映画『トールキン 旅のはじまり』は2019年8月30日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー公開中!
不朽の傑作ファンタジー小説にして、現在もあらゆる創作物に影響を与え続ける『ホビットの冒険』と『指輪物語』。
唯一無二といえる物語を、その作者J・R・R・トールキンはいかにして執筆するに至ったのか?
偉大なるファンタジー作家の知られざる青年期を追い、友情、愛、想像力、学び、勇気の大切さを描く感動の伝記映画です。
映画『トールキン 旅のはじまり』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【英題】
Tolkien
【監督】
ドメ・カルコスキ
【脚本】
デヴィッド・グリーソン、スティーヴン・ベレスフォード
【キャスト】
ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ、コルム・ミーニイ、アンソニー・ボイル、パトリック・ギブソン、トム・グリン=カーニー、デレク・ジャコビ、ハリー・ギルビー、アダム・ブレグマン、アルビー・マーバー、タイ・テナント
【作品概要】
『ホビットの冒険』『指輪物語』『シルマリルの物語』を著した大作家J.R.R.トールキンの青年期の物語を描く青春伝記映画。
トールキン役には、『ライ麦畑の反逆児 一人ぼっちのサリンジャー』のJ.D.サリンジャー役に続き、実在する偉大な作家を演じるのは二度目のニコラス・ホルト。
またトールキンの最愛の人エディスを演じるのは、『あと一センチの恋』などで知られ作家としても活躍するリリー・コリンズ。
そして監督は、前作『トム・オブ・フィンランド』も現在公開中のフィンランドを代表する映画監督ドメ・カルコスキです。
映画『トールキン 旅のはじまり』のあらすじとネタバレ
1916年、第一次世界大戦真っただ中のフランス・ソンムでは熾烈な塹壕戦が繰り広げられていました。
イギリス陸軍の大尉であるジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンは、塹壕の中で衰弱しながらも「仲間を探しに行く」と告げ、部下の制止を振り切って塹壕の中を彷徨っていました。しかし、歩けども歩けどもそこには死体の山しかありません。
やがて力尽き倒れてしまったトールキンは、それまでの半生を思い出し始めます。
彼は幼少期、イギリスのセアホール・ミルという自然の美しい土地で育ってきました。しかしその当時にはすでに父親と死別しており、母と弟ヒラリーの三人で貧しく暮らしていました。
子供たちに物語を作るすべを教えてくれた母によって、少年トールキンは創作が大好きになっていきます。
ある日、病気がちの母は友人のフランシス・モーガン神父に子供たちの後見人になって貰い、それから時を経たずしてこの世を去ってしまいました。
僅か12歳で両親に先立たれてしまった少年トールキンは、モーガン神父の知り合いであるフォークナー夫人に弟とともに引き取られ、名門キング・エドワード校に通い始めました。
孤児である少年トールキンは家柄のいい生徒ばかりの学内で最初は孤立してしまいますが、とある喧嘩がきっかけとなり、校長の息子ロバート・ギルソン、劇作家志望のジェフェリー・スミス、クラシック音楽の作曲家デビューも果たしていたクリストファー・ワイズマンと仲間になります。
彼らは文学や音楽、文化のことをすみずみまで語り、自分たちの集まりを「ティー・クラブ・バロヴィアン・ソサエティ」通称「T.C.B.S」と呼んで、“芸術で世界を変える”をスローガンに掲げました。
同志と言える仲間と出会い自身の才能を磨き続けていったロナルドは、もうひとり大切な人物と出会います。
それは、フォークナー婦人の家に下宿し、自身と同じく孤児でありつつもピアニストを目指している女性エディス・ブラッドでした。
少年トールキンにとっては三つ年上にあたるエディスでしたが、いたずらと物語が好きという共通点によってふたりはどんどん惹かれ合っていきました。
月日は流れ、青年と呼べるまでに成長したT.C.B.Sのメンバーは大学受験に望みますが、トールキンは志望していたオックスフォード大学の入試に落ちてしまいます。モーガン神父はその出来事をきっかけに、後見期間が終わる21歳になるまでエディスとの交際を禁じることをトールキンに命じました。
そして絶対にあきらめないと誓うトールキンに対し、エディスは「貴方が思うより早くあなたは私を忘れる。幸せになって」と告げ、彼のもとを去ってしまいました。
映画『トールキン 旅のはじまり』の感想と評価
様々なファンタジーやRPG作品にも多大な影響を与えてきた、小説『指輪物語』の物語とその舞台である“中つ国”の世界観。
トールキンが作り上げたこの強固な世界観がなければ、「ドラクエ」シリーズも「スターウォーズ」シリーズも「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズも生まれなかったかもしれません。
そのような作品群を、トールキンは全て一から生み出してきたわけではありません。そこには彼の歩んできた人生、出会った人々、そしてトラウマが大きく関わっています。
映画『トールキン 旅のはじまり』はトールキンの青年期までに焦点を絞り、彼の創作の起源となった体験や出来事を丁寧に描いています。
例えば冒頭、塹壕内でトールキン大尉に付き従う健気な下級兵士が「サム」と呼ばれる場面がありますが、『指輪物語』ファン=“リンガーズ”であれば、彼が「指輪物語」の主人公フロド・バギンズの忠実な従者サムワイズ・ギャムジーのモデルであるとすぐに気づくでしょう。
また、幼少期の回想場面に登場するトールキンが生まれ育った地セアホール・ミルも、『指輪物語』の映画化作品『ロード・オブ・ザ・リング』でも印象深く描かれている、自然豊かな“ホビット庄”そっくりに映し出されています。
本作の序盤、病死してしまう母が息子たちに創作について教え、貧しい中でも想像力を羽ばたかせることの大切さを教えます。貧困の中で心が荒みつつあるトールキンに放った「この世には宝物があるのよ」「いつか見つかる」という母のセリフは、その後の物語展開、すなわちトールキンの人生を示唆していると言えます。
その後、トールキンは母と死別するものの、成長期に学校で志を同じくする無二の親友たち、生涯愛し続けるエディス、言語学の師匠となるライト教授と出会います。
T.C.B.Sの面々は『指輪物語』の主人公フロドの旅の仲間たちのモデルでしょうし、中盤にて別れを余儀なくされた恋人エディスとトールキンが森で踊る場面は、同じくトールキンが著した小説『シルマリルの物語』における人間とエルフの悲恋物語の原型になった出来事として有名です。
また『指輪物語』の重要なキーアイテム“一つの指輪”、そして「“指輪”を巡る物語」に関して大きなヒントを得たと言われるワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』をトールキンがエディスと観に行く場面も登場します。
他にも映画では詳細に描かれませんでしたが、トールキンにとっての言語学の師匠であるライト教授は彼にウェールズ語を学ぶように勧め、それがそれがのちに彼の著作に登場するエルフ族の言語“シンダール語”のベースになったと言われています。
このように書き連ねてゆくと枚挙に暇がないほど、トールキンは様々なことを学び、体験し、唯一無二の物語を生み出す糧としてゆきました。
そして何より彼に影響を与えたのは、第一次世界大戦への出征における戦争体験です。
病さえ流行してしまった劣悪な塹壕。この大戦で初めて使用された爆撃機、戦車、毒ガスなどの大量破壊兵器。次々と死んでゆくおびただしい数の兵士たち。そして、親友ジェフリーとロバートの死。
本作の映像でも示されているように、荒れ果てた最前線の戦場は『指輪物語』終盤の舞台である影の王国“モルドール”のイメージそっくりですし、大量破壊兵器や銃弾の嵐によって兵士たちが殺戮されてゆく光景は、“中つ国”の竜スマウグや悪鬼ナズグルら怪物の姿と重ね合わせて描いています。
彼の生涯に影を落とし続けたこの暗い体験が、ただの勧善懲悪などではない『指輪物語』の物語や世界観に決定的な影響を与えたのです。
『指輪物語』終盤、魔王サウロンを倒すことに貢献しようやく冒険を終えたフロドは指輪を持ち続けた果てに傷つき、失意の中で仲間と別れ、ホビット庄を離れて西方に旅立ちます。
トールキンはファンタジー世界での冒険譚を紡ぎながらも、戦いによって心身に傷を負った人間の物語も描きたかったのです。
“戦争”という言葉による対話を諦めた末に出現する巨大な暴力によって、忘れることのできないトラウマを負ったトールキン。けれども、自分が最も大事にしている言葉を用いて、それを克服する芸術を書き上げたのです。
まとめ
映画『トールキン 旅のはじまり』は『指輪物語』を著した作家の伝記という枠を超え、人生における体験、学び、そして出会う人々がいかにその個人の形成や功績に影響を与えるのかを描いた作品になっています。
トールキンというひとりの人間が、素晴らしい体験も苦しく哀しい体験も自らの血肉に変えていく様は、彼同様に人生を歩み続ける者に勇気を与えてくれます。
また本作を観た後にトールキンの著作や彼に関する作品を鑑賞したら、その中から新たな発見が生まれるかもしれません。
素晴らしいファンタジーほど、現実、或いは生きる人間たちに深くつながっているのです。
映画『トールキン 旅のはじまり』は2019年8月30日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開中!