Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/03/10
Update

映画『水を抱く女』感想評価と内容解説。ラスト結末のどんでん返しに注目!ウンディーネの意味の考察や“その愛の形”を解く

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『水を抱く女』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショー!

「水」で始まる出会い、そして別れから「愛」の一つの側面を描いた映画『水を抱く女』。

スイスの医師、錬金術師パラケルススが説く四大精霊の一つ「水の精霊」の伝説をモチーフとし、現代劇として作られた物語。ドイツで映画のみならず、テレビドラマの脚本・監督など幅広い活動を展開するクリスティアン・ペッツォルト監督が、作品を手がけました。

またパウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、ヤコブ・マッチェンツらドイツの個性派俳優陣が、寓話的でもある繊細な世界観を演じ切りました。

映画『水を抱く女』の作品情報

(C) SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinema 2020

【公開】
2021年(ドイツ、フランス合作映画)

【英題】
UNDINE

【監督・脚本】
クリスティアン・ペッツォルト

【キャスト】
パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ

【作品概要】
四大精霊の一つである「水の精」ウンディーネの神話をモチーフに、愛する男性に裏切られた後に新しい恋人と出会った女性が、自らの悲しい宿命と向き合う姿から一つの愛の風景を描きます。

作品を手掛けたのは、『東ベルリンから来た女』(2012)のクリスティアン・ペッツォルト監督。キャストには『未来を乗り換えた男』(2018)でもペッツォルト監督とタッグを組んだパウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキ、『5パーセントの奇跡~嘘から始まる素敵な人生~』(2017)などのヤコブ・マッチェンツら、ドイツの実力派が名を連ねています。またベーアは本作で第70回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞しました。


映画『水を抱く女』のあらすじ

(C) SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinema 2020

ベルリンの中心部・アレクサンダー広場に隣接した小さなアパートに住み、博物館でガイドとして働いている歴史家のウンディーネ(パウラ・ベーア)。

ある日彼女は恋人のヨハネス(ヤコブ・マッチェンツ)が、別の女性に思いを寄せはじめていることを知り、悲しみに暮れていました。

ところがその別れの日に偶然、ウンディーネは潜水作業員のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会います。

その出会いは少々奇抜なものでしたが、2人はやがて恋に落ち愛を育んでいきます。

しかし一方でクリストフは、ウンディーネの態度に違和感を覚えてゆきます。

彼から見た彼女は、何かから必死に逃れようともがいているようでもありました……。

映画『水を抱く女』の感想と評価

(C) SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinema 2020

「愛」を排除して描いた「愛」の真意

ウンディーネとは四大精霊の一つで「水をつかさどる精霊」。過去には小説やバレエ、オペラの題材としてもたびたび使われてきたものです。

本作はウンディーネの物語を現代的にアレンジした作品であり、ウンディーネという存在のバックグラウンドと、人がもつ普遍的な思想に重なっていく点が、作品の重要なポイントとなります。

このウンディーネについては、錬金術師パラケルススの1566年に執筆した戯曲にその名称も確認されており、彼は「ウンディーネには本来魂がないが、人間の男性と結婚すると魂を得る。しかしこれには大きな禁忌がつきまとう性質がある」と説いています。

その禁忌とは「水のそばで夫に罵倒されると、水に還ってしまう」「夫に裏切られた場合、ウンディーネは夫を殺し水に還らねばならない」そして「水に還ったウンディーネは、魂を失う」というもの。

これまで発表されているウンディーネを題材とした物語では、「夫に裏切られた場合」のケースがたびたび描かれていますが、本作ではこの全てのケースを踏襲しています。

例えば、この3つの禁忌を総合して考えてみると、人は人に惹かれてこそ魂を得て人となるわけです。逆にそこから離れてしまうと人ではいられなくなります。

つまりこの物語は人同士がつながる喜び、そして離れていくことへの恐れのようなものというポイントに到達していくわけです。


(C) SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinema 2020

ただし、単純な解釈に従ってしまうと真意を見失ってしまう可能性もあります。そもそもウンディーネが魂を得る際の禁忌が敢えて、3つのものとして示されたことには深い意味があり、普遍的な愛というもの、つながり合うことの難しさを的確に表現しています。

劇中ではウンディーネと、彼女と関係をもつヨハネス、クリストフという2人の男性との出会いについて、なぜ彼女が彼らに惹かれたのかという点にはあまり深く言及していない印象でもあり、先述のポイントに物語の主題が絞られている意向が伺えます。

一方でウンディーネにまつわる「水」というアイテムは、物語中でも重要なキーとしてたびたび印象的な登場を果たし、全体的に見える寓話的な雰囲気をうまく現代劇に溶け込ませています。

そしてラストはある意味ショッキングな空気さえ感じさせるサスペンス・スリラー的な展開のどんでん返し。

人に惹かれることの「美しさ」や「はかなさ」という単一的な視点だけではない様々な思いを呼び起こさせ、なおかつエンタテインメント性を実現させた興味深い作品となっています。

まとめ

(C) SCHRAMM FILM / LES FILMS DU LOSANGE / ZDF / ARTE / ARTE France Cinema 2020

故・大林宣彦監督が1986年に発表した著書『夢の色、めまいの時』において、自身が時に映画に描いてきた「恋愛」「恋」というもの、そして「愛」というものの違いとして「愛とは、責任を伴うもの」と綴っています。本作の物語もある意味この思想につながる部分があります。

「愛」というテーマを扱う作品としては、どちらかというと「愛する」という感情にスポットを当てがちな傾向にあります。ですが、本作では同じようにそれを描いているように見せながら、むしろそれに伴う周辺のことを重視しているようです。その焦点の違い、見え方のオリジナリティーは本作の特筆すべき点といえるでしょう。

また本作の展開の中には、部分的にクリスティアン・ペッツォルト監督が過去に手がけた『東ベルリンから来た女』(2012)『あの日のように抱きしめて』(2014)『未来を乗り換えた男』(2018)といった作品の展開を髣髴するものもあり、監督自身の考える表現に共通したテーマも感じられます。

その意味では、ペッツォルト監督作品の本質を探るヒントにもなり得る作品といえます。

映画『水を抱く女』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショー



関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画トモシビ(銚子電鉄映画)アンコール上映舞台挨拶と公開劇場は?

映画『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』のアンコール上映が、7月1日(土)より東京・新宿武蔵野館で出発進行! また、7月1日(土)10:00の回上映後は、アンコール上映開始を記念して、個性派俳優で知 …

ヒューマンドラマ映画

映画『洗骨』ネタバレ感想。奥田瑛二・大島蓉子・水崎綾女の演技力が光るユーモアと優しさに溢れた作品

ガレッジセールのゴリが本名の「照屋年之」名義で監督・脚本を手がけた長編作品。 最愛の人を失い、数年後その人にもう一度会える神秘的な沖縄の離島に今も残る風習、“洗骨”。 死者の骨を洗い、祖先から受け継が …

ヒューマンドラマ映画

映画『おもかげ』あらすじと感想考察。ベネチア映画祭でマルタ・ニエトが主演女優賞を獲得、息子を失くした女性の“希望と再生”

映画『おもかげ』は2020年10月23日(金)からシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国ロードショー。 ある日突然、息子が失踪してしまった女性の10年後を描いた映画『おも …

ヒューマンドラマ映画

映画『走れ!T高バスケット部』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

高校バスケット部の新しいバイブル⁈松崎洋の小説「走れ!T高バスケット部」が、ついに実写映画化。 バスケットマンの永遠のバイブル「スラムダンク」に継ぐ、青春バスケット映画が誕生しました。 弱小バスケット …

ヒューマンドラマ映画

鈴木紗理奈映画『キセキの葉書』あらすじとキャスト!原作はある?

2017年8月19日(土)より、すでに関西圏の布施ラインシネマでは先行公開されている『キセキの葉書』。 主演を務めた鈴木紗理奈は、スペインに渡航していた際に財布とパスポートの盗難され、不幸のどん底から …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学