どうしようもないチンピラがたどり着いた先はあの世?
自分を殺したヤクザたちへの復讐のため、あの世で再開できた父親のため、主人公ケイタは戦う決意を固める…。
東京・池袋の知る人ぞ知る映画館シネマ・ロサで12月15日公開されるインディペンデント映画『ケイタネバーダイ』。
メジャー作品ではできない才気ほとばしる一作です。
映画『ケイタネバーダイ』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【脚本・監督・編集】
中村友則
【キャスト】
大迫茂生、西山真来、中村友則、あらい汎、篠田竜、青木佳文、大瀬誠、竹之下桃、竹下かおり、山田ヒロシ、綱木謙介
【作品概要】
底辺で生きる人間のリアルな人間ドラマにファンタジー要素を組み込んだ映画を、新人監督中村友則が脚本とキャストも務めた作品。
キャストに『戦慄怪奇ファイルコワすぎ!』大迫茂生、『へばの』西山真来、“汎マイム工房”主催のあらい汎など無名ながら実力派俳優が集結しています。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018、カナザワ映画祭2018などで上映され好評を得ました。
映画『ケイタネバーダイ』のあらすじ
学もなにもなく底辺でもがくケイタは、ゲイで恋人のアキラと姉のアキと暮らしていました。
彼らはヤクザの木村組から多額の借金をしており、ケイタとアキラは清掃業をしながら、夜は変態の金持ちたちに体を売っています。
アキも店には勤めないながらも同じように体を売っていました。しかし、借金は膨れ上がるばかり。
組長の木村は冷酷で狡猾な男でした。
ある日、アキラと売春したにも関わらず金を払わなかった男をケイタは殴りつけます。
しかし、その男は組と関係の深い人間で、ケイタはけじめと称して小指を詰めさせられてしまいます。
そんな状況でもケイタとアキラは健気に愛し合っていました。
そんな矢先、組長木村の娘サチが妊娠をしました。彼女はアキラのことが好きで彼の恋人のケイタを疎ましく思っており、自分はケイタにレイプされたと木村に嘘をつきます。
ケイタとアキラは一緒に拉致され、拷問を受けます。
ケイタは否定するも信じてもらえず、組員たちからさんざん暴行を受けた上に、ハサミで陰茎を切り取られて川に投げ入れられてしまいました。
サチはまさか木村がそこまでするとは思わず、現場を目撃して嘔吐しますが、アキラを独り占めできることになります。
ケイタは川を延々流れ、流れ着いた先で息を吹き返して、とある運送会社の社長に拾われます。
ケイタはそこで住み込みで働き始めました。
明らかにブラック企業でしたが、社長の満男は厳しいながらもケイタを気にかけ、業務だけでなくボクシングなどでケイタの性根を叩き直そうとしてきます。
その社長はケイタが生まれて間も無く亡くなった父親の満男でした。ケイタが働き始めた世界は、あの世だったのです。
ケイタはだんだんと成長していきます。
一方、現世にいるアキは借金を1人で背負う形になり、木村の口車にも乗せられてAVに出演させられてしまいます。
満男はあの世で安穏としているケイタを現世に戻し、木村たちに復讐させるため、現世に戻りアキラをあの世につれてきます。
満男はアキラに抜け出てしまったケイタの魂を捕まえて彼の体に戻すよう指示します。
そうでなければケイタが蘇ることは二度とないと…。
映画『ケイタネバーダイ』の感想と評価
映画『ケイタネバーダイ』は、序盤は厳しい現実を生きる人間たちのドラマのように始まりますが、中盤から「あの世」という要素が出てきて一気にファンタジー化します。
しかしその「あの世」も作りこまれた世界観ではなく現世と地続きのように描かれています。
本作の「あの世」はほとんど現世と同じですが何かがちょっとだけ違う世界という風に表現されています。
もちろん、このような描写になっている理由は、ファンタジー世界を作り込むだけの予算がないからですが、それが妙なリアリティを生んでいるのも確かです。
案外、“実際のあの世もこんなもんなんじゃないか”と想像させるユニークさがあります。
死者たちが整然と変わらない姿で同じように働き、飯を食べ、眠ってまた働く。今までありそうでなかった世界観です。
ここ最近の邦画では『DESTINY 鎌倉ものがたり』や「『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』などで一般的に多くの人がイメージするような“あの世”を潤沢な予算で表現していました。
しかし、そういったメジャー作品には真似できない独特なリアリティを出すことを中村監督は可能にしました。
あの世とこの世をつなぐ入口がボロアパートの汚い風呂というのも斬新です。
またファンタジー要素以外にも、冒頭のケイタとアキラの濃厚な同性愛の場面、ヤクザたちの容赦ない行動の数々が見られます。
特にAVデビューさせられてしまったアキの悲壮感漂う撮影の描写など、メジャー映画だったらここまでは描けなかったでしょう。
これらの容赦ないリアルな映像は中村監督の持ち味といえるでしょう。
そのリアルさに可能にした表現には、一般的にあまり知られていない芸達者な俳優たちで撮影を行なったことも活かされています。
役者が魅せる演技力を捉えた映像を見ていると、本当に日本の片田舎で起きている裏社会の話なのではないかと、説得させるだけの迫力があります。
悪役のヤクザ組長木村の語りや佇まいの実在感は必見です。
この映画はインディペンデントの低予算にしては頑張っている作品ではなく、低予算を逆手にとってインディペンデントでしかできない表現を見せた、非常に優れた映画なのです。
まとめ
本作『ケイタネバーダイ』は、新人監督特集で『たまゆらのマリ子』、『クマ・エロヒーム』とともに注目されている一作です。
このような低予算の現場から、2018年に世間を賑わした『カメラを止めるな!』のような大ヒット作が生まれることもあります。
80分とタイトにまとまっているので見やすい映画です。ぜひ、時間を作ってこの映画を見に行ってください。
中村友則監督、渾身の一作『ケイタネバーダイ』は、池袋の映画館シネマ・ロサで12月15日公開です。