《全ての死には物語がある》
幻想的な『葬儀館のコレクション』は奇妙な葬儀屋が語る、死体にまつわる残酷で悲劇的な物語たちを描いたオムニバス・ファンタジーホラー映画。
脚本・演出を担当したライアン・スピンデル監督の長編デビュー作です。
『ショーシャンクの空に』(1994)の悪役名演技派クランシー・ブラウンを主役に抜擢し、『キスから始まるものがたり』(2018)のジェイコブ・エロルディ、ケイトリン・カスター、エマ・ホビスといった、今後期待される新人俳優陣が総出演しています。
《全ての死には物語がある》というキャッチコピー通り、「葬儀館」という死が集う場所で語られてゆく数々の不可解で怪奇な物語は、ホラー映画ファンの目を刺激する要素が満載です。
CONTENTS
映画『葬儀館のコレクション』の作品情報
【製作】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
The Mortuary Collection
【監督・脚本】
ライアン·スピンデル
【キャスト】
クランシー・ブラウン、ケイトリン・カスター、ジェイコブ・エロルディ、エマ・ホビス、セラ・ヘイ、バラク・ハードリー、クリスティン・キルマー、マイク・C・ネルソン、ハンナ・R・ロイド、エデン・キャンベル
【作品概要】
『葬儀館のコレクション』というタイトルに相応しく、死体にまつわる幻想的で、残酷な奇怪エピソードをオムニバス形式で披露していく本作。古典ホラー映画からインスピレーションを受け、レトロと現代的な感覚を兼ね備えたファンタジーホラーとして誕生しました。
第24回富川国際ファンタスティック映画祭、第53回シッチェス·カタロニア国際映画祭ミッドナイト·エクストリームなど、世界各地の映画祭にノミネート及び正式招待され、ジャンル映画としての存在感と作品性が認められた話題作です。
2019年のトロントアフターダークフィルムフェスティバルでは観客選定ベストホラー映画を受賞。また2020年の第24回ファンタジア国際映画祭ではヨーロッパアメリカ映画観客賞(金賞)を受賞しています。
映画『葬儀館のコレクション』のあらすじとネタバレ
小さな村レイブンズエンド。あちこちの家へ新聞を配達していく少年は、最後に葬儀館へ到着します。不気味な館の前では、今まで配達した新聞が山積みになっており、気になった少年はそっと玄関の前まで行きます。
ドアのポスト投函口を覗きますが、真っ暗で何も見えません。少年は、首にぶら下げていたカメラでフラッシュを焚きます。すると、その投函口からは老人が少年を見つめていました。
驚いた少年はカメラを落とし、後ずさりします。やがて玄関扉を開けた老人こそが、この葬儀館の主人モンゴメリー・ダークでした。
ダークは嬉しそうに挨拶するも、少年は逃げ出してしまいます。「カメラを置き忘れたぞ」と伝えても、「差し上げます」と言いながら新聞配達の少年は逃げてしまいました。
ある日、ダークは幼くして亡くなったローガンの葬式を執り行っていました。無事葬儀を終え、参列者たちを見送った後、霊安室で遺体の最後の支度をしようとした時、ふと気配を感じます。
気配を辿って葬儀場内へ向かうと、そこには一人の少女がいました。
彼女はサムと名乗り、玄関前にあった求人情報を見てやって来たと言います。そしてダークに自分を「助手」として採用して欲しいと頼みます。ダークはサムを別の部屋へ連れて行きます。
会話を交わし続ける中で、サムはダークに「自身が知る怖い話を聞かせて欲しい」と頼みます。ダークははじめに、1950年代に起こったとある話を語り始めます。
一つ目の物語
1950年代、エマはパーティーでワインを呑みながら、ほろ酔いで個室トイレに入って行きます。
便器の横にゴミ箱を置き、自分を誘惑しようとした男たちから抜き取った財布を開いては、金額を確認し、次々と空の財布をゴミ箱に捨てていく……エマはパーティーという場所に利用し、多くの金品を盗んでいたのです。
収穫の確認を終えたエマは手洗い場で鏡を見ながら、自分の外見をチェックしたのちにトイレから出ようとすると、鏡台の収納場から怪しげな音が聞こえて来ます。
エマは単なる好奇心でその鏡を開けますが、中々開けられず、全力でもって引き出しをこじ開けます。そして中を覗いてみると、そこから得体の知れない触手の怪物が姿を現します。
驚き叫んだエマは、慌てて鏡を閉めます。やがて「静かにすれば、怪物は出てこない」と察した彼女は、音を立てないよう静かにトイレから出ようとします。
しかし、先程盗んでいたネックレスが落ちてしまいます。その結果窓から、通路に住んでいるであろう怪物が素早くエマを捕らえ、引きずり込んでゆきます。そして、怪物は、触手でトイレの電気を消し戻ってゆきました。
トイレは最初から誰もいなかったように、真っ暗になりました……。
サムは「悪くないわね」と感想を述べます。一方で語り終えたダークは、面接としてサムに簡単な質疑応答をします。そして書類に署名させ、彼はサムを正式に採用することにします。
サムを連れて葬儀館の中を案内してゆくダーク。その中で、彼は1960年代に起こった話を続けて語り始めます。
映画『葬儀館のコレクション』の感想と評価
数多の死の物語を聞き続けてきた葬儀屋モンゴメリー・ダーク。1825年に建てられたという古い葬儀館の主人である彼は、自らを偉大な死神とさえ考えている陰惨で謎に包まれた老人です。
彼を演じたのは、『ペットセメタリー2』(1992)では暴力的で下劣極まりない保安官役、『ショーシャンクの空に』(1994)では悪名高い看守役などで知られるベテラン“悪役”俳優クランシー·ブラウン。常に陰気を漂わせるダークそのものとなり、まさに“怪演”をみせています。
一方、ダークの元を訪ねて「怖い話を聞かせてほしい」という謎の少女サムも、作中で登場した当初から平凡さと秘密を抱えるがゆえの得体の知れなさが描かれており、ダークとはまた異なる緊張感を観る者に与えるキャラクターです。
本作を手掛けたライアン・スピンデル監督の短編『The Babysitter Murders』(2015)にも出演しているサム役のケイトリン・カスターは彼女を見事に演じ、だからこそサムが抱えていた秘密の正体が作中で明かされた時には、誰もが衝撃に包まれた事でしょう。
またNetflixシリーズ『キスから始まるものがたり』(2018)で名を馳せたジェイコブ・エロルディも「三つ目の物語」の主人公ジェイク役を演じ話題を呼んでいます。作中で描かれるジェイコブの幅広い感情の演技は、監督がジェイク役のキャストとして彼にこだわった理由を推し量ることが出来ます。
3つのエピソードについて
映画『葬儀館のコレクション』は、ユーモアやセンス、風刺で雰囲気からファンタジーの外皮をまとった残酷童話に近い作品です。
奇怪な葬儀屋が語る、霊安室の遺体にまつわる残酷で悲劇的な話を扱ったオムニバス・ファンタジーホラーですが、思ったよりゴアの水位が期待以上でした。
1番目のエピソードは、金とは欲望の奴隷になったスリの女性が、鏡の中の悪霊に、おぞましく殺されるという悲しい内容でした。
このストーリーは、何となく、童話のような感じを与えるエピソードでした。恐らく、女性主人公の衣装やトイレの色味から、そんな気がしたのでしょう。何故、鏡の中に存在するのかはよく分からないが、誰にでも隠したい秘密が一つあるのですから。好奇心が強ければ、死ぬこともあるという教訓を与える話でした。
2番目のエピソードは、性的欲求に囚われた浮気者の青年が、コンドームを使わない嘘の見返りに、女性が経験する、おぞましい出産の苦痛を受けるという内容でした。
無分別な性関係に明け暮れ、女性達をトロフィーに、自分の低い自尊感を回復しようとする男性の話は、歪んだ男性文化に対する痛恨の風刺を見せてくれます。
序盤は現実のように、男性が女性より、優越な位置にいるように見えます。しかし、中盤あたり、何の罪意識や良心に憚からなかった男性が、妊娠して出産する奇怪なホラー物に変わります。
男性が妊娠出来るという想像力までは、ありうるというレベルとして、受け止めることが出来るが、その後の状況は残酷な方向に、男性の過ちを罰します。
ここで、コンドームは女性には自分を守る権利という意味、当然、女性の要求を無視して、自分の欲望だけを満たした青年に、相応する罰が下されたとみられます。
これまで、女性達が叫んで来たり、指摘して来た発言が否定されていた現実は、ファンタジーホラーの中で、無惨にも鮮明に男性文化を批判します。
どの時点でぞっとするか、そして葬儀屋ダークの言葉のように、話に隠された他の何かを見てぞっとするかは、見る人の見方によって異なるでしょう。
特に、スタイルが良くハンサムな若い男性が、妊娠と出産をする場面が、とてもインパクトが強かったです。その俳優は、一生一代の演技をしたのではと思う程、演技が大変素晴らしかったです。
3番目のエピソードは、病気で動けない妻に対する所有欲という間違った欲望で、殺人を犯した夫が、悪霊と化した妻に、罪の代価を受けるという内容でした。
この3つを含蓄すると、全ての悪行には、必ず代価が伴うという意味が含まれています。改めて、長患いに孝行なしという言葉が、目に付きました。そして、人は本当に簡単で、あっけなく死ぬかもしれないという事実を悟っていました。
クリスティーの小説で、殺人は易しいという話が出たが、それはやったことのある奴だけに、該当するようでした。
それなりに、余韻を残すこともありそうなもので、最も完成度が高かったようです。
全身麻痺になったにもかかわらず、命を繋いで生きていく妻と、そんな妻を到底、これ以上世話する自信の無い夫。話も穏やかで、正常な感受性で進められており、夫も妻もとても可哀想に思えました。
ところが、ちょっと目を離した隙に、妻が猟奇的な実際の人体なら、その程度の衝撃では絶対に死ぬことが出来ない方式で死に、その妻の死体を処理する夫まで、全て180度狂ってしまった精神的な頭で、話が進行しました。
そして、妻の死体をエレベーターで運搬するが、エレベーターが故障して、夫が走馬灯のような過去の思い出と共に、最後のキスを交わす場面は少し切ない気持ちになりました。
それは美しく演出してあり、無重力状態に血の滴まで、薔薇の花びらのように舞っており、視覚的にも鮮明な印象として残りました。
サムの話を望んだ理由と葬儀屋の助手希望の本音
以上の話に、内在するメッセージは当然分かりますが、サムが「現実には悪い奴がいつも勝つ」と葬儀屋をあざ笑ったことは、後の反転を暗示する言葉で、悪の根源はサム自身だったという意味です。
後半部の反転は、精神病院を脱出した連続殺人鬼が、葬儀場を訪れたということで、衝撃的な状況が起こります。
彼女は、死んだ死体から歯を収集する自分の悪趣味、誤った欲望を満たす為に、葬儀屋を訪れたと解釈出来ます。
所々、男が見せた混乱したような態度と意味の分からない台詞は、男が精神病院から脱出した患者だったからだと思えます。
また子供を探す男に間違いのように、子供の秘密空間を横目で見るサムの姿に愚かだと嘆きましたが、後でサムはその男の名前で、その男がベビーシッターで、女がまさに精神病院を脱出した殺人鬼だったのです。それなりに新鮮などんでん返しでした。
2番目の物語と最後の物語で興味深かった点は、ハリウッド映画の典型的な男女ステレオタイプを、覆す人物を設定したことです。
普通の映画で何者でも殺人鬼は男性で、何処にでも種を撒いて、一人の人生を台無しにすることも男性で、いつも被害者は女性。
ファンタジー的な設定が加味されたりもしたが、その古典的な性役割を変えた結果が、それ程に強引でもおかしくもなかったという点は高く評価に値します。
ホラー映画を見ながら重要に見るのが、ミジャンセンです。葬儀場や話に出て来る家の雰囲気とは全く違う、低予算の映画の感じを忘れさせてくれます。
無理やり、怖がらせなくても良いホラー映画が出る事を、ホラー系映画会社に覚えて貰いたいと思いました。来てはいけない場所を探していた一行が、サバイバルで死んでいくのではなく、適切な隠喩を含む広い話も可能だということを、この作品が物語っているようでした。
映画は、単純な恐怖だけを伝えるのに止まらず、勧善懲悪の構図の枠組みも備えている為、昔のホラーストーリーが好きな方々や、ジャンプスケア演出の乱発に飽きたホラー映画ファンには、新鮮な作品として感じられるでしょう。
作品内で扱う素材と監督の意図と意義
『葬儀館のコレクション』は、ホラージャンルとしては独特の死、それ自体を素材として扱っています。
ホラー映画では、死は映画の中で通り過ぎていく一場面で描写されてしまうのに対し、『葬儀館のコレクション』では、より集中的に死を扱っています。
“死の叙事性”とも言いましょうか。また、この映画にはホラー映画、カルト映画マニアなら、好きな要素が沢山あります。
オープニングでは、少年の自転車と共に繰り広げられる、レイブンズエンドの全景と映画のメイン舞台である葬儀場が、終始一貫して霧が立ち込めて、童話的な雰囲気を演出しています。
そして、『葬儀館のコレクション』の中で目立つのは衣装です。60年代のクラシックなドレスから、80年代のレトロな衣装まで、各物語の中のキャラクターの様々なスタイルが、ユニークな見所を提供しています。
更に、「ハリー·ポッター」シリーズを思わせる神秘的なオープニング音楽や、MONDOBOYSの「Suicide」のように、時代を代表するオールドポップスが加わり、没入感を増します。
美しい衣装と音楽で、悲劇的な状況をより愉快に解いていき、観客に、大人の為の童話として近付こうとした監督の意図が伺えます。
この映画には、確実な意義があります。勧善懲悪、因果応報がまさにそれです。4つの物語がそのテーマを通じて繋がっており、結末までついてきます。それで、童話のような感じをしました。
1番目の物語は、盗みをしていた女が好奇心に耐えられなかったこと、2番目は、女性を性的快楽の道具としてのみ考える男性への易地思之、3番目は、夫婦の契りの約束を破った夫が、精神世界でその約束を守っていく点などを並べて、ここで4番目の物語と反転が起こります。
4番目は、真の悪には死ではなく、一生の苦痛を与えるというメッセージを、物語の順に見せてくれます。
考えてみれば、比較的軽い盗みは、短い苦痛の後の死、二番目に快楽にだけ執着して、女性を道具みたいにした男性が、妊娠出産で激しい苦痛の後の死、三番目に夫は精神的苦痛を受けながらも、狂人になり、最後は苦痛を委ねる導き手になります。
このような順次的な発想から、思ったより真摯な目的で、製作された作品であることが分かります。 最近、この時局に自分の防疫不良により、他の人にまで被害を与えたり、甚だしくは死亡に至らしめたりしている時点で、このような結末は意外に、警鐘を鳴らす部分もあるようです。
いかなる悪行も処罰されるという因果応報の法則らしく、埃は当然埃に回るのが、世の中の道理。泉は泉通り、そして長年、闇の中で生きて来た葬儀屋が、光に出会った瞬間消えてしまったのは、光と闇は決して、交わることが出来ないという意味です。
“The Mortuary(霊安室)Collection(収集)”は解けば、”霊安室、または葬儀場の所蔵品”という意味です。
幻想特急を思わせるオムニバス形式の奇怪な物語構成、ファンタジーにホラーが融合した夢幻的雰囲気のミジャンセン、そして随所に地雷のように布陣している恐ろしい場面などは、ホラーファンの味覚を、満足させるのに遜色ないでしょう。
独立的に展開するダークの物語には、全て因果応報という明確なテーマが含まれています。また、考えられなかった社会風刺まで描き出し、善と悪に対する奥深い考察まで続けます。
ダークの話と一つに帰結して、最後は少しひねって反転を作り、映画の組み立てを一層強固にしている為、引きずることもなく、この映画は、短編の醍醐味を、上手く生かしています。
まとめ
ホラーが持つ多様な修辞を利用して、現実の世相を風刺し批判する点で、『葬儀館のコレクション』はジャンルに忠実な映画です。映画的装置を通じて、社会システムを批判する点で、ファンタジーとホラーを適切に利用しました。
愛に関する悲しいながらも、残忍な童話も存在します。永遠の愛を物語りましたが、現実の前に跪く人間に関する3度目の物語も、血と肉が飛び交うホラージャンルの特性を失いません。
ダークが言ったように、各自が5編の話を通じて隠された真実を覗き見たり、あるいは、世界万物の普遍的均衡がどのように表現されるのかを見ても、新鮮でしょう。
最後まで人をぞっとさせ、重厚で深い価値観を見せてくれる『葬儀館のコレクション』は、スリラー映画界の一線を画して、優れた作品性を見せています。