連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile154
3億ドル以上もの興行収入を達成した、2010年代を代表するホラー映画『死霊館』(2013)。
実在の心霊現象研究家であるウォーレン夫妻を主人公としたこの作品はシリーズ化され、「死霊館ユニバース」として今現在もホラー映画界を牽引しています。
今回は『死霊館 エンフィールド事件』(2016)の続編となる、全米を震撼させた殺人事件を題材とした映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(2021)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
The Conjuring: The Devil Made Me Do It
【監督】
マイケル・チャベス
【脚本】
デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック
【キャスト】
パトリック・ウィルソン、ヴェラ・ファーミガ、ルアイリ・オコナー 、サラ・キャサリン・フック、ジョン・ノーブル、スターリング・ジェリンズ
【作品概要】
『ラ・ヨローナ ~泣く女~』(2019)を製作したマイケル・チャベスが監督を務めた「死霊館ユニバース」8作目となる作品。
パトリック・ウィルソンとヴェラ・ファーミガが再び主演を務めた本作には、『ロード・オブ・ザ・リング / 王の帰還』(2004)などの出演作を持つジョン・ノーブルが出演しました。
映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』のあらすじとネタバレ
1981年、8歳の少年デヴィッド・グラツェルに取り憑いた悪魔を祓う依頼を受けたエドとロレイン。
しかし、デヴィッドに取り憑いた悪魔は想定以上に手強く、エドは心臓疾患を負わされてしまいます。
デヴィッドの姉デビーのボーイフレンドのアニーが悪魔を自身に移したことでその場を切り抜けることに成功しますが、それはアニーにとって地獄の日々の始まりでした。
心臓に強い負担がかかりながらも生き延びたエドは、悪魔がアニーに乗り移ったことを強く警戒します。
数ヶ月後、アニーはデビーと共にブルーノと言う経営者のもとで働いていましたが、幻聴や幻覚を見るようになったアニーはデビーがブルーノに襲われてる幻覚を見て、彼をナイフで刺し殺し逮捕されてしまいます。
当時の記憶も曖昧なアニーは検察に死刑を求刑されますが、事情を知るエドとロレインは「悪魔が行わせた殺人」としてアニーの無罪を弁護士と共に主張。
現実的な証拠の提示を求められたエドとロレイン、そしてデビーはアニーが取り憑かれていた証拠を探します。
元々はデヴィッドに取り憑いていた悪魔と言うこともあり、3人はグラツェル家の邸宅を徹底的に調べるなかで、床下から奇妙な彫像を発見。
この彫像が悪魔を呼び出しデヴィッドに呪いをかけたと確信したエドは、カルト教団を解散に追い込んだ過去を持つカストナー神父に助言を求めます。
カストナー神父は引退していましたが、悪魔崇拝を目的としたカルト教団が集めていた呪具を地下室に保管しており、グラツェル家で見つかった彫像もその一種であることを話します。
その後、エドとロレインは同じ彫像が発見された事件の存在を聞き、警察署を訪れます。
捜査を担当する刑事は2人のことを怪しんでいましたが、ロレインが持つ「霊視」の力を目の当たりにし、捜査の協力を条件に捜査資料をアニーの裁判の証拠として提出する約束をしました。
3ヶ月前、ケイティと言う女性が滅多刺しにされた遺体で発見され、彼女を刺したと見られるジェシカ・ルイーズ・ストロングは消息を経ちました。
ジェシカの所持品の中から彫像が見つかり、刑事はその彫像が誰の所有物なのかを調べていました。
遺体発見現場を調べるロレインは「霊視」の能力で、ジェシカが悪魔に取り憑かれケイティを刺し殺し、そのまま断崖から湖へと身を投げたことを知り、刑事に遺体の場所を伝えます。
夜、湖からジェシカと見られる死体が発見され、エドとロレインは何者かがデヴィッドやジェシカに呪いをかけたことを確信。
デビーからの情報で拘置所にいるアニーが再び呪いにかけられ、悪魔から自殺するように強要されていると聞いた2人は時間の猶予がないことを悟ります。
葬儀場に侵入し、ジェシカの死体に触れ「霊視」を試みたロレインは、呪いをかけた犯人が女性であることや、儀式の現場が地下室であり列車の音がすることを感じ取りました。
手にした情報をまとめるエドとロレインでしたが、その夜、エドがロレインを殺害しようとします。
エドは我に帰り間一髪で凶行を止まりますが、犯人が自身たちの存在に気づき、2人の家に彫像を置きエドに呪いをかけていたことが分かります。
映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』の感想と評価
実際に発生した殺人事件を基にした恐怖映画
「死霊館ユニバース」の作品は、ウォーレン夫妻が実際に体験および解決を行った心霊事件が物語のベースとなっています。
8作目となる『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』では、心霊現象を信じていない人たちにも強い衝撃を与えた「悪魔が私に殺させた(Devil Made Me Do It)事件」を基にしています。
「心神喪失状態」で犯してしまった罪は減刑対象になり得ると言う法律が日本にあるように、海外でも責任能力の有無を判断する上で精神状態は重要になります。
「悪魔が憑いている」と言うことが事実であれば「心神喪失状態」の極致と言えるものであり、悪魔が行わせた殺人は無罪を主張するに足るものと言えます。
しかし、あくまでもそれは「悪魔が憑いている」状態を現実的な証拠を提示し立証することが出来た場合であり、本作が題材とした裁判は「悪魔」の存在が刑を左右したという世界でもまれに見るものでした。
この裁判にはウォーレン夫妻が大きく関わっており、本作は実在の事件の裏側をウォーレン夫妻視線で描いたものとして楽しむことができます。
「フーダニット」を追うオカルトミステリ
ミステリの世界では物語の「謎」の主題を定める用語として「フーダニット(誰がやった)」や「ハウダニット(どのようにやった)」、「ホワイダニット(なぜやった)」と呼ばれる言葉があります。
本作は「死霊館ユニバース」としてガチガチのホラーでありながらも、8歳の少年に悪魔を憑依させた呪術者を追う「フーダニット」を描いたミステリとしても魅力的な作品でした。
ロレインの持つ「霊視」の力とエドの知識と行動力を駆使し、事件現場や被害者たちの見えない繋がり(ミッシングリンク)を突き止めていく展開は、ミステリ好きにこそ観て欲しいほど緻密な物語となっています。
「ホラーは苦手だけどミステリは好き」と言う方には、怖さに耐えて本作を鑑賞してみてほしい、とオススメしたくなるほどの作品でした。
まとめ
主演2人の演技によって魅力的に映る「死霊館ユニバース」は、まだまだ終わることのない大人気シリーズ。
前作からの続きの要素はあるものの、本作から鑑賞しても楽しさは一切衰えることがない8作目『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』。
前作を観ていないけど興味がある方は、ぜひ本作からでも「死霊館ユニバース」に入ってみてください。