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Entry 2019/05/22
Update

映画『ワイルドライフ』ネタバレ感想とラストまでのあらすじ。原作が自己体験に近かったと語るポール・ダノ監督

  • Writer :
  • 奈香じゅん

個性派俳優ポール・ダノが初監督を務め、『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホールと『ドライヴ』のキャリー・マリガンが夫婦役を演じる。

『ワイルドライフ』は、ピューリッツァー賞作家リチャード・フォード原作のWildlife』を基に、『スイス・アーミー・マン』の俳優ポール・ダノが初監督・脚本を務めたドラマ作品です。

幸せに暮らしていたブリンソン家ですが、父・ジェリーが職場を解雇されたことを切っ掛けに、夫婦が親を辞めてしまう物語を14才の息子・ジョーを通して描いています。

『ヴィジット』のオーストラリア人俳優、エド・オクセンボールドの演技に注目が集まりました。

映画『ワイルドライフ』の作品情報

【公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
Wildlife

【監督】
ポール・ダノ

【キャスト】
ジェイク・ギレンホール、キャリー・マリガン、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ

【作品概要】
本作の監督を務めたポール・ダノとゾーイ・カザンがリチャード・フォード原作の同名小説を4年掛けて共同で脚色しました。ジェリー・ブリンソンを演じる『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホールは製作にも名を連ね、カザンは製作総指揮にも加わっています。

映画『ワイルドライフ』のあらすじとネタバレ

モンタナ州へ引っ越し新生活を始めるブリンソン家。質素ながら仲睦まじい両親のジェリーとジャネットに育てられた1人息子のジョーは、転校先の学校に馴染もうとしていました。

ある日、ゴルフ場で働くジェリーは、会員への過剰な対応を理由に突然解雇されます。妻・ジャネットは夫の心情を理解し、励ましました。

翌日、プライドが傷ついたジェリーは、車の中で不貞寝。その頃、ゴルフ場から不当解雇だった謝罪とジェリーに職場復帰を求める連絡が家に入ります。

ジャネットは、帰宅した夫にそのことを話しますが、ジェリーは頑固に戻らないと突っ撥ねます。

ジェリーが中々仕事を探そうとしないため、ジャネットはパートの職を探しに出かけます。水泳教室のインストラクターの仕事を得たジャネットがその報告をすると、14才のジョーも仕事をすると気を使います。

ジェリーは、学校やアメフトの練習があるとジョーを諭しますが、生活を考えるジャネットは賛成します。その晩、ジョーは両親の口論を聞きながら眠りにつきました。

放課後、ジェリーは町の写真館を訪れ、アルバイトを申し込みます。仕事をしたことはありませんでしたが、呑み込みの早さをアピールし雇ってもらうことに成功します。

アルバイトを優先する為アメフトを辞めたジョーは、学校の勉強に遅れが出始めます。

そんな矢先、ジェリーは、時給1ドルしか支払われない森林火災を消化する出稼ぎへ行くと言い出します。雪が降れば自然鎮火するので、それまでの期間だとジェリーは説明します。

僅かな賃金のために危険を犯し家族を置き去りにする夫に腹を立てたジャネットは、息子の目の前でジェリーと怒鳴り合いの大喧嘩。ジョーは、トラックに他の男達と乗り込む父を見送りました。

ある日、ジョーが学校から帰宅すると、高級車が家の前に停まっています。母が水泳を教えていた初老のビジネスマン、ウォーレン・ミラーが家に居ました。

母は、新しく仕事を紹介してもらえるとジョーに話します。しかし、その日を境にジャネットは豹変します。

以下、『ワイルドライフ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ワイルドライフ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
お化粧が濃くなり煙草の煙を吐くジャネットは、ウォーレンに夕食を誘われたと話し、ジョーを連れて行きます。

背中が大きく開いたドレスを着たジャネットはウォーレンにしな垂れかかり、夫の悪口を言います。

ジェリーが帰ったら仕事を紹介すると葉巻を吸うウォーレンに、ジャネットは、彼が自分達の面倒を見てくれるとジョーに視線を向けました。

酒に酔い音楽に合わせ身をよじる母に、ジョーは宿題があると訴えますが、ジャネットは全く意に介しません。

更に、目の前でウォーレンとキスをする母を見て、ジョーはショックを受けます。

学校から帰宅してもジャネットは居らず、ジョーはアルバイトで得たお金で缶詰のスープを買い、夕食を済ませます。

夜中に物音を聞いて目を覚ましたジョーが部屋を出て様子を見に行くと、全裸のウォーレンが両親の寝室へ入って行きます。扉の隙間から母がベッドに横たわっているのが見えました。

放課後、バスを待っていると小雪が舞っていることに気が付いたジョーは、脇目も振らず駆け出します。

ジェリーと一緒にジョーが帰宅すると、ジャネットが待っていました。おざなりにジェリーを抱きしめるジャネット。

ジェリーは嬉しそうに、知り合った人のツテで林業の仕事が決まり、住宅も供給されると報告します。しかし、ジャネットは、アパートを借りたので、ジョーが一緒に来たければ部屋を用意すると言います。

察したジェリーが相手は誰だと尋ね、ジャネットはウォーレンだと答えました。俯くジョーの側で、2人は怒鳴り合いになります。

ジョーを車で連れ出したジェリーは、ジャネットとウォーレンが自分達の家で時間を過ごしたことを聞き出し激怒。

ジョーを乗せたままウォーレンの家に行き、玄関に灯油を撒いて火を放ちます。父の行動に対し、ジョーは声を荒げて非難します。

見知らぬ女性と家から出て来たウォーレンは、刑務所に送ってやるとジェリーを脅しました。

我慢の限界を超えたジョーは、1人その場を離れ、夜の雪道を走ります。暫くして帰宅すると、ジェリーとジャネットが待っていました。ウォーレンと話し合い、今回のことは警察沙汰にならないとジェリーがジョーに伝えます。

時は流れ、営業職に就き成功するジェリーとジョーは平穏な2人だけの生活を送っています。ある日、オレゴン州で教師をするジャネットからジョー宛に手紙が届き、会いたいと言ってきます。

ジョーは、嬉しそうにバス停まで母を迎えに行き、家へ案内しました。ジェリーは、ジョーが学業優秀で名簿に名前が記載されたことをジャネットに報告します。

写真館でアルバイトを続けていたジョーは、ポートレートを任されるようになったと話し、両親にスタジオへ来て欲しいと頼みます。

翌日、水色の背景に3脚の椅子を用意したジョーは、2人に座って欲しいと言います。

ジェリーと一緒に撮れば?と躊躇するジェネットに、ジョーは3人の写真が欲しいと答えます。

気まずい表情を浮かべるジェリーとジャネットの間に座ったジョーは、手に握ったカメラのシャッターボタンを押しました。

映画『ワイルドライフ』の感想と評価

家庭を顧みず自分のしたいことをする為に家を留守にする夫に対し、妻も母親としての責任を放棄します。『ワイルドライフ』は、その狭間で苦悩する14才の少年を中心に物語が展開します。

幼い息子に働かせておきながら、仕事もしない父親と食事も作らず金銭目当てに不埒な行動に走る母親。

お互いそれぞれの役割分担をこなしている間は続いた関係も、ジェリーが生活費を入れないことに始まり、脆くも仮面夫婦は崩壊します。

悲惨な物語でありながら、本作が1つの家族ドラマとして成立しているのは、唯一成熟したジョーの存在にあります。

ジョーは、様変わりしたジャネットの姿に傷ついても、やけを起こしたり誰かを責めたりせず、自分の生活に必要なアルバイトを続け、一線を越えてしまった母親を健気に許し続けます。

それは、家族が再び元に戻れるとジョーが信じたからです。雪が舞うのを見て必死に走る姿は、父の帰宅に一縷の望みをかけ待ち詫びたジョーの心情をよく表しています。

願いは叶わなかった後も、ジョーは、3人が一度は家族だった事実を大切にしたいと思えるまでに成長を遂げており、無事に巣立つだろうことを予感させるエンディングです。

監督を務めたポール・ダノは、原作『Wildlife』を読み、自分の体験と驚くほど近い内容であったため小説に引き込まれ、映画化を考えたそうです。

ダノが著者のリチャード・フォードに映画化を申し込んだ所、「自分の価値観で描き、貴方の邪魔にならないよう本は閉じてください」という素敵な返事を貰ったとインタビューで明かしています

傑出した演技力を見せたジョー役のエド・オクセンボールドは、2012年に9才のジュリアン・アサンジ役で短編に出演し、オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞でヤング・アクター賞にノミネートされています。

劇中、台詞の殆ど無い沈黙の中で彼が見せた10の感情は、観る者の心に強く訴えかけ、言葉より遥かに雄弁でした

まとめ

夫婦という他人同士が一緒に生活すれば、相手の浮き沈みも時には受け入れなければならないことに理解が及ばないジャネットは、良い妻と良い母両方の自分を捨ててしまいます。

家族が突然崩壊し、ワイルドライフに放り出されたジョーは、自分に対する仕打ちではなく、父が他人を傷つけようとした時に初めて怒ります。

事の善悪をわきまえる少年が唯一望んだものは、良い時もあったことを思い出させてくれる元家族が写った1枚の写真でした。

『ワイルドライフ』は、14才の少年が現実世界に直面し、成長して行く過程を繊細に描いた作品です。



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