世界各国のファンタスティック映画祭で話題沸騰!
クリスマスにゾンビが町にやってきた! 田舎町でくすぶる高校生の前に現れたのは、まさかのゾンビだった。
世界中が熱狂した青春ゾンビミュージカル『アナと世界の終わり』をご紹介します。
映画『アナと世界の終わり』の作品情報
【公開】
2019年公開(イギリス、アメリカ合作映画)
【原題】
Ana and the Apocalypse
【監督】
ジョン・マクフェール
【キャスト】
エラ・ハント、マルコム・カミングス、サラ・スワイヤー、クリストファー・レボー、マルリ・シウ、ベン・ウィギンス、マーク・ベントン、ポール・ケイ
【作品概要】
イギリスの田舎町から脱出し、自分の人生を生きようとしていた女子高生の前に、ゾンビ蔓延という事態が起こる。少女は父親を助けにゾンビの群れに果敢に挑んでいくが・・・。
ゾンビ映画とミュージカル映画が合体したユニークな展開でスペイン「シッチェス・カタロニア国際映画祭」ミッドナイト・エクストリーム部門で最優秀作品賞を受賞するなど、世界各国のファンタスティック映画祭で話題沸騰となった“青春ゾンビ・ミュージカル”。
映画『アナと世界の終わり』のあらすじとネタバレ
イギリスの田舎町リトル・ヘブンに住むアナは、高校3年生。母を亡くし、口うるさい父と二人で暮らしています。父はアナの通う高校の用務員で、毎朝アナは父の運転する車で学校に通っています。
その日は友人のジョンも同乗していました。彼は抽象表現主義の画家を夢見ていて、美大への進学が決まっています。
クリスマスなのに、アナはバイトで忙しいと言い、どうしてそんなに金がいるんだと父が問うと、ジョンはついうっかり「チケット代が必要だから」としゃべってしまいます。
チケット代とは航空券のこと。実はアナは高校を卒業したらオーストラリアに行こうと計画していたのです。「大学なんて行かない」とアナが言うと、父が怒りはじめました。いつもこうして言い合いになってしまう父と娘。アナはとことんいやになって、我が身を嘆きます。
学校に着くと、映画オタクのクリスが自作の動画を観てほしいとアナのところにやってきました。彼の恋人リサは、クリスマスパーティーでステージに立ち、歌を披露するため、リハーサルに精を出しています。
LGBTのステフの両親は彼女だけを残して旅行に行ってしまい、寂しさを隠せません。学校新聞に硬派な記事を書いていますが、そのことで教師のサヴェージから睨まれています。
いじめっこのニックは今日もジョンをからかったり、ステフを「男女」と呼んだり、やりたい放題。実はアナは彼と付き合っていたことがあるのですが、今は裏切られた気持ちでいっぱいです。
冴えない町、冴えない生活。ボーリング場のバイトを終え、うんざりしているアナをジョンが励ましてくれました。少し元気になったアナは、翌朝、はりきって登校します。しかし、周りでは異変が起きていました。人々が逃げ惑い、血だらけでゆらゆら揺れている人間がいっぱい。でもイヤフォンをつけているアナは気が付きません。
アナとジョンは途中で合流しますが、スノーマンの着ぐるみを着た血だらけの男が突然遅いかかってきます。
アナは公園のシーソーを使って男の頭を吹き飛ばします。男はなんとゾンビでした。ジョンは早くこの町を出ようと忠告しますが、アナは父親のいる学校へ向かいました。まだ仲直りできていないのです。
学校では、サヴェージが現職の校長を失脚させて自分がその地位についていました。車で登校してきたステフの車のキーも取り上げてしまいます。
クリスマスパーティーが始まりステージ上でリサが歌っていました。曲の途中で、上半身裸で赤いショートパンツとサスペンダーをつけた男子生徒6人が登場。バックダンサーを務めました。
サヴェージは「なんて破廉恥な!」と激怒します。機嫌を損ねたサヴェージは、ドアが盛んにたたかれることにも激怒。いらいらしながらドアを開けると・・・。
学校に着くと、もうそこは戦場のようでした。アナはゾンビたちと闘いながら、父を探します。しかしジョンがゾンビに噛まれてしまいます。
ステフは車のキーを取り戻すから車で逃げようと、クリスとリサに言い、校長室に入りますが、すでにソンビに占領されていました。クリスとリサがテレビをつけて気をそらしている間にキーをみつけます。
しかし、流れていた動画が終わってしまい、クリスとリサは逃げ遅れてソンビに噛まれてしまいます。
映画『アナと世界の終わり』の感想と評価
主人公である高校3年生のアナは、田舎町の暮らしと、口うるさい父親にうんざりしていて、早くこの町を出ていきたいと思っています。
地方都市でくすぶる若い世代の物語といえば古今東西、多くの青春映画で描かれてきましたが、アナのように突然歌い出す高校生はあまりいません。
冒頭からミュージカル全開で、心踊らされますが、”Break Away”というナンバーで彼女は、つまらない町から抜け出さなきゃならない、と切実に歌い上げます。
そんな彼女が翌朝学校に向かうと、町はゾンビに占領されていました。この朝のシーンで、アナはイヤフォンをつけているために、ゾンビの存在に気づきません。これは明らかにエドガー・ライトの『ショーン・オブ・ザ・デッド』へのオマージュでしよう。
昨今のゾンビ映画は、ゾンビのスピードがどんどん早くなってきていますが、本作は『ショーン・オブ・ザ・デッド』と同様、従来通りのゆっくりゾンビを採用しています。
コメディータッチのゾンビ映画だと思っていたら、ゾンビ映画らしい、陰鬱で、救いのない世界が展開します。ゾンビより怖いかもしれない狂った人間=校長も登場します。
この町には軍隊は現れないし、地元の警察の姿も見えません。誰も助けてくれる人がない中、アナたちは自分たちの力だけでこの難を逃れなくてはなりません。
アナに扮するエラ・ハントのきりりとした意志の強そうな表情とアクションも見ものです。
一方、ミュージカル映画としてはどのシーンも力強く、カリカチュアされたキャラクターと相まって、ポップでカラフルに展開し、みずみずしい青春物語を生み出しています。
海外の批評家が”『ショーン・オブ・ザ・デッド』と『ラ・ラ・ランド』の出会い!”と評したといいますが、実際、ロディー・ハートとトミー・ライリーによるナンバーは、『ラ・ラ・ランド』に決して名前負けしていない、ハイレベルな楽曲揃いです。
さらにクリスマス映画としてカテゴライズすることもでき、一本の映画でミュージカルとホラーとクリスマスが味わえる贅沢な作りになっています。
まとめ
本作は、ライアン・マクヘンリーの短編『Zombie Musical』をベースにしています。
ライアン・マクヘンリーは、6秒動画アプリ「Vine」で発表された“ライアン・ゴズリングがシリアルを食べてくれない動画”の作者としてよく知られています。
参考動画
しかし、彼は2015年、25歳で癌で亡くなってしまいました。彼の友人だったネイスン・アレ=キャルーらが彼の意志を受け継ぎ、、監督にジョン・マクフェールを迎え、長編として完成させたのがこの作品です。
作品の死生観の中に、友の死への想いが現れているように思える箇所もあります。特に、終盤、アナが絶望の中、世界が代わり、夢が閉ざされたと歌いつつ、「命がある限り希望はある」と歌うシーンに制作陣の深い想いが込められているのではないでしょうか。