“完璧”を求めた狂気と才能がぶつかったとき、恩讐を越えた先の結末とは!?
サンダンス映画祭 にて、グランプリと観客賞を受賞し、第87回アカデミー賞では助演男優賞、編集賞、録音賞の3部門で受賞。世界各国の映画祭でも注目を集めた映画『セッション』をご紹介します。
アメリカの名門音楽大学に、ジャズドラマーとして入学したアンドリュー・ニーマンは、学院最高指導者且つ、鬼教師としても有名なテレンス・フレッチャーの目に留まり、彼が率いる最高位のスタジオバンドにスカウトされます。
父子家庭のアンドリュー・ニーマンは、父親の愛情を受けて育てられました。友人も少なくどちらかというと、引っ込み思案でおどおどした性格のアンドリューが、フレッチャーの狂気ともいえる指導の洗礼を受け、ラスト9分19秒で何かが覚醒します……。
異常なまでに完璧を求める、狂気の指導者フレッチャーを演じたのは、J・K・シモンズ。「スパイダーマン」シリーズ3部作、本作の製作総指揮を務めたジェイソン・ライトマン監督の『JUNO ジュノ』(2007)、『マイレージ、マイライフ』(2009)に出演し、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。
映画『セッション』の作品情報
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【公開】
2014年(アメリカ映画)
【原題】
Whiplash
【監督/脚本】
デイミアン・チャゼル
【キャスト】
マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング、クリス・マルケイ、デイモン・ガプトン、スアンヌ・スポーク、マックス・カッシュ、チャーリー・イアン、ジェイソン・ブレア、コフィ・シリボー、カヴィタ・パティル
【作品概要】
監督はミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(2016)で、第89回アカデミー賞で史上最年少32歳で監督賞を受賞した、デイミアン・チャゼルが務めます。
本作はチャゼル監督が高校生の頃に所属した、強豪ジャズバンドで実際に厳しい指導を受け、「怖い思いをした」という経験が脚本に反映されています。
2015年「ファンタスティック・フォー」シリーズで、特殊能力をもった若者の苦悩を演じ、2021年公開が予定されている、1986年公開の世界的ヒット作『トップガン』の続編『トップガン マーベリック』に出演している、マイルス・テラーが鬼教師の罵倒に耐える天才ドラマーを熱演。
映画『セッション』のあらすじとネタバレ
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アンドリュー・ニーマンは、アメリカ最高峰の音楽学校、シェイファー音楽院へ通う1年生です。ビッグバンド・ジャズの先駆者として名を残したドラマー、バディ・リッチに憧れ、彼のようなジャズドラマーを目指しています。
ある日、アンドリューが教室でドラムの練習をしていると、入り口の影で黒服を着た男が佇み、演奏を聴いています。アンドリューはそれに気がつくと練習の手を止めました。
男は「私が誰だかわかるか?」と訊ね、アンドリューは頷きます。男は自分のバンドメンバーを探している、学院で最高の指導者と名高いテレンス・フレッチャーでした。
フレッチャーは練習の手を止めた理由を聞き、再びドラムを叩き出すアンドリューに、「答えも言わずになぜ始めるのか、ゼンマイ仕掛けのサルか」と罵倒したかと思えば、“ルーディメンツ”、“スウィング”・・・と試験をするようにパートを叩かせ、無言で教室を去っていきました。
アンドリューはフレッチャーの抜き打ちテストで、良い反応が得られなかったと父親のジムに話します。ジムは「他にも道はある。視野を広げるチャンスだ」と、ドラマーの道からそらせるようなことを言います。
ところが後日、アンドリューのクラスをフレッチャーが訪れ、彼が指揮する最上位クラスのスタジオ・バンドチームに引き抜くため、生徒たちの技巧をテストします。
ドラムパートは主奏者のライアンとアンドリューの2人です。1人ずつ“スウィング”の触り部分を叩き、フレッチャーはドラムを指名すると、ライアンが立ち上がりますが、選ばれたのはアンドリューの方でした。
フレッチャーは教室番号と「明朝の6時、遅れるな」と告げ教室を後にします。アンドリューは初等クラスの主奏者を抑え、最上級クラスのスタジオ・バンドにスカウトされたことで、顔からは自信に満ちた笑顔がこぼれます。
練習初日、フレッチャーが指定した時間は嘘でした。練習は9時からで時間きっかりにフレッチャーは教室に現れ、譜面台の前に立つとバンドメンバーを見ますが、誰もフレッチャーを見ようとしません。
やがて、“Whiplash”の練習が開始されますが、早々にメンバーたちにダメ出しが繰り返され、彼の要求するテンポやリズムに合わないと、罵声を浴びせてメンバーを追い詰め、とうとう失敗していないにもかかわらず、脅迫概念から1人退場させられます。
フレッチャーは自らの手で、一流のミュージシャンを輩出するためには、要求するレベルの演奏ができない生徒に対し、人格否定や侮辱をもいとわない、罵声や怒号を浴びせるサイコパス指導者でした。
それは新人のアンドリューにも向けられます。休憩時間にフレッチャーは優し気にアンドリューに声をかけ、両親のことなどを聞き出し、身内に音楽家がいないと知ると、“バディ・リッチ”、“ジョー・ジョーンズ”といったジャズの偉人たちを聴くよう指導します。
そして、「チャーリー・パーカーが鳥になれたのは、ジョー・ジョーンズから“シンバルを投げつけられた”からだ」と、採点や周りの言葉に惑わされず、リラックスしろと言います。
アンドリューはフレッチャーが自分を気にかけてくれていると感じますが、練習に戻るとその考えは無残に砕かれます。
アンドリューがバンドに加わり練習が始まると、最初はいい感じに叩かせ、彼を「“バディ・リッチ”だ」と持ち上げ、いい気にさせます。しかし、ほんのわずかにテンポがずれると、何度も微調整をさせ、あげくには椅子を投げつけます。
投げつけられた理由がわからないアンドリューは、メンバーの目の前で頬を何度も叩かれ、両親を侮辱する屈辱的な言葉を浴びせられました。アンドリューはとうとう涙を流してしまいます。
フレッチャーから「悔しいか?」と聞かれますが、アンドリューは“悔しい”と言えずに、再び罵倒され半ば強制的に「悔しい」と連呼させられます。
以下、『セッション』ネタバレ・結末の記載がございます。『セッション』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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アンドリューは初日から自尊心を失いますが、ジムから自分の夢を理解されていない悔しさも重なり、バディ・リッチへの憧れを励みに、血のにじむような猛特訓を開始します。
フレッチャーのバンドは“オーバーブルック・ジャズ・コンテスト”に出場します。フレッチャーは会場で知り合いと談笑し、一緒にいた少女とも気さくに話をしていました。
そんな彼にアンドリューは“優しい面”を感じるのですが、それもバンドメンバーの前では違います。置きっぱなしになっていた譜面を見つけると、次に同じことがあったら、容赦しないと下品な言葉を使って煽ります。
そして、このコンテストには人材発掘の意味があり、自分に恥をかかせるなとメンバーに檄を飛ばし、特にドラムの主奏者タナーにはプレッシャーをかけます。
ステージでの演奏が始まると、フレッチャーはタナーの方に歩み、視線で無言の圧力をかけます。1回目の演奏が終わるとタナーは、譜面をアンドリューに預け場を離れます。
アンドリューは飲み物を買うため、近くの椅子に譜面を置き少しの間、目を離します。しかしタナーが戻ってくると、置いたはずの譜面が無くなっていました。
2人が混乱していると、フレッチャーがタナーを呼ぶ声がします。タナーはアンドリューに預けた譜面を失くしたと報告しますが、フレッチャーはステージに出るよう命じます。
ところがタナーには脳に記憶障害があり、暗譜ができず譜面がないと、演奏ができませんでした。そこにアンドリューが自分は全て暗譜できていると、代わりに出ると志願します。
フレッチャーは“優勝しか考えてない”と、アンドリューに圧をかけ出場させ、シェイファー音楽院は無事優勝することができました。
後日、クラスでアンドリューはタナーの補助で座りますが、教室に来たフレッチャーはタナーに「主奏者と変われ」と言います。つまり、タナーが補欠となり、アンドリューが主奏者となりました。
アンドリューはこれを機に、自信と向上心を高めていきますが、ジムをはじめ親類たちは、彼の才能を褒めたたえるどころが、音楽に価値を見出そうとしません。
あげく大学最下部リーグのフットボールで優勝した従弟、成績優秀で奨学制度を得そうな従弟、最優秀教師に選ばれたジムを“優秀”と称賛します。
アンドリューはアメリカ最高峰の学校で、最上級クラスのバンドに入り、最年少主奏者になったことの方が、底辺でのトップや友人数の多さより価値が高いと主張し、父親からもフォローされず親類内で孤立してしまいます。
この悔しさはアンドリューの練習に熱を与え、彼はフレッチャーからの評価も上々だと感じ始めました。そして、新しい楽曲の練習を始めることになった日、フレッチャーはアンドリューに言います。
“スウィング、倍テン”を練習している生徒を試したいと、初等クラスで一緒だったライアンを呼んでいました。フレッチャーはアンドリューを“臨時の主奏者”といい、今度の大会までに、新譜「Caravan」を完璧に仕上げられるドラマーを選びたいと告げます。
フレッチャーは2人に叩かせます。ライアンには楽譜が渡されていましたが、ドラムスティックは持ってきていません。それだけでも本来のフレッチャーの逆鱗に触れるところ、何も言わすライアンに演奏させます。
彼の演奏はアンドリューの判断でもひどいものでしたが、フレッチャーは“完璧”だとライアンを褒めたたえます。
意義を訴えたアンドリューにフレッチャーは、「闘って勝ち取れ」とまくしたて、彼は再び血のにじむ練習を重ね、音楽以外のことは遠ざけ没頭していきます。
ある晩フレッチャーは練習の前に、過去に教え子だったショーン・ケイシーの話をします。
才能がないと言われた彼は人一倍努力家で、それを知っていた自分がバンドに招き入れ、卒業後はウィントン・マルサリスにスカウトされ、1番トランペットにまで昇格した生徒だったと語ります。
そのショーンが昨日、自動車事故で亡くなったと伝え、フレッチャーは彼を悼んで涙を流しました。
しかし、リハーサルが始まると彼の指導には凄まじさが増し、特にドラマーの3人に対して超高速なテンポを要求し、完璧にできる者がでるまで、練習は開始しないと言います。
数時間にも及ぶ特訓で、全員の手から出血しても止まりません。その死闘は深夜にまで続きますが、最後までフレッチャーに喰らいついたアンドリューが、主奏者に選ばれました。
ところが“ダネレン大会”の当日、会場へ向かうアンドリューの乗ったバスが、途中で故障します。なんとかレンタカーを借りて会場に到着しますが、ドラムスティックをショップに忘れたことに気づきます。
フレッチャーはライアンとの交代を指示しますが、アンドリューは10分でスティックを取って戻ることを条件に主奏の座を主張し、スティックを持って再び会場に戻る途中で、トラックと交通事故を起こしてしまいます。
アンドリューは大ケガをしながら、開演ギリギリに駆け付け、すでにスタンバイしていたライアンを押しのけますが、ケガの影響でまともに演奏できず、ついにフレッチャーは途中で演奏をストップし、アンドリューに「お前は終わりだ」と宣告します。
この言葉に激高したアンドリューは、フレッチャーに掴みかかり殴りつけ、暴言を浴びせ会場から退去させられ、シェイファー音楽院も退学になってしまいました。
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プロのドラマーになる夢が途絶えたアンドリューは、他の大学に編入するための準備とドラムとの決別を考え、目標だったバディ・リッチのポスターを処分し、ドラムセットも片付けてしまいました。
その後、ショーン・ケイシーの遺族の代理弁護人がジムとアンドリューに接触し、2人はケイシーの死因が事故ではなく、うつ病による首吊り自殺だったことを知ります。
さらにうつ病の原因がフレッチャーの行き過ぎた厳しい指導によって、精神的に追い詰められ発症したものであると伝えられます。
弁護士は経済的な理由で訴訟を起こせない、ショーンの遺族に代わって、名前は明かさない条件でアンドリューに、フレッチャーの猟奇的な指導を証言してほしいと説得します。
その結果、フレッチャーもシェイファー音楽院を追われてしまいます。ある晩、アンドリューはライブハウス前で偶然、“ジャズ・ライブ”の案内板にテレンス・フレッチャーの名前を見つけ入店します。
演奏が終わるとフレッチャーは、観客の中にアンドリューを見つけ声をかけます。フレッチャーは誰かの密告で、シェイファー音楽院をクビになったが、誰も自分のことを理解していないと言います。
彼は「生徒を期待以上のところまで押し上げたかっただけだ。そうしないと次のチャーリー・パーカーは現れない」と話し、チャーリー・パーカーがジョー・ジョーンズにシンバルを投げつけられた話しをします。
彼は2度と笑われまいと、“信念”を胸に抱き努力をした1年後に、因縁のリノ・クラブのステージで、史上最高のソロを披露し、一流になったと語ります。
もし、始めにジョー・ジョーンズがチャーリー・パーカーの失敗を許し、“上出来だ。大丈夫”と言っていたら、バードは誕生せず悲劇になったといい、アンドリューはその話しとフレッチャーの行動を重ねるように聞き入りました。
さらにフレッチャーは「世の中は甘くなり、本物のジャズは死んだ」と言い、最も危険な言葉は「“教えてやる”と、“上出来だ”だ」とアンドリューに言います。
別れ際フレッチャーは、「週末にカーネギー・ホールで行われる、“JVCジャズ・フェスティバル”に自身が率いるプロのバンドと出演するが、ドラマーの質に不安があるため、曲目はスタジオ・バンド時代の“Whiplash”と“Caravan”だから、代わりにやらないか」と誘います。
アンドリューはライアンを推しますが、彼はアンドリューの当て馬だったと告白し、タナーも退学して他の大学へ編入したと言います。
当日、フレッチャーは音楽祭には大きなチャンスがあり、スカウトの目に留まればブルーノートとの契約、リンカーン・センターのバンド主席も夢じゃない。ところが“ヘマ”をすれば以後のチャンス2度となくなるほど、重要なステージだと話します。
アンドリューはジムを招待していて、強い意気込みと緊張のなか本番を迎えます。ところがいざステージにあがり、フレッチャーが紹介しはじめた曲目は、事前に伝えられていた曲ではありませんでした。
フレッチャーはアンドリューに「私をなめるなよ。密告したのはおまえだ」というと、状況を理解したアンドリューが他のメンバーを見回すと、自分以外は本当の譜面を準備していました。
曲に合わせきれないアンドリューを不敵な笑みで一瞥するフレッチャー。グダグダなまま1曲を終えたアンドリューに、フレッチャーは「お前は無能だ」と言い捨てます。
大観衆やスカウトの前で大恥をかかされたアンドリューは、傷つきながらステージを去ろうとします。
しかし、彼は思いとどまり意を決してステージに引き返すと、次の曲紹介するフレッチャーを無視して“Caravan”を激しく叩き始めます。
アンドリューはベースに「合図する」というと、凄まじい気迫のドラム独奏をして、他のパートメンバーをも動かし、主導権をフレッチャーから奪い取ります。
鬼気迫るアンドリューの演奏は、序盤こそフレッチャーの癇に触れましたが、今度は彼の心の琴線を振るわせ始めます。
そして、フレッチャーでさえもその演奏に陶酔し始め、完全にアンドリューがバンドマスターになりました。
さらにアンドリューはフレッチャー主導のフィニッシュを許しません。彼はドラムソロを引き続き叩き、フレッチャーが「何のつもりだ⁈」というと「合図する」とだけ応えます。
フレッチャーはアンドリューの奏でるテンポが、自分の求めていたものと気づくと、緩んだシンバルを直し演奏を続けさせます。その顔には微笑みすら浮かびました。
フレッチャーの思い描いた旋律で叩くアンドリューの目が、フレッチャーに合図します。そして、2人は喜びの笑みを浮かべ、大団円のフィニッシュをしました。
映画『セッション』の感想と評価
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映画『セッション』のキャッチフレーズに「ラスト9分19秒の衝撃は圧巻にしてもはや痛快!」というものがあります。
これは本編を通して鑑賞してはじめてわかる感覚で、これを知ってしまうと、ヘビロテしてラスト9分19秒を観たくなる、そんな中毒性を持っていると言っても過言ではありません。
この作品はデイミアン・チャゼル監督の実体験が題材になっていて、無名のため予算もない中、彼の斬新且つ大胆な脚本にほれ込んだ、名匠ジェイソン・ライトマンが、後押しする形で最初は短編映画で制作し、サンダンス映画祭へ出品され審査員賞を獲得したのちに、長編映画として撮影がされました。
“サイコパス”な教授と“ソシオパス”な教え子
本作を観た人の多くは、テレンス・フレッチャーをサイコパス教授と表現していて、とても的を得ていると感じます。
では、アンドリュー・ニーマンはどうでしょう。最終的に彼はソシオパスドラマーに、なったのではないでしょうか?
サイコパスもソシオパスも「他者への共感能力の欠如」「良心や罪悪感の欠如」「思考が冷淡で自己中心的」「面体を繕うのが上手で魅力的に見えやすい」といった特徴がありますが、サイコパスは遺伝や先天性のもので、ソシオパスは育った環境などで後天的に発症します。
サイコパス教授フレッチャーから指導された過程で、アンドリューも恋人や家族、友人を切り捨て、ドラムにのめり込んでいきます。その時の彼の思考を見た時、ソシオパスを発症したと感じさせました。
アンドリューが目標にしていた、伝説的ドラマーのバディ・リッチは自分にも厳しく、バンドメンバーにも厳しかったことで有名です。
フレッチャーのように実力不足のメンバーをクビにしたり、ミスをしたメンバーにドラムスティックを投げつけたと、いう逸話も残っています。
究極の師弟対決から“一流”は生まれる
そんなサイコパス教授とソシオパス学生の師弟関係から、“一流”のミュージシャンは生まれるのかもしれません。
フレッチャーが言った危険な言葉「教えてやる」と「上出来だ」は、人の才能を止めてしまう可能性があるということです。
チャーリー・パーカーとジョー・ジョーンズとの逸話は、その逆で恐怖心を与え気づきを与えた解釈の一例でしょう。
フレッチャーのやり方は、1人の人間を自殺に追い込みました。しかし、チャンスを奪われ取り返しに行ったのがアンドリューでした。
今般、行き過ぎた指導が問題視される事案が目立つ中、フレッチャーは現代にはそぐわない指導方法です。
それでも、“学ぶは真似る”や“技は教わるものではなく盗むもの”など言われていた時代に、多くの偉人が誕生したともいえます。
黒人差別や貧困の中から生まれたジャズは、白人によって造られた楽器を利用し、より洗練された音楽へと発展され、アイデア次第でオリジナルの技巧となり、誰もが真似をしたくなる音楽となりました。
まとめ
(C)2013WHIPLASH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
原題の『Whiplash』はこの映画のテーマソングの曲名でもありますが、鞭のようにしなやかに叩くという意味で、ドラムス技巧のひとつともいわれています。
邦題の『セッション』の意味は、ラスト9分19秒に集約されています。
そもそもビッグバンドには指揮者がいないことが多く、ドラムスのカウントなどで演奏が開始されます。つまり、ドラムスの主導でバンドのグルーブ感が決まり、それをジャズ・セッションといいます。
フレッチャーとアンドリュー2人のセッションというよりは、ジャズ・セッションのありかたそのものを邦題に持ってきたとも考えられるでしょう。
また、演奏を終えた後、音はなくフレッチャーの鼻と口角あたりが映り、口パクのように動くシーンがあります。「最後のセリフ」は何なのか。興味を抱くラストです。
映画『セッション』は究極やこだわりを追及した指導者と、音楽をする理由を追い求め、偉人を目指した若者の激しいぶつかり合い描きます。しかもそこにはスリルとサスペンスの要素も含み、見ごたえ十分な衝撃作でした。