原浩の小説『火喰鳥を、喰う』が映画化決定!
原浩氏による第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作『火喰鳥を、喰う』。
戦死した大伯父が書いたとされる手帳が戦地から自宅に届いてから、主人公の周囲で怪奇な現象が起こり始めます。次第に手帳が生み出す異世界が、現実社会を侵食していきます。
自分の存在すら危ぶまれる主人公は、どう対処するのでしょう。
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
歪んだパラレルワールドを描いた本作が、主人公の夫婦に水上恒司と山本美月を迎えて映画化決定です。
監督は、『鴨川ホルモー』(2009)や『超高速!参勤交代』(2014)『空飛ぶタイヤ』(2018)の本木克英。
脚本は、『ラーゲリより愛をこめて』(2022)『護られなかった者たちへ』(2021)の林民夫が担当します。
映画『火喰鳥を、喰う』は、2025年10月3日(金)に全国公開。映画公開に先駆けて、小説『火喰鳥を、喰う』をネタバレありでご紹介します。
小説『火喰鳥を、喰う』の主な登場人物
【久喜雄司】
主人公。戦死した大伯父の手帳から怪異現象を体験する
【久喜夕里子】
久喜雄司の妻。雄司の大学時代の1学年先輩。思念を感じる能力を持つ
【久喜保】
雄司の祖父
【久喜貞市】
雄司の祖父・保の兄。太平洋戦争のとき、ニューギニアで戦死したとされる
【北斗総一郎】
夕里子の同級生。人並外れた強い思念を感じる能力を持つ
小説『火喰鳥を、喰う』のあらすじとネタバレ
原作「火喰鳥を、喰う」書影(2022年 角川ホラー文庫刊)
久喜雄司は、大学生時代の先輩であった夕里子と結婚し長野で暮らしていました。
雄司が2週間の出張を終えて長野の自宅に帰って来ると、久喜家の墓石が壊されているという話を聞きました。
そして同じ頃、83歳の雄司の祖父・保の元に、信州タイムズという新聞社から1冊の手帳が届きました。
その手帳は保の兄・久喜貞市が戦争中に書いた手記でした。貞市は太平戦争で戦死しています。
翌日、雄司が墓を見に行きました。久喜家のお墓には、雄司の祖母の名前と今から17年前に事故死した雄司の父雅史、そして戦死した貞市の名前も彫られているのですが、貞市の名前がきれいに削り取られていました。
手帳は、太平洋戦争の特集記事を信州タイムズが掲載し、ニューギニア戦線にスポットを当てた記事を見た現地の元ガイドから受け取ったもので、従軍日記と思われます。
貞市の手帳は当時の状況を知るうえで貴重だったので、保や雄司たちは、玄田と与沢という2人の新聞記者のインタビューを受けることになりました。
みなで手帳を読んでいきます。そこには、ニューギニアの奥地で道なき道を敵に見つからないよう逃亡する貞市と部下2名の様子が描かれていました。
持参した食糧が底をつき、ジャングルで昆虫やミミズなども食べる日々が続きます。やせ細った貞市たちはジャングルの中で火喰鳥と呼ばれる大きな鳥を見かけ、なんとか仕留めようと努力したことも書かれていました。
保や雄司と夕里子、それに大学の夏季休暇で遊びに来ていた夕里子の弟・瀧田亮が、日記を記者たちと見ているうちに、保は「この日記を読むと、帰らなきゃならん、生きなきゃならんという、匂いみたいなものがある」と言いました。
また玄田記者も「久喜貞市は生きている」と言い出します。祖父の保は、この頃から様子がおかしくなり始めました。
インタビューの後、手帳の最後に「ヒクイドリヲクウ ビミナリ」という一文が追加されました。この一文は最初に手帳を見た時にはありません。
これを書いたのは、亮のようでしたが、亮は自分でもなぜこんなことを書いたのか、わからないと言いました。夕里子は黙って消しゴムでその一文を消しました。
その後、雄司は玄田記者と与沢記者と一緒に、戦争から生き残って帰国した貞市の当時の部下、藤村栄と伊藤勝義に話を聞きに行きました。
藤村栄は久喜貞市の手帳を見て、とても懐かしく思い出された様子でしたが、その後「久喜曹長が火喰鳥を食べた、美味しかった」と言い出しました。
その後、藤村家は火事になり、助け出された栄は意識不明の重体となりました。
その夜雄司と保は将棋をさしていました。将棋をしながら、保は「あの日記には、生きたいという怨念が染みついている」とポツンと言い、「お祓いでもする?」と言う雄司に「もう遅い」ともつぶやきました。
手帳が届いてから3日目。忽然と保が姿を消しました。
保の捜索願いを出していると、信州タイムズの玄田がマラリアを発症したと与沢から連絡が入りました。その後、彼は自身の手首を切断し狂乱します。
一連の出来事に思い悩んだ夕里子は、大学時代の友人・北斗総一郎にこの事態について相談しようと言いだしました。
小説『火喰鳥を、喰う』の感想と評価
墓石に掘られた名前が消えるというミステリーに、夢の中から出てきたような怪鳥が怪現象を起こすというホラーが加わり、死んだ人が生きている世界が侵食してくるというSF要素も混じった物語『火喰鳥を、喰う』。
戦争で悲惨な死を遂げたはずの久喜貞市が、日記として書いていた手帳が現在の久喜家に届き、次から次へと奇怪な事件が起こります。
日記には貞市の「生きたい、生きて帰りたい」という凄まじい信念が込められて、高い思念を感じる能力を持つ者たちを驚かせます。
ニューギニアに生息するという火喰鳥は、貞市たちの食糧となるべく彼の日記にしばしば登場しますが、生きて帰りたいがために彼らがその鳥を捕えて食べた可能性があります。
貞市の強い思いが火喰鳥の魔力によって、恐るべき怨念になってしまったのでしょうか。
現実世界と貞市の願う世界とでは、貞市が戦争から生きて帰るということが一番大きな相違点でした。
雄司が幸せに暮らしていた現実世界が、生きたいと願う貞市の想い描く異世界に次第に覆されていき、雄司は絶望感を味わいます。
また小説は、夢魔が‟私”にささやく「お前の死は私の生」という言葉で始まっています。貞市の生死によって、雄司の生きている世界が存続したり、全く違う世界になったりするわけですから、とても意味深なフレーズです。
内容も、自分が生き抜くために、夢魔や人の信念と戦わねばならないという、衝撃的なものでした。
そしてもう一つ怖かったのは、欲しいものは何がなんでも手に入れるという北斗総一郎の一途すぎる思い。北斗は実は学生時代から夕里子のことが好きだったのですが、夕里子はそうではありませんでした。
結果として、北斗は貞市の「生」への信念が籠った手帳を目にし、自分の横恋慕な気持ちも便乗させてしまったのです。或いは、手帳の話を聞いたときからそういう風に仕向けたのかも知れません。
どちらにしても、一番怖いのは‟人の執着心”だと言えるでしょう。
映画『火喰鳥を、喰う』の見どころ
原浩氏による第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作『火喰鳥を、喰う』を、『鴨川ホルモー』(2009)や『超高速!参勤交代』(2014)『『空飛ぶタイヤ』』(2018)の本木克英監督が映画化します。
本木克英監督は映像化にあたり、「人間の執着心が異世界を創出し、時空を越えて現実を侵食していく。この怖ろしくも幻想的な物語を映像化することは、監督として心踊る挑戦でした。」と語っています。
生への執着心と女性への執着心。人間の欲とも言える2つの執着心が、過去から現実社会を覆していくのです。
主人公の久喜夫婦には、水上恒司と山本美月が扮します。そして夕里子に執着する青年・北斗総一郎には、映画単独初出演となる宮館涼(Snow Mman)が抜擢されました。
怪しく危険な空気をまとう謎めいた男を宮館涼がどのように演じてくれるのかと、とても楽しみです。
また、戦場で死に瀕した兵士が見たものと貞市の手帳に宿っている生への怨念を、どのように結び付けて表現するのか。
異次元世界を扱ったミステリーホラーは、見どころ満載と言えます。
映画『火喰鳥を、喰う』の作品情報
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
『火喰鳥を、喰う』(著者・原浩/角川ホラー文庫刊)
【監督】
本木克英
【脚本】
林民夫
【キャスト】
水上恒司、山本美月、宮館涼(Snow Mman)
まとめ
(C)2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
戦死した兵士の残した手帳が現代社会に大きな怪異をもたらす物語『火喰鳥を、喰う』。火喰鳥自体は、夢魔の象徴として登場します。
本当に火喰鳥を食べたのかどうかは読者の想像に任されていますが、その手帳が現実社会を脅かす存在になったのは事実です。
小説を読んでいる時は、描かれている火喰鳥の残忍性や現実社会が歪んでいくことへの恐怖がじわじわと押し寄せてきます。
そして読後は、映像化されたリアル火喰鳥の恐怖を味わいたくなるのは間違いありません。
映画『火喰鳥を、喰う』は、2025年10月3日(金)に全国公開。