Netflixオリジナル映画『殺人ホテル』は2020年10月22日(木)より配信開始
世界各地の様々な映画が、Netflixオリジナルとして配信されています。
そしてホラー映画ファンをザワつかせる映画が登場しました。
その名も『殺人ホテル』。いかなる恐怖が待ち受けているのか、覗いてみましょう…。
映画『殺人ホテル』の作品情報
【配信】
2020年(ノルウェー映画)
【原題】
Kadaver
【監督・脚本】
ヤーラン・ヘルダル
【出演】
ギッテ・ヴィット、トマス・グルスタッド、ソービョルン・ハール、トゥーヴァ・オリヴィア・レーマン、トリーネ・ヴィゲン、マリア・グラツィア・ディ・メオ、キングスフォード・シアヨール、ヨナタン・ロドリゲス
【作品概要】
戦争か、事故なのか。核災害に襲われた人々が飢えに苦しんで暮らす近未来の世界。ある一家が奇妙なホテルのディナーショーに参加します。
観客には豪華な食事が出されます。そしてホテル全体を舞台としたショーが開始され、彼らは出演者と区別をするための、仮面を着けさせられました。
やがて彼らは、ショーに隠された恐るべき秘密に気付きます…。
監督・脚本はノルウェーのヤーラン・ヘルダル。SF映画『Everywhen』 (2013)でビクトリア・テキサス・インディーズ映画祭でFrels賞を受賞した、今後が期待される若手監督です。
主演は『The Sleepwalker』(2014)に主演し、『ソニア ナチスの女スパイ』(2019)に出演したギッテ・ヴィット。
物語の鍵となる謎の人物を『ストックホルム・ケース』(2018)と、ポール・グリーングラス監督のNetflix配信映画『7月22日』に出演の、ソービョルン・ハールが演じます。
映画『殺人ホテル』のあらすじとネタバレ
近未来の危険に満ちた街。そこでレオ(ギッテ・ヴィット)は、夫ヤコブ(トマス・グルスタッド)と娘アリス(トゥーヴァ・オリヴィア・レーマン)と暮らしていました。
事故か戦争がもたらした核の被害で、世界は荒廃していました。街は霧に包まれ人々は飢え、自ら死を選ぶ者もいます。
絶望的な世界ですが元舞台女優のレオは、娘アリスの前で芝居を演じ、空想を働かせて力強く生きるよう教えていました。
ある日街にマティアス(ソービョルン・ハール)が主宰する、食事付きのショーを宣伝する男が現れます。
悲惨な状況だからこそ、娯楽が必要だと説く男。一夜限りのショーのチケットを、レオは家族の分も含め購入しました。
荒廃した世界で演劇が行われ、しかも食事まで出されるとの話に疑念を覚えるヤコブ。
レオはこんな状況だからこそ、娘に芝居を見せたいと訴えます。前向きに振る舞いたいとの妻の言葉に、夫もショーに行くことを承知しました。
街のはずれの小高い丘の上にある、かつてホテルだった建物がショーの会場でした。明るい照明に包まれたホテルに、続々と観客が現れます。
レオたち一家がチケットを差し出すと受付の男は、ショーは幼いアリスに相応しくないと入場を拒みました。
そこに主催者のマティアスが現れます。アリスを見て気に入ったのか、入場を認めるマティアス。
集まった観客たちは大広間のテーブルに座ります。ウエイターが現れ皆に豪華な肉料理が振る舞われ、レオ一家は久々に幸せな気分を味わいます。
同じテーブルには黒人のラーシュ(キングスフォード・シアヨール)と、その妻カトリーヌ(マリア・グラツィア・ディ・メオ)と娘スザンヌがいました。
彼らはラーシュ一家と話しますが、ステージにマティアスが現れます。
ショーには舞台も観客席も無く、このホテル全体が会場だと説明するマティアス。
観客は興味を覚えた人物を追い、その姿を眺める。これが皆さんのご覧になるショーだと説明します。
彼は今夜起こることは、全て演出でありショーの一環だと言葉を続けました。
ただしショーの登場人物と、観客を区別する必要があります。マティアスは観客に仮面を配らせます。
素顔の物は演者で、仮面の者は参加者です。説明が終わると会場に女が登場しました。
その女ラケル(トリーネ・ヴィゲン)は、デビット(ヨナタン・ロドリゲス)と言い争いを始めます。
それがショーの開幕の合図でした。大広間から別々の方向に出るラケルとデビット。
仮面の観客たちも広間から出て行きます。レオたちはアリスの提案で、ラケルの後を付いて行くことにしました。
ホテルのあちこちで様々な出来事が起こり、仮面の観客はそれを見物します。
部屋には言い争う男女や、激しく愛し合う男女の姿もありました。観客たちは思い思いの場所に集いました。
レオたちがラケルを追うと、彼女はマティアスの部屋に入ります。
マティアスに封書を渡し、役ではなく自分を理解して欲しい、昔に戻って欲しいと訴えるラケル。
マティアスが拒絶すると、彼女は涙を流し出て行きました。なぜ彼女が泣いたか理解できないアリスと共に、一家は彼女を追います。
するとラケルが姿を消します。続いて激しい物音が起き、仮面のない女が逃げてきました。自分たち以外の観客は見えませんが、一家はラケルの向かった405号室を探します。
アリスは1人で先に歩き、突然姿を消しました。仮面を捨て慌てて娘を探すレオとヤコブ。
部屋から悲鳴が聞こえましたが、アリスの姿はありません。
そこにカトリーヌが現れます。彼女も夫と娘を見失っていました。3人は一緒になり家族を探します。
今度は悲鳴と共にカトリーヌが姿を消します。その壁に掛かる羊の首の絵を見つめるレオ。すると絵の中の目が瞬きました。
レオは驚き倒れます。ヤコブが絵を確認しても何もありません。床に落ちていたカトリーヌのイヤリングを拾うレオ。
他の観客に気付き声をかけた2人。怯えた様子の男は2人に演者かと尋ね、観客なら仮面を見せろと言います。
ヤコブが仮面を捨てたと告げると、男は何も言わず去りました。
2人はウエイターの恰好をした男に出会います。男は自分は利用され変わってしまったと言い、2人の前で喉を斬り自殺します。
ショックを受ける2人。そこにラケルが現れます。彼女は2人に大広間に集まるよう告げました。
2人は血の付いた、アリスが持つぬいぐるみを見つけます。場所は衣服が山と積まれた部屋で、そこにラーシュが現れます。
彼も妻と娘を見失い探していました。部屋は衣裳部屋でしょうか、ここで血液の入った袋を見つけたラーシュ。
何かに気付いたヤコブは、ぬいぐるみに付いた血を舐めるとシロップでした。今までの出来事も芝居の一部でしょうか。
ラケルの言葉に従い、3人は大広間に向かいます。そこでは集められた人々にマティアスが、何も詮索せず従い、家族のように団結しようと告げていました。
傍らで白い防護服姿の男たちが動き回り、何かを片付けています。3人は見失った家族を求め、防護服の男を追います。
男が絵の掛かった壁を通り抜けるのを目撃するレオ。ヤコブとラーシュが調べても、壁に仕掛けはありません。
他の防護服姿の男を付け、調理場を通り抜け、建物の下へと進む3人。焼却炉で何かが燃えていますが、それは服でした。
アリスも他の観客も殺されたと口にする夫と、レオは言い争いになります。すると現れた男に捕まり、ナイフを突きつけられるヤコブ。
その男は先程自殺した男でした。あれは演技だったと説明する男。ヤコブは2人に抵抗するよう言いますが、ラーシュは去って行きました。
夫が抵抗した隙に逃げ出したレオは、調理場の食物は偽物だと気付きます。彼女は誰もいないマティアスの部屋に逃げ込みます。
そこには有名な演出家の娘が焼死し、その火災現場のホテルを買収したとの新聞記事がありました。
部屋の中で隠れるレオ。先ほど夫を襲った男が、彼女に迫ってきます…。
映画『殺人ホテル』の感想と評価
不穏な雰囲気が漂うホテルで繰り広げられる前衛的な演劇。
やはり裏にはトンデモない仕掛けがありました、という物語の雰囲気を見事に表現した邦題、『殺人ホテル』です。
原題の『Kadaver』は死体、それも献体などの解剖用の遺体を示す言葉。悪趣味な仕掛けをストレートに伝える感があります。
こういったテーマを取り扱う作品は数多くありますが、本作の様に仕掛ける側も、分業制を取っているため本当の悪行には気づいていない、という設定は斬新です。
複雑化した社会では自分が安く食べている物が、どのような環境で作られ、誰に過酷な労働を強い、その結果何を搾取しているのか、気付くことも意識することもありません。
『殺人ホテル』の主題は、カニバリズムでもデストピアでもなく、人を喰い物にする現代社会を、人を喰うことで風刺した、と受け取ることが出来ます。
近年生まれた同様の映画として、イスラエル映画『リーディングハウス』(2017)や、ブラジル映画『ザ・カニバル・クラブ』を紹介することができます。
あなたも知らないうちに、誰かを喰い物にしていませんか?
無数に張られた伏線の数々
本作は騙し合いの物語だと判断できます。
観客として登場する人物は、演者たちに騙されます。さらに観客に潜んでいた演者にも騙され、疑念がつのる主人公たち。
観客たちはこれは芝居と説明された結果、目の前で起きていることは現実か、芝居かの区別が付かなくなります。
これは映画の観客も同様です。映画の中に登場する人間関係は、どこまで真実なのか。いつの間にか警戒しながら鑑賞している自分に気付くでしょう。
演者たちも騙され利用されている、複雑な構造になっています。物語の進行と共に、この謎解きを楽しんで下さい。
しかし難解な映画ではありません。仕掛ける人間の正体のヒントは最初から提示されており、物語の進行と共に1つ1つ明らかにする作業が繰り返されます。
またこの恐るべきショーの主催者の正体と動機も、劇中にしっかり登場しており、ラストには皆が納得するでしょう。
ミステリー映画に慣れた人なら、丁寧に用意されたヒントが安易に感じるかもしれません。
ホラー、悪趣味映画と思って見た人は戸惑うかもしれませんが、もう1度見て下さい。最初から明確に伏線が張られていたと気付くはずです。
芝居によって騙された人々が、芝居によって真実を暴く。見事な展開が用意された演劇賛歌の映画とも受け取れます。
しかし86分の上映時間内に、全てを収めた感もあります。もう少し謎解きを複雑して欲しい、もしくはもっと悪趣味なシーンを見たかった。そんな感想を抱く人もいるでしょう。
まとめ
参考映像:『Everywhen』 (2013)
『殺人ホテル』は若き監督ヤーラン・ヘルダルによる、Netflix映画初のノルウェー製長編映画となりました。
この作品はチェコで撮影されました。作品に漂う無国籍な雰囲気はこうして生み出されたものです。
現代の映画の製作環境と、全世界に同時にネット配信される公開が、新時代の映画を象徴した作品とも呼べるでしょう。
出世作となった『Everywhen』を撮った時、監督は17歳でした。
この年齢で劇場公開される映画を作った事はノルウェー映画界の快挙であり、世界でも例の少ない出来事でしょう。
まだ粗削りながらも見事な完成度を持つSF映画、『Everywhen』を監督したヤーラン・ヘルダル。
現在彼はLAを中心に活動し、様々なミュージックビデオを製作し、その世界での総再生回数は、1億7000万回以上と言われています。
『殺人ホテル』にもMVを手掛ける監督らしい、印象深い色彩と強烈な映像が存在しています。
今後の活躍が期待されるヤーラン・ヘルダル。次回は彼のライフワーク、と呼ぶにはあまりに若いですが…、本格的長編SF映画を見せて欲しいものです。
Netflixオリジナル映画『殺人ホテル』は2020年10月22日(木)より配信開始