映画『水を抱く女』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショー!
「水」で始まる出会い、そして別れから「愛」の一つの側面を描いた映画『水を抱く女』。
スイスの医師、錬金術師パラケルススが説く四大精霊の一つ「水の精霊」の伝説をモチーフとし、現代劇として作られた物語。ドイツで映画のみならず、テレビドラマの脚本・監督など幅広い活動を展開するクリスティアン・ペッツォルト監督が、作品を手がけました。
またパウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、ヤコブ・マッチェンツらドイツの個性派俳優陣が、寓話的でもある繊細な世界観を演じ切りました。
映画『水を抱く女』の作品情報
【公開】
2021年(ドイツ、フランス合作映画)
【英題】
UNDINE
【監督・脚本】
クリスティアン・ペッツォルト
【キャスト】
パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ
【作品概要】
四大精霊の一つである「水の精」ウンディーネの神話をモチーフに、愛する男性に裏切られた後に新しい恋人と出会った女性が、自らの悲しい宿命と向き合う姿から一つの愛の風景を描きます。
作品を手掛けたのは、『東ベルリンから来た女』(2012)のクリスティアン・ペッツォルト監督。キャストには『未来を乗り換えた男』(2018)でもペッツォルト監督とタッグを組んだパウラ・ベーアとフランツ・ロゴフスキ、『5パーセントの奇跡~嘘から始まる素敵な人生~』(2017)などのヤコブ・マッチェンツら、ドイツの実力派が名を連ねています。またベーアは本作で第70回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞しました。
映画『水を抱く女』のあらすじ
ベルリンの中心部・アレクサンダー広場に隣接した小さなアパートに住み、博物館でガイドとして働いている歴史家のウンディーネ(パウラ・ベーア)。
ある日彼女は恋人のヨハネス(ヤコブ・マッチェンツ)が、別の女性に思いを寄せはじめていることを知り、悲しみに暮れていました。
ところがその別れの日に偶然、ウンディーネは潜水作業員のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会います。
その出会いは少々奇抜なものでしたが、2人はやがて恋に落ち愛を育んでいきます。
しかし一方でクリストフは、ウンディーネの態度に違和感を覚えてゆきます。
彼から見た彼女は、何かから必死に逃れようともがいているようでもありました……。
映画『水を抱く女』の感想と評価
「愛」を排除して描いた「愛」の真意
ウンディーネとは四大精霊の一つで「水をつかさどる精霊」。過去には小説やバレエ、オペラの題材としてもたびたび使われてきたものです。
本作はウンディーネの物語を現代的にアレンジした作品であり、ウンディーネという存在のバックグラウンドと、人がもつ普遍的な思想に重なっていく点が、作品の重要なポイントとなります。
このウンディーネについては、錬金術師パラケルススの1566年に執筆した戯曲にその名称も確認されており、彼は「ウンディーネには本来魂がないが、人間の男性と結婚すると魂を得る。しかしこれには大きな禁忌がつきまとう性質がある」と説いています。
その禁忌とは「水のそばで夫に罵倒されると、水に還ってしまう」「夫に裏切られた場合、ウンディーネは夫を殺し水に還らねばならない」そして「水に還ったウンディーネは、魂を失う」というもの。
これまで発表されているウンディーネを題材とした物語では、「夫に裏切られた場合」のケースがたびたび描かれていますが、本作ではこの全てのケースを踏襲しています。
例えば、この3つの禁忌を総合して考えてみると、人は人に惹かれてこそ魂を得て人となるわけです。逆にそこから離れてしまうと人ではいられなくなります。
つまりこの物語は人同士がつながる喜び、そして離れていくことへの恐れのようなものというポイントに到達していくわけです。
ただし、単純な解釈に従ってしまうと真意を見失ってしまう可能性もあります。そもそもウンディーネが魂を得る際の禁忌が敢えて、3つのものとして示されたことには深い意味があり、普遍的な愛というもの、つながり合うことの難しさを的確に表現しています。
劇中ではウンディーネと、彼女と関係をもつヨハネス、クリストフという2人の男性との出会いについて、なぜ彼女が彼らに惹かれたのかという点にはあまり深く言及していない印象でもあり、先述のポイントに物語の主題が絞られている意向が伺えます。
一方でウンディーネにまつわる「水」というアイテムは、物語中でも重要なキーとしてたびたび印象的な登場を果たし、全体的に見える寓話的な雰囲気をうまく現代劇に溶け込ませています。
そしてラストはある意味ショッキングな空気さえ感じさせるサスペンス・スリラー的な展開のどんでん返し。
人に惹かれることの「美しさ」や「はかなさ」という単一的な視点だけではない様々な思いを呼び起こさせ、なおかつエンタテインメント性を実現させた興味深い作品となっています。
まとめ
故・大林宣彦監督が1986年に発表した著書『夢の色、めまいの時』において、自身が時に映画に描いてきた「恋愛」「恋」というもの、そして「愛」というものの違いとして「愛とは、責任を伴うもの」と綴っています。本作の物語もある意味この思想につながる部分があります。
「愛」というテーマを扱う作品としては、どちらかというと「愛する」という感情にスポットを当てがちな傾向にあります。ですが、本作では同じようにそれを描いているように見せながら、むしろそれに伴う周辺のことを重視しているようです。その焦点の違い、見え方のオリジナリティーは本作の特筆すべき点といえるでしょう。
また本作の展開の中には、部分的にクリスティアン・ペッツォルト監督が過去に手がけた『東ベルリンから来た女』(2012)『あの日のように抱きしめて』(2014)『未来を乗り換えた男』(2018)といった作品の展開を髣髴するものもあり、監督自身の考える表現に共通したテーマも感じられます。
その意味では、ペッツォルト監督作品の本質を探るヒントにもなり得る作品といえます。
映画『水を抱く女』は2021年3月26日(金)より全国順次ロードショー!