裏社会から足を洗う事を決意した男が直面する、悲しい運命を描く映画『東京ノワール』は、2018年8月4日から「新宿K’sシネマ」で公開中。
練られた構成と俳優たちの熱演が魅力の、今作をご紹介します。
CONTENTS
映画『東京ノワール』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督・脚本】
ヤマシタマサ
【キャスト】
井上幸太郎、両國宏、大鷹明良、日下部一郎、太田宏寺田農、河西裕介、馬場莉乃、夏目慎也、阪本篤、小高仁、木山廉彬、鈴木研、原元太仁、亜矢乃、
【作品概要】
20年間、裏稼業で生きてきた男、鳴海が引退を決意した事から、さまざまな人間ドラマが交差するハードボイルド映画。
監督は、2016年ゆうばり国際映画祭オフシアター・コンペティション部門入賞作品『狂犬』のヤマシタ マサ、主演は数々の舞台を中心に活動している井上幸太郎。
映画『東京ノワール』あらすじとネタバレ
関東の小さなヤクザ組織、金本組の若頭の鳴海は、20年生きてきた裏社会から引退する事を決意します。
鳴海は組織犯罪対策部の刑事、島袋に裏社会の情報を流していましたが、島袋にも引退する事を伝えます。
動揺する島袋に、鳴海は同じ金本組の国広から頼まれた、拳銃密売取引に向かう事を伝え「それを最後の仕事にする」と宣言します。
取引の場所に指定されたのは横浜の倉庫。
鳴海は1人で倉庫に向かい、片桐と名乗る男と取引を開始します。
ですが、片桐が国広の入れ墨が阿修羅である事を知らなかった事から、鳴海は片桐の素性を疑います。
「取引を中断する」と告げた鳴海を、片桐は口ぎたなくののしります。
そこへ、倉庫内にいるはずが無かった島袋が現れ、片桐に銃口を向けます。
鳴海は島袋と片桐、両方をなだめようとしますが、突然、島袋の銃が暴発、腹部を撃たれた片桐は絶命します。
鳴海は島袋と共にその場を去り、車中で島袋と口論になった事から、島袋を車から降ろして、1人で組の事務所に戻ります。
片桐殺害の407日前
高校生の龍一は、友人の翔太と共に、高校に通わず悪さを繰り返していました。
ある日、血まみれの男が倒れている所に遭遇した龍一と翔太は、男が持っていたバッグを盗みます。
バッグに入っていたのは麻薬でした。
龍一と翔太は麻薬を売って荒稼ぎしますが、金本組のヤクザ、牧野に知られてしまい、事務所に連れて行かれます。
龍一は、たたき(強盗や強奪をする事)として、指定された家にある100万円を盗んでくるように、牧野に命じられます。
もし、1時間で戻って来ない場合は、10分ごとに翔太の指を折ると脅されます。
龍一は指定された家に行き、100万円を盗み出しますが、家の住人が帰宅します。
住人を振り払って逃走した龍一は、100万円を牧野に届けますが、翔太の指は何本か折られていました。
翔太を事務所から連れ出した龍一ですが、翔太から絶交を言い渡されます。
片桐殺害後
鳴海は金本組の事務所に戻り、金本組の組長、金本に「島袋が片桐を殺害した」と伝え、鳴海は引退届けを出します。
南国にコンドミニアムを購入した鳴海に「今更、悠々自適に暮らすつもりか?」と金本は激怒し、鳴海を痛めつけ絶縁を言い渡します。
事務所を出た鳴海は、組織犯罪対策部の刑事、海田に引退した事を報告しますが、これまで情報を流す事を条件に、鳴海の数々の事件を握りつぶしてきた海田は、鳴海に金を要求、少額しか払えない鳴海に、闇金で借金をさせ、自分との手切れ金を払わせました。
夜の街で気を失っていた鳴海は、ホステスに助けられます。
ヤクザを引退し街を去る鳴海に、ホステスは何度も助けられた事に感謝しながら、鳴海の背中を見送ります。
片桐殺害の383日前
龍一は書店で万引きをし、店主に捕まりますが、書店で働いていた女子高生カズハに助けられます。
龍一が盗んだ本は『罪と罰』で、カズハが好きな本でしたが、龍一は「こんな暗い本、世の中から消えれば良い」と語り、個性的な龍一に、カズハは惹かれるようになります。
恋人関係になった龍一とカズハ、2人が河原を楽しそうに歩いている所を翔太が見かけますが、何事も無かったように素通りします。
片桐殺害の407日前
鳴海は舎弟の山城と、金本組が裏についている、闇金融の借金を踏み倒した男を追いかけていました。
一度は逃げられますが居酒屋で遭遇、鳴海は山城と共に男を暴行し立ち去ります。
血まみれになって倒れた男の所を、龍一と翔太が通りかかり、男のバッグを盗みます。
山城を心から信頼している鳴海は、山城から「将来は娘と2人で南国に住みたい」という夢を聞きます。
ある日、山城は闇金の帳簿と実際の資金が合わない事から、事務所に呼び出されます。
身の危険を感じた山城は、事務所に行く前に、幼馴染で刑事の青木と会います。
山城の件で連絡を受けた鳴海は、廃工場に向かいます。
そこでは、牧野が山城を暴行していました。
ギャンブルに狂った山城が、闇金の売上を誤魔化していた事を知っていた牧野は、山城の自宅から龍一に100万円を盗ませていました。、
廃工場に到着した鳴海は、牧野から拳銃を渡されて、後を任されます。
鳴海は山城の額に銃口をあて、工場内には銃声が響きました。
『東京ノワール』トークイベントリポート
『東京ノワール』を上映している「新宿 K’s シネマ」では連日トークイベントが開催されていました。
今回は8月14日の上映後に開催された、監督のヤマシタマサさん、主演の井上幸太郎さん、小説家の高橋源一郎さんのトークイベントの様子をお伝えします。
高橋源一郎さんは「知り合いの作品を観る時は『頼むから面白い映画であってくれ』と祈っているが、この作品は開始15分で、その不安は無くなった」と本作を絶賛し、トークイベントが始まりました。
『東京ノワール』はリベンジ作だった
「2016年ゆうばり国際映画祭」に出展した作品『狂犬』でグランプリが取れなかった為、ヤマシタマサ監督は井上幸太郎さんと「リベンジでもう1本やろう」と話し、『東京ノワール』の構想に入った時に、主人公の鳴海を、井上幸太郎さんで当て書きしました。
『東京ノワール』は残念ながら、「2018年ゆうばり国際映画祭」でグランプリを取れなかった為、「3度目の正直で狙いたい」と語っていました。
撮影期間は7日間
『東京ノワール』の撮影期間は7日間で、撮影に入る前に5日間ぐらい準備期間がありましたが、井上幸太郎さんは「怒涛の7日間だった」と撮影の大変さを語っていました。
ポスターと作品の鳴海はイメージが違う
井上幸太郎さんは「鳴海は作中で1人も殺していない『いい人』だと思って演じていた、ポスターだと2人ぐらい殺したみたいになってる」と語っていました。
また、「子供がいない自分は、父親としての鳴海が分からなかった」と役作りの際に難しかった点を挙げており、ヤマシタマサ監督も子供がいない為、想像で演じるしかなかったそうです。
鳴海は死んでいない?
『東京ノワール』は、倒れて夜空を見上げる鳴海で終わりますが、鳴海の生死に関してはヤマシタマサ監督もハッキリと決めていないそうです。
脚本では「鳴海が息絶える」と書かれていますが、偶然撮影した鳴海が生きている可能性のあるカットを今回採用し、「編集の段階で、こっちの方が良いと思った」と語っていました。
高橋源一郎さんは「生きてた事にして、続編作りなよ」と、制作を勧めていました。
最後は、井上幸太郎さんの「SNSとかで、どんどん映画を宣伝してほしい」というお願いで、トークイベントは終了しました。
映画『東京ノワール』感想と評価
裏社会からの引退を決意した、鳴海の悲劇的な運命を描く本作の特徴は、時間軸が交差する構成である事です。
片桐を名乗る男の殺害現場を、双方の視線から見せる手法は、1950年の黒澤明監督作品『羅生門』を思い出しますが、本作は1994年のクエンティン・タランティーノ監督作品『パルプ・フィクション』へのオマージュが込められています。
時間軸が交差する構成の映画は、失敗すると「よく分からない映画」となってしまいますが、『東京ノワール』は、ストーリーが作品の構成に見事にハマっています。
前半は、次々と登場する人物や出来事に混乱気味になるかもしれませんが、その全てが繋がっていき、人物関係の全容が見えた時、カズハの復讐という悲しい物語が幕を開けます。
また、主演の井上幸太郎さんや、演技派の役者さんが脇を固めており、それぞれが個性的なキャラクターを熱演している為、どんどん物語に引き込まれていきます。
人間ドラマに魅了される、非常に見応えのある作品ですよ。
まとめ
本作の特徴的なシーンは、ストーリーの軸にもなっている、序盤の片桐を名乗る男の殺害シーンにあります。
鳴海は国広の頼みを聞いて取引に行き、刑事の青木は潜入捜査の為に片桐というヤクザを名乗り、島袋は組織犯罪対策部という立場から鳴海を守ろうとして、青木を殺害してしまいます。
このシーンで重要なのは、鳴海、青木、島袋の3人が誰一人、取引で儲けようと思っておらず、自分の立場から起こした行動で起きた悲劇という事です。
皆、社会上の自分の立場を演じないといけない事があり、結果的に最悪の事態になる事もあるでしょう。
人生は誰にもコントロールできないのです。
そして、『東京ノワール』は、コントロールできない人生の、虚しさが溢れています。
しかし、鳴海はその中で、自分の生きざまを最後まで貫こうとします。
ヤクザ引退後の鳴海は、それまでの自分の罪を全て受け入れようとすら見えます。
男が憧れる男像、それが鳴海というキャラクターで、とにかくカッコいいです。
鳴海を中心に、さまざまな生き方が交差する映画『東京ノワール』は8月17日まで「新宿K’sシネマ」、8月18日より「大阪・第七藝術劇場」、8月25日から「別府・ブルーバード劇場」で順次上映となります。