上院議員の家に強盗に入った、3姉妹が遭遇する恐怖を描いたホラー映画『ドント・ヘルプ』。
『グリーン・インフェルノ』や『ノック・ノック』などで知られるイーライ・ロス監督の作品の脚本を手がけ、監督から最も信頼する右腕と言われていた脚本家ギジェルモ・アモエド。
ギジェルモが自ら脚本と監督を務めた本作『ドント・ヘルプ』をご紹介します。
映画『ドント・ヘルプ』の作品情報
【公開】
2018年12月1日(メキシコ映画)
【原題】
El habitante
【監督・脚本】
ギジェルモ・アモエド
【製作】
ロドリゴ・ベロット
【キャスト】
マリア・エボリ、バネッサ・レストレポ、カーラ・アデル、フラビオ・メディナ、ガブリエラ・デ・ラ・ガルザ、フェルナンド・ベセリル、リズ・ディエッパ
【作品概要】
『グリーン・インフェルノ』(2013)『ノック・ノック』(2015)の脚本家で知られる、ギジェルモ・アモエド監督作。
シッチェス・カタロニア映画祭など、数々の映画祭で評判となった作品で、日本では「のむコレ2018」(2018年12月3日より東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映された作品。
映画『ドント・ヘルプ』あらすじ
メキシコの上院議員、ホセの家に強盗に入った、カミラとアニータ、マリアの三姉妹。
アニータは車に残り、カミラとマリアが侵入、事前に屋敷内の情報を得ていた為、強盗は簡単に終わるはずでした。
ですが、金庫の中に現金が入っていなかった事で、計画が失敗します。
マリアは逃げる事を提案しますが、カミラは脅されており、現金を持っていかないと、自身の命が危ない状況になっている為、マリアの提案を拒否します。
一方、妻のアンジェリカが物音に気づき、ホセは拳銃を片手に屋敷内を探索しますが、カミラに捕まります。
ホセとアンジェリカは、カミラに脅され現金を渡しますが、想定より金額が少ない事に腹を立てたカミラは、ホセとアンジェリカを縛り上げます。
カミラの質問に、ホセは「金は無い」の一点張り、逃げることを提案するマリアを無視し、カミラは屋敷内を探索し、地下室に入ります。
地下室に、拘束具で縛り付けられている少女の姿を見たカミラは、マリアを連れて助けに向かいますが、ホセとアンジェリカは「外に出すな!」と必死で止めます。
カミラとマリアは、少女を救い出し、車椅子に乗せて地下室から連れ出します。
少女を外に出す事を必死に止める、ホセとアンジェリカの夫婦とカミラは口論になりますが、その間に少女が姿を消します。
カミラとマリアは、アニータと共に、姿を消した少女の探索を開始しました。
屋敷の中で少女を探すマリアは、寝室で首の無いキリスト像を発見します。
蘇る、マリアの過去。
幼い頃のマリアは、厳格なキリスト教徒の父親に、神への祈りを強要させられ体罰を受けていました。
父親への怒りをキリスト像へ向け、マリアはキリスト像を床に叩きつけ、首の無い状態にした事がありました。
我に帰ったマリアは、カミラから少女を発見したと連絡を受けますが、今度はアニータが行方不明になります。
マリアとカミラは再び屋敷内を探索、マリアはシャワールームで、何かに怯えた様子のアニータを発見します。
アニータがいた事を、カミラに報告しようとするマリア、その瞬間、庭からカミラの悲鳴が聞こえます。
庭に駆けつけたマリアは、何かに怯えた様子のカミラを発見します。
カミラが指す方向に目を向けるマリア。
そこには、アニータの死体がぶら下がっていました。
映画『ドント・ヘルプ』感想と評価
屋敷に侵入した3姉妹が、恐怖に遭遇するという内容と『ドント・ヘルプ』というタイトルから、2016年に公開された、泥棒に入った若者たちが、元軍人に襲われるホラー映画『ドント・フリーズ』みたいな内容かと思ったら、まさかの悪魔祓い映画でした。
これまで、数々の悪魔祓い映画が登場しましたが、本作の特徴は、主人公のマリアが、父親へのトラウマから、神を心から信じられないという設定にあります。
マリアへ体罰を与える、熱心なキリスト教徒である父親は異常に見えるかもしれませんが、聖書には以下のように記されています。
【新改訳改訂第3版】箴言 13章24節
むちを控える者はその子を憎む者である。
子を愛する者はつとめてこれを懲らしめる。【新共同訳】箴言 13章24節
鞭を控える者は自分の子を憎む者。
子を愛する人は熱心に諭しを与える。
つまり、3姉妹の父親は、子供への愛情が強かったが為に、信仰を共用し体罰を与えていた事になります。
神の教えに従っている為、迷いは無かったでしょう。
父親に精神的に追い詰められ、キリスト像を叩き壊すまでに神を恨んでいたマリアが、神の力を頼り悪魔祓いを行う事になるのは、皮肉な展開と言えます。
また、通常の悪魔祓い映画なら、悪魔を退治して終わりなのですが、ここから一捻りあるのが、この作品の面白い所です。
ラストで、バチカンの新たな教皇に就任したペドロは、神の教えに則った演説をしますが、その目は明らかに異常で、自身の価値観を、絶対的に正しいと信じている、危険な雰囲気を醸し出しています。
それは、神の教えを全く疑わず、子供達に虐待をしていた、3姉妹の父親のようでもあります。
本作は、悪魔祓いをモチーフにしながら、信仰心と人間性のバランスを問いかけているという、異色の作品となっています。
まとめ
本作に登場する悪魔も、他の作品とは違う印象を受けます。
通常は人間を騙して、心を惑わせるタイプの悪魔が映画などには多く登場する印象ですが、本作の悪魔は「人が罪悪感を持ち、忘れたり隠しておきたい過去」の、真実のみを語ります。
忘れたい過去を客観的に、しかも本人さえも知らなかった真実まで語ってくる為、心が乱されるのは当然でしょう。
綺麗で真っ当な人生を送っていれば問題無いですが、そんな人間がいる訳もなく、悪魔祓いの神父ペドロですら、過去を語られ苦しみ始めるシーンがあります。
神の信仰は「理想」を語り、悪魔は「現実」を語る。
このバランスもまた、人間には大事なのかもしれません。
本作は、後半は悪魔祓いの展開となりますが、前半は人間のうめき声が聞こえてきたり、画面の端に人影が映ったりと、日本のホラー映画の影響を感じます。
前半と後半で、異なるテイストのホラーを楽しめ、人間の内に秘めた危うさも描く映画『ドント・ヘルプ』。
2018年12月3日より、シネマート新宿の特集企画「のむこれ2018」にて上映中です。