個性派俳優ポール・ダノが初監督を務め、『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホールと『ドライヴ』のキャリー・マリガンが夫婦役を演じる。
『ワイルドライフ』は、ピューリッツァー賞作家リチャード・フォード原作のWildlife』を基に、『スイス・アーミー・マン』の俳優ポール・ダノが初監督・脚本を務めたドラマ作品です。
幸せに暮らしていたブリンソン家ですが、父・ジェリーが職場を解雇されたことを切っ掛けに、夫婦が親を辞めてしまう物語を14才の息子・ジョーを通して描いています。
『ヴィジット』のオーストラリア人俳優、エド・オクセンボールドの演技に注目が集まりました。
映画『ワイルドライフ』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Wildlife
【監督】
ポール・ダノ
【キャスト】
ジェイク・ギレンホール、キャリー・マリガン、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ
【作品概要】
本作の監督を務めたポール・ダノとゾーイ・カザンがリチャード・フォード原作の同名小説を4年掛けて共同で脚色しました。ジェリー・ブリンソンを演じる『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホールは製作にも名を連ね、カザンは製作総指揮にも加わっています。
映画『ワイルドライフ』のあらすじとネタバレ
モンタナ州へ引っ越し新生活を始めるブリンソン家。質素ながら仲睦まじい両親のジェリーとジャネットに育てられた1人息子のジョーは、転校先の学校に馴染もうとしていました。
ある日、ゴルフ場で働くジェリーは、会員への過剰な対応を理由に突然解雇されます。妻・ジャネットは夫の心情を理解し、励ましました。
翌日、プライドが傷ついたジェリーは、車の中で不貞寝。その頃、ゴルフ場から不当解雇だった謝罪とジェリーに職場復帰を求める連絡が家に入ります。
ジャネットは、帰宅した夫にそのことを話しますが、ジェリーは頑固に戻らないと突っ撥ねます。
ジェリーが中々仕事を探そうとしないため、ジャネットはパートの職を探しに出かけます。水泳教室のインストラクターの仕事を得たジャネットがその報告をすると、14才のジョーも仕事をすると気を使います。
ジェリーは、学校やアメフトの練習があるとジョーを諭しますが、生活を考えるジャネットは賛成します。その晩、ジョーは両親の口論を聞きながら眠りにつきました。
放課後、ジェリーは町の写真館を訪れ、アルバイトを申し込みます。仕事をしたことはありませんでしたが、呑み込みの早さをアピールし雇ってもらうことに成功します。
アルバイトを優先する為アメフトを辞めたジョーは、学校の勉強に遅れが出始めます。
そんな矢先、ジェリーは、時給1ドルしか支払われない森林火災を消化する出稼ぎへ行くと言い出します。雪が降れば自然鎮火するので、それまでの期間だとジェリーは説明します。
僅かな賃金のために危険を犯し家族を置き去りにする夫に腹を立てたジャネットは、息子の目の前でジェリーと怒鳴り合いの大喧嘩。ジョーは、トラックに他の男達と乗り込む父を見送りました。
ある日、ジョーが学校から帰宅すると、高級車が家の前に停まっています。母が水泳を教えていた初老のビジネスマン、ウォーレン・ミラーが家に居ました。
母は、新しく仕事を紹介してもらえるとジョーに話します。しかし、その日を境にジャネットは豹変します。
映画『ワイルドライフ』の感想と評価
家庭を顧みず自分のしたいことをする為に家を留守にする夫に対し、妻も母親としての責任を放棄します。『ワイルドライフ』は、その狭間で苦悩する14才の少年を中心に物語が展開します。
幼い息子に働かせておきながら、仕事もしない父親と食事も作らず金銭目当てに不埒な行動に走る母親。
お互いそれぞれの役割分担をこなしている間は続いた関係も、ジェリーが生活費を入れないことに始まり、脆くも仮面夫婦は崩壊します。
悲惨な物語でありながら、本作が1つの家族ドラマとして成立しているのは、唯一成熟したジョーの存在にあります。
ジョーは、様変わりしたジャネットの姿に傷ついても、やけを起こしたり誰かを責めたりせず、自分の生活に必要なアルバイトを続け、一線を越えてしまった母親を健気に許し続けます。
それは、家族が再び元に戻れるとジョーが信じたからです。雪が舞うのを見て必死に走る姿は、父の帰宅に一縷の望みをかけ待ち詫びたジョーの心情をよく表しています。
願いは叶わなかった後も、ジョーは、3人が一度は家族だった事実を大切にしたいと思えるまでに成長を遂げており、無事に巣立つだろうことを予感させるエンディングです。
監督を務めたポール・ダノは、原作『Wildlife』を読み、自分の体験と驚くほど近い内容であったため小説に引き込まれ、映画化を考えたそうです。
ダノが著者のリチャード・フォードに映画化を申し込んだ所、「自分の価値観で描き、貴方の邪魔にならないよう本は閉じてください」という素敵な返事を貰ったとインタビューで明かしています。
傑出した演技力を見せたジョー役のエド・オクセンボールドは、2012年に9才のジュリアン・アサンジ役で短編に出演し、オーストラリア映画テレビ芸術アカデミー賞でヤング・アクター賞にノミネートされています。
劇中、台詞の殆ど無い沈黙の中で彼が見せた10の感情は、観る者の心に強く訴えかけ、言葉より遥かに雄弁でした。
まとめ
夫婦という他人同士が一緒に生活すれば、相手の浮き沈みも時には受け入れなければならないことに理解が及ばないジャネットは、良い妻と良い母両方の自分を捨ててしまいます。
家族が突然崩壊し、ワイルドライフに放り出されたジョーは、自分に対する仕打ちではなく、父が他人を傷つけようとした時に初めて怒ります。
事の善悪をわきまえる少年が唯一望んだものは、良い時もあったことを思い出させてくれる元家族が写った1枚の写真でした。
『ワイルドライフ』は、14才の少年が現実世界に直面し、成長して行く過程を繊細に描いた作品です。