私たちの「悪夢」はどこから来るのか……
カナダ殿堂入りの新時代ヒプノシス・ホラー!
不眠症に悩む主人公が「睡眠」に関する研究の臨床試験に参加したことで、自身の悪夢の《正体》へと触れてしまう恐怖を描いたテクノ・スリラー映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』。
次第に明らかになる研究の目的と、人々の夢の中に共通して現れる暗き迷路。そして迷路の深奥に潜む《人影》の正体とは──。
このたび、世界各国から選出された作品を一挙上映する劇場発信型映画祭「未体験ゾーンの映画たち 2024」の1作として、2024年2月9日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷での上映が決定。
今回の公開を記念し、本作で脚本・監督さらには楽曲制作まで手がけられたアンソニー・スコット・バーンズ監督にインタビューを行いました。
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物語の着想は自身の”金縛り”体験
──本作の「大勢の人々が夢の中で目撃する“影”の正体を探る実験」という設定は、どのような経緯で着想したのでしょうか。またその設定からは、有名なインターネット・ミーム《This Man》の物語も思い出しました。
アンソニー・スコット・バーンズ監督(以下バーンズ):《This Man》についてはこれまで本作を観た人から何度か指摘されましたが、脚本執筆の段階では全く意識していませんでした。本作の着想の源は、実は私自身が幼少の頃に体験した睡眠麻痺(金縛り)の経験にあります。
母親を亡くしたばかりばった当時、夜ひとりで眠っていたら、急に体が動かなくなったんです。目だけはかろうじて動かせる状態だったので、動けるだけ振り絞って辺りを見回したところ、枕元に「黒い人影の姿」を感じました。忘れがたい経験として記憶に残っていたものの、それが本当は何者であったのかは分からずじまいでした。
それから長年にわたって「金縛りの経験者がしばしば目撃する幻覚には、何か共通点があるのではないか」と本作の物語の原型を構想し続けていました。そして実際に脚本執筆にとりかかったのは、バークレー大学で行われた、被験者の目を通して見た画像が脳波分析によってデジタルでビジュアル化される実験を見たのがきっかけでした。
すぐにこの新しいシステムを用いて「もし潜在的無意識が映像化されたら?」「実は自分が見た夢と同じ夢を他人も観ていたら?」など、夢を視覚化する設定を膨らませていきました。
本作の原動力は、真実を知りたいという探求心であり、自分自身を理解することでした。私たちの全ての行動は皆、今何が起こっているのか、その意味を知りたいだけなのです。そういう意味では夢は、宇宙からのヒントなのかもしれません。
キャスティングについて
──本作の主人公サラは、カナダのホラー映画界が誇る女優ジュリア・サラ・ストーンが演じています。彼女を起用した理由を教えてください。
バーンズ:ドラマ『THE KILLING/ザ・キリング』でジュリアを初めて見たのですが、シンプルな見た目で感情や共感を伝える彼女の才能と能力にすぐ衝撃を受けました。短い出演時間の中で、視聴者に対し強い印象を残していました。
人々を怖がらせる最善の方法は、「愛する人」を危険にさらすことです。ホラー映画では、観客が「この人は助けの必要としている」と直感できるような主人公が必要で、人々に愛される力がある彼女は、まさしく適任だと感じました。映画を代表するアイコニックな存在であるサラ役にジュリアを見つけられたのは、本作にとって最も幸運なことの一つです。
また、ランドン・リボアイアンをはじめとした脇を固めるキャストとも、一緒に素晴らしい仕事ができました。ランドン演じるリフは、ブライアン・デ・パルマ作品の主人公のような冷たさと不気味さを必要とするキャラクターで、「人間的な悪役」になれるランドンを見つけるのには苦労しました。
音楽が映画体験を向上させる
──本作でバーンズ監督は、劇中曲のプロデュースにも携わっています。あなたにとって、音楽制作と映像制作に共通する創作に欠かせないものは何ですか。
バーンズ:音楽が映画体験の80%を占めると信じています。映画のサウンドトラックは、視覚的な要素を超えてあらゆる感情を押し広げます。どんなに美しいビジュアル、素晴らしいストーリーテリングの映画であったとしても、平凡なスコアによって台無しになることはままあります。
反対に良いスコアがあれば、どんなに平凡な映画でも作品全体の印象を底上げし、クオリティを向上させることができるのです。
私自身はストーリーボードに基づいて映画を作りません。その上で映画における音楽の役割は、受け手の感情の起伏を誘導することであり、スコアはトーンのバランスを形作り、映画を最適な状態へとするのです。
「恐怖」という人間が決断を下す瞬間
──初の単独長編映画『COME TRUEカム・トゥルー 戦慄の催眠実験』をはじめ、これまで数多くのホラー映画の制作に携わってきました。誰もが感じる恐怖を描く意味とは何でしょう。
バーンズ:物語を通して人間性を探求するのが大好きなのですが、その中でも「恐怖」は「人が人生において、最も問題のある決断を下す瞬間」でもあります。
だからこそ、それらの瞬間を研究・検証することは、人間性を探求する上では欠かせません。恐怖は、全ての人類に共通する弱点といえるでしょう。
そして、聴衆を怖がらせるのはただ純粋に楽しいです(笑)。
「暗闇の奥深くに移動する」という本作の夢の映像は、選択の余地なく何かに向かって押されるイメージであり、それが「決断」という選択が行う瞬間でもある恐怖を生み出します。
私たちは毎日未知の世界に前進しなければならないという、恐怖と不安にさらされている。本作の夢の映像は、その視覚的な表現であり、私自身が体験した多くの夢のイメージから拝借しています。
日本の観客向けに作られた作品
──バーンズ監督はカナダ映画の制作環境をどう捉えられているのでしょうか。
バーンズ:カナダの芸術と芸術家への支援は素晴らしく、おかげで私たちは自分たちの個性や描きたいものを、製作費という制約にあまり縛られることなく追求することができています。
ホラー映画を作り続けられるのは、カナダからの祝福でもあります。また隣国のアメリカとは異なる角度から物事を見られるのも、重要なことかもしれません。カナダは冬期が長いため、制作環境として苦労する面もありますが、その冬の厳しさも、恐怖を描くための絶好の背景にすることができます。
また同じカナダの映画監督であるヴィンチェンゾ・ナタリは、映画監督としてまだキャリアの浅かった私に、ハリウッド映画界との関わり方やコネクションを教えてくれた恩人です。
彼から映画と真摯に向き合うことを学び、そのおかげで映画制作において、多くはないスタッフと予算の中でどう工夫を凝らすべきかの試行錯誤を続けられました。
──『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』がついに日本での劇場公開を迎えますが、現在のご心境をお聞かせください。
バーンズ:日本で劇場公開されることに、とても興奮しています。
多くの点で、『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』は日本の観客向けに作られています。本作はビジュアル面において日本のマンガを彷彿とさせながらも、同じく私の大好きな日本映画のストーリー構造とテンポも盛り込んでいるのです。
日本の観客の皆さんが、本作から日本映画と日本マンガの空気も感じとってくれることを願っています。
インタビュー/河合のび
構成/滝澤令央
アンソニー・スコット・バーンズ監督プロフィール
1977年生まれ、カナダ・オンタリオ州キッチナー出身。
幼い頃から映画に興味を持ち、独学で監督・撮影監督・アニメーターとして映像制作に携わる。18歳でトロントに移り、ブティックデザイン会社に就職。その間も映像制作を続け、MTV作品の監督にまで上りつめる。
2014年にはブラッド・ピットと「プランBエンターテインメント」が製作するSFスリラー映画『Alpha』の監督に抜擢され、その後もホラーアンソロジー『ホリデイズ』(2016)をケビン・スミスらと共同で監督し、スティーヴン・キング原作のNetflix映画『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』(2019)では第2班監督を務めた。
初の長編監督作品『Our House(原題)』(2019)を経て、『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』が長編監督2作品目となる。
映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』の作品情報
【日本公開】
2024年(カナダ映画)
【撮影・編集・監督】
アンソニー・スコット・バーンズ
【脚本】
アンソニー・スコット・バーンズ、ダニエル・ワイセンバーガー
【音楽】
エレクトリック・ユース
【キャスト】
ジュリア・サラ・ストーン、ランドン・リボアイアンカーリー・リスキィ、クリストファー・ヘザリントン、テドラ・ロジャース、スカイラー・ラジオン
【作品概要】
主人公サラ役に抜擢されたのは、6歳から子役として活躍し、実力派女優として豊富な映画主演経験を誇るジュリア・サラ・ストーン。過去にトロント国際映画祭でライジングスター賞を、バンクーバー・レオ賞では3度も最優秀主演女優賞を受賞。2023年のウィスラー映画祭では主演作『ZOE.MP4(原題)』が評価され、カナダ新世代のホラークイーンとして威光を放っている。
ストーンと二人三脚で本作を製作した監督アンソニー・スコット・バーンズは、ホラーアンソロジー『ホリデイズ』(2016)をケビン・スミスと共同で監督。スティーヴン・キング原作のNetflix映画『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』(2019)の第2班監督を経て、ついに本作で単独長編映画デビューを果たした。
『人肉村』(2020)のダニエル・ワイセンバーガーと共同で脚本を執筆し、また「Pilotpriest」名義でエレクトリック・ユースとともに劇中曲も手がけるなど、バーンズ監督の八面六臂の才能が発揮された本作は、世界三大ファンタスティック映画祭のシッチェス・カタロニア国際映画祭で入選。
さらにカナダ・ファンタジア国際映画祭で最優秀観客賞&最優秀カナダ長編映画賞(シルバーオーディエンス賞)の2冠を獲得するなど、世界各地のファンタ系映画祭で絶賛されている。
映画『COME TRUE/カム・トゥルー 戦慄の催眠実験』のあらすじ
高校生のサラは関係が険悪な母親と距離を置くため、友人の家を転々とし時には野宿もする生活を送っていた。
そんな彼女は、繰り返し見る悪夢で不眠症に悩まされている。
彼女は安眠を求め、とある大学の「睡眠」に関する研究の臨床試験に参加する。
しかし被験者たちの身には次々と奇妙な現象が起こり、彼女の悪夢への不安と恐怖はより悪化していく。
実験の目的を知るべく、サラは自身の跡を尾ける研究員リフに接触する……。