作への熱い愛を語り始める。怒涛のクライマックスへ向け突っ走る、ホラー・コメディ映画。
監督はアメリカ人の父と日本人の母を持つヤングポール。黒沢清監督に師事し、東京芸術大学大学院修了製作の映画『真夜中の羊』は、フランクフルト映画祭・ハンブルク映画祭で上映されています。
その後イギリスのレイダンス映画祭では、「今注目すべき7人の日本人インデペンデント映画監督」の1人に選出され、『それでも僕は君が好き』などドラマの演出にも活躍中です。
三浦貴夫と成海璃子が主演を務め、2人をとりまく撮影現場の俳優・スタッフ陣を、川瀬陽太・森下能幸・手塚とおる・麿赤兒など個性派俳優たちが固めます。
映画『ゴーストマスター』のあらすじ
とある廃校で撮影中の人気コミック映画化作品、通称「ボクキョー」こと『僕に今日、天使の君が舞い降りた』。その現場には監督やスタッフからこき使われる、助監督・黒沢明(三浦貴大)の姿がありました。
日本映画代表する巨匠と同じ名を持つ黒沢ですが、本人はB級ホラー映画を熱烈に愛する気弱な映画オタク。今日も現場で散々な目に遭わされますが、いつか監督として映画を撮らせるとの、プロデューサーの言葉を信じて耐え忍んでいます。
黒沢の心の支えは、自分が監督として撮る映画『ゴーストマスター』の書き溜めた脚本。それ敬愛する、トビー・フーパー監督の『スペースバンパイア』にオマージュを捧げた作品でした。彼はそれを肌身離さず持ち、手を加え続けていました。
ところが「ボクキョー」の撮影は、主演人気俳優が“壁ドン”シーンに悩んで撮影が中断。皆の不満は黒沢へと集中します。それでも黒沢は、出演女優の渡良瀬真菜(成海璃子)に自分が撮る映画、『ゴーストマスター』への熱い想いを伝える事が出来ました。
ところが黒沢に対し、真菜は厳しい言葉を浴びせます。さらにプロデューサーは彼に映画を撮らせる気など無いと知り、黒沢は絶望のどん底へと突き落とされます。
黒沢の不満と怨念のような映画愛は、『ゴーストマスター』の脚本に憑依します。悪霊を宿した脚本は、キラキラ恋愛映画の撮影現場を、血みどろの惨状に変えてゆきます。
どうすればこの恐怖の現場から逃れられるのか、悪霊と化した脚本を浄化させる事ができるのか。残された者たちの、映画への情熱が試される…。
映画『ゴーストマスター』は2019年12月6日(金)より、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!