人肉を食べる兄弟に捕まった男女4人が体験する血みどろの恐怖を描いた映画『人肉村』
デヴィッド・フィンチャーや三池崇史を尊敬する、カナダの新鋭監督エイドリアン・ラングレーが、サスペンスの名作『セブン』(1995)を意識して製作したと言われる映画『人肉村』。
執拗に獲物を追いかけてくるワトソン兄弟も怖いですが、そもそも、このワトソン兄弟とは何者なのでしょうか? ワトソン兄弟の長男オーウェン演じるサイモン・フィリップスの怪演が光ります。
世界各国のファンタステック映画祭で高い評価を得ている、映画『人肉村』の魅力をご紹介します。
映画『人肉村』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(カナダ映画)
【原題】
Butchers
【監督・脚本】
エイドリアン・ラングレー
【共同脚本】
ダニエル・ワイセンベルガー
【キャスト】
サイモン・フィリップス、マイケル・スワットン、ジュリー・メインビル、アン=キャロライン・ビネット、ジェームズ・ヒックス、フレデリック・ストーム、ニック・アラン、サマンサ・デ・ベネデ、ブレイク・キャニング、ジョナサン・ラージー
【作品概要】
車の故障で孤立した4人の若者が、殺人一家である、ワトソン兄弟に遭遇したことで始まる、悪夢のような恐怖を描いたホラー映画『人肉村』。
ワトソン兄弟の長男オーウェンを、『ゲヘナ』(2019)『レベル15』(2015)などの、サイモン・フィリップスが怪演しています。
カナダのTV界で若手演出家兼カメラマンとして注目されていた、エイドリアン・ラングレーが、製作、監督、脚本、撮影、編集を手掛け、本作でホラー作品デビューを果たしています。
映画『人肉村』のあらすじとネタバレ
レジャーから帰宅している、ジェナ、テイラー、マイク、クリスの4人の若者。
クリスは車内ではしゃいでおり、ジェナ達をカメラで撮影しています。
運転しているマイクは不機嫌で、クリスの撮影を何度も止めさせようとします。
マイクと恋人関係にあるジェナも、マイクがテイラーと浮気をしていることを知っており、終始不機嫌な表情を浮かべています。
順調に車は走っていましたが、突然ラジエーターが故障し、車が動かせなくなります。
困ったマイクは、近くのガソリンスタンドを探して、テイラーと2人で歩き始めます。
残されたクリスとジェナは、2人の帰りを待ちますが、その間にジェナがトイレに行きたくなります。
草むらに入ったジェナは、草木に張り巡らされていたワイヤーに引っ掛かります。
それは、近くに住む殺人一家、ワトソン兄弟が張った罠で、次男のオズワルドは、ジェナの存在に気付きます。
映画『人肉村』感想と評価
ホラー映画のお馴染みの要素として「殺人一家」「食人」という要素がありますが、新たな食人一家の恐怖を描いたのが、映画『人肉村』です。
こういった作風のホラー映画で、重要な部分となるのが、殺人一家のキャラクターとなります。
殺人一家で言えば、映画『悪魔のいけにえ』(1974)に登場する、レザーフェイスが代表的ですね。
では『人肉村』の殺人一家、ワトソン兄弟はどうか?と言うと、やはりレザーフェイスほどのインパクトは無いですが、見事に、それぞれのキャラは立っています。
まず、長男のオーウェン。
彼は兄弟の中で一番社交性のある男で、憎たらしい程、口が立ちます。
自身が営んでいるガソリンスタンドに、迷い込んで来た人を捕獲し、小屋に連れ去る役割を持っています。
シェイクスピア作品を暗記しているなど、かなり知的で頭がいいのですが、獲物になった人間を「肉の塊」と呼び、ジェナの髪の匂いをおもいっきり嗅ぐなど、絶妙な気持ち悪さを兼ね備えています。
次男のオズワルドは、オーウェンとは対照的に、獣のような男です。
オーウェンの言いなりになっており、命令されたことは着実に行うだけでなく、平気で人に刃物を突き刺す残虐性も持っています。
と言うより、罪の意識そのものが無いようで、オーウェンはオズワルドを馬鹿にしながらも、狂っている部分を感じて、恐怖を抱いているようです。
そして三男のオックスフォードは、怪物のような容姿をしており、もはや人間なのかも判別できません。
オーウェンもオズワルドも人の肉は食べませんが、捕まえてきた人達を、このオックスフォードの食料にしているようです。
また、女性であれば監禁し、兄弟の性欲のはけ口にされてしまうので、絶対に関わりたくない兄弟です。
このワトソン兄弟に捕まってしまった、ジェナたち4人の若者が「果たして、逃げ出せるのか?」というのが、本作の見どころとなっています。
逃げたと思っても、また兄弟の小屋に連れ戻されてしまうなど、『悪魔のいけにえ』のような展開が続くのですが、最終的にジェナはオックスフォードに食べられてしまいます。
エイドリアン・ラングレーは『セブン』のタッチを狙ったことを公言していますが、ラストのカメラワークは、『セブン』のラストにかなり近いですね。
とは言え、ジェナは助かると思ったので、このラストには驚愕しました。
ただ、考えてみると、ブレーキのような役割を果たしていた長男のオーウェンと、親戚のウィラードが死んでしまった為、残されたのは、罪の意識を持たない、狂人のオズワルドと、オズワルドの言うことだけを忠実に聞く怪物、オックスフォードだけとなりました。
ワトソン兄弟の中でも、最凶の2人が残ってしまった訳ですが「この後に、彼らはどんな生活を送るのか?」とか想像すると、このラストシーンはかなり怖いですね。
まとめ
ワトソン兄弟のキャラが目立つ、映画『人肉村』。
どうやらワトソン兄弟にとって、亡くなった母親が大きな存在となっていたようです。
本作の冒頭でオーウェンは「母は厳しかったが、公平だった」と語っていますが、兄弟を見る限り、とてもそうは思えません。
さらにウィラードからも「お前らが生きていられたのも、母親のお陰」と言われていますが、この3人兄弟を育てた母親は、どんな女性だったのでしょうか?
殺人が母親の教えなのか? それとも、母を亡くし生きていく術として、殺人を始めたのか?など、ワトソン兄弟はまだまだ謎が多いです。
そんな謎の存在に捕まえられ、命を握られるという『人肉村』の展開はかなり怖いですし、不快な作品と言えますが、そこが魅力となっていますね。